産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  退院する少し前……

 お館様の家にて、梓は宇髄と共に座っていた。彼女を挟むようにして、同席していた悲鳴嶼も座っており、二人の間に座る梓は上機嫌に体を左右に揺らしていた。その様子に、彼等と対面して座るお館様は微笑んでいた。


「梓、早速で申し訳ないけど、君が先日対戦した上弦の特徴を教えてくれないかい?」

「分かった!」


 その瞬間、宇髄の拳骨が梓の頭に当たり、彼女は打たれた箇所を抑えた。


「お館様に敬語使えって、何度言ったら分かる!!!」

「耀哉様、気にしてないもん!!」

「お館様だって言ってんだろうが!!」

「天元、私は気にしてないよ。


梓、話をしてくれないかい?」


 宇髄の襲い掛かる手を阻止していた梓は、彼の手を受け流し避難するようにして悲鳴嶼の膝に乗り話を始めた。


「目がいっぱいあった!」


 殴ろうとする宇髄を、悲鳴嶼は腕で阻止し話を続けさせた。


「音羽、目はいくつあった」

「六つ!」

「その他は」

「赤みがかった黒髪を耳上で結ってた……侍みたいな格好してた。


あと、刀持ってた!」

「刀……」

「柄の所に目がいっぱいあった。

それで一振しただけで攻撃放ってた」

「振った時の衝撃波か」

「だからここザックリ斬れた」


 そう言いながら、徐に蝶屋敷の入院服のボタンを外し、右肩にある傷痕を見せた。その瞬間、宇髄はすぐに服の裾を直し同時に悲鳴嶼は彼女の頭に軽くチョップを食らわせた。


「お館様の前で、なんちゅう恥じたらしなことしてんだ!!!」

「見せたほうが早いじゃん……」

「梓、貴重な報告ありがとう」

「もういいの?」

「とても参考になったよ」

「じゃあ、輝利哉達と遊んでいい?」

「梓!!」
「ぜひ、遊んでくれ」

「わーい!


輝利哉ぁ!遊ぼぉ!」


 そう叫びながら、梓は部屋を出ていった。その様子に宇髄は頭を抱え、そんな彼の肩に悲鳴嶼は手を置き慰めた。


一時の休息

  蝶屋敷退院後……

 

 部屋で父親の手記を読む梓……調べたであろう書物が、ページを開いた状態で部屋に散乱しており、机には解読した文字が書かれた紙が広がっていた。

 

 

(フー、難しい。父、こんな難しい言葉よく知ってるなぁ。

 

解読して何とか分かったのは、音羽一族は昔どっかに仕えてたってこと、そしてその主から依頼があったことだけ。

 

 

この右目の靄について、何か分かるかなって思ったけど……?)

 

 

 巡るページの中に貼り付けられた四つ折りの紙に梓は気付き、それを広げた。そこには、化け物から得た力で選ばれた者だけに授かる驚異的な治癒力があり、これを得た者はどんな致命傷でも、寝ていれば回復するというものだった。

 

 

(……寝ていれば治るって……

 

上弦の鬼を相手にした時、致命傷負った……肩が斬られて、肺に到達していて死んでもおかしくない、一月生死を彷徨ったって、しのぶさんが言ってたなぁ……

 

 

化け物から得た力って、何?

 

化け物?

 

 

 

 

まさか、鬼?鬼から力を得た?でも、そんな事父は何も……)

 

 

『冬になる前に、人里へ降りる……そこで、全てを話すよ』

 

 

 不意に思い出した記憶……それは、鬼になる少し前に父が言った言葉だった。

 

 

(……あれ?何でこんな記憶……

 

 

そもそも、何で父はずっと人里から離れたあんな辺境で私を育てたの?

何かから隠れてた?それとも、何かに追われていた?)

 

 

 頭の中をグルグルさせながら、記憶を思い出す梓……その時、遠い記憶…物心がつく前の微かな記憶が蘇った。

 

 

 

 獣の血で手を染めた自分の手を、父は泣きながら握りそして抱き締めた。あの時、なぜ父が泣いていたか理解できなかったが……今なら分かる。

 

 

 まだ物心つくかつかない様な小さな子供が、巨大な羆を持っていた苦無とナタだけで、斬り倒してしまったのだから。

 

 

(……そう言えば、あれ以降修行が本格的だったなぁ。

 

 

かなり厳格になって父、私に教えてた。

 

 

怖くて萎縮して、一人で何回泣いたか……)

 

 

 傷だらけとなり、ボロボロとなり膝を付き息を乱す幼き頃……そんな彼女に容赦無く、父親は攻撃した。その攻撃をギリギリのところで受け止め避け、父親に攻撃を当てそのまま倒れた。倒れ息を乱している幼い梓を、父親は武器をしまい抱き上げ帰路についた。抱かれた彼女は、疲れ切った表情で息をしつつ胸の鼓動に耳を傾け、居心地が良くそのまま眠りについてしまった。

 

 

 

 

(……父に会いたいなぁ……)

 

 

 横になり足をバタバタと動かしながら、手に持っていた鈴をリンリンと鳴らした。

 

 

(……?

 

あれ?そういえば、天元に一冊貸してたなぁ……あれにもしかしたら)

 

 

 起き上がった梓は、宇髄の部屋に入り机に置かれている本を見つけるとそれを手に取った。

 

 

(……あの時は難しかったけど、今だったら……!)

 

 

 開けられる玄関の引き戸の音……ハッとした梓は、手に持っていた本を手に、急いで自身の部屋へ入った。息を切らしながら、手に持っていた本の表紙を捲ろうと手に掛けた……が、見覚えのある空気の流れに、梓はその手の動きを止め、恐る恐る後ろを振り返った。

 

 

「て……天…元」

 

「何コソコソしてんだ…って、その本!」

 

 

 梓が持つ本を、宇髄は慌てて取り上げた。取られた梓はすぐに取り返そうと手を伸ばすが、その動きを手で抑え止めた。

 

 

「読みたいんだから、返してよ!」

 

「お前にはまだ早い!!」

 

「早くない!!てか、それ私が持ってきたものじゃん!!

 

読む権利ある!!」

 

「駄目だって言ってんだよ!!」

 

「任務出て無くて暇なんだから、読んだっていいじゃん!!」

 

「知るか!!

 

こっちもオメェが任務休んでるせいで、不死川と伊黒から苦情が出てんだよ」

 

「天元つまんない!!もう任務出たい!!」

 

 

 そう言いながら、梓は宇髄の腕に掴まりぶら下がった。宇髄はぶら下がる彼女を相手しながら、寄ってきた雛鶴達に荷物と本を渡した。

 

 宇髄に相手をしてもらい楽しそうにする梓の声を聞き、雛鶴達は顔を見合わせてクスクスと笑った。

 

 

 

 

  夜中……

 

 稽古場である山へ来た梓は、刀を振っていた。音の呼吸とは別の呼吸を使い、目の前にある巻藁を斬った。

 

 

(ふぅー……ノートに書かれてた音羽の攻撃術、鬼に使えるか分からないけど、音の呼吸と合わせたら結構使いやすい!

 

 

あ~、早く任務復帰して使いたいなぁ……

 

 

そろそろ戻って寝よう)

 

 

 刀を鞘へ戻し、梓は家へと戻った。家に着き辺りをキョロキョロと見回すと、音を立てず庭から自身の部屋へと入った。

 

 

(ふぅー……

 

さぁて、とっとと寝よう……)

 

 

『音羽と言っても、まだ未熟児か……』

 

 

 不意に思い出す、上弦の言葉……浴衣に着替えた梓は障子を開け、縁側に座った。その傍に、蒼羽と山茶花が降り立ち羽繕いをした。

 

 

(……あの上弦、音羽について何か知ってるのかな……

 

 

 

他に生き残りいれば、色々聞きたいこと聞けるのになぁ)

 

 

 右目に映る、空気の流れ……穏やかに流れる空気をボーっと見つめていた時、遠くから声が聞こえてきた。

 

 

 

  『二度と我々は信用しない』

 

  『待ってくれ!鬼殺隊には、お前が必要だ!』

 

  『自分達の力が及ばず……申し訳ありません』

 

  『対抗できるのは同じ力を持った者だ!』

 

  『力を得よ……さもなければ、あの任務は』

 

  『大丈夫……俺達がついている』

 

 

 

  『この子には、未来が……希望がある。だから……』

 

 

 

 

「梓」

 

 

 呼ばれる宇髄の声に、いつの間にか寝ていた梓は目を覚まし起き上がった。

 

 

「あれ?天元…」

 

「風邪引くぞ、こんな所で寝てると」

 

 

 寝起きでボーっとする梓は、庭をジッと眺めた。それを見た宇髄は彼女を抱き上げ、自身の部屋へ連れて行った。運ばれていく中、梓は欠伸を一つすると宇髄の肩に頭を置き眠りに就いた。

 

 

(今んとこ、目に見える精神ダメージは無さそうだな。

 

普通に飯食ってるし、夜は時々起きてるが許容範囲だし、日中は雛鶴達の話だと部屋で大人しくしてるみてぇだし……

 

 

そろそろ、胡蝶に言って復帰許可出してもらうか。じゃねぇと、不死川達の苦情がうるせぇし)




  夜……

 提灯片手に、梓は他の隊士と夜の見回りをしていた。


「夜回りの警備なんて、面倒だなぁ。梓さん、そう思いません?」

「警備しないと鬼出るよ。あと、油断してると襲われるよ」

「あぁ、はい(数ヶ月任務休んでたのに、全然腕鈍ってなかったなぁ。梓さん、流石継子)」

(凄い……夜でも、靄がハッキリ視える。

安定してる……のかな?ずっと同じ動きと色だ)


 その時、月が雲に隠れ辺りは闇に包まれた。恐怖から心臓の鼓動が早くなるのを感じた梓は、深呼吸をしながら後ろを警戒した。


(大丈夫。上弦の鬼の気配は無い……?)


 どこからか聞こえた物音に、梓は駆け出した。共にいた隊士は、慌てて彼女の後について行った。


 闇に染まった細い道……男女の声が聞こえ、隊士はその声を聞いた時すぐに状況を理解した。そしてそこを照らし見ようとする梓を止め、彼女の目を手で塞いだ。


「え?な、何?」

「君は見なくていい光景。鬼はいないですよ」

「鬼いないのに何で見ちゃ駄目なの?」

「うーん、まだ早いかなぁ」

「早いって何が?」

「それはもう少し、君が大きくなってから(男女の抱き合いなんざ、例え階級上でもこの子にはまだ見せたくない)」
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