『なぁ……退いてくれるか?通行の邪魔なんだわ、アンタ等』
始まりは唐突だった。その少年は何の前触れも無く、少女の前に姿を現した
『頭だけじゃなく……耳も悪いのか……どうしようもないな…俺はその先にある煎餅屋にようがあるんだよ……歌舞伎揚げが安売り中でな。早くしないと売り切れる、さっさと退いてくれるか?おっさん』
浮世離れした金色の髪を夜風に靡かせ、前髪から覗く双色の双眸。まるで、昔話から抜け出してきたかのような鬼と見間違える程に強大な威圧感に少女は見惚れていた
『ああ?煎餅屋だぁ?何を言ってんだぁ?お前……ガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ!ゴラァ!!それにおっさんじゃねぇ!!俺はまだ二十代だ!!』
通行を妨げていた数人の男たちの一人は、目の前の少年に苛立ち、拳を振り被る。
『そう言ってるヤツはだいたいが三十代手前だろ?即ち、おっさんなんだよ。そこのモブキャラども、おっさんと一緒に失せろ』
『誰がモブキャラだ…!!!』
それを皮切りに他の者たちも暴力に訴えるが、その全てが直撃するよりも前に少年は紙一重で躱す。一撃一撃が見えているかの如く、彼は全てを躱していく
『あ……あたらねぇ!!ちょこまかすんじゃねぇぞ!!クソガキ!!』
身の軽さを活かした動きは単純であり馬鹿の一つ覚え。大振りな拳が放たれるよりも前に反応すれば、躱すのは造作もない。それどころか少年の双色の双眸には寧ろ、遅いくらいに感じられる
『ふわぁ………そんなもんか?眠気覚ましにもならん。俺はな、一日に一回は歌舞伎揚げを食べないと気分が上がらなくてな……だから、退いてろ』
首を左右に傾け、音を鳴らす。眠気覚ましというにははしっかりとした口調の彼は揶揄うようにリーダー格を嘲笑う
『ぐっ……!?』
そして、リーダー格の男性が力を込めようとした瞬間、ギロリと牙を剥いた獣の如き瞳を見せた少年の蹴りが鳩尾に命中する。然程の時間は経過していないが、少女にはその数分が数秒にも思えた
『あ……あの…!助けてくれてありがとうございます!!』
漸く捻り出した礼の言葉。少女が見据える先で少年は倒れ伏した男たちの中央に静かに佇み、頭を無造作に掻き乱す
『………別に助けたワケじゃない、俺の行きたい方向にソイツ等が居たから、穏便に話をしようとしただけのこと………でもまぁ、結局は話を聞くよりも先に殴り掛かってきたワケだから、今のは立派な正当防衛に値するんじゃないかと俺は思ってる』
少女からの礼に悪びれもせずに少年は自分を正当化する。目先の敵よりも自分の好きなものを優先し、やりたいように、のらりくらりとした彼は吹き抜ける夜風を浴び、彼はゆっくりと身を翻す
『えっと……どうみても……喧嘩を売ってたのはキミが先だったような………でも、兎に角!ありがとう!キミのお陰で助かったのは事実だから、御礼を言わせてください』
『好きに解釈してもらってオーケーオーケー。俺はやりたいことしか出来ない、やらない、やりたくないの三拍子で生きてる……それはこれからも、その先も変わらない……アンタが見たのは一夜の夢現だ。礼はいらんから、さっさと帰るんだな』
そう告げると、少年は男たちをそのままに夜の街を照らす光の方に歩き出す。初めて会ったのに、懐かしいような態度、何故かは不明だが少女の中で彼に対する興味は大きくなる一方だ
『あの……わたし!竹宮琴音って言います!キミは!?』
聞いてもいないのに、名を名乗った少女基琴音は少年に名を問う。すると彼は肩に羽織った緑色のロングカーディガンを夜風に靡かせながら、振り向いた
『
そして、彼は、慶之助はゆっくりと夜の帷に姿を消した。その西洋と和風が混在した身形の少年、人々は嘲笑うように『
『歌片……慶之助………見つけた……あの人がわたしにとっての……最高のお宝ちゃん!絶対に手に入れるからね、アナタの心を』
これは一夜の夢芝居から始まった、道を外れた者たちの物語……
『歌舞伎』と『トレジャーハンター』
彼等は後にゲームでの死が現実の物となる恐ろしきデスゲーム、VRMMORPG《ソードアート・オンライン》の世界で、その名を轟かせることとなる