産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
産屋敷邸……お館様の前に座った宇髄は、山で起きたことを報告し保護した子供は自身の継子として引き取る事を伝えた。
『保護した子供は、今は?』
『花柱が管理する、蝶屋敷で預かってもらっています。
見る限り、隊士として見込みがあるかと』
『そうかい……』
『……これは、自分の憶測にしか過ぎませんが……
おそらく子供の父親は、自分と同じ忍の可能性があります』
『忍……だったら、鬼を倒せてもおかしくはないね』
『……』
『天元、子供をよろしく頼むよ』
『はい』
ある晴れた日……
洗濯物を干すまきを。洗濯籠から手拭いを取り出す梓の肩に、雀が留まり雀に続くようにして、物干し竿の先端に別の鳥が留まり羽繕いをした。
「また鳥……最近よく来るなぁ」
そう呟きながら、まきをは次の洗濯物を干そうとした時、数枚の手拭いを手に持った梓が、背伸びをして竿に掛けていた。
(可愛過ぎる……小さいから、余計に)
その時、竿に掛けた手拭いに鳥が一羽留まった。それを見たまきをはすぐに洗濯バサミで、干した手拭いを止めようと歩み寄ると、鳥はすぐに飛び立ち梓の頭に移動した。
「梓は鳥に好かれてるわね」
「……好かれる?」
「野生の鳥って、今みたいに人間が近付くと逃げちゃうんだよ。
けど、梓が寄ってきてもここに着てる鳥達、逃げようとしてないじゃん」
「……そうなんだ……
山にいた頃、これが普通だった」
「へー。鳥に好かれる体質なのかもね、梓は」
別の日の宇髄家……
草履を持った梓は、庭から山へ行こうとした時だった。
「梓、ちょっと待って!」
「?」
「洗濯物干し終わったら、私達も一緒に行くから」
「今日から苦無投げの練習!他にも色々、教えてあげるね!」
須磨の言葉に、梓の表情が少し明るくなった。その様子を見て、三人は顔を見合わせて笑った。
的に次々と苦無を当てる梓……それを見て、三人は呆気にとられていた。
「……嘘」
「的に全部当たってる……しかもど真ん中!」
「忍の稽古……相当叩き込まれたみたいね」
「少しこの辺り走ってくるわ」
「分かった」
「梓!ついてきて!」
駆け出す雛鶴の掛け声に、梓は難なくついて行った。
任務を終えた宇髄は帰路についていた……帰る途中、彼は踵を返し自身が稽古で使っている森へと向かった。
「あ!天元様!!」
「お帰りなさい!」
「梓と雛鶴は?」
「二人共今」
須磨が何か言い掛けた時、近くの木から梓が降り立ち彼女に続いて雛鶴も降り立った。
「雛鶴、面倒見てくれてありがとう。まきをと須磨も、ありがとな」
「いえ、そんな!」
「私達、そんな詳しく教えてないです!」
「この子、私達が教える以前に全て扱えてました」
「須磨なんて、教える側なのに教えられていたもんな」
「まきをさん!私がミソッカスなの、知ってるじゃないですか!」
「アンタ、仮にもくノ一でしょうが!!」
「うわーん!まきをさんがいじめるぅ!!」
彼女等が騒ぐ中、梓は自身の肩に留まった雀の喉を撫で、次に自身の足元に降りた鳥達に目線を合わせるようにして、その場に座り込み指を差し出し戯れた。
「三人共ここまでありがとな。あとは俺が見る」
「大丈夫ですか?任務もありますし」
「大丈夫だ。こっからは、鬼を退治するための術を教えねぇとな」
「…分かりました」
「私達はお家に帰って、ご飯の支度して待ってます!」
「頼んだ!」
三人はすぐにその場から去り、その音に気付いた梓は宇髄の方を見た。
「随分と鍛えられてたんだな、親父さんから」
「?」
「忍の心得だ」
「……しのび?何それ?」
「?」
「…父からは…山に住んでるから獣達と同じ動きが出来るようにしとけって」
「何も知らずに、教わってたって事か……(とはいえ、雛鶴達は優秀なくノ一。三人をも上回る力を供えていたって事は……かなり腕のある忍か)
よっし!こっからは、この俺様がビシバシと指導してやる。覚悟しておけ」
「……」
ジッと宇髄を見つめる梓……だが知らぬ間に、彼女の手から苦無が投げられており、宇髄の頬を掠り、背後の木の的に刺さった。
(いつの間に?!全く動きが見えなかった)
その時、柔らかい風が吹いた……吹く風が、梓の長い藍色の髪を揺らし、その髪の間から見えた横顔が、彼の遠い記憶の中にいる人物と重なって見えた。
(……まさかな)
夕方……
疲れ切り、地面に膝を付く梓。近くの地面は、凹んだ後が多数あり、それを見ながら宇髄は歩み寄った。
(一日教えただけで、もう音の呼吸壱ノ型を……とんだ天才だ)
(し、死ぬぅ……熊と対決した時みたい……)
「日が暮れる……そろそろ戻るぞ」
呼吸を整え梓は、フラフラと立ち上がった。歩こうと足を出した時、バランスを崩し倒れ掛けた。その寸前に、宇髄が手を掛け彼女を支えた。
「大丈夫か?」
疲れ切った表情をしていた梓を見て、宇髄は彼女を背負い帰路についた。背中に揺られる中、梓は意識が薄くなっていき、代わりに昔の記憶が思い出されていた。
幼き頃……
心地よい風が前髪を揺らし、眠っていた梓はゆっくりと目を開けた。木陰から射し込む太陽の光が辺りに照らされ、彼女はその風景をぼんやりと眺めた。揺れる背中から伝わる優しい父親の温もり……その温もりに安心しながら、梓はその背中に頬を擦り付け眠った。
「……」
目を覚ます梓……いつの間にか布団に寝かされていた彼女は、起き上がり部屋を見回した。
「……父?」
羽織を手に、梓は部屋を出ていき庭から外へ出た。冷たい風が吹く中、彼女は屋根の上に飛び乗り座るとボーッと外を眺めた。
月明かりが照られる中、思い出す鬼になる前の父親と過ごした日々……
暗い森の中で、設置された的に苦無を当てた。初めは外すばかりだったが、次第に腕を上げ夜の見にくい場所でも苦無が的に当たるようになり、当たった瞬間梓は振り向き父親を見た。彼は微笑み、彼女に近付くと褒めるかのようにして頭を撫でてくれた。
ポタポタと落ちる涙……声を押し殺し、鼻を啜りながら梓は涙を拭った。拭いても拭いても流れる涙に、浅く息をしながら必死に涙を止めた。
しばらくして、ようやく落ち着いた梓は屋根から降り部屋へ戻ろうとした時、自身の部屋から出て来た宇髄と遭遇した。
「夜の外は危険だ。黙って出るな」
「……」
(雛鶴が言ってた、夜中に起きて……そんで、時々外を出歩いてる。
死んだ父親寂しさ故の夜泣きだったら、まだ良かったんだがなぁ)
そっぽを向き、梓は縁側に座った。そんな彼女の態度を見た宇髄は、軽く溜め息を吐きながら後ろに座った。寂しそうな背中を見て、宇髄は梓を自身の膝に乗せた。
「……何?」
「別に、俺がこうしたいだけだ。気にするな」
「……」
不意に頭を撫でられる梓……宇髄の胸に体を預けるようにして寄り掛かった。耳に聞こえてくる心臓の鼓動……その音は、幼き頃によく聞いた父の鼓動と似ていた。聞いていく内に、瞼が重くなっていき欠伸をすると、そのまま寝息を立て眠りに着いた。
(無理もねぇか……他人と一度も触れ合わず、父一人子一人の生活を物心ついた頃から、送ってんだ……唯一、頼りだった父親はもうこの世にいない。
いきなり人里降りてきて生活送るだけでも、相当な苦労するだろうよ)
眠る彼女の頬を撫で、宇髄は夜の空に浮かぶ月を暫くの間眺めた。
「なぁ、知ってるか?音柱様、継子を拾ってきたんだって」
「マジ!?」
「どんな子なの?」
「さぁ。噂じゃめちゃくちゃ可愛いって話だ」
「へー、今度話してみようかなぁ」
「やめとけやめとけ。噂じゃその継子、人里離れた山育ちらしくて、音柱様とその奥さん方以外には目茶苦茶警戒心強いって話だぜ」
「え?嘘」
「あと、同行した隊士から聞いたけど、凄い小さいって聞いたよ」
「マジ?それって、耐えられるのか?柱の修行」
「言えてる。
お母さんって泣き喚きながら、やめるんじゃねぇの?」
既に隊士達の耳に入っているのか、彼等は気の合う数名の仲間と面白可笑しく話していた。その様子を、木陰から宇髄は聞いており彼等を見下ろしていた。
(もう噂が広まってる……好き勝手言いやがって)