産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
地面に寝そべる梓。目を閉じる瞼の裏に、靄がずっと流れていたが、そこに父親と似た空気がふわりと流れた。それに気付いた梓は目を開け、体を起こし振り返った。
「…天元」
「こんな所にいたのか(気配消して来たつもりだったが……)」
傍にいた蒼羽が目を覚まし、体を振るうと梓の膝に飛び乗った。それを合図に、地面にいた鳥達が飛び上がり、傍の木へと移った。
「相変わらず、鳥に好かれるなぁ。
体は大丈夫なのか?」
「平気」
そっぽを向きながら、答える梓の様子を見て宇髄はきよ達の話を思い出した。
『夜中に起きてる?』
『はい……
夜に患者さん達の様子見に巡回をするんですが……
梓さん、いつも起きてるんです』
『眠そうにはしてるんですけど、寝ようとしないんです』
『時々病室を出て、縁側にいることが多くて……
まだ病み上がりですし、体調の方を考えますと少し心配で』
『梓さん、今まで普通に寝ていたのに……』
三人から話を思い出した宇髄は、梓の傍に座り彼女の頭に手を置いた。
「梓、こっち向け」
「……」
「寝てねぇんだろ?」
「……眠くないから」
「寝不足な顔して、何言ってんだ」
「……ねぇ、羽織は?」
「羽織?手直し終わって、今家にあるが……」
「……」
「……
お前……まさか羽織無かったから、眠れなかったのか?」
そっぽを向いていた梓は、頬を膨らませてチラリと宇髄の方を見た。彼女の様子を見て、宇髄は吹き出し体を震えさせた。
「笑わなくったっていいじゃん!!!」
「いや、悪い……(年齢に合わず、こいつ本当可愛いなぁ)
明日にでも、雛鶴に持ってこさせるから」
「ムー……
ねぇ、天元」
「ん?」
「上弦のその後は?」
「……何もねぇよ。
あれから、あの辺り周辺を警備してるがこれといって情報は何も」
「……」
「まぁ、上弦は滅多に俺達の前に現れることはねぇから、手掛かりがねぇんだ」
「……そうなんだ……」
「そう落ち込むな。
上弦と遭遇して、生還したのが奇跡のようなもんだ」
「……でも頸斬れなかった」
「バーカ。お前に倒されちゃ、柱の名が廃る」
「……あ、そうだ。
天元、聞きたいことある」
「ん?」
「今まで鬼殺隊の中に、鬼になった隊士っている?」
「鬼になった隊士?
いや、俺が入隊してから今までそんな話し聞いたことねぇな……
それがどうかしたか?」
「別に……ただ気になっただけ」
ふぁ〜と欠伸をした梓は、眠そうに目を擦った。それを見た宇髄は、梓を自身の膝に乗せた。もう一度欠伸をした梓は、彼に体を預けそのまま眠ってしまった。梓の膝にいた蒼葉は、宇髄の肩へ飛び移り身を寄せた。
(相変わらず、可愛いなぁ……
本当、生きててよかった)
一週間後……
傷が癒えた梓は、しのぶから機能回復訓練の許可が降りアオイ達から訓練を受けた。一月寝込んだせいで、体はバキバキに硬くなっていたが、反射訓練、全身訓練は全てクリアした。
「梓さん、柔軟以外は全て合格です」
「凄ぉい!」
「明日もまた、柔軟やりましょうね!」
「柔軟、嫌いになりそう」
「仕方ありませんよ。
一月昏睡状態で、その上傷口が塞がるまでずっと安静にしていましたから」
「……打込稽古したい」
「それはもう少し、体力が回復してからですね」
訓練を終えた梓は、一人裏山へと行った。山中、茂みに入った梓は、生えている草を抜き体を起こすと頭についていた葉っぱを振り落とした。
(この辺、薬になりそうな野草がいっぱい。
しのぶさん、喜びそう!)
梓が山にいる頃、包みを持った不死川が蝶屋敷へと足を運んでおり、入院している部屋の戸を開け、彼女がいない事を把握した。
(……あいつ、まだ万全じゃねぇだろう)
「あ!風柱様!」
声の方を向くと、そこには洗濯籠を持ったすみが立っていた。
「音羽はどうした?」
「梓さんでしたら、多分裏山に行ったかと。
機能回復訓練が終わると、いつも山に行ってますから」
すみから聞いた不死川は、彼女に礼を言い山へ向かった。山へ入りしばらく歩いていると、山茶花が何かを持って飛び去っていくのが見えた。
(あの方向……お館様の屋敷)
「あ!実弥!」
振り返ると木の上から飛び降りた梓は、不死川に駆け寄り飛び付いた。
「体調はもういいのか?」
「平気!さっきまで機能回復訓練してた!」
「そうか(まぁ見た所、大丈夫そうだな)」
「それ何?」
「差し入れだ、ほれ」
包みを渡された梓は、縛っていた結びを解き中を見た。
「あ!ボタンだ!」
「屋敷戻るぞ」
先歩く不死川の後を追い掛け、梓は彼の羽織の袖を握り歩いた。袖を握られた感触が、一瞬彼の脳裏に亡くなった弟妹を思い出され、ふと振り返った。
「?実弥、どうかした?」
「……何でもねぇよ。
そういや、お館様に何か送ったのか?さっきテメェの鴉見掛けたが」
「珍しい花見つけたから、山茶花に届けてもらった!」
「……そうかよ」
「?」
歩く不死川の前を向く顔を見つめていた梓の目には、彼の姿が一瞬父の顔と重なって見え、ふと彼の手と自身の手を交互に見た。そして、羽織の袖から手を離した梓は、ソっと不死川の手を握った。
(……温かい……父の手とおんなじ!)
その行為に少々驚いた不死川だが、嬉しそうに自分の手を握る梓を見て、微笑を浮かべ彼女の手を握り歩みを進めた。
蝶屋敷、縁側……
不死川の隣で梓は、おはぎを美味しそうに頬張っていた。口の周りについた餡を、不死川は拭ってやった。
「あらあら、仲が良いですこと」
その声に不死川は引き攣った顔で振り返り、同時におはぎを手にした梓はその声の方を見た。
「あ!しのぶさん!」
「不死川さん、梓さんのお相手ありがとうございます。
本当なら、お薬飲んだ後は大人しく寝ていて欲しいんですけど、なかなか簡単にはいきませんね」
手に持っていたおはぎを食べ終えると、梓は次のおはぎを手に取り、また美味しそうに頬張った。
「テメェ、薬飲んでんならちゃんと寝とけ」
「眠くないからヤダ!」
「治るもんも治らねぇぞ」
「平気だよ、ご飯いっぱい食べてるし」
「そういう問題じゃねぇよ」
「ねぇねぇ実弥!打込稽古つけて!」
「怪我完治したらな」
「もう完治した!」
「してませんよ。まだ安静にしてて下さい」
「訓練受けてるんだからいいじゃん」
「駄目です。許可出しません」
「ムー」
「手に持ってるおはぎ、とっとと食っちまえ」
「……」
「?何だァ?」
「実弥って、何でボタンの事おはぎって言うの?」
「あ?」
「おはぎじゃなくてボタンだよ、これ」
不死川の手に持ったおはぎを指差しながら、梓は自身のおはぎを口にした。その言葉に、しのぶはクスクスと笑いながら固まっている不死川の代わりに答えた。
「梓さん、おはぎもボタンも同じですよ」
「……同じ?」
「名前が違うだけで、作り方は同じなんです」
「何で名前違うの?」
「食べる時期によって呼び名が変わっているんです。
春のお彼岸に食べるのが牡丹餅。秋のお彼岸に食べるのがお萩と言われているんです」
「……ぼたもち?
ボタンじゃないの?」
「牡丹であってますよ」
「面白いね、名前が二つあるなんて」
「そうですね」
「実弥は知ってた?」
「……まぁな」
そっぽを向きながら答える不死川に、しのぶは体を震えさせており、二人の様子に梓は首を傾げながら手に持っていたおはぎを口にした。
数週間後……
しのぶの診察を受ける梓。
「傷口は完治してますし、折れていた骨もくっついています。
もう退院しても大丈夫ですよ」
「やったぁ!」
「ただし、まだ任務復帰許可は出せません」
「え!?何で?!
傷完治して、骨もくっついて、それに機能回復訓練もしたのに!!」
「確かにそうですが、まだ体の方は万全とは言えません。
自宅療養をしばらく続けてから、また診察してその時問題がなければ任務復帰です」
「もう平気なのに〜……
偵察も駄目?」
「いけません」
「ブー」