ウチの戦隊ブルーが悪の女幹部として配信してるんだけど、どうすれば良いと思う? 作:新月
『よっしゃあ! 終わったぁ! どうだみんな、楽しめたか!?』
『何が楽しめたかだこのヤロー!?』
『楽しかったー!!』
『このど外道ー!!』
『めっちゃ面白かったぜー!』
『映画のワンシーン見てるみたいだったー!』
『アンタめっちゃ嫌いー!!』
『めっちゃ大好きー!!』
『腐れ野郎ー!?』
『ヒーローに倒されろー!!』
『配信映えしそうー!』
『アーカイブ残してー!』
『また見たーい!』
ワタクシの敗北、兼、試験終了の通告を受けて、クロスさんはマイクパフォーマンスで観客席にそう呼びかけました。
称賛、罵倒、応援、否定、拍手。様々な声が上げられていますが、その大半に共通するのは……楽しかった、面白かったと言った、感動の要素でしょう。
プラスでも、マイナスの面でも、人々の心に衝撃と印象を残した。
ティアー様の見せ物にしよう、と言う目的はこの上なく果たされた、と言ってもいいでしょう。
その上でワタクシの目的も、ある程度完了致しました。
これ以上の試験は、やや蛇足。
──だからこそ、やらねばならない。
ワタクシは、マイクに再度口元を近づけて、声を出す。
『……ワンヒットテストの終了、改めてお疲れ様でした。クロスさん』
『ああ、本当にな! めっちゃ大変だったぜ……』
『ふふ、それはご愁傷様でした……そんなあなたに、お伝えしたいことがあります』
『えー、何ー? ……いや待て、まさか──“まだ試験全部終わってない?”』
その一瞬震えたような声色に、ワタクシはちょっとだけ気分は良くなり。
『……ふふふ♪ そう言いたい所ですが、ワタクシが見るべきところは大体見れました。ほぼほぼ、入隊試験は終了してもよろしい段階でしょう』
『なんだ、よく聞いたら微妙に含んだその言い方。マジで終わって無いのか……? もういいよ、休みてーよ、これでもかなり神経使って作戦実行してたんだぞ、連続キチーよもう……』
『安心なさい。どちらかと言うと、通達事項の連絡ですわ』
『連絡?』
『端末をご覧なさい』
〜〜♪ 〜〜♪♪
そう言ってから、ワタクシも端末を取り出し、“とあるデータ”を彼に送る。
彼の端末から着信音が鳴った後、彼は素直に端末を取り出して操作し始めた。
彼が見た端末には、こう表示されていた。
▽@@@@@@@@@@@@@@@@@@▽
<新規クエスト一覧>
ミッション:次元のレイスとの再戦
報 酬:受注報酬・100,000pt
勝利報酬・1,000,000pt
場 所:アリーナ
日程 :○月▲■日(約1週間後)
10:00集合
依頼主:三幹部・次元のレイス
返答期限:今から10分以内
違約金:後日ペナルティとして講習受講義務
備 考:ワタクシと別日に再戦して頂きます。
ルールは決闘仕様。詳細は別ページ参照。
時間厳守、遅刻は違約金発生となります。
受注しますか? YES/NO
△@@@@@@@@@@@@@@@@@@△
『これは……?』
『見ての通り、“依頼書”ですわ。【カオス・ワールド】で今後受けて頂く謂わばクエスト。その一例として、ワタクシからあなたに依頼を送りました』
ワタクシが送った画面の情報が、会場中に見えるようアリーナのディスプレイに標示される。
受注するだけでも、条件無しの100,000pt取得。
その破格ともいえる情報に、会場中がざわめき始めた。
『見ての通り、成否問わず、受注するだけで100,000pt。新入隊員の初期ptが200と考えたら、かなりの数値でしょう?』
『ああ、そうだな。……そう言われると逆に何かの詐欺メールにしか見えないけどな』
『安心なさい、ワタクシ自身が出した正真正銘の依頼です。通達事項とは、その依頼書です。高めの報酬は新入隊員の入隊祝いがわりです。……その依頼、受けるかどうかこの場で決めてください』
『ふーん』
そう言って、彼はあまり関心のないように端末をジロジロと見直し……
『──ちなみに。この依頼書自体が、無警戒に受けたら評価が下がる“詐欺メール警戒のセキュリティ試験”だったり?』
『その“警戒意識自体は花丸”ですが、違いますわ』
……ま。“当たらずとも、遠からず”と行ったところではありますが。
そう、セキュリティ意識はともかく、これも入隊試験……いえ、“洗礼”と言えるでしょう。
受ける、受けないの選択はあまり関係ない。
ワタクシの、本気というものを教え込むだけの──
『それで、受けますの? 今すぐこの場で決めてくださいまし』
『ふーん。ここタップすればいいの?』
『ええ。お願いしますわ』
『じゃあ、ポチッと』
そうして、彼は“選択”した。
その選択結果が、電光掲示板にも標示される。
選んだのは────
──“NO”
ザワ、ザワ……
その選択結果に、会場中が細やかに騒然とした。
この破格の依頼に対して、だ。
『……理由を聞いても? 』
『ああ、その答えは単純だ』
『──“次は俺が絶対勝てない”からだ』
その宣言に、今度ははっきりと会場中に動揺が走った。
先ほどの試合を見ていた彼らだからこそ、余計に。
『あら、ずいぶん自信がありませんのね? 仮にも試験とは言え、“ワタクシに勝った貴方”の答えとは思えない。うまく行けば、かなりの確率で成功報酬も手に入れ──』
『“受注報酬すら、払う気ないだろお前”』
『っ!』
『え? マジで? レイス様?』
『それ本当に詐欺じゃん?』
『レイス様? 嘘でしょ?』
観客席から、そのような声がもれてきた。
──だが、その数は全体の数に対して、“少数”だ。
そんな意見を言った一部の彼らに対して、その他の大勢が“生暖かい視線”を向けている。
ワタクシは素知らぬ顔を作りながら、返答をしていった。
『……何を根拠に。そんな事したら、ワタクシの幹部としての威厳が丸潰れですわ。そんなリスクを犯すとでも──』
『根拠は、この“違約金”って部分だな。さらっと書かれていてつい読み飛ばしそうになるが、これが一番重要なんだろ。だからワザワザ備考欄にも書いてある。このクエストの仕様をよく分かっていないが、もし違約金発生ってなるなら、当然正規報酬の方はゼロだろうな。となれば……』
そう言って、彼はマイクに向かってハッキリと。
『──“当日指定時間への到達不可”。それによる違約金発生による、“講習受講”。それがアンタの狙いだ』
──その宣言に、ワタクシはつい口元が歪みそうになり。
『何を言いますの? まるであなたが絶対遅刻するような物言い。ここまでの試験であなたの性格は多少把握しております。そんな無責任な行為をするような方では無いとよく分かって……』
『“ディメンション・ホール”で、“遥か遠くに俺を捨てれば確実”だろうな。会場に着く前に』
ワタクシは、ついピタッと動作が止まってしまう。
彼はヘルム越しに、後頭部をガシガシ掻きながら説明を始めていた。
『そもそもの話。さっきアンタは俺が試験で勝ったとは言ったけど。“本気ではあったけど、全力では無かっただろお前”。分かりやすいのは、
『……それが何か? カイザー様から授けられた詰み技としては、かなりの完成度だと思いますが』
『ああ、そうだな。けど、アンタは試験中、こう言ってたよな』
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「……“距離は?” その穴の有向射程距離はどうなってる?」
「オホホ。──目視範囲は勿論、“座標さえ分かっていれば地球の裏側だって直ぐ”ですわ」
△==================================△
『っと。座標設定の難易度までは把握してないが、これが事実なら。────そもそも、“遥か上空に俺を飛ばすだけで事足りる”技だろう、あれは』
『っ』
『自由落下の到達時間がどうたら言ってたが、“アリーナ外のはるか高く上空”にでもつなげれば、あんなループ状にしなくても済む話だ。そんな回りくどい方法をする必要がねーんだよ』
『……目視範囲だからこそ、“消費エネルギーが少ないと言うメリット”があるかもしれませんわよ?』
『かもな。だが、そっちが本命の理由じゃ無いだろう? ワザワザアンタがその方法を使ったのは、“ルールを守るため”、と言う側面が大きいように思える。“アリーナ内での戦闘に限る”と言うルールをな』
だから、と彼は言い……
『──距離制限を無くしたアンタは、無法の領域だ。その能力の悪用方法は嫌と言うほど思いつく。バリア外につなげて換気したり。海につなげて、この場所を海水で満たして消火したり。それこそ、もっとシンプルに。“俺をアリーナ外に転移させて場外判定負け”扱いにも出来たはずだ』
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「また、フィールドより外には出ないで下さい。壁まででしたら大丈夫ですが、外につながる通路には入らない事。この場所から退場したら、リタイアと見做します」
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『……分かるだろ? アンタは試験官として、能力をセルフ縛りしていただけ。その制限を取っ払えば、そもそも最初から今の俺に勝ち目は無かった。“強制リタイア”させれば済む話だからだ。つまり──』
『戦いの勝ち負けじゃ無い。“戦いそのものが成立しない”。それがアンタの“ディメンション・ホール”の本当の真骨頂だ』
……その宣言に、会場中が一瞬シン……と、静かになる。
その上で、彼は会話を続け。
『このクエストはそれを思い知らせる為だろう? “戦いの戦場自体に立たせて貰えない”。それを経験させる為のフェイククエスト。だから違約金が講習受講なんてものになってる。それを説明するために。違うか?』
……ああ、本当に。
『……お見事ですわ』
ワタクシはマイク越しに、そう呟く。
ええ、ええ。これこそが、入隊試験の本当の最終試験、もとい“洗礼”。
“戦いそのものをさせてくれない状況があることを教え込むこと”。これこそが真の目的。
ワタクシは端末を操作して、彼にデータを送る。
彼の画面には、こう標示されているだろう。
==========
サタン・クロス
+100,000pt
==========
『入隊試験の成績優秀者の、臨時ボーナスですわ。ご褒美を差し上げませんと』
『と、言う事は……』
『ええ。──“これにて、全ての入隊試験の完了を宣言致します”。詳細結果は、後日知らせます。今度こそ本当に、お疲れ様でした』
──その宣言とともに、一人のパチッパチッとした拍手が鳴り響いた。
その方は──
『いやはや、とても面白い“見せ物”だったよ、二人とも』
『カイザー様……』
『カイザー……』
カイザー様は、VIP席から立ち上がった状態で、あの方もマイクを持って話を始めていた。
声を掛けたのは、クロスさんへ。
『どうだ、クロス。実際に試験とは言え、三幹部の一人と戦った感想は?』
それに対し、彼も応え始めた。
何やらややムスッとした態度で。
『戦い、ねえ。正直本当に試験でしか無かったから、としか言えないな。ルールの範囲内としては俺が勝ったって自信を持って言えるが、カタログスペックの総合力では大きく俺が劣っていた。文字通り、“手のひらにいた”気分だよ』
『クックック、ああそうだろう。試合にはお前は勝った。だが、勝負では負けた、ならぬ、“勝ち目そのものが無かった”、と言ったところか。ああ、この際言っておこう』
改めて、そのような前置きをした後、カイザー様が説明した。
会場の観客席の皆様含めて、思い知らしめるように。
『三幹部と呼ばれる彼女たちだが。その地位にいる理由は、何も戦闘の強さ、事務能力の高さ……と言うだけでは無い。選定基準はいろいろあるが、そのうちの一つは……』
『──“戦いそのものを成立させない強み”。それは能力だったり、純粋な技術だったり。方向性は各々違うが、この基準を越えたものを、その地位に着かせたつもりだ』
その言葉に、クロスさんはわずかに固まった。
その強みを、説明した彼ならよく実感しているだろうから。
『これこそが三幹部! 【カオス・ワールド】の自慢のトップ層!! 我が選んだ、最高の配下であり、同士たちだ! 貴様らは、そのような傑物たちがいる組織に所属している!!』
あの方は、バッと両腕を広げて、大仰に叫んだ。
『さあ、強くなれ! 成り上がれ! 成長次第では、新たな“三幹部に並ぶ枠”を作ることも約束しよう!』
おお!? と会場中が沸き立った。
新たな幹部となれる可能性を提示され、興奮しないものはこの場にいない。
『さあ、この【カオス・ワールド】で己が夢を掴め!! その頑張りに、我らが組織は答えよう!! アーッハッハッハッハ!!』
そうして、高笑いを上げた後。
スッとテンションを落ち着かせ。
『……我からは以上だ。あとはティアー、頼んだ』
『はーい! これで入隊試験は終了! よって、“見せ物”も終わったわ! 全員、かいさーん! お疲れー! 順番に帰ってねー!』
あ、そうだ! と、ティアー様がいい。
『サタン・クロス君!』
『うん?』
『──改めて、入隊おめでとう! 【カオス・ワールド】は歓迎するわ!』
『……ああ、ありがとう』
そうして、ティアー様が解散の指示を出した。
会場中が楽しかったねー、面白かった、などと言葉を漏らしながら、帰り支度をし始めた。
……ええ、これでようやく終わりましたわ。
まったく。
……三幹部の強みは、“戦いそのものを成立させない事”。
だから、ワタクシの全力もそれに倣う。
先ほどクロスさんがおっしゃっていたように、遠くへ事前に飛ばす方法。
──それこそ、“海のど真ん中”。“火山の火口”などに繋げて敵を落とせば、それでワタクシの勝ちですわ。
戦わずして、勝つ。それこそワタクシの本当の強み。
──まあ、本当の“殺人”になってしまう場合は、【カオス・ワールド】の方針上、極力やるつもりはありませんが。
ワタクシはなんとなく、クロスさんの方へ視線を向けた。
彼は大人しく佇んでおり、しかしどこか、空を見上げているように見えた。
……クロスさん。あなたは優秀な方ですわ。そこは評価致します。花丸ですわ。
ですが、“ワタクシの手のひら”の内でしか無かった。
想定の範囲内──いや、あの作戦自体は想定どころか明後日の方向でしたが……
ともかく、試験官ではなく三幹部としての対応なら、いくらでも対処可能。
“今のあなたは、脅威に感じない”。
それが今回のワタクシの総評です。
……ですから、認めましょう。あなたは今日から、【カオス・ワールド】の所属です。
“あなたが脅威となるその日まで、あなたを同士として認めます”。
ですから、まあ。とりあえずは。
──おめでとうございます。あなたは【カオス・ワールド】の一員です。
こうして、試験は全て終わった────
『あ、そうだ。掛け金の結果は各自端末で確認してねー! ちなみにカイザーは大損だったらしいよー!』
──え。
その言葉をワタクシが理解出来たのは。そこからしばらく後だったのは、言うまでもない。
★
23歳
175cm
黒髪
中立・善
主人公
【ジャスティス戦隊】のレッド。
サンタクロース改め、サタン・クロス。
試合に勝って、勝負に負けた系主人公。
と言うより、勝負そのものを本当はさせて貰えない状態。
目的通り観客を楽しませた、と言う点では大勝利ではあるか。
まだまだ彼は、未熟者でしか無かった。
まだ彼に、戦いの勝ちの目は与えられていない。
──ならば、手段を探し出せ。
★
22歳
168cm
青髪
混沌・善
【ジャスティス戦隊】のブルー。
兼、【カオス・ワールド】の幹部、“コバルト・ティアー”。
掛け金1万ptが、4.3万ptにUP。
ホクホクしている。
三幹部は、カイザーと彼女で選んだ。
★カイザー
22歳
172cm
紫髪
混沌・悪
【カオス・ワールド】のボス。
ティアーの幼馴染み。
とても威厳たっぷりに演説したが、100万pt。日本円で1億損した人。
さて、レイスの反応が楽しみだ。
★レイス
20歳
162cm
紅髪
秩序・善
三幹部の一人。お嬢様口調。
通称、【次元のレイス】。
試験官としては負けた。しかし、三幹部としては一切負けていない。
なんらかの対処方法を見つけない限り、一生彼女たちには敵わないだろう。
ちなみに恩人の財布を日本円1億分無くさせた戦犯。
心を挫くと言うのも、方法の一つだろう。
入隊試験終了間際の再戦クエストの提示は、定例となっている。
ワンヒットテスト合格者自体は、過去にも何十人か存在している。
しかし、このクエストを受注した上で、報酬を受け取れたものは未だかつて一人もいない。
想定出来た人は数人はいた。しかし、それでも全員会場に到達出来なかった。
クエストを受けず、かつ全てを見抜き、特別ボーナスを支給したのは、今回が初めてだった。
全ては彼女の手のひらの上。
──しかし、その手のひらの上から“いつか溢れ出す”ことを警戒しているのも、また彼女なのだ。
感想、評価をくれると、とても嬉しいです!
次回は、この章のエピローグとなります。