産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  縁側で宇髄は、梓に忍道具について説明をしていた……

 道具を手に持ちながら、彼の説明を聞いていた梓は、流れていた空気に別の空気が混じったのが見え、後ろを振り返った。


「…?

梓、どうかしたか?」

「……誰か来た」

「誰かって……!


悲鳴嶼の旦那」


 庭へ入ってきた悲鳴嶼に、梓は思わず宇髄の後ろへ隠れた。


「コラ!梓!!」

「宇髄気にするな。その子か、お館様から頼まれた例の」

「はい……

すいません、まだ俺等以外の人には警戒心が強くて」

「無理もない。聞いた話だと父一人子一人で尚且つ人里離れた山で暮らしていたのだろう……他人に慣れていなくて当然だ」

(天元と同じ服……鬼殺隊だ。

それに、嫌な空気が見えない)


 二人が話をしている中、梓は悲鳴嶼の傍に置かれた数珠に目が行った。興味津々に宇髄の後ろから出て来た彼女は、コッソリと数珠に近付き指で突っついた。


(……大きい……)


 その時、視線と共に空気が自身の周りに流れてきているのが見えた梓は後退り、素早く宇髄が肩にかけていた羽織の下へ隠れた。


「こいつ……旦那に挨拶しろ!」

「多少は人に興味があるようだな」

「行動が小動物なんですよ……」


 ヒョッコリと顔を出した梓は、悲鳴嶼をジッと見つめた後、軽く会釈をしお茶を持ってきた須磨と入れ違いに部屋を出て行った。


「良い方向に育っているようだな」

「……だといいんですけど」

「して、最終選別を受けさせるのか」

「技術的には問題ないんで、そのつもりです」


優しい空気

 街を歩く梓と須磨……須磨は紙に書いてある物を確認しながら、買った物を確認していた。

 

 

「これもあれも……よし!全部買った!

 

後は帰るだけだよ!」

 

「……相変わらず、凄い人」

 

「梓ちゃん、だいぶ慣れてきたね!

 

こないだまで、一人じゃ歩けなかったのに!」

 

「人酔いする……」

 

「慣れれば大丈夫だよ!」

 

 

 須磨の後ろを歩く梓だったが、次第に視界がぼやけ擦れ違った人とぶつかった。慌てて謝罪し、すぐ須磨について行こうとした。

 

 

「……あれ?須磨……」

 

 

 前を歩いていたはずの須磨の姿がどこにもなく、辺りをキョロキョロと見回すが、彼女の姿は見つからなかった。

 

 

「須磨……」

 

 

 買い出しした店を覗きながら、須磨の名を呼びつつ梓はもと来た道を歩いた。だが、どこを探しても須磨は見つからず、次第に道が分からなくなり彼女は不安を積もらせていった。

 

 しばらく探し続けた梓は、道を歩く人混みから離れ道外れに避けた。気分が悪くなり、建物の壁に寄りかかりながら座り込んだ。

 

 

(頭クラクラする……人多い……早く帰りたい……)

 

 

 響く人が行き来する足音、店の前で話す声、騒ぐ声が聞こえた……次第に目に見える空気と音に疲弊した梓は、耳を手で塞ぎ目を瞑った。

 

 しばらくざわつく煩い空気が激しく流れていた時、静かな風の様な空気が一瞬過った……そしてその風は自身の前で止まった。止まった瞬間、梓の肩に何かが触れ頑なに瞑っていた目を開き顔を上げた。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 目の前にいたのは、不死川実弥だった……気を張り警戒する梓の目には、彼の顔が一瞬亡くなった人だった頃の父親の顔と重なって見えた。

 

 

「顔色悪いぞ。母ちゃんどうした?」

 

(……父?)

 

「?父ちゃんか兄妹と、買い物来てたのか?」

 

「……っ(鬼殺隊の制服!)」

 

「一緒に探してやっから、立てるか?」

 

 

 立ち上がった不死川の服を引っ張った梓は、息を切らしながら叫んだ。

 

 

「天元!」

 

「?天元って……?!」

 

 

 

 

 場所は変わり宇髄家……梓が一緒にいなかったのに気付いた須磨は、泣き喚き謝りながら宇髄と共に逸れたであろう場所へ捜しに来ていた。

 

 

「この辺りなのか?須磨」

 

「ここまでは一緒だったのは間違いありません!!梓ちゃーん!出てきて下さーい!」

 

(まだこの辺りの地理に詳しくない……そうなると、建物の隅っこ、人通りの少ない路地裏、もしかしたら屋根の上か?)

 

 

 人目を避けて、宇髄は屋根の上へ登り辺りを見回した。だが、目を凝らして探しても梓らしき人影は見つからなかった。

 

 

 

(まさか、宇髄の継子だったとはなぁ……)

 

 

 須磨達が探している頃、梓を保護した不死川は、彼女を背負って宇髄家の帰路についていた。

 

 

(この人、凄い優しい空気だ……あの悲鳴嶼って人と似てる。

 

鬼殺隊の人って、全員こんな感じなのかな。

 

 

それに……何か、父に似てる)

 

「ほら、ここだ。ここ真っすぐ行けば、宇髄の家だ」

 

「……寄らないの?」

 

「用無いからな」

 

 

 下ろした梓の頭に雑に撫で、不死川はその場を去ろうとした。その時、服が引っ張られる感覚があり振り返ると、梓が自身の服の裾を掴み止めていた。

 

 

「何だ?」

 

「……あ」

 

「?」

 

「ありがとう……ございました」

 

「……もう迷子になるなよ」

 

 

 優しい笑みを浮かべて、不死川は彼女の頭を撫でてそこから去った。彼を見送った後、梓はその道を歩きしばらくして見覚えの場所へ家へ着くと、玄関の戸を開けた。

 

 

「天元様!見つかり……!?

 

梓!!」

 

 

 駆け寄ってきたまきをを見て、梓は安心したのか倒れた。倒れかけた彼女を慌てて支えたまきをは、駆けてきた雛鶴と見合った。

 

 

「まさか、一人で帰ってきたの?!」

 

「そうみたいなんだけど……聞こうにも、寝ちまって」

 

「それだけ疲れたのよ。私天元様に伝えてくるから、まきをは梓を」

 

「あぁ!」

 

 

 雛鶴を見送り、まきをは倒れた梓を抱えて部屋へ行った。

 

 しばらくして、帰ってきた須磨はすぐに部屋へ飛び込んできた。梓は今起きたのか目を擦りながら起き上がっており、そんな彼女に須磨は泣きながら飛び付いた。

 

 

「梓ぢゃん!!良がっだぁ~!!」

 

「……あれ?須磨」

 

「ごめんねぇ!!置いてったりしちゃって~!!」

 

「須磨、痛い……」

 

「誰かに送ってもらったのか?」

 

「うん、鬼殺隊の人」

 

「どんな奴か分かるか?」

 

「…顔に傷がある人」

 

 

 その言葉を聞いて、宇髄はすぐに把握した。梓が彼の名を知っているか質問した時には、いずれ分かるとだけ答え頭を撫でた。

 

 

 

 

  夜の山中……

 

 木の的に苦無を投げ付ける梓。真ん中に当たる苦無を見て、嬉しそうに彼女は振り返った……いつもそこにいた父親の姿が一瞬に目に映ったが、すぐに消えた。

 

 

(……父)

 

 

 嬉しそうだった表情は暗くなり、苦無を的から引き抜いた。目を擦り頭を軽く振ると、梓は月明かりが照らす山道を歩いていった。

 

 虫の音色に耳を傾けながら、梓は歩いた。目に見える流れる空気を眺めていると、前方に見覚えのあるシルエットが見えた。

 

 

「あ、天元……(怒り空気が凄い)」

 

「テメェは何夜中に出歩いてんだ!!」

 

「イテっ!」

 

「夜は危険だから出るなって、何度も言ってるだろうが!!!」

 

「山にいた時は普通に出歩いてたもん!!」

 

「郷には郷に従え!!ったく、部屋覗いたら布団中空になってて、肝が引いたわ」

 

「天元でも肝は引くんだ」

 

「当たり前ぇだ!!」

 

 

 振り返り帰路につく宇髄の後を、梓は追い掛け彼の羽織の裾を握り隣を歩いた。早歩きで自身について来る彼女を見て、宇髄は立ち止まると抱き上げ再び歩き出した。

 

 

「泥だらけじゃねぇか。こりゃあもう一回風呂……いや、いい所あるなぁ」

 

「いい所?どこ?」

 

 

 梓を持ち直し宇髄はそこから一気に駆け出した。しばらく森の中を駆けていき、外へと出た。滝が落ち、溜まった水は湯気が上がっており、それを見た梓は嬉しそうな表情を浮かべた。

 

 

「温泉!」

 

「うちの敷地内だから、鬼が来ることはねぇ。

 

ほれ、湯船浸かって汗流せ」

 

「うん!」

 

 

 宇髄から降りた梓は着ていた浴衣を脱ぎ、温泉へ飛び込んだ。楽しそうに入る彼女に続いて、着流しを脱いだ宇髄も温泉へと浸かった。しばらく浸かっていると、彼等の傍に虹丸が降り立ち宇髄は虹丸の喉を撫でてやった。

 

 

「そういや、お前が住んでた山にも温泉あったのか?」

 

「あった。よく父とそこに入ってた。

 

ここより少し広くて、動物達も入ってて!」

 

「随分賑やかだな」

 

「結構楽しかったよ。

 

温泉から出ると、父いつも髪の毛梳かしてくれた!」

 

(話聞く限り、親父さんコイツを本当大事にしてたんだなぁ。

 

自分が鬼になっても、コイツを守るって意思だけが残りずっと……)

 

 

 縁に体を起き、ふぁ〜と梓は欠伸をし目を擦った。それを見た宇髄は先に上がり、持ってきていた手拭いで体を拭くと彼女に声を掛けた。

 

 

「体拭いて、服着ろ」

 

「うん……」

 

 

 眠そうな顔で温泉から上がった梓は、宇髄から手拭いを受け取り欠伸をしながら体の水を拭き浴衣を着た。寝惚けた顔でフラフラとする梓を抱き上げ、寝惚けていた梓は宇髄の肩に頭を置き彼の着流しの襟を掴み寝息を立てた。

 

 

(……可愛い所あんな)

 

 

 眠る梓の頬を撫で、宇髄は帰路についた。




 家へと戻ってきた宇髄は、開いている障子から部屋へと入り眠る梓を布団へ寝かせようと下ろすが、襟を握っていた手が強くなり、頭をグリグリと彼の肩に押し付けた。


「嫌だぁ……一緒にいるぅ……」

「(……しゃーねー、ここで寝るか)

分かったから、手ぇ離せ」


 襟から手を離させた梓を布団へ置き、開いていた障子を閉めた宇髄は彼女を寝かせ自身も横になった。

 足元にあった掛け布団を掛け、寝息を立て自身の服の袖を掴む梓の頭を撫でた。


(ここ来て数ヶ月……やっと甘えが出てきたか。


歳の割に、精神年齢がかなり低いな。

これも、山での暮らしの影響か)


 寝息を立てる梓の寝顔を眺めながら、宇髄は眠りに就いた。
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