産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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 縁側で梓は、須磨と一緒に莢豌豆を剥いていた。その先の庭では雛鶴が洗濯物を干しており、彼女が籠を持って戻った時だった。


「?」


 莢豌豆を剥く梓の頬が少し赤いのに気付いた雛鶴は、籠を置き彼女の傍に座ると額に手を当てた。


「?雛鶴さん、どうかされました?」

「……梓、熱あるわ」

「え?!」

「須磨、悪いけど布団敷いて」

「は、はい!」


 ボーッとする梓を雛鶴は抱き上げ、須磨と共に家の中へと入った。


張り詰めた糸

 部屋に敷かれた布団で横になる梓の額に、雛鶴は絞った手拭いを乗せた。寝息を立てる彼女の頭を撫でると、ソっと部屋を出た。

 

 

「雛鶴さん、梓ちゃんは」

 

「今眠ったわ」

 

「梓の奴、体調悪いなら悪いって教えてくれればよかったのに」

 

「私達にまだ、遠慮してるのかも知れないね。

 

仰ってたじゃない、天元様。人里離れた山奥でお父さんと二人だけで暮らしてたって」

 

「そうだけど」

 

「梓はこのまま寝かせておきましょう。

 

少し疲れが出たのよ。私、胡蝶さん所に行って薬貰ってくるわ」

 

「あ!じゃあ私、桃買ってきます!」

 

「そんじゃあ、アタシはお粥作っておくね!」

 

「お願いね。須磨、行こう」

 

「はい!」

 

 

 

 

 しばらくして、梓は目を覚ました。怠い体を起こしながら、部屋を見回しフラフラと立ち上がると部屋を出た。

 

 千鳥足で壁に手を付けながら歩いた梓は、台所へ着くとまきをを見つけ彼女の元へ歩み寄ると服の裾を掴んだ。掴まれる感触に、まきをは振り返り寝ているはずの梓を見て驚愕した。

 

 

「梓?!どうした?!」

 

「……」

 

「まだ寝てなきゃ駄目じゃん!

 

うわっ、熱が上がってる……ほら、布団行こう」

 

 

 まきをに連れられ、梓は部屋へ戻った。敷かれていた布団に梓は寝かせられ、彼女はずっとまきを見つめ重くなった瞼を閉じ眠りについた。

 

 

(フー寝たね。

 

さぁて、続きやろう)

 

 

 

 

  朦朧とする中、目を覚ます梓……

 

 敷かれた布団に横になる梓の目には、以前父親と暮らしていた家の中が映った。奥の部屋の戸に目をやり、ジッと見つめた後目から涙を流しながら、体を丸め目を瞑った。

 

 

 

 

「……父?」 

 

 

 目を覚ました梓は、再び起き上がるとフラフラと立ち上がり部屋を出ようと襖に手をかけた。

 

 その時、襖が開き外から水が入った桶を持ったまきをが入ってきた。

 

 

「梓!?また起きたのか!?」

 

「……」

 

「ほら、布団に戻って」

 

「父…外」

 

「お父さんここには居ないよ。

 

寝てないと、熱下がらないよ」

 

 

 桶を置いたまきをは梓を布団に寝かせ、額に水を絞った手拭いを置いた。ウトウトしながら、梓はまきを裾を握りそのまま眠りについた。

 

 

「……何もできないじゃない、これじゃあ(台所の火は止めてるから、平気だけど)」

 

 

 

 

  目を開ける梓……怠い体を起こし、古びた引き戸を開けた。

 

 

  囲炉裏の前で作業をする父親の姿……

 

  起きた彼女に気付いた父親は、作業の手を止め囲炉裏の火を消すと、すぐに駆け寄り部屋へ入れ布団に寝かせた。

 

  そのまま、父親は添い寝するようにして横になり、ウトウトする梓の頭を撫でた。その行為が嬉しかった梓は、甘えるようにして父親の手を握った。

 

 

 

 

 雛鶴達の話す声がぼんやりと聞こえる中、梓は目を開け襖の方を見た。

 

 

「父親を探しに、起きてしまって」

 

「そのせいで、なかなか熱が下がらなくて……」

 

「食欲ないみたいで、お粥も買ってきた果物も全然食べないんです」

 

 

 任務から帰ってきた宇髄に話す三人を見て、梓が起き上がろうとした時だった。フワリと倒され朦朧と目を向けると、傍に宇髄が座っており自身の頭を撫でていた。彼の姿と父親に似た空気を見て、安心し梓は目を閉じ眠りについた。

 

 

「誰かがいないと、さっきみたいに起きちゃうんです」

 

「結局交代で看てたもんなぁ」

 

「今日明日非番だから、その間は俺が看てる」

 

「でも天元様、さっき帰ってきたばっかりですよ!」

 

「そうですよ!お仕事無い日は、少しでも体休めないと!」

 

「俺が連れてきたんだ。仕事がない日くらい、面倒見させろ。

 

流石にお前等に任せっきりだと、申し訳ねぇからな」

 

 

 

 

  とある葦原に立つ梓……

 

 向こうには父親の背中が見え、梓は嬉しそうに駆け寄ろうとしたが、足が鉛のように重く動けなかった。

 

 ハッと顔を上げる梓の目には、こちらを振り向く父親の姿が映った。申し訳なく悲しそうな表情をする彼を見て、梓は呼び叫んだ。

 

  背を向ける父親の背中が、鬼化した姿へと変わった……

 

 

 

 目を覚まし起き上がる梓……誰もいない部屋を見て、フラつきながら立ち上がり、部屋を出た。頭痛がする中フラフラと歩き、玄関へ着くと梓は裸足のまま引き戸に手をかけた時だった。

 

 フワッと浮く体……何か抱えられた梓は、降りようと暴れた。

 

 

「梓、まだ熱下がってねぇんだ。大人しくしてろ」

 

「でも……父」

 

「……」

 

「父が…外にいる。父が」

 

「梓」

 

「?」

 

「親父さんはもう、死んだんだ。

 

 

もう、この世にいないんだよ」

 

 

 その言葉で、梓は父親が死んだあの日をフラッシュバックで思い出した。

 

 

 

 

  頸を斬り落とされ、灰となった父親……

 

  亡くなる直前、自身を抱き締め頭を撫でた……

 

 

  そして、耳元で言った……

 

 

 

 

  『生……キ……ろ』

 

 

 

 

 目から流れる涙……今まで張り詰めていた糸が切れたかのようにして、宇髄の肩に顔を埋め、梓は声を上げて泣き喚いた。

 

 

(やっとか……こんくらいの年だったら、普通親亡くしたらわんわん泣き叫ぶはず……

 

 

ずっと、我慢してんだろうなぁ……知らない場所、知らない奴等に囲まれて、泣いたら駄目だって勝手に決めて……

 

 

話せば、親父さんのこと思い出しちまうから、口数が少なかったんだろうなぁ)

 

 

 梓の泣き声に、起きた雛鶴達は二人の元へ歩み寄った。泣く彼女の背中を擦りながら、宇髄は彼女達に気にしなくていいと伝えると、梓を抱え自室へ戻った。

 

 

 

 部屋の壁に寄りかかり座る宇髄の胸に体を預け、寝息を立てる梓……彼女に手を握られながら、宇髄は彼女の背中を優しく叩いた。

 

 

(落ち着いたか……

 

 

歳の割に大人びてるかと思ったが、やっぱ父親が鬼になっちまったせいで、背伸びしてたんだなぁ。チビみてぇに甘えて……)

 

「……チ…チ」

 

(……可愛いなぁ。

 

ガキ持ったら、こんな風に愛おしくなっちまうのかねぇ)




  とある原っぱ……

 横になる宇髄を横に、雛鶴、まきを、須磨は野草を摘んでおり、彼等から離れた所で梓は別の作業をしていた。


「天元様ぁ!野草いっぱいですよぉ!」

「今夜は天ぷらかなぁ」

「おひたしもいいですよねぇ!


梓ちゃーん!そっち何かあったぁ?」


 須磨の呼びかけに、梓は振り向き首を横に振った。素っ気ない彼女の応答に、須磨はシュンとした。


「梓ちゃん、素っ気な〜い」

「まぁいいじゃん、別に嫌ってるわけじゃないし」

「そうよ」

「でもぉ」

「好きにさせておけ」


 その時、起き上がった宇髄の頭にフワァっと何かが乗った。彼に続いて、雛鶴達の頭にもフワァっと何かが乗り、乗ったものを彼等は手に取った。


「……これ」

「花…冠?」


 霞草で出来た花冠を、宇髄達は手に取った。ふと気配を感じた彼が振り返るとそこには、いつの間にか梓が手に持った木の枝で地面を弄りながら座っていた。


「これ、お前が作ったのか?」

「……あげる」


 背を向けてそう呟く梓……冠と彼女を交互に見た須磨は、嬉しそうに背後から飛び付いた。驚いた梓は、瞬時にそこから離れ宇髄の後ろへ隠れた。

 そんな彼女の様子を見て、宇髄は微笑し強引に抱き寄せた。驚愕する梓に、彼に続いてまきをと雛鶴、須磨が抱き着いた。妻達が梓に抱き着く姿を見た宇髄は、四人を抱き寄せそのまま思いっ切り仰向けに倒れた。


 舞い上がる草と花びら……広がる青空を見て、須磨は面白可笑しく笑い出し、彼女に連れられてまきを、雛鶴、宇髄も笑った。

 目に見える父と過ごした幸せだった頃に見えていた空気を見た梓は、彼等に釣れられ声を出して笑った。
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