産屋敷家に仕えた一族   作:アサヒ

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  蝶屋敷……

 傷薬を受け取りに来た不死川。廊下を歩いていると、後ろから自身の服を何かに引っ張られ、思わず振り返った。


「……テメェ」


 自身の服の裾を掴んだ梓が、嬉しそうな表情でそこに立っていた。そんな彼女の後からカナエが、笑みを浮かべながら彼に歩み寄ってきた。


「不死川君、こんにちは」

「おう……こいつどうしたんだ?」

「宇髄さんから昨日預かったの。

どうしても、お嫁さん達と偵察に行かなきゃいけない場所があって。今日の夕方には迎えに来るって」

「ガキの面倒見れねぇなら、継子作るなよ」

「まあまあ。にしても、不死川君随分懐かれてるわね」


 喋るカナエを、梓は不死川に抱き着きながらジッと見つめていた。


「私やしのぶには、ここまで懐かないわ。

手を繋ぐくらいはしてくれるけど……何か秘訣でも?」

「そんなもんねぇよ」

「そうだ、不死川君。

少し、彼女を見てて貰ってもいいかしら?今日患者さんが多くて、私もしのぶも見てられないの。それに……」


 梓の方に目線を向けるカナエに続いて、不死川は自身にしがみつく彼女を見た。


「不死川君と一緒が良いみたいね」

「……」


父の背中

 縁側に座る不死川……彼の隣で梓は、折り紙をきよ達と折っていた。きよ達が折る折り紙を真似て、折り目をつけていき出来上がると真ん中に置いた。

 

 

「梓さん、上手!」

 

「凄ーい!」

 

「不死川さん、見て下さい!梓さん、すっごく上手ですよ!」

 

「わぁ、風船だ!」

 

 

 折った風船に息を吹き膨らますと、梓はそれを手の平でポンポンと上げた。楽しそうに燥ぐ彼女等を見て、不死川は微笑を浮かべた。

 

 

「きよ!すみ!なほ!ちょっと手伝って!」

 

「はーい!」

 

「私達行かないと」

 

 

 しのぶに呼ばれた三人は、折っていた折り紙を置き縁側から去って行った。不死川と二人っきりになった梓は、彼の隣に座り首から提げていた鈴を鳴らした。

 

 

「どうしたんだ、その鈴」

 

「天元が買ってくれた!」

 

「宇髄がなぁ(継子を自分のガキと勘違いしてねぇか?アイツ)」

 

「顔の傷、どうしたの?」

 

「ん?

 

昔怪我したんだよ」

 

「お仕事で?」

 

「違ぇよ……って、何でそんな事聞くんだ?」

 

「父、顔に傷あったから」

 

「親父さんに?」

 

「右頬に」

 

「へー」

 

「ねぇねぇ、裏山行こう!」

 

「行ってどうすんだ?」

 

「苦無投げの練習」

 

「……俺は忍じゃねぇから、苦無の投げ方なんざ知らねぇぞ」

 

「知ってる。だって、天元と違う空気だもん」

 

「空気?」

 

「ねぇ行こう!ねぇ!」

 

「分かったから引っ張るな!」

 

 

 診察室にいるカナエに、裏山へ行くことを伝え不死川は梓を連れて山へと入った。

 

 

 山へ入った梓は、木の幹に苦無で的を彫るとそれに目掛けて苦無を投げ放った。苦無は的のど真ん中に刺さり、それを見て梓は後ろにいる不死川の方に振り返った。嬉しそうな表情を浮かべる彼女の姿が、亡くなった弟妹達の顔と重なって見え、微笑を浮かべながら梓の頭を撫でた。

 

 

「凄えな。流石だ」

 

「天元も褒めてくれた!

 

暗闇の中でも、的の真ん中に当てられるよ!」

 

「へー(アイツ、どんな稽古つけてんだ?)」

 

 

 的から苦無を抜き、再び不死川の元へ駆け寄った梓。その時腹の虫が鳴り、同時に彼の腹も鳴った。

 

 

「腹減った」

 

「屋敷戻って、何か貰うか」

 

「うん!」

 

 

 歩き出す不死川を見る梓の目に、一瞬父親の背中が映った。それを見て、彼女は駆け出し彼の背中に飛び付いた。危うくバランスを崩し掛けた不死川だったが、すぐに持ち直し梓の足を持った。

 

 

「天元より小さい」

 

「アイツと一緒にすんな」

 

「父よりも小さい」

 

「テメェの親父とも一緒にすんな」

 

「……ねぇ、天元まだ?」

 

「まだだ」

 

 

 蝶屋敷へ戻ると、甘い香りが漂っていた。中へ入り梓を下ろすと、おはぎが乗った皿を持ったカナエが二人の前に現れた。

 

 

「不死川君、梓ちゃんのことありがとう」

 

「おう」

 

「それぼたん?」

 

「おはぎですよ」

 

「おはぎ?ぼたんじゃないの?」

 

「同じものよ。

 

ちょうどお茶にしようと思ってね。不死川君も食べるでしょ」

 

「……」

 

「梓ちゃんも一緒に食べよう」

 

「食べるぅ!」

 

 

 縁側でおはぎを口にする不死川を真似て、梓もおはぎを頬張った。二人の様子を見て、お茶を飲んでいたカナエはクスクスと笑った。

 

 

「何か二人、兄妹みたい」

 

「っ」

 

「あらあら梓ちゃん、頬に餡付いてるよ」

 

 

 梓の頬についてる餡を、カナエは取りそれを口にした。その光景を、不死川はボーっと眺めた。

 

 ホワホワと穏やかな空気が見えた梓は、おはぎを口に入れながら、二人を交互に見て首を傾げた。

 

 

 

 

  夕暮れ……

 

 夕日が差し込む玄関先に座る梓。寂しそうに鈴を鳴らす彼女の元へ、カナエは歩み寄り傍にしゃがんだ。

 

 

「宇髄さん、遅いわねぇ」

 

「夕方。天元まだ?」

 

「まだ連絡無いわ。

 

ここは寒いから、診察室で待ちましょう」

 

「……天元」

 

「風邪引いちゃうわ」

 

 

 差し出すカナエの手を掴み、梓は玄関を気にしながらトボトボと診察室へ行った。

 

 

 日が沈み、辺りが暗がりになりかけた頃、宇髄は蝶屋敷の玄関戸を開けた。

 

 

「悪い胡蝶、遅くな……?」

 

 

 玄関先に座っていた梓が、自身にしがみつき服の裾を強く握った。彼女の後ろからカナエが現れ、梓の頭を撫でながら話した。

 

 

「あらあら、すっかり甘えちゃって。良かったわね、お迎えがきて」

 

「悪かったな……こんな時間まで」

 

「梓ちゃん、夕方になっても宇髄さんが迎えに来なくてとても寂しがっていましたよ」

 

 

 頬を膨らませ、涙目になっている梓を見て宇髄は彼女を抱き上げた。

 

 

「遅くなって悪かったな」

 

「……遅い」

 

 

 小声でボソリと言うと、梓は引っ付いた。その様子を見て、カナエはクスクスと笑った。

 

 

「宇髄さん、すっかりお父さんですね」

 

「可愛いだろう?梓」

 

「梓ちゃん見てると、小さい頃のしのぶ思い出すわ」

 

「それはまた、面白そうな話で」

 

「ウフフフ」

 

「じゃ、世話になったな」

 

「えぇ。梓ちゃん、またね」

 

「バイバイ、カナエさん」

 

 

 手を振るカナエに返すように、手を振る梓を抱えて宇髄は蝶屋敷を去った。

 

 

 蝶屋敷を出て、宇髄に肩車をされた梓は、上機嫌に辺りを見回していた。安定した空気の中に、一瞬乱れた空気が見え梓は宇髄の結っている髪を引っ張った。

 

 

「何だ?どうした?」

 

「あっち」

 

「ん?」

 

「あっち、怖いのいる」

 

「怖いの?」

 

 

 彼女が指差す方向は、既に暗くなった林だった。目を凝らしてジッと見ていると、微かに動く影が宇髄の目に入った。

 

 

「天元、怖いのこっち来る」

 

「みてぇだな」

 

 

 梓を降ろし、宇髄は刀を手に取り構えた。茂みから現れたのは、大柄な鬼だった。

 

 

(報告が上がってねぇ鬼……

 

どうする……梓がいるし、派手には…?)

 

 

 鬼の背後に現る影……宇髄の目に映ったその影は、苦無を構えた梓だった。彼女は、迷うこと無く鬼の頸に苦無を刺した。

 

 背後から襲われた鬼は振り返り攻撃するが、梓は素早く避け鬼が彼女に気を取られている隙に、宇髄は刀を振り鬼の頸を斬り討伐した。

 

 

(……こいつ……)

 

「天元、これ怖いの」

 

「確かに怖えな。

 

梓、これが鬼殺隊が討伐してる鬼だ」

 

「鬼?この怖いの、鬼って言うの?」

 

「そうだ。

 

鬼になった親父さんと、少し類似してる所あるだろう?」

 

「うん……」

 

「お前が住んでた山には、鬼は現れなかったのか?」

 

「……分かんない。

 

家周辺に罠仕掛けてて、朝行ってみると掛かった跡があったから、もしかしたらいたかもしれない。

 

 

それに、さっき見えた空気、時々夜になると見えたから多分来てたと思う」

 

「そうか……(まだ稽古中なのに、怖気ずに鬼を退治するとは……こいつ、肝が据わってんな)」

 

 

 誇らしげに笑みを浮かべながら、梓の頭にポンと手を置いた。




  それから間もなくだった……

 花柱・胡蝶カナエの訃報が鬼殺隊員一同に届いた。


 仲間の死を肌で宇髄は感じ、時間が経ってもそれは消えなかった。日が沈む景色を一人で眺めていると、そこへヒョッコリと梓が顔を覗かせてきた。


「梓!(いつの間に……全く気付かなかった)」

「天元の空気、何かどんよりしてる」

「……そうか(空気?)」

「何か悲しい事あった?」

「何でだ?」

「山で仲良くなった動物が亡くなった時、父の空気こんな感じだったなぁって」

「……」


 隣に座り、自身に寄ってきた虹丸を撫でる梓の頬を、宇髄は愛おしく撫でた。小動物のように気持ち良さそうにする彼女は、撫でてくる彼の手を握りながら、地面に字を書いた。

 宇髄は彼女の書く字をぼんやりと見ていた時、見覚えのある文字が書かれていることに気付いた。


「梓、その字は?」

「ん?

父がよく書いてた字。うちの性?って教わった」


 地面に書かれたのは、『音』と『羽』の二文字……それを見た宇髄の脳裏に、昔の記憶がフラッシュバックした。


「おとわ……」

「そう、音羽」

「……」

「天元?」

「……やっぱお前、忍だな」

「?」
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