産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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 その頃、地上では意識を取り戻した女性隊士が、隠の一人の服を引っ張り必死に何かを伝えていた。


「あの穴に入っちゃだめ!!あの穴はダメェ!!」

「お、落ち着いて下さい!」

「どうかしたか?」


 生存者を連れて穴から出てきた不死川は、地面に寝かせると彼等の元へ歩み寄った。


「風柱様……こ、この方が目を覚まされた途端取り乱して」

「は、早く逃げて下さい!!あれを相手にしちゃ」


 どこからともなく聞こえる奇妙な音……その音を聞いた女性隊士は、体を震えさせながら背中を擦ってくれていた隊士にしがみついた。


(何だ、この音。何かの鳴き声か?)

「見つけた見つけた……音羽!!!」


 その声を発しながら、獣の様な姿をした鬼が、彼等を通り過ぎ穴へと飛び込んだ。その光景を見た不死川は、すぐに穴へと引き返した。


獣の鬼

 縄梯子に足を掛けていた伊黒と梓……鬼が穴へ入ってきたのを、影と異様な空気で確認察知した二人は振り返った。

 

 

 穴の中心に降り立つ、鬼の目をした獣……異様な空気に、梓は刀の柄を握り鬼を見た。

 

 

「見つけた見つけた、これで十二鬼月に上がれる…上がれるぅ!!!」

 

 

 そう叫んだ鬼の口から出て来た触手が、梓の腕に巻き付いた。彼女はすぐに刀でその触手を切り落とすと、伊黒から離れ刀を抜き獣の足を切った。

 足はすぐに再生され、獣鬼は梓を食おうと口を開き無数の触手を出し、自身に迫り来る触手を彼女は切り落としながら逃げた。伊黒は隙を狙い頸を斬ろうとするが、触手が邪魔をし攻撃ができずにいた。

 

 

「(触手が邪魔だな)蛇の呼吸壱ノ型 委蛇斬り」

 

 

 攻撃した伊黒だが、鬼は彼の攻撃など諸共せず梓に攻撃を続けた。

 

 

(この鬼、音羽しか見ていない?)

 

「風の呼吸弐ノ型 爪々・科戸風!」

 

 

 鬼の身体に浮き出る爪痕……鬼は雄叫びを発しながら、尻尾で駆け付けた不死川を攻撃した。飛ばされた彼は穴から追い出され、続いて伊黒も触手で拘束すると穴から外へ投げ飛ばした。

 

 

「な、何だ!?」

 

「あの鬼、音羽にしか興味がないみたいだ」

 

 

 穴に取り残された梓……乱れる息を整え、鬼を睨み付けた。鬼はニタァっと笑うと、触手の攻撃をした後に尻尾で彼女を壁に叩きつけた。口から血を吐きながら、梓は地面に膝を付き苦しんでいると、鬼は彼女の逃げ道を途絶えさせるようにして触手を向けた。

 

 

(ヤバい……死ぬ!)

 

 

 そう思った次の瞬間、脈打つ鼓動が体全体に響いたのを感じた……そして無意識に、梓は触手を斬った。鬼が触手で攻撃してくると、彼女は小柄な体型を活かして触手の攻撃を華麗に避けていき、鬼の下へと潜り込むと腸を斬り裂いた。痛みにもがく鬼から離れ、攻撃してきた前足を伝い上へと登りそこから飛び上がった。

 

 

「……血鬼術……高嶺舞羽」

 

 

 腕から流れ出る血と苦無を投げ飛ばした。苦無と血が鬼の頭に当たった次の瞬間、破裂音と共に完全に頭が吹っ飛び、その返り血を身体に浴びた梓は塵となり消えていく鬼の中心に降り立った。

 

 

 倒された鬼を見届けた伊黒と不死川は、穴へと戻ってきた。その時只ならぬ気配を感じた二人は、刀を抜き辺りを警戒した。次第にその気配は消えていき、不死川は立っている梓の元へ駆け寄った。だが、彼女に寄った時何かがおかしかった……漂う殺気、近付けば殺されると瞬時に悟った。

 

 

「……音羽!!」

 

 

 不死川に呼ばれた彼女は、ゆっくりと振り返った。顔に付いた血から冷酷な目つきを向けた梓は、しばらく彼を見つめた。すると次第にいつもの光が、彼女の目に戻り数回瞬きをした。

 

 

「実弥さん、どうかした?」

 

「……」

 

「鬼は全部、片したみたいだな。

 

時期に夜が明ける。戻るぞ」

 

 

 刀を鞘へとしまい、伊黒達は地上へ戻った。明け方になった外では、隠達がせっせと現場の後処理を行っていた。そんな中一人の隠は、鬼の血で汚れた梓の顔を拭いてくれていた。

 

 

「そんな真剣に拭かなくていいよ、どうせ帰ったらお風呂入るんだから」

 

「こんな血だらけで帰ったら、音柱様はともかく彼の奥様方がビックリなさるでしょ!!

 

って、怪我してるじゃないですか!?腕!!どうしたんですかこの傷!!」

 

「多分鬼の攻撃で出来た傷」

 

「呑気に言ってる場合じゃないでしょ!!

 

早く蝶屋敷に行って、治療してもらって下さい!!」

 

「え~、嫌だ」

 

「嫌じゃありませんよ!!」

 

「しのぶさんの所行ったら、入院の可能性があるじゃん。もう入院したくない」

 

「そんな我儘言ってる場合ですか!?」

 

「嫌だぁ、平気だもん」

 

 

 頬を膨らませ、駄々をこねる梓……すると彼女を不死川が、突然肩に担ぎ抱えた。

 

 

「え?な、何?実弥さん……

 

あの、降ろして…歩ける」

 

「このまま蝶屋敷に行く」

 

「え?!行かないって私言ってよね!?」

 

「とっととその腕治してもらえ、音羽」

 

「伊黒さん、そんなこと言ってないで助けて!!」

 

「口閉じてねぇと、舌噛むぞ」

 

「え?!嫌だ嫌だ!!実弥さん!降ろして!」

 

 

 文句を言う梓を無視し、不死川は駆け足でその場から去った。彼女の悲鳴が森中に響き渡るのを耳にしながら、伊黒は隠と共に事故処理を進めた。

 

 

 

 

  蝶屋敷……

 

 目をパチクリして、驚くしのぶの前に梓を抱えた不死川が立っていた。

 

 

 

「珍しいですね、不死川さんから蝶屋敷に来るなんて」

 

「こいつを連れてきただけだ」

 

「実弥!!もう着いたんだから降ろして!」

 

「降ろしたら逃げるだろ!!」

 

「逃げない!!隠れる!」

 

「一緒だわ!!」

 

「梓さん、怪我の治療しましょうか」

 

「いらない!帰る!!」

 

「怪我は早く治療しないと悪化しますよ?そうなったら、また入院ですよ」

 

「今回は平気だから大丈夫!」

 

「駄目です。不死川さん、彼女をそのまま診察室へ。

 

それと、あなたの稀血も採取しちゃいますね」

 

「っ」

 

 

 

 

 

  治療後……

 

 茶屋でおはぎを口にする不死川の隣で、同じおはぎを梓は美味しそうに食べていた。その様子を、彼はどこか懐かしそうに眺め、そして彼女の頬に付いた餡を手で拭ってやった。

 

 

「入院にならなくてよかったな」

 

「実弥、めちゃくちゃ空気凄かった!

 

何か恐怖と嫌悪感が」

 

「それ、誰にも言うなよ」

 

「はーい」

 

「この後任務は?」

 

「山茶花から連絡ないから、多分もうない。

 

どうかしたの?」

 

「ちょっと付き合え」

 

「え?」

 

「いいから」

 

 

 

 

  とある境内……

 

 激しくぶつかり合う木刀。不死川の振る木刀を、梓は手に持つ木刀で受け止め、もう一本の木刀で彼の腹部目掛けて振った。不死川はそれを見切り、足で受け止め風の呼吸で攻撃した。梓は彼の攻撃を二本の木刀で全て受け止め、音の呼吸で彼の死界に入ると背後へと回り木刀を振り下ろした。

 

 受け止めた不死川だったが、梓は身に隠していたもう一本の木刀を勢いよく振り下ろした。彼は受け止めていた木刀を振り払いその攻撃を受け止め、梓はしゃがみ込むと不死川に足払いをしたが跳び上がり避け、彼女の後ろへと移動すると剣先を彼女の首に当てた。

 

 

「一本だ」

 

「うぅ……」

 

「動きはいい。柱相手にここまでついて来られるのは、柱以外で今いる隊士の中じゃテメェぐらいだ」

 

「天元とやってるから、領域が違うもん」

 

「まぁそうだな……」

 

「そういう顔、他の隊士には見せないの?」

 

「甘い顔すると、あいつ等つけ上がるからな」

 

「実弥と同じ表情になれば、少しは言う事聞くかな?」

 

「やめろ」

 

 

 自身の顔真似をする梓の顔を、不死川は掌で鷲掴みにした。元の顔に戻した彼女は、そのまま彼の手を掴み共に帰路へついた。

 

 

 不死川と別れた梓は一人、道を歩いていた。すると、覚えのある空気が見え流れを辿りながら後ろを振り返った。そこにいたのは、任務を終えた宇髄だった。

 

 

「天元!」

 

「何だ?任務今終わったのか?」

 

「ううん。さっきまで実弥と稽古してた」

 

「不死川と?珍しいな(本当と懐かれてんな、あいつ……いつの間にか、呼び捨てになってるし)」

 

 

「天元様ぁ!梓ちゃーん!」

 

「あ!須磨ぁ!」

 

 

 出迎えに出て来た須磨に梓は飛び付き、須磨も飛び付いてきた彼女を受け止め愛おしそうにして頬擦りした。彼女に続いて、まきをと雛鶴も出迎え遅れて着いた宇髄は四人を連れて中へと入った。




 虫の鳴き声が響く夜……寝静まった宇髄家。梓は一人、縁側に座り黒の丸いケースの蓋を開け、残っている薬の匂いを嗅いだ。


(……やっぱ父の匂いだ……


何であの人、この塗り薬持ってたんだろう……

可能性としてあるのは……


同じ)
「何やってんだ」


 背後から彼女の頭に手を置きながら、宇髄は梓に声を掛けた。


「あ、天元」

「夜遅いんだから、とっとと寝ろ」

「眠くないからまだいい」

「お前なぁ……?

それ、お前が持ってたのか」

「うん……元々、私が貰ったのだし」

「そうだったな(そういや、胡蝶から無くなったって聞いたなぁ)」

「……ねぇ、天元。

音羽って、私と父以外もういないのかな?」


 ケースを見ながら、梓は質問した。どこか悲しげな彼女の様子を見た宇髄は、隣に座り頬杖を立てた。


「気になることでもあるのか」

「……こないだの任務で見た忍もだけど、実弥達とやった任務でも、あの忍と同じ空気見て……そしたら鬼に出会した……


それだけじゃない……前に、雨の中で会ったあの人も私を見て『同胞』って言ってた……



感とかじゃないけど……音羽の生き残りって名前を変えて、まだ生きてるのかなぁって。ほら職業変えて」

「可能性はなくは無い。

けど、一度染めた手は洗い流すことはできねぇ。その罪を背負って堅気の世界に入るってのは、並大抵の覚悟が必要だ」

「……」

「あの時、お前を助けた忍はお前を『音羽』と知ってて、助けたのかもしれねぇな。

お前の空気が見えるっていう力が相手にもあって、音羽の空気を見つけて寄ったらお前がいて、それで助けたのかもな」

「音羽の空気……」

「親父さんの空気と似てなかったのか?」

「……分かんない。

不思議な空気だったなぁってくらいしか」

「そうか……(生きてても、不思議じゃねぇ……調べて分かってることは、消息は不明だがまだ音羽の生き残りはいる。

だが、今そいつがどうしているかはまるっきり分かってねぇ。探ろうとするが、どうしても尻尾が掴めない。

掴めかけたかと思うと、宛も何もなかったかのように消えている……)」


 ふぁ~っと欠伸をする梓を見て、宇髄は微笑み彼女の頭を自身の膝に寝かせた。眠い目を擦りながら梓は、彼の膝に顔を埋め重くなっていた瞼を閉じ、そのまま寝息を立てた。

 自身の膝で眠る彼女を見て宇髄は鼻で笑いながら、頭を撫でた。寝息を立てた梓は、彼の着流しの裾を握りしめながら気持ちよさそうに眠った。


(もうここに来てから数年経つのか……


来た当時から、こいつの寝顔は変わらねぇなぁ。

見てるこっちが癒される)


 梓の頭を撫でる宇髄だが、ふと頭にフラッシュバックする、彼女の未来の姿……死に様が映った。


(正直、柱にしたくねぇなぁ。

俺の代で、無惨を討伐できればいいが……)
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