産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
部屋から出て来た梓は、無造作に草履を履き首から提げた鈴を鳴らしながら庭へ出ると、彼女の後を木菟が追いかけて来た。
「わぁ、ついて来る」
「その木菟さん、梓ちゃんのことが好きなんだね!」
「何かしてあげたのか?怪我の手当したとか」
「何にも。こないだの任務の時、気を失ってた私の傍にいたって実弥が言ってた」
自身の足に擦り寄る木菟に、梓は腕を差し出した。だが、木菟はジッとその腕を見るが、乗ろうとはしなかった。木菟の代わりに、空中を飛んでいた山茶花がその腕に留まった。
「……やっぱ乗らない」
「乗らないって?」
「ついて来るから、腕に乗るかなぁって出すんだけど、全然乗らない。
山茶花は乗るけど」
「カァ!」
とある藤の花の家紋の家……
泊まる部屋で、宇髄は書類に目を通しながら先日の任務を思い出していた。
社を見張り鬼に警戒していた……
だがその直後、忽然声が聞こえたかと思うと、目の前が真っ暗になり意識を失ってしまった……
(俺の背後を取るってことは、同じ忍の可能性が高い。
あの辺りに潜伏していたのか?だとしたら、目的は……
音からして、あそこにいたのは俺と梓の二人だけだったはず……気配を消して、初めからいたとしたらかなりの手練だ…
梓の記憶が残ってれば、良かったんだけどなぁ)
『腕が落ちたな』
(……聞き覚えのある声だった……だが、思い出せねぇ)
「音柱様、失礼します」
やって来た隠が、部屋の襖を開け近辺で鬼が出現したことを彼に報告しに来た。宇髄は刀を手に、隠と共に出現地へと向かった。
明け方……鬼の討伐し終えた宇髄は、帰路についた。その途中、立ち寄った街で土産物を買い再び自宅へ向かった。
その頃、梓は庭先で自身についてくる木菟と戯れていた。楽しそうな笑い声が響く中、帰宅した宇髄はその声に釣られ庭へ回った。
翼を広げ飛ぶ木菟は、宇髄の目の前で急上昇し向きを変えると梓の足元へ降りた。
「あ!天元、お帰り!」
「その様子だと、怪我の具合はいいみてぇだな」
「傷口塞がった!だからもう任務行っていいでしょ?」
「それは蝶屋敷で検査してからだ」
すると、梓の足元にいた木菟は首を動かすと翼を羽ばたかせ宇髄の肩へ留まった。
「あ!天元の肩に留まった!」
「前は俺の指、突っついたクセに」
「……」
木菟を見上げながら、梓はスッと腕を差し出した。木菟は宇髄の肩から飛び、彼女の腕に留まろうとするがすぐにやめて、地面へ降りた。
「やっぱり腕に留まらない……」
「留まらないのもいる。
おーい、帰ったぞ〜!」
家の中にいる雛鶴達声を掛けながら、宇髄は庭先から家の中へと入った。ムスッと膨れながら、しゃがみ込み木菟の喉を撫でた。気持ち良さそうにする木菟を見た時、梓はふと昔を思い出した……
幼き頃、父親の傍にいた灰色の大きな鳥……
父親の服の裾を握りながら、その鳥を触った。
大きな鳥はそれに応えるようにして、幼い彼女の手に頭を擦り寄せた。
(……そういえば、あの鳥どこ行っちゃったんだろう……
父が鬼になってから、ずっと見かけなくなったなぁ……やっぱ、本能で分かったのかな。父じゃなくなったって)
「梓!甘いの、一緒に食べよ!」
「うん!」
昼下がり……
それぞれの家事をする雛鶴達。宇髄は縁側で横になり、ウトウトしており、彼の見える先では梓が何かを巻いた腕を木菟に差し出していた。
「天元!天元!
蒼羽が腕に留まった!」
腕に留まる木菟…蒼羽を、梓は縁側に駆け寄り自身の声で起き上がった宇髄に見せた。
「良かったなぁ……って、アオバ?」
「うん、蒼羽。こいつの名前!」
「青ねぇ……何で青?」
「昔父と一緒にいた大きい鳥の名前が、朱羽だったから。
その反対!」
「大きい鳥?」
「ちっちゃい頃、いたんだ。父が飼ってた大きい鳥。
でも……」
「?」
「……父が鬼になってから、全然見なくなったんだ」
「そうだったのか……(鳥を扱えていたのか?)
そういえば梓、腕に何巻いてんだ?」
「天元が頭に巻いてる布」
「何使ってんだ!!」
「イテっ!」
「ったく!
もしかしたらそいつ、腕を傷付けたくなくて乗らなかったのかもしれねぇな」
「傷?」
「猛禽類って言ってな。小動物とかを捕らえるために、足の爪が鋭いんだ。
腕当てや専用の手袋付けねぇと、怪我しちまうからな」
「でも天元の肩に乗ってたよ」
「俺は元々筋肉質だから、こんなちっこい奴の爪なんざ、針が刺さった程度の痛みだ。
今度、縫製係に言って腕当て作ってもらうか」
「うん!」
とある部屋の一室……
試験管に入れた血を見ながら、無惨は上弦ノ壱である黒死牟を呼び出した。
「私の血を引く音羽が生きていた」
「!」
「黒死牟、早急に抹殺しろ。
音羽の血は、私にとって有害な血だ。残っていては困る」
「……御意」
暗闇へ消える黒死牟……手に持つ試験管を、無惨は壁に向かって投げ飛ばした。
(音羽!!
何百年と何人も殺し続けたが、本家が尻尾を出すことはなかった……だがようやく……ようやく!!)
満月が浮かぶ夜空……
縁側で、宇髄の膝を枕に寝息を立てる梓。自身の膝で眠る彼女の頭を、愛おしそうに撫でた。
(寝ちまったか……?)
梓の傍へ、外にいた蒼羽は降り立ち彼女に寄り添った。その様子を見た宇髄は、自身の手を見るとソッと蒼羽に手を近付けさせた。蒼羽はチラリとその手を見るが、興味無さそうに目を逸らし羽繕いをし始めた。
「……お前さん、人を見る目があるんだな」
その時鼻を啜る音が聞こえ、眠る梓の方に目をやると閉じる目から涙を流しながら譫言を言っていた。
「(また親父さんの夢、見ちまったか)梓、大丈夫だ。
今は俺等がいるぞ」
そう言いながら宇髄は、梓を抱き上げ自身の膝に置き抱え、彼女の耳を自身の胸に当てた。しばらく聞かせていると、梓は落ち着きを取り戻し、彼の裾を握りながら再び寝息を立てた。
(何年経っても、やっぱ親父さん恋しくなっちまうか……
真逆だな……俺と)
暗くなる宇髄の表情を見た蒼羽は、彼の肩に飛び乗り身を寄せた。
「……何だよ、慰めてくれてるのか?」
体を振るう蒼羽の頭を宇髄は撫でてやり、蒼羽は気持ち良さそうな表情を浮かべて、彼に顔を擦り寄せた。
産屋敷邸……
縁側に座るお館様の元へ、黒い梟が舞い降りてきた。お館様は、その梟が何者なのかを察したのか微笑みながら口を開いた。
「……初めまして。私は、産屋敷耀哉。
君は、音羽の遣いかい?」
そう話し掛けるお館様だが、梟は羽繕いをしジッと彼を見つめた。何かを察したのか、ソっとお館様は手を差し伸べた。梟はその手を見ると、自身の頭を擦り寄らせそしてそれに満足したかのようにして、そこから飛び去って行った。
(……まだ、私達を見ていてくれているのかい?)
夜空に浮かぶ満月が輝く中、彼の問に答えるようにして微風が拭き髪や草木を揺らした。