産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  とある夜、鈴の音が鳴り響いた……


 気になり、鈴の音を辿り崖から下を見下ろした。


 提灯の明かりでその一角が照らされ、その灯りの中に人集りがあった。


 さらに奥を見ると、派手な舞台の上で鈴を鳴らしながら舞う人の姿が見えた。


『……綺麗……!』


 フワリの浮き上がる体……父親の空気が見えていた幼い梓は、彼の方を向きながら指差した。


『父、あれなぁに?』

『神楽舞だよ』

『かぐら?』

『神様に感謝や祈りを捧げるための儀式だよ』

『あの鈴も』

『そうだね』

『父、あの鈴欲しい』

『今度見つけたら、買ってきてあげるよ』


人里と鈴

「梓ぁ!稽古始めんぞぉ!」

 

 

 隊服に着替えた宇髄の声が、家中に響くが梓は来なかった。疑問になりながら、彼女の部屋へ行き襖を開けた。

 

 

 中はもぬけの殻になっており、部屋を見回しながら開けっ放しの障子をくぐり庭先の方へ耳を向けると、微かに何かに刺さる苦無の音が聞こえた。

 

 

(……アイツ、もう初めてやがる。

 

休憩の時はしっかり休憩しとけよなぁ)

 

 

 森の木々に設置された的に、苦無を当てる梓。次の苦無を投げようとした時、宇髄の空気が見え投げるのを止め振り返り、同時に彼は梓の元へ辿り着いた。

 

 

「あ、天元」

 

「休憩の時は、きっちり休憩しとけ。

 

あとに響くぞ」

 

「でも休憩したら鈍る」

 

「いや、分からなくもねぇが」

 

 

 その時、見覚えのない空気に梓は咄嗟に宇髄の後ろへ隠れた。するとそこへ、隠の者が一人現れ緊急任務についての報告をした。

 

 

「分かった、すぐ準備するから少し待ってろ」

 

「承知しました」

 

 

 去って行く隠を、後ろに隠れていた梓はヒョッコリと顔を出し見送った。

 

 

(少し、俺達以外の人に慣れさせた方が良さそうだな)

 

「仕事?」

 

「悪いな。午後の稽古は休みだ」

 

「……」

 

 

 落ち込む彼女を宇髄は抱き上げ、家へ戻った。

 

 

 暇になった梓は、縁側で日向ぼっこをしていた。彼女の傍には、多種多様の鳥達が降り立ち羽繕いしたり、肩や頭に乗ったりしていた。

 

 

「梓ちゃーん、ちょっと来てぇ!」

 

 

 須磨の声に鳥達は飛び立ち、梓は部屋を出て行った。声がした方へ行くと、そこは玄関で須磨とまきを、雛鶴が集まっていた。

 

 

「どっか行くの?」

 

「買い物だよ!」

 

「梓も一緒に来て!」

 

「……ヤダ」

 

(やっぱり……)

 

(天元様が言った通り)

 

「梓ちゃん、大丈夫だよ!

 

私達も一緒だから、ね?」

 

「……」

 

「一人で留守番できるなら、残ってもいいけど……どうする?」

 

 

 まきをの言葉に、ふと誰もいない家の中を梓は振り返り見た。異様な静けさに、梓は少し考えると無造作に草履を履き雛鶴にしがみついた。その様子に、三人は互いを見合いクスクスと笑った。

 

 

 

 

  街中……

 

 歩く三人に転々と引っ付きながら、梓は歩いていた。すれ違う人はもちろん、目に見える見たことのない騒がしい空気に、梓は戸惑い怯えていた。

 

 

「梓、そんなビクビクしなくても大丈夫よ」

 

「人いっぱい……お祭りあるの?」

 

「祭りはないよ!

 

梓が住んでた山と違って、人は多いけど人里はこんなもんだよ」

 

「……空気うるさい」

 

「慣れるまでの辛抱よ」

 

 

 しばらく歩いていると、慣れてきた梓はまきをの服の裾を握り、指を咥えながらキョロキョロと見回していた。そして買い物が終わり帰路につく頃、梓は目を擦りながら空いている雛鶴の手を握り歩いていた。

 

 

「疲れちゃったみたいね」

 

「たくさん歩いたし、珍しいものいっぱい見たからね!」

 

「帰ったら少し昼寝しな」

 

「…ん」

 

 

 

  数週間後……

 

 街の空気に少し慣れた梓は、その日一人で買い物に来ていた。買った物を持ちながら歩いていた時、遠くから鈴の音が聞こえてきた。

 

 その音を聞いた梓は、音が鳴る方へ向かった……着いた先は、神社だった。音の場所を探すと、そこには絵馬が飾られておりその絵馬に鈴が付けられ、鈴は風に揺られ音を奏でていた。

 

 

(……鈴だ)

 

 

 どこか懐かしそうにしながら、梓はその場に座り込みしばらく風に揺れる鈴を眺めた。

 

 

 

 

「あら?もしかして、梓ちゃん?」

 

 

 聞き覚えのある声と空気に、梓は振り返り顔を上げると、そこには花柱の胡蝶カナエが立っていた。

 

 

(……蝶々がいっぱいいた、屋敷にいた人だ)

 

「どうしたの?こんな夕暮れに。

 

早く帰らないと危ないわよ」

 

「……買い物して……鈴見てた」

 

「そう(鴉で伝達しておきましょう)鈴は好き?」

 

「……昔」

 

「?」

 

「父と見た神楽舞で、鈴が鳴ってた」

 

「神楽舞?」

 

「そん時の鈴欲しいって言ったら、父が買ってきてくれるって言ってた」

 

「そうだったの。鈴は今は?」

 

「……無い」

 

「買ってくれなかったの?」

 

「……えっと……その」

 

 

「梓!!」

 

 

 血相を描いた宇髄が二人の前に現れ、駆け寄ってきた。寄ってきた彼に、梓はすぐに抱き着いた。

 

 

「帰ってこねぇと思ったら……胡蝶、悪かったな」

 

「いいえ、大丈夫ですよ。

 

ここでずっと鈴の音を聞いてたみたいです」

 

「鈴?」

 

「あれ」

 

 

 梓が指差す絵馬に着けられた鈴を、宇髄が目を向けると、風に揺れリンリンと鳴り響いた。

 

 

「亡くなったお父さんと何か思い出があるみたいですよ」

 

「……」

 

「それじゃあ、私はこれで。任務がありますので」

 

「あぁ、ありがとな」

 

「いいえ。梓ちゃん、バイバイ」

 

「……バイバイ」

 

 

 カナエと別れ、街中を歩く宇髄……彼に抱っこされた梓は、ボーッと辺りを眺めていた。その時心地良い風が吹くと同時に、また鈴の音が聞こえてきた。

 

 

「天元、鈴!」

 

「鈴?」

 

「降りる」

 

 

 宇髄の腕から飛び降りた梓は、鈴の音の元へ駆け出した。人混みの中を駆けていき、辿り着いたのは雑貨屋だった。店の前に下げられた鈴の音に、梓は目を輝かせながらそれを眺めた。

 

 

「梓!勝手に行くな!」

 

 

 キラキラした目で鈴を見る梓を見て、宇髄は前に置かれている鈴に目を向けた。

 

 

「……買ってやるから、好きなの選べ」

 

「いいの?」

 

「欲しいんだろう?」

 

 

 嬉しそうな表情を浮かべて、梓は飾られていた鈴を手に取った。代金を払うと、宇髄は鈴を鳴らす梓を抱き上げ、店の者に礼を言って帰路についた。

 

 

 

 

 チリンチリンと響く鈴の音……梓は満面な笑みを浮かべて、鈴を鳴らした。その様子を見た宇髄は、微笑を浮かべながら話し掛けた。

 

 

「鈴、好きなのか?」

 

「え?」

 

「胡蝶が言ってたぞ。

 

ずっとあの神社で、鈴の音聞いてたって」

 

「……」

 

「梓?」

 

「……山にいた頃」

 

「?」

 

「神楽舞見たの、父と一緒に」

 

「神楽舞?」

 

「舞ってた人が持ってた鈴、欲しいって父に強請ったの」

 

「買ってくれなかったのか?」

 

 

 俯く梓……鳴らしていた鈴を止め、宇髄に寄りかかりボソッと口を開いた。

 

 

「……買ってくれる前に……鬼になっちゃった」

 

「……」

 

「だから……鈴、買ってくれなかった」

 

「……そっか(嫌なこと思い出させちまったか)

 

今日、俺の部屋で一緒に寝るか」

 

「仕事は?」

 

「今日はねぇよ」

 

「じゃあ寝る」




  “チリーンチリーン”

 鈴の音が宇髄家に鳴り響いた……その音色に、耳を立てていた雛鶴達は心地良さそうに、振り向き梓の方を見た。


「梓ちゃんが移動する度に、鈴が鳴ってなんか可愛い!」

「首から鈴提げさせるなんて、流石天元様!」

「梓ちゃん、すぐ気配消してどっかに行っちゃうから、突然姿が見える度にビックリするもんね!」


 家の屋根に飛び乗り、梓は鈴を鳴らしながら吹く風に髪を靡かせた。そんな彼女の傍に、野生の鳥達が降り立った。その中に鴉が一羽おり、梓はその鴉の頭を指で撫でた。

 気持ち良さそうな顔をした鴉は、翼を羽ばたかせ空へ飛んでいった。


 その鴉が着いた先……それは産屋敷家だった。鴉はお館様の前に降り立ち、小さく鳴き声を発した。


「……そうかい。


天元の継子……会える日が楽しみだね」
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