シャーレの先生は長身爆乳爆尻ぶっともも 作:甘党からし
「………………」
「……………………」
重い沈黙がシャーレの中を包む。
先生は自身の職場であるにも関わらず、若干の居心地の悪さを感じていた。
その原因は自身の近くで黙々と書類仕事をこなしている少女、天雨アコだ。
シャーレの当番に来てからというもの、彼女は事務的な会話を除いて一度も言葉を発していない。
最初は余りに他人に干渉しないタイプなのかとも思ったが、時折向けられる視線から察するに自身に敵意らしきものを向けているのは明らかだった。
(やりにくいな~……)
実の所、先生はこの手の視線には慣れている。
キヴォトスに来る前、経営者として働いていた時は敵意を向けられるなど日常茶飯事だった。
それなりの影響力を持つ者は見知らぬ人間にさえ身勝手な感情を向けられる。
そして先生はそれらの感情を時に無視し、時に利用し、財を築いてきた実績を持っていた。
だから今更この程度で揺らぐはずはないのだが。
今回の場合は少し毛色が違った。
(…………多分ヒナちゃんのことだよね?)
先生の脳裏に蘇る先日の記憶。
仕事に疲れたヒナを寝かしつけて以降、彼女と先生の関係は目に見えて良好となった。
基本的に表情を表に出さないヒナが先生相手には明るく、少しだけ活発になる。
他校の生徒はおろか、同じ学校、同じ組織に所属している生徒でさえ目を見張る程の変化。
とは言え多くの生徒は先生に感謝していた。
それだけヒナの持つ人徳が確かであり、同時に周囲に心配をかけていたことが伺える。
しかし、ゲヘナ風紀委員長という名のある立場の人物に影響を与えるということは良いことばかりでは決してない。
例えば、万魔殿の議長が風紀委員会に肩入れしていると騒いだり、ゲヘナと半ば敵対関係にあるトリニティの生徒会も公平な立場にあるはずのゲヘナに寄っているのではないか、という苦言が送られてきたり。
敵らしき敵を作らず、常に中立の立場を求められる先生だからこその苦悩だ。
過去の職場とは異なり、所属も派閥も明確に異なっている生徒達全てを納得させることも中々に難しいが、異なる立場から他の組織の内部構造に干渉するもの、また中々に難しい。
アコの件はまさにその典型だった。
(嫉妬されてるよね……)
天雨アコが空崎ヒナに絶対の忠誠を誓っているのは近しい者であれば誰でも知っている事実だ。
過去に何かあったのかは知らないが、彼女は四六時中ヒナの後を付け回していると言っても良い。
ヒナの命令には絶対服従。ヒナのためであれば何でもする。
ヒナの苦労を取り除くため、緩和するためならあらゆる手を尽くす。それが風紀委員行政官天雨アコという少女の実態だ。
そしてそれは時折暴走することもある。
先生にとってはアビドスでの一件が記憶に新しい。そういう意味では彼女もしっかりゲヘナ生なのだ。
(さぁ~て、どうしたもんかな)
どこかのタイミングでしっかりと話しあう必要がある。
先生はそんなことを思いながら、じっと気を伺っていた。
◆
(成程……、確かに仕事ぶりは噂通りの有能ぶりなようですね……)
アコは書類にペンを走らせながら、仕事をしている先生を見つめていた。
その目つきは鋭い。まるで嫁の粗を探す姑の如く、ギラりと眼光を光らせていた。
(ですが、その程度で認める訳にはいきません。大体この程度の仕事なら私だって毎日こなしていますし!)
当初、アビドス自治区にて初めて顔を合わせた時から若干の嫌悪感はあった。
少ない生徒のためにわざわざ出向くその心意気は評価出来る。だが自分を見つめてくる時のあの何とも言えない眼光に若干の薄気味悪さを感じていた。
まるでこちらを品定めしているかのような、鋭く冷たい目。
だがあの時点では半ば敵対関係のようなものだったため、割り切ることは出来た。
それが明確に嫌いに変わったのは彼女が敬愛してやまないヒナが先生に好意的になってからだ。
いつものように凛々しく仕事をするヒナ。ここまでは良かった。
しかし時折ある僅かな隙間時間の様子が明確に変わっていた。
どこか上の空で、自身のスマホを見つめる。そして通知音に敏感に反応し、一喜一憂する。
アコはその様子に、不躾だとはわかっていても、ヒナのスマホを覗かずにはいられなかった。
そして知ってしまったのだ。先生からの連絡の時だけ、ヒナは喜んでいるということに。
(ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ…………!)
それを知ってしまったからには我慢出来なかった。
一言文句を。おかしいのはわかっているが、この溢れる激情を止めることは出来なかった。
(大方あの馬鹿みたいな大きさの胸でヒナ委員長を誘惑したに違いありません! 何て忌々しい……っ!)
アコは時折思い出したように顔の肌に触れて、抜けたような笑みを浮かべているヒナを思い出す。
それは確信だった。
アコは首につけているカウベルとそれなりに育った胸のせいで時折牛呼ばわりされる。
しかし彼女に言わせれば目の前の大人の方がよっぽど牛だった。
(私だって、ヒナ委員長が言ってくださればいつでもどこでも包んで差し上げるのに!)
全身をスーツで包んでいる癖に圧倒的な存在感を主張する胸、尻、脚。それでいてウエストはしっかり括れているときた。
対してそれなりに素肌を露出させているにも関わらず、アコの持つ膨らみは先生のそれには及ばない(十分優れたスタイルではあるが)。
見れば見る程忌々しくてしょうがなかった。どうして同じ場所に居るだけで敗北感を感じなければならないのか。女性の魅力はスタイルではないというのに。
(見てなさい先生! この私の、風紀委員行政官天雨アコの目の黒いうちは! 絶対にヒナ委員長を篭絡なんてさせませんからね!)
だがしかし。アコ自身、スタイルでの勝負に勝ち目がないことはわかっている。
であれば能力で差をつけるしかない。だからこその当番だった。
しかし今の仕事量では差は付きにくい。ここでの仕事には先生でなければ通らない仕事が幾つもある。
何か、明確な差をつけられる仕事は無いものか。
アコは目を凝らして、その機会を伺っていた。
そしてそれは訪れた。
「ん?」
先生のパソコンから通知がなる。
それは学校からの依頼だった。
「あー……」
先生が思案している。一瞬アコの方を見たということはゲヘナ関係だろうか。
否、違う。表情的に恐らくは他校からの依頼。わざわざ当番に呼んでおいて1人で出て行っても良いものか悩んでいるのかもしれない。
「……ごめんアコちゃん。私ちょっと緊急の用事が入ったから出るね。仕事は片してそこにおいといてくれればいいから」
先生はその場を立とうとする。
しかしそれを逃すアコではなかった。
「待ってください先生!」
アコの声に先生が驚いたような表情をする。
前のめりの様子かた急を要する案件のようだ。
好都合。アコは立ち上がり、そして大声で宣言した。
「ん? どうしたのアコちゃん?」
「その依頼、私も同行します!」
これだ! アコは天啓を受けかのように笑い、そして勝利を確信した。