ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う? 作:新月
本編に戻って、更新です。
「──それでは、準備はよろしいですか?」
「ああ」
……広めの部屋の中、俺はレイスと呼ばれた女性と二人だけでこの場所にいた。
俺は真ん中に設置された長机の前に、椅子に座っている状態だ。
対してレイスは、部屋の隅でクリップボードを持ちながら俺をじっと見つめている。
「では。入隊試験テストの一つ、“ペーパーテスト①”。制限時間は2時間です。開始してください」
その言葉とともに、俺は机に置いてあった鉛筆を手にとった──
☆★☆
……時は少し遡り。
「……入隊試験?」
「そうですわ! それにサタン・クロスさんはぜひ受けて頂きたいですの」
食堂でティアーと食事していた俺は、いきなり現れた三幹部の一人、レイスにそう言われていた。
いきなり急な話で、正直一体なんだなんだ? と言う感じだ。
えーっと……
「……あれ? もしかして俺、“まだ正式に【カオス・ワールド】に所属した訳ではない?”」
入隊試験って事は、普通所属する前にやるテストって事だよな?
と言う事は、俺てっきりカイザーやティアーがもう所属前提で話しているように聞こえたから、とっくにアルバイトとはいえ、入隊済みだと思ってたんだけど、もしかして勘違い?
あっれ、俺もしかして恥ずかしい勘違いしてた?
「ちょ、ちょっと待ってよレイスちゃん!? なんで?! 彼は私とカイザーのスカウトだから、入隊試験必要無いわよ!? もう正式に入隊の通達はしたでしょ!?」
あ、やっぱり俺の勘違いって訳じゃ無かったんだ。
レイスの言葉に慌ててティアーがそんな訂正を入れていて、俺はひとまずほっとした。
続けてティアーが困惑したような表情で問いかけている。
「三幹部のみんなには事前に伝えたし、カイザーからも教えられてるでしょ? 流石に決まった事を蒸し返すような事されると困るんだけど……」
「ええ、分かっていますティアー様。あなた達がおっしゃるんですもの。ティアー様とカイザー様が保証している以上、入隊自体は確定でしょう」
「じゃあ、なんで? 試験いらなくない?」
「──能力把握の為ですわ。“人事担当”として」
ティアーの問いかけに、真剣な表情でレイスがそう答えた。
そういえば、確かさっきも人事担当って言ってたな、ティアーの紹介で。
それを思い返していると、レイスが続けて理由を話し出した。
「入隊は確定、それは結構。けれど、“その能力は? 長所は? 短所は? 何が特技? どれくらいの学力? 精神は? 考え方は? コミュニケーション能力は?” などなど……人によって出来る事は様々。それを一人一人把握しないと、“どの仕事を任せればいいのか分かりませんわ”」
「ああー……まあ、確かに?」
「……あれ? 普通に一般兵として活動すればいい訳じゃないの?」
俺はレイスの言葉に、少し引っかかる部分があってそう聞き返した。
アルバイトと言ってたから、てっきり単純にティアーとかの部下になって、ヒーローと戦う事になるのかなー? と思っていたのだ。
まあ、実際そうなった場合は、流石にヒーローをガチで倒す気にもなれないから、適当に手を抜いていい感じにやられたフリでもしようかとは思ってはいたが……
しかしその考えを、レイスに否定される。
「いいえ。一般兵と言っても、ただ戦えばいいだけではありません。【カオス・ワールド】の活動はそれだけではありませんの。“願いを叶えるptシステム”は、ティアー様から既に聞いておりますわよね?」
「ああ、ついさっき聞いたけど……」
「でしたら、話は早いですわね。ptを消費した人の願いを実現するために、あなた達が行動することも十分あり得ますの。その内容によっては、“街のゴミ拾い”、“建築工事”、“デザイン作成”など、戦闘以外の行為を求められる事は十二分にありますわ」
……ああ、そう言えば【カオス・ワールド】って色々なことやってたっけな。
俺は以前【カオス・ワールド】に対して思っていた事を思い出した。
レッドとして活動していた時の俺から見ても、ボランティアなりアイドルのコンサートとか、見える所でやってたっけ。
「その為、ティアー様達の話から戦闘力は十分聞いておりますが、他の能力。つまりは、“あなた自身の能力を見極める為”、確認したいと言う事ですの」
「その方法が、入隊試験って訳?」
「そうですわ」
俺はその言葉に、ふむふむと頷いた。
言ってる事は、特段変わった事じゃなく、むしろ常識的な事だ。
普通ならどこの組織でも、当たり前のようにこの考え方をしているだろう。
強いて言うなら、普通の組織より幅広い能力を求められている点くらいか?
「心配なさらずとも、戦闘力自体はある程度保障されている以上、入隊確定の事実は変わりませんわ。けれど、試験の結果次第で、今後あなたが任せられる、あるいは出来る仕事の幅が変わりますの。受けてくださいますわよね?」
「……ちなみに一応聞くけど、断ったら?」
俺は興味本位でレイスにそう聞き返してみた。
すると、レイスは少し目を細めて……
「……その場合は、任せられる仕事が大幅に減りますわね。何せ“信頼と実績が無い”んですもの。経験者でも無い初心者に専門性の知識のいる仕事なんて、任せられませんわよね?」
……ふむ。当たり前の内容だな?
言ってる内容は、とことん常識的な範囲内の内容だ。
ここまでの会話をして、俺はこのレイスという三幹部の女性について改めて考えてみる。
話している内容は、ほぼ全て常識的な内容ばかりだ。
あえて断ろうとしてちょっとした事で逆らった行動をしたとしても、変に威張ったり怒鳴ったりせず、常識的な範囲で対応されるらしい。
てっきりお嬢様みたいな格好で悪の組織だから、「はあ? 逆らう気ですの? あなたに選択肢はありませんわよ?」とか高飛車でプライドが高いような言葉を言うのかな、と初見は感じていたのだが……
なるほど“人事対応”と言うだけあって、かなり客観的な評価をするようだ。
あくまで平等に、人事として俺と言う人材を見極めようとしている、と言う事なのだろう。
「無論、試験を受けてくれたなら、その分ptはお支払い致しますわ。予定外の事で協力してもらってる、と言う扱いになりますので。ただまあ、1日がかりにはなりますけれど……」
「なるほどな……いや、分かった。“試験受けるよ”」
俺はそう言って、入隊試験を受ける事を了承した。
言ってる事は至極真っ当だし、無理に断る理由もない。
むしろ仕事を制限される方が、【カオス・ワールド】の事を知る機会が少なくなって損になりそうだ。
それに、この組織での入隊試験とやらが、実際どんな事をやって確認するのか、興味あったしな。
「いいの? クロス君」
「ああ、言ってる事は真っ当だし、別に断る理由も無いしな」
「決まりですわね。では、試験は明日。要項は今デバイスに送りましたわ」
その言葉とともに、軽い着信音とともに懐の【カオス・デバイス】が鳴り響いた。
中を見るとメールが届いており、レイスの言った通り、明日の試験の概要について詳細な説明が記載されている。
「何何……明日の午前中ペーパーテスト、午後に身体能力測定。それに、実技試験……?」
「明日の朝9時に指定の場所に集まってくださいまし。詳しい事は要項を見てください。……クロスさん」
「うん?」
すると、レイスは俺の目をじっと見つめて……
「──これは、“ワタクシ自身があなたを見極めるために行う事”。重々、承知してくださいまし」
「────……」
その言葉は、軽く見るなと念を押しているように見えて。
「……ああ、分かった」
「結構。それでは、これで失礼いたしますわ。ご機嫌よう」
「レイスちゃん、お疲れ様ー」
そう言って、レイスはペコリとお辞儀をした後、ゆっくりと去っていった。
「……という訳で、急に入隊試験受ける事になったけど、大丈夫?」
「まあよく分からないけど、まあなんとかなるだろ、と思ってる」
レイスがいなくなって、ティアーがそう問いかけてくる。
どうせ今更慌てたって仕方ないし。
仮に成績が悪くても、そこまで重いペナルティがある訳でも無さそうだし。
……ただ、真剣にやらなきゃいけないって事だけは確かだろうな。
最後のあの発言。
あれは、俺の事をまだ認めていない、と言外に言ってるようなものだ。
まあ、ティアー達の推薦とはいえ、急に外部から連れてこられた俺みたいな得体の知れない人間を、そう簡単に信じる訳ねえよな。
むしろ、事前に配信を通して交流してたティアーとカイザーの二人が、対応の例外な方だろう。
……実際、俺正体がヒーローって言う、地雷も地雷な存在だし。
半ばカイザーに断れない雰囲気で入ったとはいえ、他の人間は俺を警戒するのが大正解な存在だし。
まあ、何はともあれ、明日の試験を受けてからだな。
「そう。それじゃあ明日、頑張ってね! 今日は早めに解散しておくね!」
「ああ、ありがとう」
そうして、俺はティアーと別れて、明日の準備をし始めるのだった……
☆★☆
──そして、今日。
「それじゃあ、クロス君。私は別の部屋で待機しているから、頑張ってね! じゃあまた後で!」
「ああ、行ってくる」
指定の時間の10分ほど前。
俺はティアーに案内されてその場所に連れてこられた後、ティアーと別れたのだった。
目の前に、指示された部屋の扉がある。
ノックを3回繰り返し、失礼します、と言って入っていく。
部屋の中には、既にレイスが立って待っていた。
「おはよう」
「おはようございます。時間通りですわね、結構。では、軽く説明いたしますわ」
レイスはクリップボードとボールペンを持っていて、直ぐに何かを書けるようにしている。
おそらく、レイス直々にこちらの様子を評価するつもりなのだろう。
「まずは要項のとおり、午前中はペーパーテストを受けてもらいます。ペーパーテストは二回行います。一つは制限時間2時間。その後、1時間のテストを行ってもらいます」
ふむ、二回か。
一つ目の方が時間が長いって事は、それほど難しいものなのか?
とりあえず、説明を聞いていく。
「ペーパーテスト中は、基本的に外出不可です。お手洗いなどは事前に済ませておくように。ペーパーテストの用紙はそこの机に置いてあります。また、“ここからが重要ですが”……」
そう言って、レイスはあえてそこで区切り、強調するように……
長机に置いてある、“ノートPC”と、“複数の黒いガジェット”を指し示した。
──って、あれ? あのガジェット達って……
「一つ目のテスト時間中は、“インターネットで調べ物”と、“【ダーク・ガジェット・プロキシー】”の使用が可能です」
「──は?」
ちょっと待て、今なんて言った?
インターネットと、【ダーク・ガジェット・プロキシー】の使用が許可?
「あれ、ペーパーテストじゃ……?」
「先に言いますと、一つ目は知識面を重要視する観点ではありませんの。詳細は、敢えて隠させてもらいますが」
ふーん……?
つまり、知識というより、答えを求める調査力とかを調べる検査ってことか?
いやでも、【ダーク・ガジェット・プロキシー】って……
あれ確か、ティアーが言っていた“他人の【ダーク・ガジェット】を再現した複製品”ってやつだよな、確か?
それを、ペーパーテストで使う? どう言うこと?
「それらの道具を使い、是非問題に向かい合ってくださいまし。質問等はございませんか?」
「はい。そこにある【ダーク・ガジェット・プロキシー】達の効果って?」
「それは自分で調べてくださいまし。それを含めての制限時間ですわ」
なるほど……
これ、ただのペーパーテストじゃないな。
学校で受けた定期試験みたいなものじゃなく、用意されている道具から察するに、思ったより特殊な観点を見ている試験らしい。
油断するつもりはなかったけど、より意識を深めた方が良さそうだ。
「他に質問はありますか?」
「うーん……そのpcって、本当にインターネットに繋がってるのか? ここって一応【カオス・ワールド】のアジトなんだろ? セキュリティ問題とか、ヒーローに逆探知の心配とか大丈夫なのか?」
「ふむ、いい視点ですわね。ですがご心配なく。セキュリティ対策は、既にバッチリなされておりますわ」
なら大丈夫か、そう言うなら。流石に対策はしていたか。
……と言う事は、閲覧履歴とかもチェックされてる可能性が高いな。
やるつもりはなかったが、下手にヒーローに繋がるものを調べたり、グリーン達に連絡をとったりするのは、疑われる可能性があるから止めた方が良さそうだ。
「質問は以上ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「結構。ちなみに、テスト時間中にどうしても聞きたいことが出来たら、その度に質問してください。それでは、座席についてくださいまし」
こうして、俺は机の前に設置された椅子に座った。
鉛筆などの筆記用具も既に用意されており、いつでも書きだせる。
「──それでは、準備はよろしいですか?」
「ああ」
「では。入隊試験テストの一つ、“ペーパーテスト①”。制限時間2時間です。開始してください」
その言葉とともに、俺は鉛筆を手にとった。
そして、片手で裏返ってたテスト用紙をひっくり返し、問題を見る。
さあ、どんな問題だ?
【カオス・ワールド】の入隊試験、その一つ目。
一体何を検査するつもり────
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ペーパーテスト①
『1+1は?』
以上
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。
──。
────。
──────。
────────。
────────…………?
────────………………?????
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
サンタクロース改め、サタン・クロス。
ペーパーテストを受け始めた。
──開始早々、頭が宇宙猫になった。
ちなみに高校卒業程度の学力は普通にあるので、馬鹿というわけでは無い。ハズ。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
テスト内容は、人事担当に全て任せている。
一応、どんな試験をするかは事前に確認は取ってはいて、内容の許可を出しているらしい。
★レイス
20歳
162cm
紅髪
秩序・善
三幹部の一人。お嬢様口調。
人事担当。
試験官も今回兼ねている。
テスト中の行動を、余すことなく確認するつもり。
クロスを疑ってはいるが、テスト内容自体は通常アルバイターと同じ試験を用意している。
つまり、クロス君専用のテストという訳ではない。
どこまでも公平に、事前に定めた基準範囲で試験を行なっている。
ちなみに問題文は、本編に記載されてるもので全部です。
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