産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
「鬼の数、全然減らないね」
「全くだ」
「親玉の…鬼舞辻無惨?そいつの場所、見つからないの?」
「柱総出で捜索してるが、全然。
鬼は出るくせして、親玉が出ねぇんだよなぁ」
「フーン……
ねぇ、柱に昇格する条件の中に十二鬼月倒すってあったよね?」
「あぁ、あるな。それがどうかしたか?」
「柱になった中で、上弦の鬼を倒した人っているの?」
「いや、いねぇな。
下弦はよく出現するが、上弦は滅多な事で出くわすことはねぇ」
「出会ったらどうするの?」
「……逃げろ」
読んでいた手を止め、振り返った宇髄は真剣な眼差しで梓を見ながら答えた。穏やかな空気が一瞬で緊張感の空気に変わり、梓は書類から彼の方へ目線を向けた。
「上弦の鬼に会ったら、何が何でも逃げろ。
柱である俺達でも、敵うかどうか分からねぇ。まだ柱でもねぇ、一般隊士だったら尚の事」
「……逃げ切れるの?」
「さぁな……運が良ければ、逃げ切れるかもな」
「じゃあ運が悪ければ、死ぬって事か」
「そうだなぁ……って、とっとと髪乾かせ!!!風邪引くぞ!」
「引かないもん」
「こないだ引いただろう!!不死川から聞いてんだよ!!
まきを!梓頼む!」
「あ、天元、お風呂空いた」
「今頃かよ!!」
森を駆ける梓……森から出ると見晴らしの良い道へ降り、そこを駆けて行った。
「鬼、出現!!隊士達、苦戦!!直チニ交戦セヨ!!」
河原で鬼と戦う隊士達……駆け付けた梓は飛び上がり、月をバックに、鬼達の頸を一瞬で切り落とした。
「す、すげぇ」
「流石、音柱様の継子」
「(空気からして、鬼はもういなさそう)
ここもういいから、別の」
後ろから感じる、突如として現れる鬼の空気……振り返った先にいた鬼は、『上弦 壱』の目を持っていた。
「(上……弦)!!!
走ってぇ!!!」
梓の声と共に、怯んでいる三人の隊士に蒼羽は嘴で攻撃し、その痛みから彼等はすぐに駆け出し逃げた。追い駆けようとした上弦の鬼を前に、梓は立ち柄を握ろうとするが、手が震え上手く握れずにいた。
(駄目だ……この空気……相手にしちゃ……
震えて柄が掴めない……とにかく、あいつ等を逃さないと……)
恐怖から足が震え、息が上がった……その時、一瞬で迫ってきた上弦の鬼が攻撃を放った。梓はすぐに避け、相手から距離を取ると震える手を無理矢理動かし、柄を何とか掴み鞘から刀を引き抜き構えた。
「その動き……音羽か?」
「!!?」
フラッシュバックする記憶……見覚えのない記憶に戸惑う彼女に、上弦の鬼は手に持っていた異様な形をした刀を振り下ろした。一瞬何が起きたか分からず、風が吹いたかと思ったその時、梓の右肩から血が噴き出した。
「…痛!!(いつの間に!?全く空気が読めなかった!!)」
次の攻撃が来る時、梓は咄嗟に察知しその攻撃を刀で防いだ。その反動なのか、流れる川の水が揺れ飛沫が上がった。
(お、重い…!!!
こいつ……何で……何で知ってんの?)
「音羽と言っても、まだ未熟児か……」
受け止めていた刀の攻撃を横へ流し、鬼から離れた梓は懐から苦無を出し、上弦の鬼の足目掛けて投げた。そちらに気を取られ一瞬気が緩んだ隙を狙い、梓は鬼との距離を置いた。
「音の呼吸参ノ型 木の葉の囁き」
どこからともなく舞い上がる木の葉に紛れて、梓はその場から姿を消しそして、上弦の鬼の後ろに姿を現し二本の刀を振った。だがその攻撃は虚しく、鬼が持つ刀で防がれた。その力の反動により二本の刃は折れ、梓は吹き飛ばされ水飛沫を上げながら、川で膝を付き息を切らした。
(う、嘘……刀が……!!)
目の前に立つ上弦の鬼……浅く息をする梓は、恐怖から顔を上げることが出来ずにいた。
(怖い……怖い怖い怖い!!
天元……助けて……
……父……)
『ずいぶん成長したなぁ……幼い頃のお前に似ている』
遠い昔……
誰かの膝に座り、そこで眠る幼い梓の頭を撫でながら話していた。
『そうかな……
俺、最近思うんだよ……この子の血は、あいつを倒せるじゃないかって』
『……』
『あの人に定期的に連絡して、俺と梓の血を提供してる……
上手くすれば、あいつを倒せるかもしれない』
『……この子が、私達音羽の最後の希望ということか……
私達の罪をこの子に背負わせることになるとは……』
使え……その血を……
音羽の血を絶やすな!!!
「!?」
耳に響く声、体全体に響く脈打つ鼓動……
無意識に梓は、苦無を取り出すとそれを自身の腕に突き刺し血を流し出した。同時に上弦の鬼が刀を振り下ろした……次の瞬間、梓は爆薬丸を使いその場から離れた。振った刀の攻撃からか、髪を結っていた紐が切れ、風に靡く髪を揺らしながら、梓は頬についた血を指で拭い舐めた。
(……何だ……空気が変わった……?)
顔を上げた彼女の目には、生気がなかった……地面に転がる折れた刀を手にした梓は、上弦の鬼に向かって攻撃した。その攻撃を鬼は難なく避け、刀を振り攻撃するが梓はそれが全て見えているかのようにして避けて行き、鬼の頬に傷を付けると距離を置いた。
風で揺れる互いの髪……梓は折れた刀で自身の腕を斬り血を出し、鬼を睨んだ。
「……血鬼術……晴天血雨!!」
凄まじい光と振り回した腕から血が飛び散った。上弦の鬼はすぐにその攻撃を避け、彼女の背後へ回ると刀を振った。当たる寸前に梓はその刀を自身の折れた刀で防ぎ、そして隠し持っていた苦無を鬼の腹部に刺した。
だが刀は、鬼の刀に耐えられず再び折れ右側の顔に傷が付き血が流れ出た。ふらつき膝をつく梓に、鬼は止めと言わんばかりに刀を振り上げ時だった。
向こうの山から太陽が昇り始め、辺りが徐々に明るくなり周りが朝焼けに照らされた。
「日が昇る……次こそ」
刀をしまい、上弦の鬼はそこから去った。
しばらくして朝日が昇り始めた……川の中に立つ梓は、呆然とそこを動かず膝をついていた。その傍へ、蒼羽は降り立ち彼女に呼び掛けるようにして鳴き声を発した。
梓が上弦の鬼と交戦している最中、山茶花を含む鎹鴉達は一斉に彼女の状況を各柱へ報せていた。
「カァァアア!!カァァアア!!
緊急事態!!緊急事態!!」
「上弦ノ鬼、出現!!上弦ノ鬼、出現!!」
「現在甲・音羽梓ガ交戦中!!」
その報せを受けた宇髄は、目の色を変えすぐに現場へと向かい、他の地区にいた柱達も手の空いている者達は一斉に現場へと向かった。