産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
その中、梓は一人駆けていた。少し高い木に飛び乗ると、辺りを見回した。
「……おっかしいなぁ。
この辺りにいたはずなんだけど……
鬼の空気が流れてるってことは、まだいるってことだし」
木から飛び降り、周りを見ながら梓は森をプラプラと歩いた。
(空気は流れてるのに、何で鬼がいないんだ?
どこかに隠れてる?でも、それだったらすぐに見つけられる……?)
山茶花の鳴き声と共に別の鴉が、自身に向かって飛んできた。山茶花は梓の肩へと留まり、後から来た鴉に彼女は手を差し出した。
「何だ?この鴉……山茶花が連れてきたってことは」
「仲間デス!」
「だよね……えっと」
「緊急事態!緊急事態!
至急!応援オ願イシマス!!」
「案内お願い!」
刀を抜き、鴉に誘導されながら梓は目的地へと向かった。
息を切らす伊黒……木の幹に寄りかかり座っていた彼の前に、鬼が現れた。
(クソ……腹と足の傷さえなければ、こんな鬼)
構えた爪で伊黒に襲い掛かる鬼に対して、彼は幹に体を預けながら立ち上がり刀を構えた時だった。
目の前の鬼に蹴りを入れる影……倒れた鬼に着地した影は梓だった。倒れた鬼はすぐに立ち上がると彼女目掛けて攻撃を仕掛けるが、振り返った梓はそこから飛び上がり頸を斬り落とした。
呆気に取られている伊黒の元へ、梓は振り返り刀をしまいながら駆け寄った。
「伊黒さん!大丈夫?」
「音羽か……礼を言う、助かった」
「いえ……それより、傷」
「平気だ……かすり傷…痛!」
腹部に出来た傷が痛み、伊黒はズルズルとその場に座り込んだ。
「い、伊黒さん!!」
「平気だ……(毒が回ってきたか)」
(どうしよう……足とお腹の出血が酷い……
何で隠、来ないの?鬼はもう退治したのに……?)
漂う大きな鬼の空気……伊黒の首にいた鏑丸もその空気を察し、威嚇した。流れてくる鬼の空気を見ながら、梓は立ち上がり鞘から刀を抜き構えた。
茂みから出てきた鬼を見て、二人は驚愕した。鬼の目には『下弦 弍』バツ印が刻まれていた。
(元下弦の鬼……)
足を動かした瞬間、襲ってくる鬼の攻撃を梓は受け止め弾き返した。弾き返した衝撃で鬼は後退り、梓は躊躇なく攻撃した。弾かれる鉄の音が鳴り響く中、伊黒は立ち上がり蛇の呼吸を放った。斬り落とされる腕に驚愕した鬼は、怒りの形相で伊黒目掛けて攻撃してきた。
当たる寸前に、梓はその攻撃を刀で防いだが防ぎ切れなかった攻撃を腕に食らった。再生する腕を見て、梓は懐から苦無を取り出しそれを再生する腕に突き刺し、怯んだ隙を狙い鬼を蹴り飛ばした。
(伊黒さんから鬼を離れさせないと!)
一瞬で姿を消した梓は後退りする鬼の背後へ回ると、爆音を発しながら音の呼吸を放ち攻撃した。
「音の呼吸壱ノ型 轟!!」
凹む地面……そこから這い上がってきたのは梓一人だけだった。チラリと目線を向ける地面の底には、頸の斬れた鬼の遺体が塵となり消えていった。それを見届けると、彼女は刀を一本鞘へと戻し、もう一本を片手に伊黒の元へ駆け寄った。
「伊黒さん!怪我は?!」
「平気だ。それより腕」
「あぁ、これ……平気!
それより、ここから早く離れよ!また鬼が来るかもしれないから」
「無理だ……俺は足を怪我してまともに歩けない。
音羽、お前だけでもここを離れろ」
「……嫌だ」
「は?」
「ここで待機する」
「危険過ぎる!柱ならともかく、お前は」
「既に十二鬼月倒してる!!
それに、他の柱の方々とは何回も任務に出てる!」
「それでも一般隊士に変わりないだろう!」
「一般隊士でも甲だもん!!」
「……」
「……それに……
ここで置いて私だけ行ったら……天元に怒られる……
仲間見捨てんじゃねぇって」
「……
面倒な奴だ……お前も、宇髄も」
「……?」
微かに見える鬼の空気……警戒する鏑丸と辺りを見回す梓、そして座る伊黒が目にしたのは、鬼の目をした巨大な熊だった。
(何だこの熊……大き過ぎる。
鬼の血の影響か……)
「……伊黒さん、絶対動かないで」
「?」
異様な空気を漂わせる梓……先程とは違う目付きで、熊を見ており刀の持ち方を変えた。
(山にいた時の熊と同じだ……
この血の匂いに釣れられたか……とにかく、頸だ)
伊黒の前にいた梓は立ち構え、刀を熊の頸目掛けて投げ飛ばした。投げ飛ばされた刀は、ブーメランのようにして飛び周り、立ち上がった熊の頸を斬り落とした。自身に飛んできた刀を受け止めると、梓はそれを鞘へと収め深く息をした。
「……音羽」
「?」
「鴉を飛ばす。いいな?」
伊黒の言葉に梓はコクリと頷いた。二匹の鴉は翼を羽ばたかせ闇夜の空へと飛んで行き、それを見届けた梓は意識を失った伊黒を見ると、周りを見回しながら近くの茂みへと入った。
「……ん?(何だ?足の傷の痛みが…)」
意識を戻した伊黒の目に映ったのは、足に止血用に布を巻く梓の姿だった。
「……?
あ!気が付いた?」
「何をしている」
「足の傷に薬塗った。
お腹は止血しかできなかったけど」
「その薬……」
「そこに薬草咲いてたから、それで」
「……植物に詳しいのか」
「山の暮らしが長かったから、薬草には少し詳しい。
しのぶさんってほどじゃないけど」
「音羽」
「?」
「腕を見せろ」
「え」
「手当てする」
「遠慮する」
「駄目だ」
「嫌だ」
「柱命令だ、腕を見せろ」
「……意地悪」
差し出す梓の右腕に出来た傷を見る伊黒だが、血は既に止まっており傷口も治りかけていた。
(傷口が治りかけている……どうなってんだ)
「もういい?痛くないんで」
「あぁ、そうだな……だが一応、蝶屋敷で見てもらった方がいい」
「無問題」
「おい」
「……?」
見覚えのある空気が流れ、その方向に目を向けると同時に風が吹き、その風と共に煉獄が現れた。
「あ!煉獄さん!」
「音羽!伊黒!無事だったか!」
「なぜお前が」
「鴉に導かれてここへ来た!
それより伊黒、傷は大丈夫か?」
「音羽に応急手当してもらったが、毒が少し回っている」
「確かに止血はされているようだな」
「伊黒さん、さっきまで意識失ってたから早くしのぶさんに診せた方がいい」
「そうか。
音羽、済まないが俺と伊黒の刀を運んでくれ」
「はい」
梓に刀を渡すと煉獄は伊黒を背負った。彼の首にいた鏑丸は、煉獄の腕を伝い梓の首へと移動し、彼女は地面に置かれていた伊黒の刀を持った。
「このまま蝶屋敷へ直行だ!音羽、ついてこい!」
「ちょっと待て、煉」
伊黒の止める声も聞かず、煉獄は稲妻の速さで森を駆けていった。呆気に取られていた梓は、慌てて彼等の後を追い掛けた。
数日後……
病室のベッドの上で、伊黒は目を覚ました。傍にはしのぶの話を聞く煉獄がおり、しのぶは彼が目覚めたことを指で知らせた。
「伊黒!気が付いたか!」
「煉獄……」
「解毒剤を投与して、毒は完治しています。
あとは傷が治り次第です」
「……?
そういえば、音羽は?」
「彼女だったら」
「煉獄さん、見っけ!」
そう叫びながら、梓は後ろから煉獄の背中に飛び付いた。制服に身を包み、頬に絆創膏を貼った彼女は目覚めた伊黒に気付くと、嬉しそうな表情を浮かべた。
「あ!伊黒さん、起きた!」
「傷はいいのか?」
「うん!昨日退院して、今から煉獄さんと任務!」
「そうか…?」
煉獄の背中から降りた梓の首に目をやると、鏑丸がいた。梓は鏑丸を自身の手に移させ、そのまま伊黒の首へ行かせた。
「鏑丸、よかったね!伊黒さん、目が覚めて」
「お前が見てくれていたのか」
「うん。何か寂しそうだったから」
「……礼を言う」
(あ、嬉しい空気だ!)
「では、俺達はこれで!
伊黒、しっかり体を休めてくれ!音羽、行くぞ」
「じゃあね、伊黒さん」
先行く煉獄の後を、梓は伊黒に手を振りながら追い掛けていった。騒がしい声が院内に響き、その声をどこか微笑ましく伊黒は聞き、その様子をしのぶは静かに眺めていた。