産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
目に傷痕を付けた男が、暇そうに煙管を蒸しながらその店の前に座っていた。
(日中、特に異常無し。
変な輩もいなければ、犯罪者もいない……
やっぱり、動くとしたら夜か……?)
歩く人混みの中、男の目に映った黒詰めの服を着た数人の若造……彼等を目で追い、咥えていた煙管を口から離し煙を吐いた。
(……鬼狩りか……
彼奴等の空気は、把握済み……?)
風鈴が並ぶ棚の前で、興味津々に眺める梓……彼女の姿を見た男は、目を見開いて驚いた。
(……あの子供……
鬼狩りの制服…浅葱色の羽織……それに菊の耳飾り……
まさか)
「梓!」
向こうから掛けてくる宇髄……梓は、彼の方を向き風鈴を指差した。
「先行くな」
「天元、見て!これ、さっきから音鳴るよ!」
「風鈴じゃねぇか」
「ふうりん?」
「風で音が鳴る鈴みてぇなもんだ」
「あ!縁側に吊るしてるやつか!」
「そうだよ……ほら行くぞ」
「はーい」
歩き出す宇髄に続いて、梓も歩き出し彼の手を掴み並んで歩いた。
(……あの里の忍か……
何故、鬼狩りに?)
我等の使命は唯一つ……鬼を倒せ。
昔の主との約束だ……
そういえば、長の子を鬼狩りに入れるって言ってたっけ。
背丈の長い草中を歩く宇髄と梓……目的地の場所へ着くと、そこには先に来ていた隊士が数名いた。
「音柱様、お疲れ様です!」
「鬼共は?」
「この先にある、あの廃寺にて数体目撃されました」
「珍しいな、鬼が群れるなんて……」
廃寺へ潜入する宇髄達……周りを警戒しながら、建物や木々の陰に隠れ鬼を捜索した。辺りを見る梓の目には、鬼の空気が流れその空気の発生元を探していた。
(鬼の空気が凄い充満してるけど……姿が見えない)
辺りを警戒しながら梓は、宇髄達と共に境内を歩いた。階段を登り、梓が他の隊士達と廃れた本殿へ入った時だった。腐った板を破り突如として現れる括り罠が、踏み込んだ梓の足に食らいついた。
「……っ痛!!!(何、これ!?罠?!)
攻撃態勢!!」
梓の叫び声に、隊士達はすぐに刀を向き構えた。天井から飛び出てきた三匹の鬼は、一斉に攻撃を仕掛けてきた。鬼達を相手する隊士達の横で、梓は自身の足に食らいつく括り罠を外そうとするが、全身に走る激痛から上手く力が入らず苦戦していた。
(体中刺すような痛みが…!!
これ、毒か何か仕込まれてた?!)
上から鬼の空気を感じ取った梓は、膝をついたまま刀を振り鬼の腕を斬り落とした。視界がぼやけ、一瞬地面に倒れる梓を見て庇っていた隊士の一人が彼女の起こそうと近寄った時、鬼が三匹一斉に彼等に向かって襲い掛かった。
彼等の上に覆い被さるようにして、宇髄が降り立ち鬼達の頸を一斉に斬り落とし退治した。
「お、音柱様!」
「(ぎりぎり間に合ったか……)で、これなんだ?」
「ここに踏み込んだ途端、床からこれが」
(何だこの仕掛け……獲物を捕らえる為の罠だな。
何を狙ってここに?そもそも、こんな所にこんな罠張ったところで狙ってるものが掛かるわけでもねぇのに……)
「天元、足、痛い……」
「外すから、少し我慢しろよ」
「へ?我慢?」
「荒療治だが、やるしか無い」
「途轍もなく、嫌な空気が流れてるんだけど……
何するの?」
起き上がろうとした梓を、宇髄から指示された隊士達は声を掛けながら抑えた。
「て、天元」
「しっかり抑えてろ、いいな」
「は、はい!」
「天元?な、何するの?ねぇ」
梓の足を抑えるようにして跨り、彼女の足を挟む括り罠に手を掛けそして勢いよく左右に引き、罠を外した。足と体に激痛が走った梓は、悲痛な叫び声を上げながら抑えていた隊士の一人にしがみついた。
「天元の馬鹿!!!阿呆!!」
「抜けたんだからいいだろう!」
「痛い!!痛い!!!」
「傷、診せてみろ」
「嫌だ!!!」
「嫌じゃねぇよ!!
傷診ねぇと分からねぇだろうが!!」
「しのぶさんでもない天元が、傷診て何か分かんの!?」
「オメェよりは分かるわ!!
梓抑えとけ!!」
「あ、はい!」
(親子喧嘩だな……)
しがみつく梓を隊士は宥め、その間に宇髄は彼女の脚絆を取り、傷を見た。罠が刺さったであろう傷は、毒に侵されているのか紫色に変色しており、さらに触れてみると熱を持ち腫れてきていた。
(毒か…解毒剤、早く飲ませたほうがいいな……
にしても、あの罠は鬼共が仕掛けたものか?
それにしては、かなり巧妙だ。三匹の鬼がやったとは思えねぇ)
「天元、何か体重い」
「毒食らってるからな」
彼女を宥めていた隊士に礼を言い、宇髄は梓を抱き上げ他の隊士達と共に廃寺を後にした。
去って行く彼等の様子を、身を隠していた者が姿を現し眺めていた。
(……やはり……
ここに追いやったのは、正解だったか……)
藤の花の家紋の家……
疲れ切った表情で、布団の上で横になる梓の傍で、宇髄は器具を片付け布で手を拭った。
「ふぅ~、治療完了っと」
「……痛かった」
「一通りの手当てしたから、安静にしとけ。
このまま寝ちまえ」
「……」
頬を赤くして横になる梓を見て、宇髄は額に手を置いた。
(熱出てきてるな……
解毒剤飲ませてるから、平気だとは思うが……
蝶屋敷行こうにも、流石にこの熱で三日以上の移動はキツイしなぁ)
すると梓は眠気が襲ってきたのかウトウトとし始め、宇髄は微笑を浮かべながら彼女の頭を撫でた。ふぁ~と欠伸をすると彼女は、重い瞼を閉じそのまま眠りに就いた。足元に畳まれている掛け布団を梓に掛け、宇髄は部屋の明かりを消し自身も布団に入り眠りについた。
藤の花が風に揺れる中、屋敷へ一人の者が潜入した。音を立てずある部屋へ向かい、その部屋の障子を静かに開けた。部屋では梓と宇髄が眠っており、掛け布団を剥ぎ、浅葱色の桜吹雪の羽織を握り体を丸くして眠る梓の元へ歩み寄った。
「そいつをどうする気だ」
背後から聞こえる宇髄の声と、自身の首に翳された苦無を隠し持っていた寸鉄で防いだ。
「流石…◯里の長の御子息だな」
「!?」
宇髄が攻撃を仕掛けた瞬間、その者は姿を消しそしていつの間にか梓の足の傍で屈み、懐から出した何かを差しすぐに引き抜くと、部屋から飛び出し囲いの上に立ち彼等の方を振り向いた。
「あの子に差したのは、音羽の調合薬だ。
耐えられれば死にはしない」
それだけを言うと、その者は囲いから飛び降り闇夜へと姿を消した。呆気にとられている宇髄だったが、部屋からうめき声が聞こえすぐに中を覗いた。
中では、自身の足と敷布団を強く掴む梓が苦しんでいた。
「梓!」
駆け寄り彼女の足に巻かれていた包帯を取ると、血脈が浮き出ており、浮き出た脈が見て分かるように激しく打っていた。
(何打った、あの野郎!!!)
「い…痛い…!!」
(とにかく、少しでも打った薬を抜くか)
しまった器具を広げ、部屋の灯りを付けた宇髄は意識朦朧としながら体を起こそうとする梓を寝かせ頭を撫でた。
「今から処置する、痛むぞ」
「もう痛い……」
「そうだったな」
これで何人目だ……
この薬に耐えられれば、必ず化け物を討伐できる!!
もう、仲間には打たせない……
これは我等だけでいい……お前達には未来を見てほしい。
梓……お前は強い……必ずこの薬に耐えられる。