産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
音羽は生きていた……まだ戦える者が。
即刻、見つけ次第始末しろ。
奴の血は私にとって有害に過ぎない……
必ず産屋敷共々始末する……音羽…!!
甘味処……
宇髄の隣で梓はおはぎを頬張っていた。彼の元へ、隠がやって来て必要事項を話すとすぐに去って行った。
「天元次の任務?」
「そうだ。
藤の花に行ったら、梓」
「?」
「ちょっと、着替えてもらうぞ」
「……?」
森の中にポツンと建つ社……
その室内には、白い着物に身を包み白い羽織を頭から被った梓が中心に座っていた。
『生贄?』
藤の花で、家紋の人に着付けしてもらっていた梓に、宇髄は苦無を確認しながら話をしていた。
『この村の風習で、森に住んでる鬼に子供を捧げる儀式があってな。毎年この時期になると、十五に満たない子供を森の奥にある社へ行かせ置いてくる。
翌朝になると、子供は居なくなるが代わりに災いから村を守ってくれるって言い伝えがあんだよ』
説明しながら宇髄は、用意されていた包を解き中にあった簪を手に取り見た。
そして着付けが終わり着物を弄る梓の髪を、慣れた手つきで宇髄はまとめ上げ簪を挿した。
『その生贄の役を、お前さんにやってもらい鬼を誘き出すんだ』
『……天元』
『ん?』
『帯きつい』
『我慢しろ』
社の部屋を灯すようにして蝋燭の明かりがユラユラしていた。目に見える空気の流れの中、梓は辺りを警戒していた。社の外では、宇髄が茂みに身を隠し鬼が来るのを待っていた。
(鬼の気配が全く感じねぇなぁ……)
「腕が落ちたな」
突如として聞こえる声……それと共に宇髄の視界は真っ暗になった。
「?」
流れていた空気の中に、スッと消えた空気が見えた。
「……天元?(何で?天元の空気が、消えた……何かあったの?どうしよう……
様子だけでも)」
消える蝋燭の火……鬼の空気が見えた梓は、立ち上がり辺りを警戒した。緊張の空気が流れていた時、梓の背後に鬼が姿を現した。
(鬼!?)
隠し持っていた苦無を手に取ったと同時に、その動きを察知していたのか鬼は梓の腕を掴み、背後から口を覆う様にして何かが巻き付いた。
「君、音羽だね」
「!?」
「つい先日、あの方から音羽を消せと命令が出たんだ。
菊の花の耳飾り……言った通りだ」
(誰の事?…あの方?
まさか……鬼舞辻無惨の事?
何で……何でそんな奴が、音羽の事知ってるの?
何で……)
フラッシュバックする記憶……暗い山林の中、茂みから見える光景。そこに立つ人影……振り返ったその目は赤く、目の前には誰かが立っていた。
(誰?何、この記憶……知らない!!
知らない!!知らない!!)
斬れ……斬れ……
どこからとも無く聞こえる声……梓は脚で思いっ切り、鬼の脚に向かって足刀蹴りを食らわせた。痛みから力が緩んだ鬼の手から自由になった手に持つ苦無で、梓は自身の腕を切り裂き血を鬼に投げ掛けた。
距離を置き梓と対面した鬼は、自身の髪を触手のように振り回し血を吹き払った。
「君の能力は、あの方の記憶で把握済み……抵抗しても無駄だよ」
髪の毛を槍のように、梓に向けて突きつけた……が、その瞬間髪の束が溶けドサッと床に落ちた。
「……は?吹き払ったはず…」
殺気を感じた鬼は、すぐに顔を上げた。目の前には、殺気立った梓の目が自身を見つめ、そして苦無で頸が切り裂かれた。
「な!!」
「……血鬼術……真天硬羽」
頸に刺さる無数の血の羽……鬼は、無数の髪の毛で彼女の腕、首、脚を突き刺した。動けなくなった彼女に、次の攻撃をしようとした構えた時、鬼の視界が突如として横へズレた。
「……だ、誰…だ?」
ボトンと頭が床へ転がり、鬼は塵となり消えた……髪の毛が消えると、梓は床に膝を付き咳き込んだ。
(な、何が起きた?分かんない……早く状況把握)
顔を上げようとした瞬間、頭を強く抑えられ上げることが出来なかった……戸惑う彼女に、抑える者が口を耳に近づけ声を出した。
「そのまま聞け。
お前の中に眠ってる音羽の力を、とっとと目覚めさせろ。
今の姿は、お前ではない……さっさと大人になれ」
それだけを言うと、その者の空気と鬼の空気が同時に消えた。辺りに静けさが漂う中、梓は一人混乱していた……
(眠ってる力……何それ……
知らない……私は……私は……)
フラフラとしながら、梓は倒れそのまま気を失った。
「……い」
(?)
「……ずい」
(何だ?)
「…うずい!」
(梓か?)
「宇髄!!」
目を覚ます宇髄……彼の目に映ったのは、不死川の顔だった。数回瞬きすると、彼は飛び起き辺りを見回した。
「……一体……何が」
「それはこっちの台詞だ!!
テメェ、任務中に何気ィ失ってんだァ?!」
「気……失って……!!?
鬼は?!梓は!!」
「落ち着け。
音羽は隣にいる」
不死川が指差す場所には、首と脚、腕に包帯を巻いた梓がスヤスヤと寝息を立てていた。その傍には、山茶花と野生の木菟が座っていた。
「テメェ等の鴉が、たまたま近くで任務があった俺に助けを求めてきたんだよ。
駆け付けたら、テメェはここで音羽は社の中で、気を失ってる状態で発見された」
「……」
「テメェが背後取られるなんて、珍しいこともあるんだな」
話を聞きながら、宇髄は梓の頭を撫でようと手を伸ばした。次の瞬間、彼女の傍にいた木菟が彼の手を思いっ切り嘴で突っついた。
「痛っ!!何だ、この木菟!!」
「知らねぇよ。こいつ発見した時には、もう傍にいたんだよ」
二人の声に眠っていた梓は目を覚まし、寝惚けた顔をしながら起き上がり目を擦った。
「起きたか?」
「……あれ?
何で実弥がいるの?」
「鴉に呼ばれて駆け付けたんだよ」
「……あ、天元……
酷い天元!!鬼現れたのに、何で助けに来てくれなかったの!?」
「いや、悪かった……」
「刀無くて、鬼の相手するの大変だったんだからぁ!!」
「だから悪かったって」
「刀無いって……テメェ、どうやって鬼退治したんだ?」
「どうやってって……あれ?どうやって?」
「あ?」
「苦無持って構えたところまでは覚えてるけど……そっから何があったか、全然覚えてない」
「テメェの頭ん中どうなってんだ!!」
とある森……
道を歩く者の腕に止まる梟……
「全てに伝えろ……
鬼狩りへ入隊した音羽を、徹底的に援護しろと。
その者の特徴は、長と同じに菊の耳飾りを着けている……そして、桜吹雪柄の浅葱色の羽織を身に纏っている」