産屋敷家に仕えた一族 作:アサヒ
うつ伏せで寝息を立てる梓……彼女の傍で採取した血液が入った小瓶を虹丸に、症状の詳細を書いた紙を山茶花に持たせた。
「胡蝶の所まで頼んだ」
二匹の頭を順々に撫で、撫でられた二匹は翼を羽ばたかせ外へと飛び立った。二匹と入れ違いに、外で待機していた蒼羽が中へ入り彼女の傍へ寄った。
(……結局、あの野郎が打った薬は摂取はできなかった……
眠ってるって事は、少しは良くなったってことか……)
眠る彼女を撫でていると、薄っすらと目を開けた梓は頭から頬を撫でる宇髄の小指を握り再び眠りに就いた。
(……まだまだ、甘ったれだなぁ)
昼過ぎ……
救護班の隠が到着し、声を掛けながら宇髄達の部屋の襖を開けた。中では、顔を赤くし虚ろな目をした梓が、宇髄の手を握ったまま布団の上で丸くなっており、宇髄は空いている手で報告書を読んでいた。
「胡蝶様の使いで参りました(梓ちゃん、可愛過ぎでしょ……すっかり音柱様に甘えちゃって)。
あの、梓ちゃんの状態は今」
「さっき目が覚めてな。けど、熱で少し意識が混濁してる」
「確かに、顔が赤いですね。
胡蝶様から解毒剤と解熱剤をお持ちしました。解毒剤を打ちたいので、その……抑えていただいても」
「分かった」
ウトウトする梓から自身の手を離させ、宇髄は彼女の足に巻かれている包帯を外した。隠が足の状態を見ると、皮膚は未だに紫色に変色した状態になっていた。
鞄から注射器を取り出す隠……意識朦朧としていた梓は、体を起こし自身の後ろを見ようと振り向くと、目の前に宇髄の背中があり彼の裾を引っ張った。
「天元、何?」
「少し痛いが、我慢しろよ」
「へ?」
頷く宇髄を合図に、隠は梓の足に解毒剤を打った。その直後、足に激痛が走った梓は、悲痛な声を上げながら暴れ出した。注射を打ち終えた隠がすぐに身を引き、それを見た宇髄は力を緩めた。宇髄の手を蹴り自身の足を引っ込めた梓は、こちらを向き寄ってきた宇髄の胸を叩いた。
「天元の馬鹿!!!阿呆!!!
足痛いぃ!!!」
「先に言っただろう、痛いから我慢しろって」
「嫌だ!!もう治療、嫌だぁ!!」
小さい子供のように大泣きする梓を、宇髄は宥めながら呆然としている隠の方を見た。
「あ、梓ちゃん大丈夫ですか?(駄々こねるちっちゃい子みたい……)」
「昨日今日で荒療治やっちまって、その上この熱と足の痛みでかなりご機嫌斜めなんだ」
「そうみたいですね…(見りゃ分かるよ。だって注射した後の梓ちゃんって、普段ならスンスン泣く程度ですから)」
小さな子供のように泣きじゃくる梓を、蒼羽は慰めようと頭の上に乗った。そんな蒼羽を、梓は無視して宇髄に引っ付き泣き喚いた。
しばらくして落ち着きを戻した梓は、宇髄の膝に頭を乗せ眠り、眠った隙に隠は足に包帯を巻いた。
「フー、やっと寝たか」
「毒の進行が早まるかもしれませんので、治療等はこちらでやります」
「分かった」
「私は一度、蝶屋敷へ戻って胡蝶様に彼女の状態を報告します」
「頼んだ。胡蝶によろしく言っといてくれ」
「はい」
隠が出て行った後、一息吐いた宇髄は自身の膝で眠る梓の頭を撫で布団に寝かせた。薄っすらと目を開けた彼女は、今朝同様に宇髄の小指を掴み再び眠りに就いた。
(熱出てるせいか、チビ見てぇに甘えるなぁ。
……まぁ、それがまた可愛いんだけど)
必ず見つけて始末しろ……これは命令だ。
逃げろ!!早く!!
これで何人目だ……
もう、仲間を失うのは……
必ず、殲滅させる……産屋敷家と同然に……音羽。
薄っすらと目を開ける梓……何かを話す声がぼんやりと聞こえる中、隊服を着た宇髄が自身の頭に手を乗せながら話しかけてきた。
「これから任務行ってくるから、お前は大人しく寝てろよ」
その言葉を最後に梓は再び眠り、宇髄は隠に後を頼み他の隊士達と共に任務へと向かった。
日が暮れ、すっかり夜が更けた頃……
梓の看病をしていた隠は、まだ熱が引かない彼女の足の包帯を変えその上に氷袋を置き冷やした。
(まだ熱下がらないなぁ。
朝から何も食べてないけど、梓ちゃん大丈夫かな)
羽織を握りしめながら枕に顔を埋め、寝息を立てる梓を隠は心配そうに見つめた。
微風が眠る梓の前髪を揺らした……
目を開けた彼女は、体を起こし目を擦った。目覚めた先には、黒い影が立ち尽くしていた。
(……誰?
この空気……知らない)
『必ず息の根を止めてやる……音羽』
眠りから覚める梓……怪我した足を庇いながら重い体を起こし、部屋を見回した。ちょうどそこへ、部屋へ戻ってきた隠が起きた彼女の元へ駆け寄った。
「梓ちゃん、目が覚めましたか?」
「……天元は?」
「音柱様は任務に出ていますよ。
それより、どこか痛いところありますか?」
「……」
ボーっとする梓は、隠の質問に答えること無く欠伸をすると、また横になり寝息を立てた。
(……まだ、不完全じゃなかったのかな……
大人しく寝てくれるのは、ありがたいことだよね)
自分にそう言いながら、隠は剥げていた掛け布団を梓に掛けた。
翌朝……
眠る梓から水銀体温計を取り、隠は彼女の体温を見て軽く溜め息を付きながら、額に触れた。
(まだ熱ある。困ったなぁ……この後別の隊と合流して任務先に行かなきゃいけないんだけど……
今一人にすると、何が起きるか分からないし……下手したら勝手に外でちゃうかもしれない。それに目が覚めて誰もいないのは、流石に心細いだろうし……かと言って、音柱様がこっちに戻ってくるのは、明日か明後日。
ウ~ン……事情を話して交代してもらえるように言おうかなぁ)
その時、声がかかりそれと共に襖が開いた。そこにいたのは、任務が終わり腕に包帯を巻いた不死川だった。
「風柱様!?どうされたんですか!?」
「玄関にそいつの草履があったから、宿のもんに聞いたらこの部屋にいるって聞いて。
また風邪引いたのか?」
「いえ……
先日、鬼の毒を食らってしまって……足の腫れと高熱で寝込んでいるんです。動かそうにも、毒が進行してしまう恐れがあるので、こちらで治療を」
「そうか……仰向けに寝かせなくていいのか?熱あんだろう」
「足の怪我で、仰向けに寝ると痛いらしくて……うつ伏せで寝た方が楽みたいなんです」
説明しながら、梓に掛けていた布団を少し剥がし、包帯が巻かれている彼女の足を隠は不死川に見せた。すると眠っていた梓が、目を覚まし後ろを見た。
「あれ?実弥……」
「起きたか」
「……何で?」
「この近くで任務があって、その帰りだ」
「……」
虚ろな目で頭を寝かす梓の頭を、不死川は撫でてやった。撫でられた彼女は、彼の手を掴みそのまま眠ってしまった。
「(あら〜、音柱様の次は風柱様に甘えちゃってるよ、梓ちゃん。
あ、そうだ)
あの風柱様、少しお願い事をしてもよろしいでしょうか」
「あ?」
「私この後任務が入ってまして……その間、梓ちゃんの傍にいてもらっても、よろしいでしょうか。
他の隠に頼もうにも、今手が空いてる者が見つからなくて」
隠の言葉を聞きながら、眠る梓を見つめる不死川……自身の手を掴み、眠る彼女が一瞬亡くなった末弟と重なって見えた。
「……あの、風柱様?」
「いいぜ。こいつの面倒見んの。
そん代わり、宇髄が帰ってくるまでには戻ってこい。いいな?」
「は、はい…(顔怖っ!)」
その日の夜……
目を開ける梓……闇夜に染まった部屋を見回し、誰もいない事に気付くと起き上がり痛む足を庇いながら立ち上がった。
「……天元?」
ぼやける視界に映った影が、部屋から出ていくのが見えた。それを見た梓は、立ち上がりその影の後を追いかけた。
玄関まで来た梓は、草履を履き夜の外へ出ようとした引き戸に手をかけた時だった。フワッと浮く体……浮いた体は何かに抱えられ、玄関から離れていった。
「まだ怪我治ってねぇのに、どこ行こうとしてんだよ」
「……天元、外に」
「宇髄はまだ任務先だ。ここにはいねぇぞ」
体力尽きたのか梓は、不死川の肩に頭を置きそのまま眠ってしまった。彼女を抱えた彼は持ち直し、部屋へ戻ると布団へ寝かせた。
(厠に行ってる間に、外出ようとするとは思わなかった……
隠が言ってた通り、目ぇ離せねぇな……)
二人の部屋を見つめる人影……
影は闇に染まった森の奥へと姿を晦ました。