次の話終わったら本編にガッツリ関わり始めると思います
雄英体育祭当日
日本中の注目が集まる雄英のスタジアム。体育祭の会場は歓声と興奮に包まれ、その熱気が画面越しにまで伝わってくるほどだった。
コユキは死柄木と共に薄暗いアジトの片隅で古びたテレビに映る中継映像を見つめている。スタジアムの煌めきと対照的に、アジトの冷たく重い空気が二人を包み込んでいた。
『今日の授業は座学、現地に行っても良いが警備が例年よりも厳重だからね……。ここで同年代の生徒の体の動かし方を見て知識をつけるとともに、そのうち相手することになるであろうヒーロー候補の個性についてもよく研究しておくように』
「はい!頑張ります!!」
『いい返事だ』
――
会場は大勢の観客で賑わっているだけでなく、先日の雄英襲撃事件を受けて例年よりも増員された警備のヒーローたちが厳重に目を光らせている。さらに、スカウトにやってきたサポートアイテム開発会社の関係者たちが資料などを熱心にチェックしながら開会の時を待っていた。
観客の熱狂的な歓声とヒーローたちの鋭い視線、そして開発会社の関係者たちの期待に満ちた眼差しが入り混じり、会場全体が一種の緊張感と興奮に包まれていた。
「…………」
観客席に座り静かに開会を待つ彼女もその一人である。
「お元気でしたか?リオ会長」
「ええ、ノアも元気そうで何より」
調月
若くしてサポートアイテム開発会社「ミレニアム」を立ち上げ、わずか数年で業界トップ層に食い込むほどに急成長させただけでなく、ヒーロー事務所『C&C』の代表も務めている凄腕経営者。
ちなみにノアやユウカがかつて働いていたのもリオの会社である。
「教員のあなたから見てミレニアムに合いそうな生徒はいるかしら?」
「そうですね……1年生だと猫塚、豊見あたりでしょうか。それと3年の白石も成績は良く、卒業後の進路にミレニアムを志望しているようです」
「なるほど、チェックしておくわ」
「ヒーロ―科の方はよろしいですか?ほら最近噂の……」
『奇跡の新星!!ヒーロー科!!1年A組だろぉ!?』
「……とか」
司会のプレゼントマイクの力強い声が会場に轟き、生徒たちの入場が始まった。中でも特に注目を集めたのは入学直後にヴィランの襲撃を受けながらも見事に切り抜けた1-Aの生徒たち。彼らが現れると観客席からは嵐のような歓声が巻き起こり、その熱狂ぶりから世間の関心の高さが一目瞭然だった。
「……結構よ。既にヒーロー科へ入れる指名は決まっているもの」
「ですよね」
しかし、周囲の観客たちとは対照的にリオはさほどA組に興味を示していない。むしろB組や普通科、サポート科、経営科が入場する際に歓声がさほど上がっていないことに苛立っているようにすら見える。
今回、忙しいリオが時間を作ってわざわざ会場に足を運んだのもテレビ中継にはなかなか映らないであろうサポート科の生徒を見極めるためなのだ。
(……というのが建前なんでしょうけど。黙っておきますか)
ノアはリオ会長の真意を汲み取りながらも、感情を心の奥底に押し込めた。リオの視線はB組のある一人の生徒に鋭く注がれている。その視線は何かを見極めるというよりも……
第一種目『障害物競走』
スタジアム外周を使ったコースに配置されたいくつかの障害物を乗り越え、スタジアムに戻ってくるレースだ。
『最初の関門は……ロボ・インフェルノ‼︎‼︎』
「へぇ……今年はアレを入試に使ったのね。あんなものデカくて邪魔なだけじゃない」
「そういう目的で配置したので、まぁその通りですが……」
まるで自分の方が良いものを作れると言わんばかりのリオに少しばかりノアは呆れたが紛れもない事実だ。
「おぉ〜、さすがは轟くん。判断力も個性の使い方も頭一つ抜けてる感じがしますね」
プロヒーロー「エンデヴァー」の息子でもある轟が真っ先に通過していった。それだけでなく個性で凍らせたロボを上手く倒して後続の妨害も行っている。それに続くように1-Aを始めとしたヒーロー科の生徒は次々と倒すなり、回避して次々と通過していく。
「……そっちの解説は司会がするだろうからあなたは今から私が言う生徒が誰なのかだけ教えなさい」
しかし、リオはまったく興味が無かった。サポート科の生徒が気になるのか、それとも最初の障害物が判明した時点で応援している生徒の上位入賞が決まったようなものだからなのかは分からない。
「……良いんですか?姪っ子の応援しなくて」
「ええ、あの子がこんなところで負ける訳ないもの」
――
『最後の関門は……っておお!?何だ何だぁ!?』
『1-B!飛鳥馬!怒涛の追い上げだぁ!!』
(すごいなぁ……)
画面越しにも伝わってくる会場の熱狂にコユキはどうしても羨ましさを感じずにはいられなかった。それは単に『現地に行きたかった』というものではなく、『この熱狂を心から楽しめる人間でありたかった』という胸の奥底に蓄積した思いからくる感情だった。歓声や興奮が渦巻く中で自分がその一員になれない孤独感がコユキの胸を締め付けていた。