ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う? 作:新月
待ってて下さった皆さん、大変ありがとうございます。
すみません、サボってました。
契約との両立は難しいです。
ちょっと落ち着いたので、更新再開です。
楽しんでくれると嬉しいです。
「──さて、ここまではこちらの上々」
【ディメンション・ロッド】を、クルッと回して持ち直しながらレイスはそう呟いた。
ここまでの攻防、レイスの想定通りに進んでいた。
最後の近距離カウンターなんて、もう想定通りに決まり過ぎて逆に笑ってしまいそうな程だ。
いつもの試験だと、今のカウンター攻撃で脱落する新人が8割ほどだったが……
「……まあ、そう簡単には終わりませんわよね」
「げっほ!! いってえ!!」
レイスが視線を向けた先には、砂埃塗れながらも“切り傷一つもない”クロスが立ち上がろうとしていた。
しかし鎧には変わりに直線状の凹み跡が、ほんのちょっとある。
“さっき反射させた飛ぶ斬撃が当たった位置と同じだ”。
「想定はしておりましたが、やはりその斬撃“自分自身も切れないように設定出来ますのね?”」
「ゲホ、ああ、その通りだ。“セレクト・エッジ”。斬る対象をあんたの服だけにして、“それ以外を切らない”ように設定した。攻撃を自在に反射してくる奴相手だぞ? それくらいして当然じゃねーか」
まあ、思ったより打撲ダメージがあったけど。と、クロスは愚痴っぽく呟いた。
砂埃が鎧に結構ついたのか、それをパンパンっと叩いてはたき落としている。
それを見て、レイスは冷静に思考する。
さっき考えたように、いつもの試験なら相手の必殺の一撃を反射すればそのまま決着が付いていた。
しかしクロスの必殺技“セレクト・エッジ”は、相手に致命傷を与える目的の技では無いため、反射の旨みがいつもより薄い。
無意味では無いが、ダメージ効率ではかなり悪いだろう。
「(それでも、このまま同じ攻防が続くならいずれはワタクシが勝つでしょうが……)」
まあそう甘くは無いだろう、とレイスは考える。
仮にもトールを倒した相手で、カイザーやティアーが一目置いてる。……そして、“ヒーロー関係者の疑い”がある人物だ。
このまま終わるようでは、それこそ拍子抜けだ。
これが入隊試験、と言う事は忘れてはいない。
あくまでその範疇で、レイス自身の能力を使うつもりではある。
その証拠に、“このドーム状のバリアの範囲内でしか能力を使っていない”。
本気なら外部に能力で繋げて、そこから色々やるつもりだ。
今回は試験の為そこまでするつもりは無い。
だが……
「油断はするつもりはありません。あなたの全てを、お見せなさい」
この程度すら乗り越えられないのなら、注意する必要すらない。
ヒーロー関係者の疑いだろうが関係無い。
人事評価として最低結果を叩きつけて、カイザーとティアーに組織で抱える必要無しと報告するつもりだ。
まあ、そうなる可能性は薄いだろうが……人事として、クロスの出来ること、能力は全て把握させてもらう。
そう意気込んで、レイスはクロスを睨み付けるのだった……
☆★☆
「ゲホ、くそう。普通に痛え……」
俺は反射された攻撃を喰らった胴体あたりをさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。
いや、“セレクト・エッジ”のおかげで切断はされていないから、そこまで致命傷にはなっていない。
この幹部用【ダーク・ガジェット】共通の自動変身スーツのおかげで、鎧になってるから肉体には傷一つ付いてはいない。
だがそれはそれとして、鎧ごしに巨大な衝撃がぶつかったら、鎧が内部の肉体と接触している部分に負荷は普通に行くわけで。結果そこが普通に痛い。
「くっそ、完全に油断したなあ……」
“セレクト・エッジ”の連打で相手の“ディメンション・ホール”がどこまでやれるか確かめていたけど……
あの幹部、ずっと自分の近くにしか穴を展開せず、最後の決め技になり得る威力の時にだけこっちの近くに展開して、近距離カウンターを狙って来やがった。
こっちが距離感に慣れて来たところで、一気に予想外な一撃をまんまと叩き込まれたわけだ。
“セレクト・エッジ”じゃ無かったら、今ので致命傷を受けていてもおかしく無かっただろう。
「ただやっぱ、脳死で“セレクト・エッジ”を撃っても駄目っつーことが分かったな……」
あれほど自由自在に“穴”を展開出来るんだ。
こっちが適当な攻撃を放った瞬間、どれも簡単に返されるだろう。
しかもおそらく、“レイスはほとんど本気を出していない筈”。
だって仮に俺があの能力を使えるとしたら、想定出来る使い方でもっとえげつないのが3,4個はすぐ思いつく。
それを、長期間使い続けていた使い手が思い付かないなんてことは考えづらい……
──あれ? 気になったんだけど、“あの場合ってどうなるんだ?”
俺はふと、あの“ディメンション・ホール”で俺が考えた“状況”になった場合、どうなるか気になった。
……確かめる価値は、十分あるな。
けど、もし俺の想定通りなら、こっちにとってかなりの切り札になり得る。
なら、今すぐ確かめるより、他に出来る事を確かめてからでも遅くは無い。
そう、例えば……
「そろそろ、“セレクト・エッジ”以外も使わせてもらおうか!」
そうして、俺は走り出してとある場所に向かう。
そこは、このワンヒット・テスト開始時に、テスト用として支給された……
「【ダーク・ガジェット・プロキシ】、今度こそ使わせてもらう!!」
「っ、ええ! 思う存分使って来なさい!」
そう啖呵を切って、俺は台座に置いてあった【ダーク・ガジェット・プロキシ】の内一つを勢いよく掴み取った。
どんな能力、武器なのかは分からない。
ペーパーテストの時のように、識別用のシールが貼ってあるだけ。使ってみるまで詳細は分からない。
けれど、俺が取ったプロキシは“穴のあいた円、太い輪っか”のようなマークが付いていた。
「輪っか、円、穴……まさか、“あの幹部と同じ能力か!?”」
空間に穴を開ける“ディメンション・ホール”。
その能力の【ダーク・ガジェット・プロキシ】だとしたら、このマークの形にしてもおかしくは無い。
幹部と全く同じ能力を用いて、どこまでやれるか見る試験だったのだろうか?
何にせよ、もしそれならかなりありがたい!!
さっき思ったように、使い道はかなりある!!
「よっしゃ! 起動!!」
俺は元気よく、興奮した声でスイッチを押した。
さあ、何が出てくる! また爆発は勘弁してくれよ!
そう思いながら構えていると、俺の目の前に浮き輪が現れた。
パッと見材質はビニールで、水色と白のチェック柄になっている。
大の大人が使っても十分使えそうなサイズだ。
──ん? “浮き輪?”
「………………?」
……俺は無言で、出て来たものに近づいて持ち上げる。
浮き輪だ。どこからどう見ても、ビニール製の浮き輪にしか見えない。
鎧の手袋越しだが、どう見ても感触がビニール製の浮き輪だ。
「……………………」
俺は念の為、手に持ってる【ダーク・ガジェット・プロキシ】の起動スイッチをもう一回押した。
“浮き輪が二つ”になった。
……………………あ、増えるんだ。
も一回押した。浮き輪が3つになった。
も一回押した。浮き輪が4つになった。
……俺はふと、レイスの方を見た。
レイスも俺の方を見て、なんか固まっている。
なんかビックリした表情だ。
俺は浮き輪の一つを持って、何となくレイスに向かって投げた。
空気抵抗でぺショっとすぐ落ちた。全然届かない。
………………。
………………。
俺とレイスは、互いに無言になった。
何かの間違いかなって思って、別のプロキシを手にとって見た。
スイッチを押した。
“どう見てもサーフボード”が出てきた。
………………。
俺は何となく地面の上にサーフボードを置いて、乗って見た。
何か特別な効果があるかもしれない。
“何も起こらない”。
………………。
俺はサーフボードをレイスに向かってペーイと投げて見た。
“ディメンション・ホール”に吸い込まれた。俺の目の前に戻ってきた。
………………。
俺は更に、別のプロキシを起動して見た。
“ビーチパラソル”が出てきた。
………………。
何となく開いてみる。
しっかりとした骨組みだ。
勢いよく振って見る。普通の傘のように骨組みがひっくり返らない。
畳んで地面に勢いよく叩きつけてみる。めっちゃ丈夫。割と感情任せに叩きつけたのに。
レイスに向かって投げた。穴に入った。戻ってきた。
………………。
俺は更に更に、別のプロキシを起動して見た。
“水中ゴーグル”が出てきた。
念の為ヘルム越しだが、レンズを覗いて見た。
何も視界変わらなかった。
レイスに向かって投げた。穴に入った。戻ってきた。
………………。
俺は更に更に更に、別のプロキシを起動して見た。
“トイレのカッポン”が出てきた。
「なんっでだよ?!!!」
「汚っ!? 危なッ?!」
俺は思わず、何の面白味も無いツッコミとともに、そのトイレのカッポンを投げてしまっていた。
え? 正式名称ラバーカップだって? やかましい。
思わず他と同様レイスに向かって投げてしまっており、レイスがガチ焦りした様子で“ディメンションホール”を展開していた。
あまりに焦っていたのか、ラバーカップはあらぬ方向に飛び出しており、ドーム状のバリアにぶつかっていた。
あ、張り付くんだ、あれ。
「おいいい!! なんだよこれぇ!! てっきりバカンスグッズで揃えてるのかと思ったら、何でトイレ用品混ざってるんだよ!! いやそれ以前に、何でバカンスグッズ?! 何か意味あるのかと思って様子見してたけど、これで戦えってか!?」
俺はもう我慢が出来なくなって、とうとうレイスに不満をぶちまけた。
だってどう見ても“どれも戦闘用じゃねえもん”、これ。
まだなんか特殊な効果あるのかなーと思って色々弄って見たけど、何も起こらねーもん。
つーかこんなもんあるのか【ダーク・ガジェット】。どう見ても遊ぶ用なんだけど。
ヒーロー武器の【ライト・ガジェット】を模した物って設定どこ行ったおい。
あ! つーか、今気づいたんだけどさ!
これ俺が使っても爆発しないって事は、材質全部“幹部用”になってるって事だよな!?
普通のより割高になるってやつ!! じゃあ幹部以上で使う事があるって事かまさか!?
「いや、ワタクシも予想外ですわよ!? ちょっとお待ちなさい!! あー、あー、もしもし、ちょっとミクスさん!? 試験用プロキシ置いてくれたのあなたでしたわよね!? どういうことですのこれ!?」
レイスの方を見ると、彼女は端末を取り出して何処かに連絡を入れていた。
スピーカーモードにしてあるのか、通信相手の声が俺の方にも聞こえて来ている。
『これはこれはレイス様。どうなさいましたか? すみませんがこちらも今困ったことがありまして。先ほどそちらのイベントで人が少ない今の内に城内の掃除をしようと思ったら、何故か私の“掃除用プロキシ”が、“火炎放射”やら“バズーカ”やらと入れ替わっているのですが、何かお心当たりがありますでしょうか?』
「それ多分ワタクシが用意した試験用プロキシ!! 何でそっちが持ったままですの!? というか、じゃあ浮き輪やらサーフボードやらは何ですの!?」
『なんと。申し訳ありません、どうやら私の私物の“サマーバケーション”セットがそっちに行ってたようです。どこかで混ざったようですね。ポイントで交換したばかりなのですが、ガジェットの待機モードって全部同じ形なのでつい取り違えたようです。ミクスちゃんうっかりです。テヘペロです』
「テヘペロじゃねえですわ!? さっさと持って来なさい!?」
『申し訳ありません。ただ今手が離せない状態でありまして。どうしても直ぐには向かうには時間が掛かります。“具体的には、今私真っ裸です”』
「何で!? あまりにも脈絡ありません!?」
『いえ、新着の“水着の試着中”でして。しっくりくるのが来なくて、あと1,2時間ほど待って下さい』
「もう頭の中夏休み気分じゃないですのよおおおおおおお!!!」
ゼー、ハー、ゼー、ハー、と荒い呼吸のまま肩で息をし始めたレイス。
どうやら通話は切れてしまったようで、そこで会話は終了してしまっていた。
暫くお嬢様らしからぬ態度で叫んだ後、ようやく落ち着いて来たのか、こっちを見て来た。
「……えーと、その。……申し訳ありませんわ。いや本当に」
「ああ、うん……まあ、うん」
なんか、めっちゃ苦労してるんだな、と。そんな目線を俺はレイスに向けていた。
それはともかく。
「……で、俺はどうすればいいの? このままこれで戦えばいいの?」
俺は浮き輪とゴーグルをそれぞれ手に持ったまま、それをよく見えるように前に出した。
それを見てレイスは冷や汗を掻きながら、ポリポリと指で自分の頬を掻き……
「あー、そのー……」
そうして、暫く言いづらい状態が続いて、思考が終わったのか。
「……ならば、特例として“今回タイムを1回増やす事にします!”」
「タイムを1回増やす? という事は……“欲しい物の取り寄せの件”は?」
「当然、並びにその権利も増やします。タイムの間、欲しくなった物を外部から取り寄せる。これは変わりません」
つまりタイムが2回になったから、それぞれの状況が変わったらその都度呼び出す物を新しく決められると。
ほうほう。
「……なので、どうしてもプロキシが欲しいというなら、その権利を使って一回要求する、という形にさせて下さいまし。一見意味のない追加に見えますが、代わりに“そちらの好きなプロキシ”を確実に手に入れられますわ」
なるほど、試験管が用意したプロキシじゃなく、こっちの要望通りのものが100%来ると。
確かに、そっちの方が色々都合がつくようになったか。
ふむ、じゃあ……
「じゃあ、早速タイムで」
俺は両腕で、Tの字になるようにジェスチャーをする。
その宣言とともに、アリーナ内にブザーが鳴り響いた。
どうやらこれがタイムを成立した合図らしい。とても分かりやすい。
「はい、承りましたわ。それでは、何が欲しいですの?」
「……質問だけど、プロキシ以外でもいいの? 例えば、生物とか」
「何を要求するつもりですの?」
「ああ、要求するのは……」
「──“今の通信相手のミクスって奴、アイツを直接この場に呼び出すことって出来る? 持ってる筈試験用のプロキシ毎”」
「“物凄くいい案なのですけど、裸のバカ女を呼び出す事になってもよろしいのなら”」
「駄目ですか」
「大変申し訳ないのですが、あなたの人間的な評価と引き換えになるので、止めた方がよろしいかと」
じゃあ、ダメかー。と俺はチェッと地面の石を蹴る動作をした。
本当に石があるわけでは無いが。めっちゃバトル場整ってる。
レイスもめっちゃ申し訳なさそうな表情をしていた。
『えー! ミクス様呼び出さないのかよー』
『それでも男かお前ー!!』
『ちょっと止めなよ男子ー!!』
『子供じゃねーし!!』
『これだから男ってやつは……』
『ミクス様の水着姿私見たーい!!』
『あんたレズの気あるの?』
『失礼な、純愛だよ』
「周りのオーディエンスが物凄く煩くなってますが、お気になさらず」
バリア外の観客席から、そんなヤジが聞こえて来た。
それを聞いてレイスが更にめっちゃ申し訳なさそうな表情をしていた。
そんな彼女はため息を吐きながら……
「別にバカ女の事はともかく、試験用で使う予定だったプロキシなら直ぐ用意出来ます。予備はある筈ですので」
「あ、そうなの? じゃあそれを下さい」
「はい、了解ですわ」
「あと、“それぞれの説明書も下さい”」
「ちゃっかり大事な物要求しましたわね……承知しましたわ」
そう言った後、俺の目の前の上空に“ディメンション・ホール”が現れて、そこから色々ドサドサと落ちて来た。
さっき言った【ダーク・ガジェット・プロキシ】と、その説明書らしきものだ。
「よっし! そうだ、ちなみにタイムの時間は……」
「およそ10分。よっぽどの理由が無い限り、それで終了とさせていただきます。その間に説明書読むなり好きになさって下さいまし」
「サンキュー! えーっと……」
俺は説明書を片っ端から読み漁る。
えーっと、お! さっき話ししてた、火炎放射とバズーカ系! それ以外にも、四大属性の放出や、定番の剣や槍、弓矢とか銃とかもあるな!!
さっすが試験用プロキシ、結構色々あるな!!
……ただ。
「……レイスと戦うのには、どれも正直イマイチだな」
俺はポツリと、そんな本音をこぼした。
確かにどれも強力な能力や武器だ。選ばれしものしか使えない筈の、並の【ライト・ガジェット】と同等の性能を引き出すものがここにずらっと並んでいて、それを選びたい放題だ。
それだけでも十分凄い事なのだが……どうも、レイスにダメージを与えるイメージが付きづらい物ばかりだ。
どれも単純なエネルギー放出系、武器も定番の物。
レイスの使っている【ディメンション・ロッド】みたいな、空間に穴を開けるような特殊なプロキシは、ここには並んでいない。
流石に試験用という事で、そこまでの能力持ちはリストに入っていないんだろう。
それじゃ勝てない。
あのワープ能力に勝つためには、こちらもそれ相応の特殊能力か、不意をつける行動をする必要がある。
手っ取り早いのは、【ディメンション・ロッド】のプロキシ版を要求する事だ。
こうすれば、レイスの使ってる方法をそっくりそのまま俺も使うことが出来る。
ただし、本来の持ち主より使いこなすことが出来るのか、というとかなり不安が出る方法だが。
少なくとも、今この場にある手持ちだけじゃ何とも言い難い。
さて、どうする……!!
『おーい! 何悩んでるんだよ新人!』
『ずっと固まってたってつまんねーぞ!!』
『飛ぶ斬撃珍しいけど、ずっとそればかり使ってても見てて飽きるし!』
『もっと面白いものが見たーい!!』
『さっきのはコントみたいでめっちゃ面白かったよー!!』
『もっと笑えるのやれー!!』
『レイス様頑張ってー!!』
『新人負けろー!!』
『レイス様パンツ見せて下さい』
『新人頑張ってー!』
『かっこいい鎧だよー!』
『おい誰かこいつ摘み出せ不敬罪の奴いた!!』
『や、止めろー!!?』
「じゃかあしいッ!!!!」
バリア外のオーディエンスから、そんなうるせーヤジが飛びまくって来た。
やかましい!! こっちは真剣に悩んでるんだよ!!
お前らに対する見せ物じゃ……!
▽==================================▽
「“あ! じゃあ盛大に、見せ物にしましょう! みんな集めて!!”」
△==================================△
……あー、いや。そうだった、ティアーのせいで見世物になってるんだった。
人の入隊試験を、見せ物にしやがってアイツ。
見せ物。見せ物ねえ……
こんなのヒーロー側じゃ……
────“いや、大衆にとってヒーローも極論見せ物か”
人気度で、ランキング上がったりとかもそうだし。
………………………………………………。
「止めた」
俺は説明書を地面に置いて、改めて背筋を伸ばして立ち上がる。
真面目にやるのは、もう止めた。
そうして、レイスに向かって声を掛けた。
「すみません。追加要求ってあり?」
「時間内なら、ありですわ。まあ、あまりにも要求数が多すぎると、無駄が多いって事で評価に影響はあるかもしれませんが。何か追加で欲しいのがありますの?」
「“マイク”が欲しい。アリーナ全体に声が響く奴。あ、二つな」
「……はい?」
☆★☆
──観客席。カイザー側。
「クロス君、なんか悩んでるっぽい?」
「さてな。トラブルがあったが、結局プロキシは手に入った。説明書を見て、唸っているようだが……」
ティアーと一緒に見ている私は、サンタクロース……クロスの様子を見て、そんな会話をしていた。
やはりカウンターの攻撃は、“セレクト・エッジ”でそこまでダメージは入っていなかったか。
そこからプロキシを使おうとして、まるでコントのような寸劇が始まった時はつい笑ってしまった。
しかし、それはそれとして、レイスの能力の攻略に苦戦しているように見える。
ふむ。レイスが勝つだろうと賭けたとはいえ、流石にクロスにはまだ相手は早かったかな……?
少しだけ、そう思い初めていると……
「……ん? 何あれ? マイク?」
「マイクだと? アイリスが使っている【ダーク・ガジェット】がそうだが、もしかしてそのプロキシか?」
「んーと……いや、多分本当に普通のマイクっぽい」
ティアーが端末のカメラの機能を使って、双眼鏡機能で確認したところ普通のマイクということが分かった。
何故クロスがそれを求めたのか、疑問に思っていると……
ん? マイク二つ持っていて、片方をレイスに投げ渡した?
その後、クロスが大仰な身振り手振りをし始めて、観客席全体を見渡した。
『てめえらー!! 人のことつまんねーとかもっと面白い事しろーって好き勝手言いやがって!! そんなに俺の戦いつまんねーかぁー!!!』
『何だこの新人!?』
『急に俺たちに向けて声むけて来やがって!』
『そんなに苛立った!?』
『おい、謝っとけって!』
『ごめんなさーい!』
『俺は悪くねえ!! 俺は悪くねえ!!』
クロスの言葉に観客席がざわめき始めているが、気にせずクロスは言葉を続けていた。
『そんなに言うならなあ!! こっから先はもっと面白いもんを見せてやるよー!!!』
『おお?』
『たいした自信だ!』
『自分からハードル上げに行ったぞこいつ!?』
『レイスさん! プロキシ追加要求!! ペーパーテストの時に俺が使ったガジェットが欲しい! 俺が爆発させた奴!』
観客席を見渡した後、レイスに向き合ってマイク越しに彼女にそう要求していた。
爆発させた奴? 確か炎系のプロキシだったという話だったな?
そう考えていると、レイスも受け取ったマイク越しに返事をしていた。
『了解しましたわ。では、幹部用で全く同じ物をご用意して……』
『誰が幹部用って言った?』
『はい?』
『ペーパーテストの時に使ったものと全く同じ奴!! 幹部用じゃ無い“通常版”!! それが欲しい!! それも、ある分全部!!』
『っはあああぁぁぁ────??!!!』
「え、ちょ!? 嘘でしょ!? あの大火事になった奴!?」
「おいおい、なんだ何だ? 楽しい要求してるじゃないか!」
クロスが突如予想外な要求をし始めて、見ているこっちとしてはワクワクして来た所だった。
わざわざ、その爆発したやつと全く同じものを要求するという事は、つまり……
『あなた、もしかして“爆弾”として使うつもりですの!? 本来の使い方で無く!?』
『そっちの方が面白いだろう!? それとも止めるか? つまんねー戦いがお望みか?』
『……!』
それを聞いて、レイスは一瞬思考を巡らめたようだった。
恐らく面白いつまんないはともかく、試験官として新人が何をやるのか見るために、許可した方がいいのか考えているのだろう。
新人が思考したものを、何も確かめずにただ禁止にするのは、人事部としてのプライドが恐らく許さない。
レイスなら考えた上で、許可はするだろう。
『……良いですわ! しかし、あの種類のプロキシで今すぐ用意出来るのは、予備も含めてたった“3つ”!! もちろんデータをインストールすれば複製は可能ですが、追加分は届くのは試験時間ギリギリになります!』
『十分だ! 今ある3つ分をくれ! 追加発注は無しだ!』
『結構! 受け取りなさい!!』
そう言って、クロスの目の前に“ディメンション・ホール”経由で爆発するプロキシ3つが届けられた。
それをクロスは拾い上げる。
『よし! んで、追加要求、というか頼み! 今の爆発する奴以外で、俺が使う分のプロキシは決まった! それ以外全部返す!』
『か、返す!? 使いませんの!?』
『その方が分かりやすくて良いだろ! それとも戦闘に巻き込んで壊しても良いか!?』
『っ! 良いですわ、預かります! 後で返してって言っても、タイム2回目使って下さいましね!』
『あ、タイムももういらん!! この一回で十分だ!!』
『本当にいいんですのね!? 後悔なさいませんのね!?』
その言葉の後、レイスは“ディメンション・ホール”をクロスの前に再び開いた。
そこに入れて下さいまし! とレイスが言うと、クロスは言うとおりにプロキシをいくつか投げ入れていた。
『よし! これで準備は整った! ここに宣言する!! 俺が使う【ダーク・ガジェット】は、手持ちの【黒刀】も含めて“四種類!!” 数にして6個だ!』
『四種類!?』
『内一つはさっきもらった爆発する通常版3個!! そして、残りの二つは、こいつらだ!!』
『そ、それは──!?』
浮き輪とビーチパラソル
『黒刀! 爆発! 浮き輪! ビーチパラソル! これが今回俺の使う【ダーク・ガジェット】だ!!』
『正気ですの?!』
『正気だけど?』
『ふざけてますの!?』
『ふざけてます』
『ふざけてますっ?!』
私の腹筋が崩壊した。
横のティアーを見る。
過呼吸用の袋が必要そうだ。
『嘘でしょ肯定するんですの!? これ入隊試験ですのよ、分かっております!?』
『分かってるよ。けど、ティアーのせいで“見せ物”にされたでしょ』
『っ!?』
『だったら、見せ物らしく“エンターテイメント”にしてやるよ! その上で戦ってやる! さあ、ふざけまくった上で合格するか、はたまたタダの自滅でガッカリするか、見ものだなあ!!』
『こいつ、狂ってやがる!!』
『いいぞー、新人ー!!』
『はちゃめちゃにやっちゃえー!!』
『レイス様そんなやつに負けないでー!!』
『後でエンタメ部門に欲しいなアイツー!』
大袈裟に、両手を広げながらそう高らかに宣言をしたクロス。
馬鹿みたいに自分でハードルを上げまくった愚かな男。
全く、期待だけ上げさせおって……!!
レイスの実力は確かだ。試験で制限されていると言えど、勝つのは容易では無い。
そんな相手に、ふざけた武器も含めて使って戦うだと?
本当に楽しませてくれる! つまらない結果だったら後で暫く弄ってやる絶対。
『さあ、ふざけた男を合格させる準備は出来たか!!』
『世迷言を!! 無様に負かせて評価下げてやりますわ!!』
『いっくぞおおおおおおお────────!!!』
こうしてタイム明けの、クロスとレイスのワンヒットテストの続きが再開された……
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
サンタクロース改め、サタン・クロス。
「思ったより頑丈だな、このプロキシ」
支給されたプロキシがふざけたものだった上、観客に煽られた為、ふざけたまま戦う事に決めた男。
戦闘自体は真面目にこなす性格だが、同時にヒーロー活動として見栄えを意識する事もよくある。
なので実はエンタメ精神もかなり持っており、真面目に真剣勝負する戦い以外にも、盛り上げるエンタメ的な戦い方も割と好きだったりする。
テンションが上がって振り切れるとオーディエンスを意識した呼びかけをしたり、大仰に演技っぽく振る舞ったりする癖がある。
トール戦の時の煽り台詞も、この傾向が出ていた。
そして実は、呆然としながらもバカンス用ガジェットの性能は一通り確認していた。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
「い、息が……w」
ギリギリ過呼吸にならなくて済んだ女。
笑っているが、そもそもバカンス用ガジェット作った張本人。
他にも、掃除用ガジェットやその他諸々。
戦闘用以外のガジェットのプロキシデータを作成し、複製している。
【ダーク・ガジェット】の汎用性を大きく広げている。
日常のちょっとしたものから、家電製品まで。
お値段要相談!
★カイザー
22歳
172cm
紫髪
混沌・悪
【カオス・ワールド】のボス。
ティアーの幼馴染み。
「口にポカリ含んでなくて良かったな、本当」
今の状況をめっちゃ楽しみ始めた女。
実際クロスのエンタメ精神はかなり共感する所が多いらしい。
本人は真剣勝負の方が好きだが、見る分ならエンタメバトルも十分楽しむタイプ。
仮に本人がやることになっても、その時は大真面目に盛り上げる戦いをするつもり。
★レイス
20歳
162cm
紅髪
秩序・善
三幹部の一人。お嬢様口調。
通称、【次元のレイス】。
「こんなモンスター新人、どうすればいいんですの!?」
これまでの人事部経験で初となる、斜め上に狂った新人を評価することになってしまった女。
能力の応用方法は、クロスが想定した通りいくつも持っている。
試験用のプロキシ相手なら、これまでも過去に入隊試験を何度も行なっている為、殆どのパターンは経験済みだった。
つまり、試験用のプロキシを使っているだけなら、レイスの想定内にしかならない。
なんかこの新人、バカンス用使うとか言ってるんですけど。
わざと爆発させるとか言ってるんですけど。
こんなのどう相手すればいいんですの!?
★ミクス
21歳
166cm
金髪
秩序・善
三幹部の一人。丁寧語口調。
無表情系メイド。
通称、【掃除のミクス】。
「私のバカンス用プロキシ、返して貰えるんでしょうか?」
常時マイペース女。
アジトのお掃除部隊の隊長もやっている。
細々としたメイドの仕事もお任せあれ。
試験用の道具の配達や用意もメイドとしてのお仕事だった。
ちなみにバカンス用ガジェットを混ぜたのはワザと。
想定外の挙動をした時、新人がどう対応するのか確認するためにやった。
結果、それすらも利用しようとする新人に対し、只者では無いと確信。
水着を選んでる最中なのも嘘。とっくに決めている。いつでも臨戦状態。
それはそれとして、トイレのカッポンが混ざってたのはガチでうっかり。
実際掃除の時見つからなくておや? ってなっていた。
そしてバカンスを楽しみにしている事は本当。ハワイ楽しみ。
待ってて下さった皆さん、大変ありがとうございます。
感想、評価。
くれるととっても嬉しいです。