産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
その影を見た蒼羽は、影の元へ行き梓の所へ案内した。川岸を降り、彼女の元へ駆け寄り脈がまだあることを確認すると、顔を上げさせ口に水を流し込んだ。
「……!!
ガハッ!ゲホッ!ゲホ!」
咽て咳き込む梓は、口から含んだ水と血を吐き出しそのまま倒れた。倒れた彼女を、影は横に持ち上げると岸辺に寝かせその場を去っていった。
数時間後……
いち早く駆け付けたのは、不死川だった……現場へ駆け付けた頃には、上弦の鬼はもちろんもあの影達の姿はなかった。
(遅かったか!!)
河川敷を降り辺りを見た時、岸辺に倒れている梓を見つけすぐに彼女の元へ駆け寄った。体に出来た傷から流れ出る血が地面の石を染められているのを見た不死川は、彼女の肩を掴み呼び掛けた。
「音羽!!おい!(出血が多過ぎる、手遅れか?)」
「ガハッ!!」
再び咳き込み血を吐き出す梓を見て、不死川は自身の羽織を脱ぎ傷口に当て止血した。それから間もなくして、救護班が駆け付け不死川と交代し、すぐに応急手当を始めた。
あれ?どうなったの?
あいつ……あの上弦……
頸……頸……斬らないと……
アイツは……
「ガハッ!」
血を吐き出す梓……浅く息をしながら、薄っすらと目を開けた。ぼやける視界の中、自身を覗き込む蒼羽の顔らしきものがあり、その奥から宇髄と不死川の声が聞こえ、そちらの方に顔を向けた。気が付いた彼女を知らせるかのようにして、蒼羽は宇髄の肩へ飛び乗り、同時に気付いた隠は驚きながらすぐ二人に声を掛けた。
「梓!!おい!」
起き上がろうと体を動かす梓。その反動に、胸と肩から再び血が流れ慌てて不死川が彼女を抑えた。
「馬鹿!!!傷口、開くぞ!!」
「ジョウ…ゲン……
頸!」
口から血を流し、不死川の手を退かしながら起き上がろうとする梓に、宇髄は目を塞ぐようにして彼女の顔を掴み耳元で話した。
「上弦はもういねぇ、日が昇ってる。
言ってる意味、分かるな?」
彼の言葉を理解してか、梓は落ち着きを取り戻し同時に意識を失い、不死川の腕に凭れ掛かるようにして倒れた。
倒れてきた梓を、不死川は寝かせた。応急手当を終えた彼女を隠は運び、蝶屋敷へと急いだ。
蝶屋敷……
薬の管を身体に繋げ傷の影響からか高熱を出し、ベッドの上で眠る梓。苦しそうに息をする彼女を、しのぶは診察していた。そこへ、事後処理を終えた宇髄が部屋の戸を叩き中へ入ってきた。
「梓の様態は?」
「まだ油断はできません。
右肩の傷が、肺にまで達しています。それに出血の量も多いですし……」
「……意識戻るのか?」
「分かりません。
今息をしているのが奇跡としか言いようがありません……
(姉さん……)」
蘇る記憶……カナエの亡くなった姿を、しのぶは眠る梓を見ながら思い出した。
頼む……◯◯を殺してほしい。
我々は血を浴び過ぎた……
これから生まれてくる子達には、幸せになって欲しい。
梓の眠る病室の戸がノックされ、傍にいたしのぶは返事をしながら戸を開けた。外には、あまねに支えられて来たお館様が立っていた。
「お館様」
「しのぶ、梓の状態は?」
「まだ意識は戻っておりません。
高熱がここ数日、続いている状態です」
「そうかい……」
「……」
席を変わるようにして、しのぶはお館様の傍に椅子を置き座らせた。浅く息をする梓を見つめながら、お館様は彼女の頭にそっと手を置いた。
必ず、退治致します。
貴方の傍にいられなくとも……
我々は影からあなた方を、お守り致します。
守れはしない……私がお前達を滅ぼす。
逃がしはしない……音羽。産屋敷諸共、亡ぶがいい。
「……」
目を開ける梓……混濁する中、部屋をゆっくりと見回した。
(……蝶屋敷?
何で……)
その時、外から薬の変えを持ってきたアオイが中へと入り、目を覚ましている彼女を見るやいなや、すぐにしのぶを呼び梓へ寄った。
「目が覚めたんですね!良かったぁ」
「……」
「梓さん」
病室へと入ってきたしのぶは、戸惑っている彼女の元へ歩み寄った。
「一月、生死を彷徨っていたんです。出血量と傷が影響して、二週間近く高熱で魘されていましたよ」
「……」
「後程宇髄さんには連絡しておきます」
起き上がりながら自身の話を聞くが、状況にまだ戸惑う梓に、しのぶは何も言わずスッと抱き締めた。梓は目を見開いて驚き、目をパチパチとさせた。
「目が覚めてくれて、本当に良かったです……上弦の鬼と戦って、今こうして生きているのが奇跡なんです。ましてや、あなたは甲です。
私達柱ですら、上弦の鬼には滅多に遭遇しません。遭遇しても、仲間が助けに駆け付けた時には、もう死んでいてもおかしくないんです」
「……」
その言葉を聞いた瞬間、不意に涙が流れ出た……フラッシュバックで蘇る、上弦の鬼と戦った記憶……その時感じた死への恐怖を思い出した梓は、しのぶにしがみつき声を抑えて泣いた。
「怖かったですよね。お一人で柱が来るまで、ずっと戦っていて……(小さくまだ幼さが残る彼女に、死というのがどれだけの恐怖だったか……)。
けどもう大丈夫ですよ、こうして無事生きているんですから」
しがみつく彼女をの頭を、しのぶは慰めるようにして落ち着くまで撫で続けた。
数日後……
裏山に生えている木に座り、ボーっと景色を眺める梓。彼女の傍に、山茶花と蒼羽が降り立ち羽繕いをした。
思い出す記憶……上弦と戦い、殺されかけた……だがそれ以降の記憶はなく、夢現に覚えているのは上弦を追い掛けようとしたが、それを宇髄に止められたという記憶だけ。
(……何で、あの時の記憶)
『音羽と言っても、まだ未熟児か……』
(何で……あの上弦、私の苗字を……
あれ?)
ジッと景色を見つめる梓の右目に、スッと靄が道の様に流れているのが見えていた。
(何だろう……)
右目をグリグリと擦り、もう一度見る梓だが彼女の目には依然として、靄の道が流れているのが映った。
(まぁ、戦いの邪魔にはならないし、見えないわけでもないから平気か……)
その頃、診察室では任務から帰還した宇髄が、しのぶから梓の診察結果を聞いていた。
「鬼に付けられた傷ですが、かなり深く斬られた傷にも関わらず、傷跡が残らず完全に治っていました。
先日、視力検査の方も行いましたが、特に問題はありません。もうしばらくしたら、機能回復訓練を行います」
「肺までイッてたんだろう?そんな綺麗に治るものなのか?」
「分かりません。
ただ、前にも話しましたが梓さんは私達とは違います。それと関係しているのかもしれません」
「……」
「あと宇髄さん、大丈夫だとは思うんですが……少し梓さんを気にかけといて下さい。
上弦と戦い生還しているとは言え、まだ幼心が残っている梓さんからすれば、それなりに精神へのダメージは大きいかと思います」
話を終えた宇髄は、しのぶに教えてもらった縁側へ来た。だがそこにはおらず、代わりにきよ達がいた。
「あ!音柱様」
「よぉ。梓知らねぇか?」
「梓さんでしたら、多分裏山に行っているかと」
「裏山?」
「しのぶ様に許可を取って、歩けるようになってからずっと行ってます」
「夕方には戻ってきますけど」
「そうか……ありがとな」
「音柱様!」
「ん?何だ?」
「実は……」