この作戦によって深海棲艦との勢力図が大きく変わるであろう。
空母たちはその中核を担い、かつてない規模の航空戦が展開される。
しかし、作戦参加のリストには最古参の空母である鳳翔の名前はどこにもなかった。
※単発でこの後は続きません。
※作戦の進行とともに話は進みますが、戦闘シーンはありません。
※提督の存在が描かれますが登場してくることはありません。
※鳳翔のキャラ崩壊と感じ取られる可能性があります。
※初投稿になります。もし何か気付かれたことがありましたら細大問わず指摘していただけると助かります。
「鳳翔さん、お酒ちょーだい」
隼鷹がおねだりするように小首をかしげた。その顔は既に相当赤く、顔の筋肉は緩みきっている。
それを見た鳳翔はカウンター越しに困った顔をしていた。
「明日出撃でしょう? ほどほどにしないと」
「えー、いいじゃん。明日出撃だからこそ、だよ。飲めるうちに飲んでおかないと」
「そう言って酔った挙句、燃料タンクに間違って日本酒を入れたことがあるでしょう? しかも自分のタンクではなく飛鷹さんのタンクに」
「いやー、それを言われると辛いんだけどさあ」
ここは居酒屋鳳翔。軽空母鳳翔が自発的に鎮守府内に開いている店だ。
鎮守府内は物資の出入りが限定され、娯楽に欠ける。そんな状況を憂いた鳳翔が艦娘達の気分転換のため、提督の許可の下、酒や料理を振舞っているのだ。
「しかし、あのときの飛鷹の驚きようったら何度思い出しても笑えるなあ。あひゃひゃひゃ、爆発オチは鉄板だよね~」
「隼鷹さん」
「こ、こわいよ鳳翔さん。うぅ……、後生ですから、あとお猪口一杯だけお願いします」
「はぁ、……はいはい」
隼鷹に酒を注ぐと閉店の準備を始める。
最後に火の元と明日の仕込みを確認し、それを終えた頃にはゴザで眠りこける隼鷹が出来上がっていた。声をかけても揺さぶっても反応は薄い。隼鷹を何とか立ち上がらせると肩を貸し、部屋へと連れて行く。
「また、そんなに飲んで鳳翔さんに迷惑をかけて」
部屋の前には飛鷹が待ち構えていた。
「ごめんなさい、鳳翔さん。もう少し早く様子を見に行くべきでした。あとは私がやりますから。ほら、行くよ隼鷹」
「ん~~~、お、飛鷹じゃん、飲もうか」
「明日は作戦参加だって知ってるでしょ」
「大丈夫……、私の机の下にお酒が隠してありゅから、飲みょう」
「あのねえ」
「あ、飛鷹にはナイショだぞ~。あいつは隠しておいた酒をすぐ取り上げるからなあ、まったく困った奴だなあ。あと、鳳翔さんにもナイショだ。なんせ居酒屋の棚から拝借したものだからな、えへへへへ」
このどうしようもない酔っ払いは自分で何を口走っているのかも理解できていない。
しかし、そんな夢見ごこちな隼鷹を前に二人は毒気を抜かれてしまう。
「……鳳翔さん、その隠してあるお酒引き取ってくれませんか?」
「ええ、そうしましょう」
「隼鷹の期待通りに取り上げませんとね」
二人でくすくすと笑いあった後、酒瓶を片手に鳳翔は自室へと戻った。
明日は何ヶ月も前から準備が進められてきたAL作戦の決行日だ。この陽動作戦ののち、これまでにない大艦隊を編成しMI作戦が決行される。まだ見ぬ未知の海域と敵、主導権を握れたとしても苦戦は免れないだろう。
そんな重要な作戦の要となるのが空母機動部隊である。
AL作戦では主に軽空母が、MI作戦では正規空母が中心となり電撃作戦を展開することになる。
しかし、その作戦参加空母のリストに鳳翔の名前はない。
かつて鎮守府の戦力が整わないころ、鳳翔の出撃は連日のことだった。赤城、鳳翔、龍嬢がローテーションで出撃し休む暇もほとんどなく戦い続けた。
しかし、千歳と千代田が軽空母へと改造された頃から鳳翔の出撃機会は大幅に減り始める。搭載艦載機数に劣る鳳翔は戦力の陳腐化が進んだせいだ。
それでも何か自分に出来ることはないか、その思いから居酒屋を始め艦娘達の憩いの場を提供することにし、今に至る。
けれど、ふと思う。
艦娘としての本懐を果たしていない自分の存在価値を。
後進の育成や助言役として見送るだけの生活を。
これでいいのか、と何かが問いかけてくるようだった。
「そろそろ、寝ましょうか」
日記をつけ終え、部屋の灯りを消した。しかし、寝床に入っても考え事は止まらない。
人と同じ形をし、人と同じ精神構造を持つ艦娘。
人と異なることはその共通した戦闘意欲である。戦うために生まれ、戦いの中に身を置くことを前提としている。
そこに疑問や否定はない。存在意義といってもいい。
しかし、この艦娘の性(さが)は鳳翔の生き方にいくらかの摩擦を引き起こしていた。戦うためには必要なものでも、今の鳳翔にとっては死神のささやきに等しい。今の自分が戦力として期待できないのは良く分かっている。それでも内にある何かが戦うことを求めているのだ。
いっそ解体により艤装を外してしまおうかとも思うが、それはそれでまた別の問題に悩まされることになるだろう。現状からの一時的な逃避でしかなく、取り返しのつかない選択だった。
答えの出ない悩みから逃げることもできず、鳳翔の一日は深い眠りとともに終えることになった。
AL作戦は予想外の苦戦から始まった。
早々と斥候の潜水艦に発見され、敵本隊への攻撃が思うようにいかないという報告が入る。
結局、提督はAL作戦への予備戦力の投入を即決した。陽動であるAL作戦の遅れはなんとしてでも避けたい、そんな想いが見て取れた。最終的には戦艦長門陸奥、千歳千代田と軽空母の精鋭が投入され、想定と大差ない作戦期間で終えることができた。
そして、AL作戦終了の一報の直後のことだった。
「どもー」
「あら、龍驤。どうしたの?」
閑散とし始めた昼下がりのころ居酒屋にやってきたのは、MI作戦に参加予定の唯一の軽空母龍驤だった。この鎮守府では鳳翔との付き合いが最も長い空母である。
そして、本来なら今頃作戦行動中のはずである。
「ちょっと作戦変更でな。待機になったんや。今回の出番はないかもーって提督に言われてきたところでな」
「そう……何か飲む?」
「せやな……じゃあ、なんかジュースでええや。あとは適当にお腹にたまるもの頼むわー」
普段に比べどこか投げやりな印象の龍驤。長い時間をかけ準備していた出撃が取りやめになったのだから仕方ない。それは鳳翔にもよく理解できることだった。
ただそこで気を抜いてアルコールをたのまないあたり、根が真面目な性格が現れている。
「はい、龍驤お待たせ」
「おおき……これ、サンマーメンやないか。どしたん?」
龍驤の前に置かれたのはラーメンの上にもやしを片栗粉のあんでからめて乗せた料理だった。
「最近故郷の味が懐かしいって言われることが多くてね。レパートリーを増やすつもりでいくつか挑戦してるの」
龍驤は関西弁(?)を使うが生まれは横浜である。サンマーメンも横浜発祥の料理であり龍驤にもなじみのある食べ物だろう。
「じゃあ、いただきます」
飛びつくようにサンマーメンをすすりだす。みるみるどんぶりの中が消えていった。
「うん美味しい。しっかし、えらい驚いたわ。まさかのサンマーメンやもんな」
「作り方自体はラーメンの延長だから手を付けやすくて」
「そっか。うん、ごちそうさん」
どんぶりを空にして龍驤は両手を合わせた。
見れば龍驤の表情がずいぶんとマシなものに変わっている。
それから思い出したように今回の作戦について語りだした。
「提督は今回本気やな。まさかMI作戦に全正規空母を投入するとは思わんかったわ。中継基地から交代で出撃させて一気に畳み込む気や」
「一応、大鳳さんは残ってますよ」
「せやった。まあ、あの子は艦娘なってから日浅いしな。まだ練度も高くはないし」
「祥鳳と瑞鳳は支援艦隊参加で忙しくしてるようで顔を見ませんね」
「帰投時にすれ違ったんやけどALからMIに移動してる最中でおつかれちゃんやったわ」
「あれ、そう言えば、鎮守府に残っている空母は私たちと大鳳さんだけですか?」
「あー、そうなるなあ。……普段はぎょうさんおって持て余してるような気してたけど、いざ鉄火場になると、なんやえらい不安になるなあ」
そして、二人は突然無言になった。
何かを思いめぐらせるように天井を見上げる。
次第に心がざわつき始め、軽い悪寒に襲われた。
『嫌な予感』というやつだった。
そして、大体においてこの予感は当たる。
いくつもの戦闘を経験してきた彼女たちにとって珍しい感覚でもなかった。経験を積むほどに生まれてくる非合理的な感覚。そして経験を積むほどにこの直感を無視してはいけないと理解していく。
次の瞬間、けたたましいサイレンが鎮守府に鳴り響いた。不安を掻き立て、否が応でも身体に緊張が走る、そんな不快で嫌な音だ。
「あー、これは、最悪のケースだとおもっとった方が良さそうやな」
「そうですね。戸締りだけして早く行きましょうか」
淡々と言いつつも心の不安が足早に集合場所へと向かわせた。
集合場所の講堂には鎮守府待機の艦娘が勢ぞろいしていた。普段よりも駆逐艦の割合が多く見えるのは気のせいではあるまい。空母だけでなく戦艦や巡洋艦も多くが作戦に参加している影響が出ている。
鳳翔たちがその中に加わるとメガネをかけた艦娘が前へ出た。鎮守府内の雑務をこなす大淀である。鎮守府の影の支配者とも言われ、提督ですら頭が上がらないと噂だった。
「御揃いのようなので、私から重要な話があります」
聞かずとも深刻な状況であることは大淀の表情が物語っている。
「現在、MI海域より深海棲艦の艦隊がこちらに向かっているとの報告がありました。したがって緊急の防衛作戦を発動します」
「艦隊の規模は?」
どこからか質問が飛んでくる。
「確認中です。ただし、姫級や鬼級が複数いる模様です」
強力かつ凶悪な個体がいる、その言葉にいっそう周囲の緊張度が増した。
「さらに悪い知らせを伝えねばなりません。既に作戦参加中、つまり今ここに不在の者は参加が難しいと予想されます。妨害により連絡が取れず、帰投がいつになるか見通しが立ちません」
つまりAL、MI作戦に参加した艦を除いて非常事態に対応せよ、ということだ。
鳳翔はその場にいる艦娘を確認する。
まず目に付くのは大和と武蔵の最強コンビだろう。二人とも顔つきが臨戦態勢に入っている。
彼女達が出撃することで提督の胃潰瘍の薬が増えるだろうが、それはこの際仕方のないことだ。
他に戦艦は比叡と霧島が、重巡洋艦は高雄と愛宕を始め練度の高い艦が複数残っている。軽巡洋艦、駆逐艦、潜水艦は八割以上と十分な数がいる。
問題は――空母だ。
ここにいるのは三隻、鳳翔、龍驤、大鳳と心もとないものだった。
(それでも龍驤と大鳳がいれば、どうにか……、いえ、ダメねこんなことでは)
鳳翔の心の中では自分を戦力として数えることすら避けていた。無意識の思考だったとはいえ、恥ずかしさがこみ上げてくる。
「あの、鳳翔さん、よろしいですか?」
意気消沈していた鳳翔に大淀が声をかけた。
「え、はい。ごめんなさい。考え事をしていたもので」
「ええとですね、提督から今回の編成は軽空母を最低2隻組み込むという命令が出ています」
「えっ」
最低2隻どころか、現在残っている軽空母は2隻しかいないのだ。
「軽空母、ですか? 正規空母ではなく」
「妖精さんの羅針盤を考慮した結果だそうです」
羅針盤は妖精さんの作った道具で、艦娘が海域を航行するのに不可欠なものだ。
とはいえ、完璧なものではなく、敵艦隊からの影響を受け思った通りの航行ができないこともある。すごろくで言えば振り出しに戻るのと同じであり、その出撃が無駄骨に終わる。
ただし特定の編成を組むことで羅針盤の影響を強め一定の制御を可能にすることがあった。
それが今回は軽空母2隻を有する編成と判明したのだろう。
「し、しかし、私では」
言ってから後悔する。先ほど反省したばかりの後ろ向きな感情を今度は口に出してしまった。戦わない生活に慣れ切ってしまったのか、いやそれとももう戦いたくないのか、どちらにせよ自分への嫌悪感が広がっていくことだけは確かだった。
「提督は問題ないとおっしゃってました」
言いよどんだ鳳翔に対して、大淀からのすべてを見透かしたようなはっきりした一言だった。一瞬、大淀の後ろに提督の姿が重なって見えた。
「龍驤さんを一旦戻したのはこういう事態を想定したためです。付き合いの長い龍驤さんなら連携も問題ないだろうともおっしゃってました」
確かに鳳翔の長いブランクを考えれば相棒に龍驤というのは最適な組み合わせである。艦娘になる前も、なった後も付き合いの長さは一番だ。
「そうですか、提督が」
それ以上は言葉がなかなか出ない。
けして信用されているわけではない。能力不足ゆえに長期間戦場から外されていたのは事実だ。
だが提督は使えるものは使うと判断した。龍驤を戻した時点で鳳翔の出撃は構想の枠内。もしかしたら龍驤のMI作戦参加を決めた時から。投げやりではなく、常に頭の片隅に鳳翔はいたのだ。
提督の判断は冷酷と思えるかもしれない、でも、鳳翔の艦娘としての誇りはこれ以上なく焚きつけられた。兵器でもなければ人でもない、艦娘として尊重されたことが嬉しかった。
悩んでいたことがすべて吹き飛ぶ。
目の前が晴れたようにやるべきことが見えてくる。
「きっと提督は私が思うより、私のことを諦めていないのですね」
目の前の大淀や龍驤にも聞こえないくらい小さな声でつぶやた。
そして、艦載機を飛ばすための弓矢を手に取る。久しぶりに手にしたはずなのに、吸いつくように手になじんだ。
「行きましょう。私にはやらなければならないことがありますから」
こんな話を書いておいてなんですが、
E6は北上金金重重正空で夜戦マス突破してクリアしました。
鳳翔さんどころか軽空母を使うのも途中であきらめた提督です。
あとうちの鎮守府の鳳翔さんはレベル10です。これからでも頑張って育てようかと思います。