産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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 土砂降りの雨の中を鬼が逃げ、その後を梓と宇髄は追い掛けていた。


「天元、そっち行った!!」


 鬼を挟み込むようにして、前から姿を現した宇髄は鬼の頸目掛けて刀を振り下ろしたが、鬼は難なく避け振り返り際彼に攻撃してきた。当たる寸前に、首根っこを梓に引っ張られ後ろへ倒れた。彼女はがら空きになった鬼に向かって刀を振り下ろすが、背中から新たな手が伸び防がれた。


「背中から手ぇ伸びるなんて、聞いてない!!!」

「油断すんな!!」


 すぐに起き上がった宇髄は、鬼の背後へ回り刀を振った。だが当たる前に、鬼は飛び上がり彼の背後へ降り立つと、口から液を吐き出した。液は宇髄の背中に当たり、飛び散ったその液は梓の足に掛かった。一瞬痛みを感じる梓だが、すぐに隙ができた鬼の頸を音の呼吸で斬り落とした。


「(何とか討伐できた)天元!」


 宇髄の元へ駆け寄ると、彼は制服を脱ぎ捨て息を乱していた。制服には焼けた様な跡があり、背中を見ると火傷したように爛れていた。


「天元、背中」

「大丈夫だ(背中が焼けるように痛え)。

任務は終わった、とっとと帰るぞ」

「うん……」


 フラフラと立ち上がる宇髄は、自身の脱ぎ捨てた制服を手に歩き出し、その後を梓は彼の刀を持ち追い掛けていった。


再現

 雨脚が強くなる中、泥濘を宇髄は息を乱しながら歩き、そんな彼を気にしながら梓は先を歩いていた。

 

 

(背中、どうなってやがる……痛みが酷ぇ。

 

おまけに意識が朦朧としてきてる……蝶屋敷まで保てるか)

 

 

 先を歩いていた梓の目に、洞穴が映った。目に見える空気の流れの中に、鬼の空気は無くあるのは動物の空気だけだった。

 

 

「天元、あそこで休もう!

 

雨上がってから移動の方が良い!」

 

 

 梓に手を引かれるがままに、宇髄は泥濘を歩き洞穴へと向かった。中に入った彼は、崩れ込むようにして置かれていた岩に座り、梓は刀を傍に置き奥を探った。奥には、親子連れの鹿に猪が雨宿りをしていた。

 

 

(やっぱり動物だけだ……鬼の空気が漂ってないから、たぶん平気だと思うけど)

 

 

「梓、そっちに何かあるか?」

 

「何もない!(天元、凄い空気が乱れてる……)」

 

 

 すぐに宇髄の元へ梓は戻り、隣に座った。ゆっくりと息をする彼の様子を見た梓は、過去の記憶が蘇った。

 

 

  大怪我を負い、床に伏せる父親……

 

 看病をしていた梓だが、ある日突然太陽の光を嫌い喋ることもなくなり、そして……娘の名も呼ぶこともなくなった。

 

 

(……天元、このまま鬼化するわけじゃないよね……

 

雨が上がれば、帰れ)

 

 

 一瞬蘇る、鬼になった父親の姿……鬼化し自身を襲い、頸を斬られた。

 

 

「……」

 

 

 不意に流れ落ちる涙……拭った梓は、すぐに隣を見た。

 

 岩壁に凭れ寝息を立てる宇髄……外は暗く、雨が降る音だけが響いていた。

 

 

(……傷口、火傷みたいだから…あれだったら効くかも)

 

 

 目を擦り、立ち上がる梓。すると、奥から猪が彼女の傍へ寄り鼻を近付けさせてきた。痛む足を庇いながら膝をついた彼女は、猪の頬を撫でると、雨が降る外へと出て行った。

 

 

 

 

  明け方……

 

 小降りの雨が降る山林の中、隠達は駆けていた。その時鴉達の鳴き声が聞こえ、空を見上げると虹丸と山茶花、蒼羽が宙を舞い、隠達に道案内を初めた。

 

 泥濘を駆け洞穴を見つけた隠は、他の仲間達に声を掛け洞穴へと向かった。近寄ろうとした時、中にいた猪が地面を数回蹴り今にも突進しようとしており、それを見た隠達はすぐに足を止めた。

 

 すると、洞穴から梓が姿を現し猪の額に手を置き行為を止めさせた。落ち着きを戻した猪は、彼女に体を擦り寄せ奥へと入り、梓は手を挙げて隠達に向かって合図を送った。

 

 洞穴へと来た隠は、宇髄の状態を見てすぐ危険だと察知しすぐに救護班を呼んだ。うつ伏せに寝かされた彼の背中は既に応急手当がされており、隠は用意した担架に彼を乗せ数人がかりで運び出した。

 

 

「流石柱、あの怪我でよく耐えたなぁ……

 

怪我の手当てしたの、梓ちゃん?」

 

「ん……傷、酷かったから」

 

「そっか(何かいつもと様子が)」

 

「……天元、鬼化…しない?」

 

「え?」

 

「天元、目ぇ覚ます?」

 

 

 隠の服の裾を握りながら、梓は震える声で質問してきた。

 

 

「天元、あの怪我原因で鬼化…しないよね?」

 

「しないしない!

 

大丈夫だよ!鬼化するのは、鬼舞辻無惨の血が傷口に触れたり貰ったりした時だよ!だから」

「でも父、鬼になった!!

 

大怪我したあの日に、鬼になった!!」

 

 

 目から涙を流し隠の服を掴みながら、梓は訴えた。混乱する隠は何とか彼女を落ち着かせようと慰めた。その時、息を乱した梓は、フッと意識がなくなったかのように膝をつき地面に倒れた。

 

 

「梓ちゃん!ゆっくり深呼吸しろ!」

 

「おい、この子足怪我負ってるぞ!」

 

「早く二人を蝶屋敷に!!」

 

 

 

 

  数日後……昼過ぎ。

 

 

「まきをさん!!天元様、全然起きてくれませ〜ん!!」

 

「あんたは少し黙ってなさい!!」

 

 

 騒がしい二人の声に、宇髄は目を覚ましうつ伏せにしていた体を起こした。

 

 

「て、天元様ぁ!!」

 

「うわぁん!よがっだぁ!!」

 

 

 大泣きしながら須磨は、宇髄に飛び付いた。彼女を受け止めた宇髄は、半泣きするまきをを見た。

 

 

「何があったんだ?俺」

 

「三日前天元様、鬼の毒に侵されて運ばれてきたんです!」

 

「今日までずっと意識なかったんですよ!!

 

私心配したんですから!!」

 

「あんただけじゃないでしょ!!」

 

「うわぁん!まきをさんが打ったぁ!」

 

「……」

 

 

「目が覚めましたか、宇髄さん」

 

 

 開けていた障子から、しのぶが顔を出してきた。

 

 

「胡蝶……何か悪いな。

 

意識ぶっ飛んでたみてぇで」

 

「背中の傷、火傷の様になっていましたよ。

 

おそらく、浴びた毒は酸系のものかと思われます。まぁ応急処置がされていたので、傷跡は残らないかと」

 

「応急処置?」

 

「梓さん、あなたが気を失った後に手当てをしたみたいですよ」

 

「その肝心な梓は?もう復帰してんのか?」

 

「その事でお話が……すみませんが奥様方、席を外してもらってもよろしいですか」

 

「あ、はい」

 

「私達、梓の所にいますね」

 

 

 二人が出て行った後、しのぶは宇髄の近くに座り話を始めた。

 

 

「梓さん、意識を失っているあなたを見て取り乱したそうですよ。

 

その背中の傷で、宇髄さんが鬼化するんじゃないかって」

 

「……」

 

「三日前ここへ運ばれて来た時は、宇髄さんと同様に意識を失っていましたが、翌日にはもう目を覚ましています。

 

 

しかし、いつもならあなたの所へ行くんですが……どういうわけか、全く行こうとしないんです。ご飯も少量しか口にしていません。

 

ですが夜になると、あなたが眠るこの部屋の前に来て、夜中ずっと起きているんです。刀を持って……まるで、何かを警戒しているかのように」

 

 

 彼女から聞いた梓の姿が、宇髄の中で一瞬出会った頃の姿と重なった。それを思い出した彼は、話を聞き終えると立ち上がり部屋を出て行った。

 

 

 

 

 しのぶに教えられた部屋の戸を開けると、中にはまきをと須磨がおり、部屋に置かれているベッドには雛鶴が座り、彼女に寄り添う様にして梓が体を丸め眠っていた。

 

 

「あ!天元様!」

 

「梓ちゃん、天元様が目を覚ましたよって言ったら、安心して眠っちゃったんです」

 

「そうか……

 

あとは俺がやるから、お前等は帰って休め」

 

「そんな!」

 

「私達まだ天元様のお世話できます!」

 

「疲れが顔に出てんぞ」

 

 

 そう言いながら、宇髄は梓の傍にいた三人の頬を順々に撫でた。

 

 

「それに、少し梓と二人っきりで話したいしな」

 

「……分かりました」

 

「無理はしないで下さい」

 

 

 少量の荷物を持ち、雛鶴達は蝶屋敷を後にした。部屋に残った宇髄は、眠る梓を見ながら置かれていた椅子に座り彼女の頬を撫でた。

 

 

(心配させちまったなぁ……お前にとって、大怪我して意識失う=鬼化するって思考だもんな。

 

寝ずに俺の部屋の前にいたのは、鬼化した時真っ先に頸を斬るつもりだった……辛い決断、お前にさせちまったな)

 

 

『春になれば、元に戻ると思った』

 

 

 出会った日に、か細い声で梓は涙を流しながら自身にそう言った……

 椅子から立ち上がった宇髄は、眠る彼女を抱き上げるとそのまま自身の部屋へと連れて行った。

 

 

 

 

  父!待って!

 

 前を歩く父親の手を握った……しかし、その手には温かみがなかった。

 

 

  父!鹿、狩ってきた!

 

 血を啜り、腸と肉を貪る父親……人間だった頃の面影は、そこにはなかった。

 

 

  父!魚捕りに行こう!

 

 日差しの中を父親は拒んだ……一人で川で魚捕りをし、茂みの音が聞こえると嬉しそうに振り返った。だが、茂みから出てきたのは鹿の親子だった。

 

 

  父?

 

 夜中、目が覚めると奥の部屋で寝ていたはずの父親の姿はなく、戸が開けっ放しになっていた。心配になった梓は、ナタを手に山林を駆け巡り、父親を探した。山林を走っていく中で、父親の背中を見つけ、それに向かって手を伸ばした。




「……」


 月明かりが照らす部屋……数回瞬きした梓は、寝返りを打ちながら起き上がり目を擦った。その時、見覚えのある空気の流れが見え、開けっ放しになっている障子の方を見た。
 縁側に座る宇髄の背中が、一瞬父親の背中と重なって見えた……一筋の涙を溢し、梓はあの日と同じ様に手を伸ばし、彼の背中の裾を掴んだ。


「?

おぉ、起きたか」

「……怪我、いいの?」

「あぁ。お前が応急手当してくれたおかげで、傷痕は残らねぇってさ」

「……」

「……鬼化してねぇから、隠してる苦無しまっていいぞ」


 自身の体で隠していた苦無を手にしていた梓は、それを手前に持っていき宇髄の隣に座った。


「……本当に大丈夫?鬼化」

「平気だって。昼間普通に飯食ったし、太陽当たっても痛くなかったし」

「……」

「疑り深ぇなぁ。平気だって、言ってんだろう」

「だって……」


 口を尖らせる梓は、宇髄の膝に頭を乗せ甘えるようにしてグリグリと頭を動かし、顔を埋めた。それを見て、宇髄は鼻で笑いそして彼女の頭を撫でた。


「この傷で、俺が鬼化すると思ったのか?」

「……」

「鬼になったら、俺の頸斬るつもりだったのか?」

「……雛達に、見せたくなかったから。

あんな経験、もうしたくない……」


 襲い掛かる鬼化した父親の頸を斬ろうと、ナタを上げた梓の姿を思い出す宇髄。自身が駆け付け、間一髪その行為は阻止され彼女の手が親殺しの手に染まらずに済んだ。


「……?

そういや、親父さん大怪我した後に鬼化したんだったな」

「うん」

「そん時、鬼の空気とか感じなかったか?いつもと違う空気とか(もしかしたらこいつ、無惨の空気を知ってる可能性が高い)」

「……知らない」

「え?」

「その辺の記憶、覚えてない。

父と一緒に夜稽古したのは覚えてるんだけど、その後の記憶が全然。気が付いたら、茂みで寝てて……家に帰ったら、父が」


 不意に流れ落ちる涙……フラッシュバックで思い出される、鬼化した父と過ごした日々。起き上がり流れ落ちる涙を拭う梓を、宇髄は抱き上げ部屋に敷かれていた布団に寝かせた。


「今は俺達がいるから、安心しろ。な」


 彼の言葉に梓はコクリと頷き、頬を撫でる手を握りそのまま眠りに就いた。眠るの頭を撫で、宇髄は足元にあった掛け布団を掛け、自身も眠りに就いた。
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