ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う?   作:新月

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沢山の感想、評価ありがとうございます!
嬉しくて、比較的早めに続きが書けました!
どうか楽しんで下さい!


3つのプロキシ、どうすれば良いと思う?

 ごめん遊ばせ、レイスです。

 目の前でふざけた宣言をしたクロスさんが、早速何かを仕掛けてこようとしていますわ。

 

「まずはこいつからだ!! スイッチオン!!」

 

 高らかに掲げた片手で、一つのプロキシのスイッチを押しましたわ。

 その瞬間、彼の目の前に現れたのは……“ビニールの浮き輪”。

 

「早速ふざけたことを有言実行ですか!! そんなもので一体何が出来ると……」

「この浮き輪のプロキシ、この時点だけで他のガジェットと“明らかに違う点”がある」

「はい?」

 

 違う点? 

 確かに普通の戦闘用とは色々違うプロキシですが、わざわざ彼が指摘するような内容とは……? 

 するとその疑問に応えるように、彼が続きを説明した。

 

「普通、俺の知ってる限り【ダーク・ガジェット】も、ヒーローの使う【ライト・ガジェット】も、起動して現れる武器や道具は基本的に“ガジェット1つにつき1個”のパターンが殆どだ」

 

 俺の“黒刀”然り、あんたの“ディメンション・ロッド”然り。

 そう言って、彼は会場中に見えるように自分の武器と、私の杖を指差しました。

 

「まあ、拳銃や弓みたいに“弾丸や矢”は別生成で例外、と言うパターンもあるにはある。けど、“この浮き輪は毛色が違う”。こうして、もう一度スイッチを押すと……」

 

 そう言って、彼は再びプロキシのスイッチを押した。

 すると、先程と同様“二つ目の浮き輪”が現れました。

 ……! なるほど、彼が言いたいのはそう言う事……! 

 

「このように、二つ目の浮き輪が出てくる。連打すれば、3つ目、4つ目も! つまり、ガジェットと道具が一対になっていない、いわば“道具を生成するガジェット”……!!」

 

『ほう。なるほど、いい着眼点だな』

『確かにねー。そう言えばあのガジェット、彼の言う例に属してるわ。他にも何種類か似たようなのは作ってたわね』

 

 遠くで、カイザー様とティアー様が感心するような声が聞こえた気がしました。

 なるほど、言われてみれば確かに特徴的な違い。ワタクシも薄々その事は知ってはいました。

 けど……

 

「ですが、それが一体どうしたと言うのです! この試験を突破するための方法になりまして!?」

「なる!」

「っ、ならどうやって!!」

「こうやって、だ!!」

 

 すると彼は、浮き輪のプロキシを片手で持って目の前に掲げる。

 そうして、もう片方の手を開けて、そちらも浮き輪のガジェットに手を近づけ……

 

 ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチィッ!!! 

 

「なあっ!??」

 

 まるでテレビゲームのコントローラーを連打するようなノリで、あまりにも馬鹿げたスイッチの連打を繰り返す彼。

 その連打に反応して、目の前にボボボボボボボボボボッッッ!!! と勢いよく浮き輪が出現されていく!! 

 20、30……いやとうに100個は超えている!! 

 もはやクロスさんの姿が隠れて見えない!? 

 気がついたら、アリーナの一角が完全に大量の浮き輪で埋れてしまっている!! 

 

『ほうほう、まるで浮き輪の小山だな。何処かの公園の噴水みたいにポンポン出てくる』

『すっごーい! 面白ーい! あれ浮き輪とは言え仮にもプロキシだから、そこそこ感情のエネルギー生成で使うし、やろうと思ってもあそこまで大量に出すの普通は難しいのに!』

 

『何あれー!?』

『いいぞ、新人ー!!』

『うっわー!? あれ入りたーい! めっちゃ遊びたーい!』

 

「なんて、馬鹿げた量!?」

 

 まさしくふざけた道具で、ふざけたことを行なった実例を見せられ、ワタクシは多少なりとも驚愕した。

 ティアー様が言っていたように、あくまで【ダーク・ガジェット】だからあそこまで一気に量を出すのは普通は不可能。

 それを難なくやったと言う事は、彼の感情のエネルギーは膨大!! 

 

「流石は、トールと引き分けた実力者。ここからが本領発揮というわけですか……!」

 

 元よりそこそこ評価はしておりましたが、この時点で彼を並の新人と同じにしてはいけないと理解しました。

 しかし、それはあくまで大量生成出来る感情エネルギーの膨大さについてのみ。

 本題は、ここからですわ! 

 

「この状況から察するに、恐らく“視界を遮る目眩し!” それが彼が浮き輪のプロキシを使った理由!」

 

 単純に浮き輪としてではなく、ワタクシから“身を隠す障害物”としての使い方! 

 なるほど確かに浮き輪といえど、柄付きでここまで量が多いとシンプルに遮蔽物として機能する! 

 物理的な攻撃を防ぐにはほぼ意味はないですが、視界さえ遮れば十分と判断したのでしょう。

 

「いい判断ではあります。もしや、ワタクシの“ディメンション・ホール”の弱点に気づいたのかしら……?」

 

 そう、ワタクシの“ディメンション・ロッド”の弱点。

 一見、どんな攻撃も跳ね返せば無敵のように思えるこの能力。

 しかし、“その穴の出現位置は、自分で設定しなければならない”と言う、欠点。

 あくまでオートではなく、セルフで座標設定する必要があるのです。

 

 つまり、もし“不意打ちでもこられたら、穴を出せずやられる”と言う可能性が残っているのです! 

 ……まあ、これが弱点ならどんな能力も大体似たような弱点は抱えているわ、といえばそうなのですが。

 

 ともかく! これでクロスさんは自分の現在位置をワタクシから隠す事が出来た。

 それを利用して、攻撃開始地点を分からなくさせれば、ワタクシにいずれ攻撃をヒットさせる可能性もゼロではない。

 ふざけた道具にしては、かなり理にかなった方法の一つではあります。

 ですが……

 

「調子に乗りすぎましたわね! 単純に浮き輪を出しすぎですわ!! もはや“あなたも浮き輪に埋もれて”います! それでは逆にあなたも身動きしづらいでしょう!」

 

 そう、浮き輪の出し過ぎ。

 おかげでクロスさん、彼は完全に浮き輪の山に埋もれています。

 単純に視界を遮る壁として扱うなら目の前で積み重ねるだけで良いのに、単純にアリーナ一角を埋めるほどの小山を築き上げています。

 確かに所詮浮き輪。移動には無理矢理押し込むだけで簡単に移動出来るでしょう。

 埋まっていてもそれは出来る、ですがそれは……

 

 そう思っていると、案の定“浮き輪の山の一角が動き出した”。

 あそこですわ! 

 

「あなたが動けば、浮き輪も山も動く! 結局“自分の場所を知らせている”ようなものですわ!!」

 

 ワタクシはロッドを構えて、クロスさんが出てくる場所に体を向けた。

 位置は大体、ワタクシ視点で先ほどまでクロスさんがいた場所から、かなり右側の方! 

 

「ずいぶん高速で移動しているようですが、結局は意味の無い目眩し! 残念でしたわね!」

 

 こうして、ワタクシは浮き輪の山から現れるであろうクロスさんを待ち構え……

 

 “飛ぶ斬撃”が浮き輪を押し除けて現れた。

 

「……へ?」

 

 それは、クロスさんが現れて攻撃してきた、わけではない。

 単純に、“小山の中から斬撃だけが現れた”。

 しかも飛ぶ方角が、全然ワタクシに向かわない関係ない方向。

 

 一体どういう……そう考える前に、ワタクシから見て“左側に現れる黒い鎧”。

 っ!!? 

 そこからすかさず、無言で放たれる“飛ぶ斬撃!!

 

「っ、“ディメンション・ホールッ!!”」

 

 ギリギリで必殺技が間に合い、攻撃を避けたワタクシ。

 気付いたら、最初に飛ぶ斬撃が出てきた場所から“反対側”に彼が現れておりました!! 

 

「ッチ! 躱されたか!」

「っク! シンプルな陽動!? あまりにも簡単に引っかかってしまいましたわ!!」

 

 浮き輪の山で動きを分かりやすくしたのはワザと! 

 最初の右側の飛ぶ斬撃、あれは恐らく“セレクト・エッジ”で“浮き輪を斬らない”設定にして、ワザと押し除けた! 

 ワタクシから見て、あたかもそこから彼が現れると思わせられるように! 

 

 というかアイツ、さり気なく“無言で必殺技”放ちましたわね!? 

 ずっと掛け声が必要なように見せかけて、今ここでの完全無詠唱、というか無言! 完全に不意打ち狙い! 

 そりゃワタクシも出来るっちゃ出来ますが、ずっと素人っぽく見せかけて、騙す気満々でしたわね!? 

 

「流石にこれくらいじゃ決まらないか! なら、もう一回!!」ポチポチポチ

 

 そう言って、彼は再び浮き輪のガジェットを連打。

 再び浮き輪の小山が作られて行きました。

 その後十分な量とサイズになった後……暫くして、また浮き輪の山の一部が動き出す。

 先ほどと同様、“飛ぶ斬撃”のみが現れます。

 右側、そして左側、そして真ん中……どれも“飛ぶ斬撃”のみ! 

 フェイクをずっと打ち続けて、いつ本体がやってくるか分からない! 

 

「ッく! シンプルに隠れられるのが面倒臭いですわ!!」

 

 いっその事、単純にあの浮き輪の山ごと“範囲攻撃で一掃”出来れば良いのだが、今回のルールだとワタクシの手持ちの装備とこの環境ではそれが出来ない。

 アリーナ外に繋げられるなら、いくらでも範囲攻撃は出せるのに……明確に入隊試験のルールとして制限されてしまった部分だ。

 基本的に今回のワタクシ防衛メインですから、攻めに転ずるのが凄くやりづらい……! 

 試験官として自身に課したハンデとは言え、これほどこのルールで戦いづらさを感じたのは久しいですわ! 

 

「とにかく、“動く浮き輪の山の全体を注意!” そうすれば、不意打ちはされませんわ!」

 

 例えそれが陽動だったとしても、その直後に本命の本体を混ぜる筈! 

 基本的に、動いた浮き輪の山の反対側から現れる可能性が高いから、決してその場所だけを見ないように、全体を把握! 

 もちろん、裏をかいて“動いた浮き輪の山の近く”から現れることも考えられるから、あらゆる状況を想定して……──直後。

 

 “浮き輪の山が一切動かず”、“貫通する”飛ぶ斬撃が。

 

 最短最速で、真正面に私に向かって放たれた。

 

「──ッ?!!」

 

 ワタクシは“ディメンション・ホール”を使う暇も無いくらいに、反射的に横に飛ぶように倒れ込んだ。

 ワタクシのいた場所を、“飛ぶ斬撃”が通っていく。

 ふと浮き輪の山の方を見ると、“浮き輪だった割れたビニール”の一角から、彼が歩いて現れた。

 

「アレ? あれでも喰らってなかったか。くそう、結構いい不意をつけたと思ったんだけどな」

「……っ!」

 

 やられた、印象付けられてましたのね!? 

 “セレクト・エッジ”の“斬らない”設定で、浮き輪の山の一角を動かしているという方法を何度も見せつけて! 浮き輪の山が動いてから来るだろうと思わせて! 

 その後、“斬る”設定で最短最速でワタクシに向かって攻撃する事で、浮き輪の山の中から直接不意打ち攻撃を出した!! 

 風船と違って、張り詰めていないビニールですもの! 斬ったとしても、その鋭さで殆ど破裂音すら響かなかった! 

 

 まるで手加減しか意味の無かったように見える“セレクト・エッジ”の斬る対象の設定、それの使い分けを見事に活かした方法! 

 

「……正直、ここまでの作戦お見事ですわ、と褒めますわ」

「そうか、普通にありがとう。素直に受け止めるな」

「ですが、タネが割れた以上、そう簡単には次は引っ掛かりませ」

 

「じゃあ、別の手使うわ」

「は?」

 

 そう言って、彼は浮き輪のプロキシを直ぐにしまい、別のプロキシを取り出した。

 浮き輪では無いという事は、爆発かビーチパラソル、そのどちらか。

 一体、次は何を……? 

 

「ところで、世間話程度の話なんだけどさ」

「ん?」

「ドラゴン○ールの桃○白(タオ〇〇パイ)って知ってる?」

「……は?」

 

 ……なんで急に漫画の話題? 

 いえ、そのネタは分かりますわ。ネットで流行っていた、柱を壊して飛ばして、その上に乗って空を飛んでいくという一場面。

 漫画らしい、ハッタリのある面白いネタ……

 

 

「──それ、“飛ぶ斬撃でやれたら、面白いと思わない?”」

 

 

 ──は? 

 

 それを、“黒刀”をブラブラさせて見せながら、言い出す彼。

 ──は? 

 えっと、何? じゃあ、なんですの? 

 

 ……“飛ばした斬撃に乗るつもり、ですの!?

 

「理屈は行けると思うんだよな。“セレクト・エッジ”、一応物理衝撃の実体あるから手で触れるし、乗るのはともかく、掴むだけなら……」

「いや、そんな馬鹿げた事!? そういう前提の能力ならともかく、そんな事は!?」

「うん、無理だな。流石に俺も、飛ばした斬撃に直ぐに追いついて掴むなんて事は速さ的に出来ないし。片手で放ってもう片方で直ぐ掴むとしても、体制に無理が生じ過ぎる」

 

 ワタクシが否定すると、あっさり肯定するクロスさん。

 そのあっさりさに、じゃあ今のフリはなんだったんだ、と思っていると……

 

「けど──……これなら、どうよ」

 

 そう言って、彼はさっき取り出したプロキシを一つ起動した。

 それは、“ビーチパラソル”だった。

 傘の部分が、開いたら彼一人の身長を超えるほどの幅のある大きなパラソル。

 それが彼自身から見て、真正面斜め上に向けて開いていた。

 

「もう片方の手で掴めない。すなわち、“腕の長さが足りない”。じゃあ逆に、“腕の長さを代わりで補えたら……?”」

「……まさか!?」

「そのまさかだ! “セレクト・エッジ!” (非切断モード)」

 

 その言葉の直後、彼は文字通り“飛び上がった”──。

 

 大きなビーチパラソルを片手で掴んで、まるでそれに引っ張られるように凄い勢いで飛んでくる! 

 まるで台風に傘があおられて人が飛んでいくように! 

 

『ははははは!? 絵面が面白すぎだろう!?』

『うっそマジで!? そりゃあ頑丈に作りすぎて、逆に強風で飛ばされたら危ないよとは注意した事はあるけど!! けど強風の代わりに、斬撃って!? あははははっ?!』

 

『鎧男が、パラソルで降ってくる笑』

『カー○ィのパラソルだー!』

『親方、空からー!』

『男だな』

『最低なジ○リ再現!!』

『うわ、私もやってみたーい!?』

 

「ふざけすぎにも、ほどがありますわぁー!?」

 

 嘘でしょ、なんで傘で空を飛ぶなんてメルヘン発想を実現出来ますの!? 

 さっきの漫画の前フリはこの為!? 

 

 そうこう驚愕している内に、彼が自由落下に入ってこっちに向かってきてる!? 

 くう、驚きましたが、逆に言えば空中だと身動き取れないでしょう!! 

 

「近づけませんわ! “ディメンション・ホール!!”」

 

 彼の予想落下地点に、ワタクシは“”の片方を開ける。

 もう片方は、離れた位置に開いている。

 入ったら一気に距離を離せますわ! そうしたら仕切り直し! 

 

「“ビーチパラソル”OFF! そして“再度展開”!」

「ッ!? “減速”!?」

 

 しかしその考えを読まれたのか、彼に対策されました。

 引っ張られる方向に展開していたビーチパラソルを一旦しまい、進行方向とは逆方向に傘の部分を開く。

 まるで着陸するスペースシャトルのパラシュートのように!! 

 

 空中に展開していた“”の手前で減速し、彼は何もない所に飛び降りた。

 そしてそのままパラソルをしまい、ワタクシに向かって走り出す!! 

 もう距離が3mも無い!! 

 急いで“ディメンション・ホール”の解除! それは出来ましたが、再展開が間に合わない!? 

 

「“セレクト・エッジィ!!”」

「く、はあアア──ッ!!!」

 

 ワタクシは最早、直感のみにしたがってその“飛ぶ斬撃”を回避する。

 この程度の逆境、“カイザー様との模擬戦”でなんでも経験しておりますわ!! 舐めないで下さいます!? 

 

 そうして、必殺技はギリ避け切れた。しかし最早ここまで接近した彼に、“ディメンション・ホール”のみを利用した反撃はかなり難しい。

 ならば……! 

 

「接近すれば勝てると思いまして!? 甘いですわ!」

 

 そうして、ワタクシはロッドを“逆さ”に持ち直し構えた。

 先の尖った方を相手に向けて、それを“振る”。

 特別な能力が発生するとかではなく、ただ杖を打撲武器として振るう。

 いざという時のために、棒術の訓練はしておりますの! 

 能力頼りの女だとは思わないで下さいまし! 

 

 接近してきた彼に向かって、逆にこちらからワンステップで近づく。

 互いの接近により、急激に縮んだ距離。

 今度はこちらが不意をつく番! 

 

 狙いは頭部の鎧の“”の隙間!! 

 実際に入りきらなくとも、一瞬怯ませるだけでいい! 

 彼の体勢を少しでも崩せれば、そこから“ディメンション・ホール”に落とせて距離を取れる! 

 例え躱されたとしても、すれ違う勢いでそのまま距離を取ればよし! 

 その明確な狙いをもって放たれた杖による攻撃は──

 

「せいっ!」

 “目の前に開かれた、ビーチパラソル”によって阻まれた。

 

「っ!! パラソルでガード!?」

 

 ワタクシの状況を打破する攻撃が、迎撃でも回避でもなく、完璧に防がれた。

 ワタクシに向けて横に開いたパラソルが、杖の先端を難なく受け止め、逸らし、攻撃をいなされた。

 ック! 流石は仮にもプロキシ! 布の部分も頑丈さが並ではありませんわね!! 

 こちらの狙いが外れました。ですが、これはこれで好機! 

 このパラソルのせいで、逆に相手もこちらの様子がよく見えない筈! 

 今のうちに距離を取るか、“ディメンション・ホール”の再展開を……! 

 

 ──音もなく。

 

 その傘の布の一部から、突き出される黒刀──!! 

 

「──あっぶなッ?!!」

「ちい!? あたらなかったか!?」

 

 避けれたのは、ほぼほぼ奇跡だった。

 心臓に向かって突き出されたそれを、たまたまこちらの体勢が良かったから避け切れただけで、ほぼほぼ運だった。

 傘を盾に見立てて、攻撃が通らないと思い込ませたところで、黒刀の貫通──! 

 飛ぶ斬撃では無いが、恐らくこれも“セレクト・エッジ”の応用!! 

 さっきの空中移動の時とは逆に、“傘を切り裂く斬撃”で貫通した攻撃を放ってきた!? 

 プロキシ製の布を貫通するほどの鋭さを伴って!! 

 

 さっきの浮き輪の時といい、パラソルを使って“セレクト・エッジ”の設定切り替えをフル活用してきている!! 

 そうこう考えているうちに、突き刺された黒刀が引き抜かれ、また新たな箇所から突き出される!? 

 させません! 

 ワタクシはとっさにバックステップで距離を取りました! 

 これで傘越しに黒刀が突き出されても、距離を縮めなければもう届かない筈です! 

 

「っ、致し方ありませんわね……」

 

 ワタクシは、“クロスさんを移動させる事を諦めた”。

 そもそも、“ディメンション・ホール”で相手だけを動かす必要は全く無い。

 それは、自分自身に対しても有効だ。つまり……

 

 ワタクシ自身が、“”に入って距離を取る。

 

 そうすれば、一旦距離を取って仕切り直し出来る。

 入隊試験だから序盤は自重していた方法だが、もう解禁してもいいだろう。

 幸い、まだ彼はパラソルを開いたまま。

 視界でこちらの様子が直接見づらい以上、どうしても一瞬対応は遅れる筈。

 

 こうして、ワタクシはこっそり近くに“”を開け──

 

 

 

突如、傘ごと突っ込んでくる衝撃!! 

 

 

「はぐぅッ!?」

「っ飛べえ!!」

 

 ビーチパラソルが、超高速で横移動したまま突っ込んで来た!? 

 これは、所謂シールド・バッシュ……?! 盾ごと突っ込んで相手の体勢を崩す技術!! 

 まさかさっきの彼の空中移動、あれをそのまま横移動に使われた!? 

 

 ワタクシはそのまま背後に押し出され、アリーナの壁に衝突させられました!! 

 肺から息が押し出される! つぅ、しまった!? 

 “ディメンション・ロッド”で開けた穴が遠くに展開されたまま。一旦解除しなければならない。

 なのに、完全に壁に追い詰められ、パラソル越しに押し当てられてる! 

 その反対側には、もちろん彼が立っている!! 

 

 つまり、“パラソルを黒刀で突き刺し放題”!! 

 

「トドメェー!!」

 

 っ!! し、仕方ありませんわ!! 

 彼の掛け声が響く瞬間、ワタクシは無意識の些細なプライドを捨て去り、懐から“二つ目”のガジェットを取り出した。

 その効果で、“ワタクシの背後に大穴が開く”。

 

「っはあッ!? はあっはあッはあッ……!!」

 

 ワタクシは背中から倒れ込むように“”に落ち、アリーナ内の別の場所に出た。

 彼の黒刀は、寝ているワタクシの真上で止まっている。

 そして、それが引き抜かれていった。

 

 あ、危なかったですわ……“ディメンション・ロッド”、その二つ目。それを切らされるなんて……

 

【ダーク・ガジェット】は、複数持ちが基本。ティアー様が普段からおっしゃってる言葉です。

【ライト・ガジェット】と違って量産品なのだから、壊れた時用に常に二つ持ち。あるいはもっと複数を持ち歩くように、と。

 今回はその教えに助けられました。

 

 ワタクシの本来のスタイルは“ディメンション・ロッド”二刀流。予備も含めれば、4つの【ダーク・ガジェット】を持っております。

 試験だから一つしか使っておりませんでしたが……使わざるを得ませんでしたね。

 この点は素直に彼を評価すべきでしょう。ここまで追い詰めた彼を称えて。

 

 さて、落ち着いてる暇はまだありません。この思考の時間も一瞬しか経っておりません。

 まだ“”が繋がっている以上、彼が“”を通って追いかけてくる可能性があります。

 念の為、背後に開けた“”の大きさは人が通れる最小限。

 パラソルで視界が塞がっている以上、ワタクシが“”を開けて移動したとはまだ気付いていない筈。

 もし違和感を感じたとしても、パラソルを閉じるか解除しない限り、取れる方法は限られてる。

 完全に気づかれる前に、穴を一旦解除……

 

 すると、パラソルからまた“何か”突き出される。

 また黒刀ですの? やぶれかぶれに適当に刺してます? 

 

 ……いえ、待ちなさい。黒刀じゃない、腕? 手に“何か”持っている。

 プロキシの待機状態? 

 マークが見えないから分かりづらいが、浮き輪? ビーチパラソルは今使っている。残りは……

 

 

 思考を強制終了。無意識で全力で反射行動に移る。

 

 ワタクシは予備の3つ目の“ディメンション・ロッド”を使い、全力で防御した。

 

 

 

 直後、アリーナの一画で、大爆発が起きる────

 

 

 

 ☆★☆

 

 ──観客席。カイザー側。

 

「……黒刀でビーチパラソルに開けた穴から、腕だけを通して“通常盤”を起動。そして、大爆発させて辺りを一掃。自身はビーチパラソルで、腕以外大したダメージを受けない、と……」

 

 ……く、く、くくくっ。

 

 こみ上げる笑いが抑えられん、この場で拍手喝采をしたい気分だ。

 なんてやつだ、サンタクロース。もといクロス。

 宣言通り、あのふざけたラインナップでよくここまで面白おかしく戦えるものだ。

 

 というか、傘に開けた穴すら利用するってなんだ。

 活用方法を隅々までしゃぶり尽くすつもりか。

 

 浮き輪を、無限に出せる遮蔽物、及び自己位置の誤認に利用。

 ビーチパラソルを、飛行道具、兼盾として活用。攻撃を隠す視界遮断でもある。

 

 そして、その二つを活用するために基本となる“セレクト・エッジ”。

 

 斬る、斬らないの設定の切り替えで、フェイント含め攻撃のバリエーションを限りなく広くしている。

 プロキシを使う前と後で、先述の幅が桁違いだ。

 レイスにしてみれば、さぞ急にやりづらくなっただろうよ。

 ただただ真っ正面から斬撃を飛ばしてくるだけの相手が、あの手この手でユニークな戦法を叩きつけてくるようになったのだからな。

 そのギャップで対応がどうしても遅れる。

 

 しかもあの戦法、相手からすれば常に何が来るのか考えさせられるのが酷い。

 さっきの浮き輪のフェイントだと、本体かフェイントか。はたまた無音の直接攻撃か。

 ビーチパラソルだと、傘越しの貫通か、シールドバッシュ。

 どちらが来るのか、常に思考リソースを割かれてしまう状態だ。

 

 トリックがバレても、常に“二択以上の選択肢”を相手に提示させ続ける。

 相手の思考の余裕を無くし、パンク状態にして対応を後手後手にさせる。

 なんともまあ意識してなのか、無意識なのか。

 なかなかいい性格な戦闘方法をしているな。

 

 思考リソースの余裕とは、案外馬鹿にしてはいけない。

 その余裕が無くなれば無くなるほど、想定外の状況に対して対応が遅れる可能性が高くなる。

 だから戦闘において、術や技と言った型づけは、大きな意味を持つ。

 思考リソースを割かず、効率的な動きを体に染み込ませ、反射でとっさに動かせるようにする。

 それは戦闘において、自身の余裕に大いにつながる。

 常にあーだこーだ考えているようでは、とっさの行動に一手二手遅れてしまうからな。

 

 特にレイスのあの“ディメンション・ロッド”。元から思考リソースかなり喰う能力だからな。

 戦闘中にかなり色々な状況を想定して使わないと使いこなせないタイプだ。

 そう思って少しでも余裕を持たせるために、普段から“レイスと模擬戦”をやっていて正解だったな。

 無意識の対処法を体に覚え込ませたおかげで、無事乗り切った窮地がいくつもあった。

 それがなかったら、とっくにクロスが試験課題をクリアして勝っていただろう。

 

「うっわー……よくあんな斜め上の使い方思いつけるわね。まさしくエンタメね」

「見せ物としては、大成功じゃないかティアー?」

「ええ! ここまでだけでもめっちゃ盛り上がったわ!」

 

 けど……と、ティアーが言い始める。

 

「ギリギリ、レイスちゃん逃げ切れたわよね。予備のガジェット起動してたし」

「ああ、あそこらへんにいるな」

 

 我が指を刺した位置の先に、レイスは立っていた。

 荒い呼吸を吐いており、ドレスが多少煤けているが、致命的なダメージが衣装に入った様子は無い。

 まだ試験は続行といった所だろう。

 

「ここまで観てどう、カイちゃん? 試合前はレイスちゃんが勝つ方に賭けてたけど、結局どっちが勝ちそう?」

「さてな。我が直々に面倒を見たレイスの方に勝ってもらいたいが……開き直ったクロスも中々だからな」

 

 我はティーカップにポカリを入れて、一口飲む。

 喉を潤した後に、言葉を続けた。

 

「見たところ、レイスはここから【ダーク・ガジェット】二刀流を解禁するだろう。場合によっては、3つ目、4つ目も。そうなれば、だいぶ戦いはやりやすくなる」

「単純に、手数が二倍になるもんね」

「それもそうだが……」

 

 先ほど我は、思考リソースについて考察をしていた。

 それは戦闘に大きく影響を与えるものだ。

 だが……

 

「考えてみろ。レイスは人事部門担当。元より、“普段から思考する事が多い”」

「あー」

 

 クロス、確かに貴様の発想力には驚いた。

 そのおかげで、ここまで優勢に戦えていると言えよう。

 怒涛の新戦法で、レイスの対応を後手後手に出来ているのが理由だ。

 

 ……しかし、それが尽きたら? 

 

 先ほど、タネの割れた二択でも思考リソースを奪えるとは考えた。

 しかし、レイスに対してはどうだろうか? 答えは、“効果が薄まる”、だ。

 既にタネの割れた選択だけで、思考リソース勝負になれば、“いずれ不利になるのは貴様”になる。

 現に、ここまで優勢に戦えているのに、トドメを刺し切れていないのがそれだ。

 レイスの残っている思考リソースが、無意識に危機的状況の回避手段を選択させているのが真相だ。

 

 元より、思考リソースが割かれる能力の使い手。

 その彼女が本領発揮するのは、より手数が多くなった時。

 すなわち……二刀流を解禁してから。

 

「さて、レイスの本領が発揮するか……はたまた、クロスの発想力がさらに上回るか」

 

 まだまだワクワクさせてくれよ? 

 我はそう思い、再びティーカップに口元を近づけた……

 


 

 ★佐藤聖夜(さとうせいや)

 23歳

 175cm

 黒髪

 中立・善

 

 主人公

【ジャスティス戦隊】のレッド。

 サンタクロース改め、サタン・クロス。

 

「グリーンさんに鍛えられたお陰です」

 

 今回本当にめちゃくちゃやった主人公。

 元々、自分の武器以外の道具を使う戦法は、実はグリーンに習っていた。

 習ったというか、体に叩き込まれたというか……

 彼に対抗するために、自然と自分もメイン武器以外の活用方法を習得していた。

 実は【ジャスティス戦隊】の使う武器類だと、大体どれも使いこなせる。

 

 

 ★天野涙(あまのるい)

 22歳

 168cm

 青髪

 混沌・善

 

【ジャスティス戦隊】のブルー。

 兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。

 

「某少年探偵の過去の映画でも見た?」

 

 最後の爆発の時の傘を見てそう思った人。

 バカンス用ガジェットの仕様を考えた張本人。

 浮き輪が増えるのは、単純に一個でたくさん他に使う人を賄うためように設定した。

 ビーチパラソルも壊れないようにしっかり頑丈に作った。

 しかももし万が一壊れても、再展開で修正可能。ハイテク。

 

 なぜ【ライト・ガジェット】に自動修復機能無いんだろうと思っている。

 

 

 ★カイザー

 22歳

 172cm

 紫髪

 混沌・悪

 

【カオス・ワールド】のボス。

 ティアーの幼馴染み。

 

「レイスは我が育てた。というか幹部3人とも」

「私も関わってるわよ、勿論!」

 

 現在の三幹部を拾った張本人。

 戦闘の特訓も、カイザー自ら行っている。

 ティアーも特訓の手伝いをしているが、メインは一応カイザー。

 それぞれ人によって得意分野が違うことを把握しているため、それぞれの能力に合わせて伸ばすよう指示している。

 

 三幹部のプロキシも勿論存在しているため、カイザー自ら使う事も。

 

 

 ★レイス

 20歳

 162cm

 紅髪

 秩序・善

 

 三幹部の一人。お嬢様口調。

 通称、【次元のレイス】。

 

「……そろそろ、試験用の戦法とか言ってられなくなって来ましたわね」

 

 斜め上の発想力で、大分押されてた人。

 割とかなり危うい場面がかなり多く、奇跡的に生存……

 に、見せかけて。カイザーとの特訓で培った逆境慣れのおかげで、無意識に乗り切ってる人。

 追い詰めてると油断すると、返り討ちに遭うタイプ。

 

 ここまで戦法を“ディメンション・ロッド”1つ。そして“座標固定”を制限して来た。

 ここからは、その制限を解除するつもり。

 

 発想力が凄い? 

 ならば、ワタクシの経験による技と、どちらが上かしら? 

 

 ちなみにカブトムシとか割と平気。

 




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