バルボアの敗北を知り、統率を失った敵の軍勢は散り散りになっていった。
マチャソの羽は数時間後には生えてきて、鱗粉をまき散らし、死傷者を出さずに終われた。
そして、バルボアの身柄は、アサヲの仲間達に引き渡された。
・・・そして、バルボアを倒したカゲチヨはというと・・・
「確か、この辺だったよな。」
舞空術で空を飛び、ゴブリンたちが居るシディの実家の方面に飛んでいた。アサヲ達に打ち上げをしないかと誘われるも、通話しても出なかった二人を心配し、誘いを断り、後の事を任せて飛んでいた。
今のカゲチヨなら、数十分で目的地に辿り着けるだろう。
「ここまで来ても、二人の気は感じない。・・・居ないのか?」
今のカゲチヨは前より力が軽減されてるため気を探れる範囲が狭くなっている。
「ん?」
真下に、ゴブリンたちが居ることを目撃したカゲチヨ。すぐに下りて、シディとヒサメの事を聞くも、言葉が通じず理解するのに時間が掛かってしまった。
数分後、地面に絵を描いたゴブリンが、シディがヒサメを抱えて病院に連れて行ったと説明される。
「そうか、病院はどこに?」
「フゴッ(あっち)」
病院がある方向を指をさし教える。
「そうか、ありがとう。」
礼を言ってゴブリンたちと別れ、病院に行こうとすると、目の前に獣人の耳を生やした少年が倒れていた。
「お、おい!重症じゃねぇーか!大丈夫か!」
「うっ・・・。」
声に反応したのか、痛みに苦しみながらもその少年は目覚めた。
「しっかりしろ。」
「あれ・・・?お兄ちゃん・・・誰?」
「カゲチヨだ。」
「カゲ・・・チヨ?」
「理由あってここを通った所、倒れてるお前を見つけた。その怪我、誰にやられた?」
「わか・・・らない・・・。あれ?僕って・・・誰だっけ?」
「マジかよ・・・・。」
その少年は自分が誰なのか、なぜ森の中で気絶しているのか分からなかった。
所謂、記憶喪失だった。
「とにかく病院に連れて行こう。俺も丁度そこに向かおうと・・・」
そう言いかけると、少年に腕を掴まれた。
「だめ・・・。僕の事・・・誰にも知らせないで・・・。」
悲しい目で見てきたその少年に、カゲチヨはしばらく考えた。
「・・・わかった。なら、家で手当てしよう。」
「いい・・の?そんな簡単に信じて・・・。」
その疑問に、カゲチヨは少年をを背負いながら答えた。
「俺も昔、お前のように記憶を失ったことがある。」
「!!」
「そん時、俺を疑いもせず拾ってくれた爺さんが居てな。だから俺も爺さんのようにお前に手を差し伸べようと思ったわけだ。」
「・・・お人よしだね。」
「かもな。」
悲しい表情から若干だが、笑みを浮かべる少年にカゲチヨも笑みを浮かべる。
「さて、俺の家に向かうから、しっかりつかまってろよ。」
「ちょ、え!?う、浮いてる?」
「舌を噛むなよ。」
上空に浮かび上がり、少年を抱え家へと帰っていった。
少年の叫び声が鳴り響いたのはまた別の話。
少年の治療を終え飯を食べさせ、寝かしつけた後、シディに電話をしたカゲチヨ。
数コールで出てくれたことに安堵した。そこで、シディ達の身に何が起きたのかを聞いた。
「そうか、アヌビスと・・・それは大変だったな。」
「あぁ。ヒサメと二人で何とか倒せたが、ヒサメは入院する羽目になってしまった。」
「大丈夫なのか?命に別状は?」
「まだ、目は覚めないが問題ないと医者が言っていた。」
「お前は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。ヒサメほどではない。」
「そうか・・・。二人が無事でよかった。」
「カゲチヨ?」
シディにとって今のカゲチヨに違和感を抱いた。
いつもの捻くれた様子もなく、どこか落ち着いた様子だった。それもそのはず、カゲチヨは数百年も生きていたのだ。嫌でも成長くらいはする。
「俺は色々と訳あってそっちに向かえないが、お前らの帰りを待っているぞ。」
「あ、あぁ。必ずカレコレ屋に帰ろう。」
「ヒサメが目を覚ましたら、豪勢な飯注文して待ってるって言っておいてくれ。それじゃ。」
通話を切り、二人の安否を確認したカゲチヨは一息ついて布団に寝っ転がる。
カゲチヨにはやるべき事は幾つかある。まずは補習を終わらせる事。その後は、FXや株をやって資金を集めること、農業が出来そうな場所に別荘を建てる事。そして、戦闘力を上げるために修行をする事。
今のカゲチヨはクウラとの戦った時の戦闘力しかなかった。
つまり「超吸血鬼」にしかなれなく「超吸血鬼セカンドサイヤ」「超吸血鬼サードサイヤ」には慣れないでいた。
いつ、この異宙にもフリーザやセル、魔人ブウのような強敵が現れるかもしれない。だからこそ全盛期に戻るために修行して強くならなければならない。
「この世界にも、精神と時の部屋があればいいんだがな・・・。明日オーナーにでも相談するか。とにかく今日は・・・・。」
寝る。そう呟いてカゲチヨは瞼を閉じ眠りについた。