産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  藤の花の家紋の家……


「痛ぁぁい!!!」


 腕に出来た傷口に、薬を塗る宇髄から逃げようとする梓を後ろに座っていた不死川が抑えていた。


「暴れるな!!薬塗れねぇだろ!!」

「沁みるからいい!!もういい!!」

「いいわけねぇだろう!!」

「痛いぃ!!」

「逃げようとするな!!

不死川、そのままそいつ抑えててくれ」


 傷口全体に薬を塗り終え、手際良く包帯を巻くと軽く腕を叩いた。


「痛い!」

「ほれ、治療終わりだ。

しっかし、よく効く塗り薬だったなぁ。


かなり沁みるけど」

「胡蝶のところに持っていって、調べてもらったほうがいいんじゃねぇのか?

今後の薬の参考になるだろうし」

「だな……?」


 突然ニヤける宇髄の表情に疑問を持った不死川は、彼が指差す方を向いた。彼の後ろに隠れるようにして座っていた梓は、いつの間にか不死川の浴衣の裾を握りながら丸くなり寝息を立てていた。


「ホント、懐かれたねぇ。実弥ちゃ~ん」

「っ……」

「このまま梓と一緒に寝るか?」

「引き取れとっとと!!」


小さな体

  眠る梓……

 

 薄っすらと目を開けると、傍には人間だった頃の父親が座っており、振り返ると彼女の頭を撫でた。微笑む彼は立ち上がると、鬼の姿へと代わりそこから立ち去った。

 

 

 

 

「……父?」

 

 

 目を覚ました梓は、起き上がり立ち上がると部屋を出て行った。襖を開ける音で目を覚ました宇髄はすぐに起き上がり、何かを察して彼女の後を追った。

 

 

「梓」

 

 

 式台に座り草履を履こうとしていた梓は、宇髄の声に我に返り彼の方へ振り返った。

 

 

「こんな夜更けに、どこ行くんだ?」

 

「……エッと」

 

「この時間帯の外が、危ねえことくらい分かってんだろう」

 

「……」

 

「梓、こっち見ろ」

 

「……」

 

 

 目線を逸らし、何も答えようとしない梓の姿が、一瞬出会った頃の彼女と重なって見えた。軽く溜め息を吐いた宇髄は、梓を抱き上げ部屋へと戻った。

 

 

 部屋へ戻り布団に寝かされた梓は、宇髄に背を向け羽織を握り締め静かに涙を流した。添い寝した宇髄は、足元にある布団を彼女に掛け何も聞かず頭を撫でた。撫でられた梓は、鼻を啜りながら目を閉じそのまま寝息を立てた。

 

 

「音羽の奴、どうかしたか?」

 

 

 不意に聞こえた不死川の小声に、宇髄はチラリと彼の方を見ると再び梓の方を向き彼女の頭を撫でながら答えた。

 

 

「外出ようとしてたんだよ。

 

それを止めただけだ」

 

「何でまた」

 

「……さぁな。

 

親父さん、探しに行こうとしてたんじゃねぇか」

 

「忍だっけか?

 

ろくな死に方してねぇんじゃねぇのか」

 

「……誰かに殺されたり、鬼に食われて死んだ方がどれだけ良かったか。

 

その方がまだ、楽だったと思うぜ」

 

「……」

 

「……

 

 

梓の親父さんは、鬼になった」

 

 

 その言葉に、不死川は飛び起き宇髄の方を見た。宇髄は彼の方を見ず、眠る梓を仰向けにすると涙を拭り頬を撫でた。

 

 

「鬼になった親父さんは、こいつが一人になるのを恐れて半年以上飢餓状態で一緒に暮らしていた。人を喰らわず、動物の血と肉で誤魔化していた。

 

 

太陽を嫌い、夜しか活動出来なくなった親父さんに合わせて梓は生活していた。その期間、誰にも甘えず誰にも頼らず……たった一人で、親父さんを守っていた……こんな小さな体で」

 

「鬼になったのに、そいつを殺さず喰わなかったのか?」

 

「……信じられねぇけど、そうなんだよ。

 

俺が駆け付けたあの日まで……」

 

 

 思い出すあの日の記憶……寝返りを打った梓は、薄っすらと目を開けると宇髄の袖を握り再び寝息を立てた。

 

 

「引き取った当時も、夜通し起きてたこともあった。夜寝たと思っても、途中起きてそのまま朝までっていうことも、勝手に夜外に出歩いてたなんか何度もあった。

 

 

ここ数年そういう事減ってたから、慣れてきたと思ってたけど……やっぱまだ、父親恋しいんだな」

 

「……」

 

「……さっき話した、俺達と同じ鬼殺隊以外に鬼退治してる輩がいる……

 

梓の親父さん、その可能性が高い」

 

「どういう事だァ?それ」

 

「梓を保護した地区は、鬼の被害がゼロに等しい地区だった。

 

これを知ったお館様は、自分達以外の鬼狩りがいるんじゃないかと思い、俺を派遣させた。そして、その地区にあった山でこいつと鬼になった親父さんを見つけた」

 

「何で梓の親父さんが、鬼を倒してたって分かんだ?」

 

「山全体に仕掛けてあった罠は勿論だが、親父さんが鬼になった後獣じゃない血が付いてたことがあったらしい。

 

鬼は共食いする……

 

 

それに、胡蝶が作成した藤の花から抽出した毒……こいつの親父が使ってた可能性が高い」

 

「ハァ?」

 

「親父さんがまだ人間だった頃に、あの毒と同じ匂いを梓は嗅いだことがあるらしい。

 

確証するものはねぇが、もしこれが事実なら鬼を狩ってた事は十分にありえる」

 

「……」

 

 

 ふと目を擦り起き上がった梓を、宇髄は共に起き上がり彼女を自身の膝へ乗せた。寝惚けていた梓は、彼の胸に自身の体を預け再び眠りにつき、その寝顔を見て宇髄は微笑を浮かべ頬を撫でた。

 

 

「この事を把握してる柱は、俺と悲鳴嶼の旦那だけだ。

 

 

他の柱は勿論だが、誰にも話すんじゃねぇぞ」

 

「俺は口は堅い方だ……

 

そんな理由で、そいつ引き取ったのか?」

 

「……いや。

 

 

昔の縁で、引き取っただけだ」

 

 

 そう言いながら宇髄は、眠っている梓を再び布団へ寝かせると布団を掛け横になった。不死川はそれ以上何も聞かず目を閉じ、眠りに就いた。

 

 

 

 

  翌朝……

 

 

「……ん」

 

(?)

 

「……さん」

 

(何だ?)

 

「…みさん!」

 

(誰か呼んでる?)

 

「実弥さん!」

 

 

 目を開けた不死川の目に映ったのは、自身を覗き込むようにして見る梓がいた。

 

 

「……音羽?」

 

「実弥さん、やっと起きた」

 

 

 起き上がり体を伸ばしながら部屋を見回すと、いるはずの宇髄の姿がどこにもなく、彼が使っていたであろう布団は綺麗に畳まれていた。

 

 

「……音羽、宇髄どうした?」

 

「起きたらいなかった。

 

代わりにこれが」

 

 

 そう言って、梓は二つ折りにされ表紙に『不死川へ』と書かれた紙を渡した。不死川はそれを受け取り中を見るとそこには『偵察行ってる間、梓を頼む』とだけ書かれていた。

 

 

(あんの野郎ぉ!!!!

 

ガキの面倒押し付けんじゃねぇ!!)

 

「実弥さん実弥さん!

 

昨日の屋台の街行きたい!」

 

「風邪引いて昨日怪我してんだから、今日一日大人しくしてろ!!」

 

「怪我も風邪も治った!!

 

ねぇ行こう!ねぇ!」

 

「行きたきゃ一人で行け!」

 

「……無理」

 

「はぁ?」

 

「天元が一人で歩くのは駄目だって……」

 

(あいつどんだけ過保護なんだよ)

 

「ねぇ実弥さーん。

 

天元言ってた、今日実弥さん非番だって」

 

(何で人の予定把握してんだよ、あいつは)

 

「ねぇ」

 

「……ったく。

 

朝飯食ったら、連れてってやるよ」

 

「やったぁ!」

 

 

 それから暫くして、朝食を食べ終えた不死川は、梓を連れて街へと向かった。歩く不死川の後を梓は、置いていかれぬよう早足でついて行った。

 

 

(ったく、宇髄の野郎……面倒見られねぇなら、継子取るんじゃねぇよ……

 

 

そういやあの時も、宇髄の奴蝶屋敷に音羽預けてたなぁ。

 

 

?)

 

 

 ふと立ち止まり振り返り、早足で歩く梓を見た。少し息が上がった彼女は、歩みを止め自身を見ながら首を傾げた。不死川の目に、一瞬自身を追い掛けてくる幼き頃の玄弥の姿が見え、歩く速度を下げた。隣を歩く彼の服の裾を掴み、梓は普通に歩いた。

 

 

「テメェ、宇髄と一緒の時いつもどうしてんだ?」

 

「いつも隣歩いてる。天元先歩かないよ」

 

「……」

 

「あと何か、時々肩車か抱っこしてくれる!」

 

(歩くスピードを合わせるのが面倒になった時だな)

 

 

 木漏れ日が照らす林道を歩く梓と不死川……すれ違う通行人を眺めていた時、梓は林の中で怪しげに立つ人影を目にした。

 

 

「……?

 

どうかしたか?」

 

 

 自身の服を引っ張り止まる梓が目を向け、懐から苦無を取り出そうとした。その行為を不死川は止め彼女が向いている方を見て、しばらく考えた後梓を抱き上げた。そして、林の中にいる者達にガンを飛ばした。睨まれた者達は、すぐに引き上げ彼等の前から姿を消した。

 

 

「実弥さん、お顔怖い」

 

「悪い(過保護ってわけじゃねぇのか)」

 

「……」

 

「何だ?俺の顔に何か着いてるか?」

 

「やっぱ実弥さんって……

 

 

父より小さい」

 

「……親父さん、デカかったのか?」

 

「うん。

 

でも、天元よりは小さかったかな」

 

「……そうかよ」

 

 

 

 

  賑わう街中……

 

 昼間であるが、屋台は営業しており街は人で溢れ返り中には、非番の一般隊士達もおり祭りを楽しんでいた。大判焼きを受け取っていた隊士の一人は、不死川と共に綿あめを食べながら歩く梓を見て他の隊士と驚愕していた。

 

 

「おい、あれ音柱様の継子じゃね?」

 

「本当だ……ってか、よくあの風柱様と歩けるな」

 

「お前噂聞いたことねぇの?」

 

「え?」

 

「柱ってあの子だけには、激甘って」

 

「マジ!?」

 

「あの怖いって有名な風柱様と、普通に接してる時点で甘いだろう!」

 

「……確かに」

 

「あと……チビだから、めちゃくちゃ可愛い」




  夕暮れ……

 偵察から帰ってきた宇髄が、部屋の襖を開けると梓が一人緑の風車を吹いていた。


「あ、天元」

「あれ?不死川は?」

「緊急の任務が入ってそこに」

「そうか(今度飯奢ろう)。

それ、どうしたんだ?」

「?」

「風車」

「実弥さんが買ってくれた」

「(何だかんだ、可愛がってんなぁ…あいつ)次の任務地行くから、準備しろよ」

「はーい」
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