第二種目 『騎馬戦』
障害物競争の結果で個々にポイントが割り振られ、その後各自で2~4人のチームを編成する。チームの合計点数が記された鉢巻をそれぞれの頭に巻き、それぞれ奪い合うことで最終的に最も多くのポイントを保持する上位4チームが勝者として栄冠を手にするのだ。
「1位を奪って
「物間さん……申し訳ありませんでした。力及ばず……」
「いや、いいんだ。むしろやりやすくなったとも言える。予想よりも注目は集められたからあれはあれで悪くないと思うよ、うん。上位陣の観察はできたからね……」
障害物競走を4位で通過した飛鳥馬
物間は障害物競争が発表された瞬間から冷静に今後の展開を見据えて緻密な作戦を練っていた。彼はトキならば障害物競走で1位になれると確信し、後方から一気に追い抜くことでA組に集まりがちな注目を集めると同時に、言い方は悪いがトキに囮となってもらうことでA組を含む上位陣の動向をじっくりと観察し次の競技に備えた作戦を練るための準備を整えていたのだ。
これも全てたかがヴィランと会敵しただけで注目を集めて調子づいているA組を叩き潰すためである。
『15分のチーム決め兼作戦タイムを経てフィールドに12組の騎馬が並び立った!!』
『いくぜ!!残虐バトルロイヤルカウントダウン!!』
「鉄哲、恨みっこなしだぞ」
「おう!」
『3!!! 2!! 1…!』
『START!!』
『さぁーついに切られた決戦の火蓋!!やはり狙いは
「よし、やるか」
「私は右2チームを」
「じゃ、僕は左のあの2つだね」
怪しげに言葉をかわし、
「「装着!!」」
スタートの合図と同時に多くのチームが緑谷の鉢巻を奪おうと動き出した時、それは起こった。
「えーっ!?鉢巻が飛んでっちゃった⁉」
「待てやコラ!!」
「……なるほど、そういう個性か」
「危なかったですわ……」
葉隠、轟、心操、爆豪チームの鉢巻が騎馬を離れて物間とトキの手の中へ飛んで行った。
そのことにいち早く気が付いた八百万が粘着性のテープを創造したことで轟チームはなんとか奪い返したが、他の3チームはあっさり奪われ物間の手に渡ってしまった。開始早々盛り上がる展開に観客席からは歓声があがる。
「うーん、やっぱり厄介だねぇ……物を自在に作れる個性は」
『おいおい、やったな物間チーム!!いきなり得点大量ゲットだぁー!!』
「1000万抱えるリスクは取らなかったみたいだけど……あの個性は何だ……吸着とか……?いや、それも2人……?」
「緑谷!分析するよりも先に目の前の敵の対処だ!!」
始まってわずか数秒で騎馬戦は荒れに荒れていた。
「返せやコラ!!」
「無駄ですよ。このアーマード飛鳥馬に隙はありません」
「予選で飛鳥馬が後ろから一気に追い抜いて、注目を集めてる間に他の
「落ち着け爆豪!!こいつら瀬呂がカバーしにくい右から攻めてきてる!!うかつに突っ込むのはまずい!!」
飛鳥馬トキ 個性『アーマー』
周囲の生物以外の物質を引き寄せ、加工・変形させることでアーマーとして身に纏うことができる個性。(ちなみに装備を外すと元に戻るぞ!)
ただし、引き寄せることができるのは目の届く範囲のものに限られている。
「あっぶねぇ~、一瞬で終わるとこだった……」
「あの騎馬はどこに鉢巻を……?」
なのでこのように鉢巻がどこにあるか見えない峰田チームの鉢巻は奪うことができない。
時は少し遡り、第一種目……
トキはこの個性を使い、第一関門のロボの動力で一気に追い抜いて1位でゴールすることでA組の出鼻を挫く予定だった。
(個性の詳細を隠すためにあえて少しずつ装着するのは骨が折れますね……)
後方にとどまっていても不審に思われないようにあえて時間を掛けながら装着していたトキ、しかしその慎重さが仇となってしまった。
「おやおやおやおや!」
「!?」
「あなたさてはいろいろ身に着けられちゃう個性の方だったりしますか!?」
商魂たくましいサポート科の
「そ、そうですが……」
「じゃあこれ使ってください!私の自信作!この『自爆機能付きジェットパック』を!!」
「……良いんですか?」
「もちろん!私が使ったところでもう目立てなさそうなので!!あっ、でもそういうことなので宣伝だけさせてください!!」
「……この私の『拡声器搭載自動追跡ドローン』で追いかけるけど邪魔はしないから」
トキは第一関門すら突破できなさそうであきらめかけていたサポート科の生徒、コトリとヒビキからの手助けを受け取った。
たったそれだけで大幅に機動力が向上するなら安いものだ。ありがたく使わせてもらおう。
(一応審判に確認を…………大丈夫ですか)
もしかしたら何かしらのルール違反になってしまうことを考慮し、トキは主審であるミッドナイト先生に目配せして確認するが、無言でうなずいて返されたので問題ないらしい。双方合意である上にヒーローとは助け合い、そういうことなのだろう。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいますね」
しかし、トキは受け取ってしまったのだ。
「じゃあ俺のこれも持ってってくれよ!!」
「えっ」
この第一関門すら突破できず、このまま目立てずに体育祭を終えてしまうと諦めかけていたサポート科の生徒が大勢いる中で。
「私の『ゲーミング閃光弾』も!」
「これもお願いします!!」
サポート科の生徒は自分を大企業に売り込むことに必死だった。
『最後の関門は……っておお!?何だ何だぁ!?』
『1-B!飛鳥馬!怒涛の追い上げだぁ!!』
『しかもなんかめちゃくちゃ派手だぞ!?!?』
トキは断りきれなかった。結果として煌めきながら空中を飛行し、目立つという目標はしっかりと達成できていた。
『はい!それではここからはサポート科1年豊見コトリがこの飛鳥馬トキさんの装備について解説いたします!!』
『この飛鳥馬さんの飛行を可能にしているのはなんと!そう!私の作った自爆機能付きジェットパックのおかげです!!これほどの重量でもこの速度で飛行が可能な素晴らしい作品ですよ!!!!』
『うるさ』
豊見
なんと息継ぎや休憩なしで無限で話し続けることができる!
1日中解説を垂れ流していたこともあるらしい。
『おっと伝え忘れていました!この速度に着いていきながらの解説を可能にしているのは同じくサポート科1年猫塚ヒビキの作品、拡声器搭載自動追跡ドローンのおかげなのです!静音!長持ちするバッテリー!そしてこのクリアな音質の拡声器!』
『……すごいよ』
(静音と矛盾してませんかそれ)
猫塚
イヌ耳と尻尾が付いている。かわいい
『そしてそして!!このアーマーが光り輝いているのは同じく……』
『おいおい豊見ィ!!熱心なのはいいがオレの声が聞こえなくなってるぜ!!仕事奪う気かぁ!?』
『あっ、すいません……』
『やっても良いがレースが終わってからにしろ』
『はい……』
想定よりも追い上げが遅くなってしまった上に予想外の重量追加で思うように動けず、4位でゴール。さらに……
『さて!無事にゴールできたので解説を再開しますね!!トキさんの飛行を安定させていたのは……』
レースが終わっても1つずつ装備を解除しながら解説の手助けをさせられていた。4位という十分な結果を出したものの、これでは試合に勝って勝負に負けたといった感じである。
そして、この騎馬戦。
個性『アーマー』は副次効果として
『さあさあ騎馬戦は波乱の幕開けだ‼︎B組がいない騎馬の鉢巻はほとんど奪われちまったぞ⁉︎ここからどうするんだA組!』
この鉢巻の奪い合いというルールにおいては最強に近い個性だった。
だが、騎手にはならない。個性『コピー』によって対応力が高い物間を騎手とすることで鉢巻の防衛を確実なものにしている。まさに“超無敵鉄甲”と呼んでも差し支えない騎馬だった。
「最初から
「よし、『無差別放電 130万…・・・』「待て!!」……どうした!?」
「ふむ、電撃を防げるシートですか。便利そうですね」
「……奪われましたわ」
「物を引き寄せる個性……これじゃあ八百万の個性を活かしきれねぇ……」
さらに障害物競走でも大活躍していた八百万の個性を妨害し続けることで装備品を集め続けるとともに、
『残り一分!最後の攻防だー!!』
「返せやコラ!!」
「おお怖い怖い……さーて、このまま逃げ切って2位かな」
「氷アーマーも悪くありませんね。……寒いですが」
轟の作り出した氷すら防御に使い、隙のない物間チーム。手を緩めない爆豪の猛攻も難なく防ぎきっていた。
「ちょうど爆発って便利な個性もコピーできたことだし、終わったら温めてやるからもう少し頼む」
「分かりました」
勝利を確信していた物間チームだったが、ヒーローの世界というのはそう簡単にうまくいくものではない。
「飛鳥馬と物間だっけ?」
「違います。今の私はアーマード飛鳥馬です」
「おやおやぁ?今更何の用かなぁ?あっちの1000万狙った方が良いんじゃない?」
「“鉢巻寄越せ”」
「……」
「あぁ!?急に止まって渡しやがって……」
「お前らの分は残した。好きにしろ」
「テメェ……!舐めプか!?」
「落ち着け!あの残りを奪えば上位には入れる!もう時間ねぇんだぞ!」
「……チッ」
そのまま爆豪に残りの鉢巻をすべて奪われる物間チーム。気が付いた頃には
『TIME UP!!』
「あれ、気が付いたら鉢巻が……」
「……何故でしょう」
最終結果 7位 物間チーム 得点0P
――
体育祭が終わり、数日後
コユキはあんな学校生活が送りたかったという思いから少しだけ気分が落ち込んでいた。
「……元気なさそうだね?コユキ」
「あっ、先生……いえ、なんでも……」
そんなコユキは
「いやいや、私には分かるよ。……物足りない、そんな気分なんじゃあないか?」
「えっ」
「体育祭で大暴れする個性を見て、『私もあんな風に暴れてみたい!』そう思ったんだろう?」
AFOは不気味なまでにゆっくりとコユキに近づいてきた。コユキの周囲に逃げる道があるはずもない。
「前々から思っていたんだけどね、君は少し優等生すぎるんだ」
「もっと欲望に素直になっても良いんだよ?」
「……それ、は」
「大丈夫。今日は素直になれるプレゼントを持って来たんだ」
「強くなれるし、きっと気に入るよ」
突然、AFOの体が妖しく光ったような気がして、コユキは……
「にははははーっ!!ただいま戻りましたーっ!!」
「うるさ…… 何だお前、イメチェンでもしたか?」
死柄木のアジトに勢いよく飛び込んできたコユキ。しかし、死柄木が見たコユキとは何かが違っていた。彼女の目には以前には見られなかった強い決意と、深淵なる闇が宿っているように見える。
「まー、そんな感じですね!なんかとってもさわやかな気分です!何もかも破壊したいくらいに!!」
「……やる気は十分か。ならいい」
その姿はどこか別人のようだった。一見して同じ人物とは思えないほど彼女の内面の何かが変わっていたのだ。
『こないだ手に入れた個性「色彩」を使ってみたのさ。対象を“染め上げる”個性でね……随分と素直になってくれたようで私も嬉しいよ』
『それはそれとしてヘイローの色まで変わるとは思わなかったなあ。もしかしたらヘイローにはまだまだ何か秘密があるのかもしれないね』
そんな様子をテレビの向こうからAFOが眺めながら楽しそうに笑っている。
『そのためにも……わかるね?』
「はい!がんばっちゃいますよー!!
『いい返事だ』
元気よく返事するコユキのヘイローは真っ黒に染まっていた。
終わりです