今日も拳法道場でヒサメはカゲチヨによって厳しい修行を行っていた。
おもりを付けた状態の修行で思うよう様に動けなかったが、数日もすればその重さも慣れて行き、最初よりかはマシになっていた。
「よし。今日の修行はここまでだ。」
「はぁ~疲れた~。」
「修行したての当初と比べたらいい動きしてたぞ。」
「流石にお風呂と着替え以外重りを付けてたらね。」
ヒサメは別の依頼を受ける時も学校に行くときも常に重りを付けていた。
重りと言っても、リサイクルショップで買った重りなる薬の軽めのバージョンを一滴垂らしたリストバンドや普通の靴なため、見た目的にも違和感無く日常生活が遅れている。
「お~い!カレコレ屋さん!」
道場で一休みしていると、退院したであろう道場主の師範代が何かのチラシを持ってやって来た。
「その節はどうもすみませんでした。お二人がリベンジのために修行をしてると聞きまして、これを持ってきました。」
持ってきたチラシをヒサメ達に見せた。
「異宙カンフー大会?」
「そうです!あの道場破りも出るそうです。」
「なるほどな。よしヒサ!この大会に出ろ。」
「えぇ!?そんな急に・・・。」
「リベンジするチャンスだ。」
「でも・・・・。」
思い悩むヒサメの肩に手を置くカゲチヨ。
「大丈夫。お前なら絶対に勝てる。自信を持て!」
「・・・・・うん!」
決意した目で、大会を出場することを決めた。
「大会まであと十日はある。三日修行三日休み、また三日修行で大会だ。」
「よーし!やるぞー!」
次の日からカゲチヨの修行は次の段階へと進み、大会まできつい修行を乗り越えて行った。
◇◇◇◇◇
大会当日
「ヒサ。身体の調子はどうだ?」
「うん。バッチリだよ!重りがないから身体が軽く感じるよ。」
「そうか。俺が鍛えたんだ。油断すんなよ。」
「大丈夫!絶対にあの道場破りの人を倒して優勝して見せるから!」
ヒサメは大会のリングへと向かった。
「それでは第一回戦一試合目!」
「へへ、女か。これなら楽に一回戦突破だぜ。」
「・・・っ。」
一回戦の相手がヒサメよりも一回り大きい男性が舐める様に見て立っていた。
そんな男の雰囲気に押されたじろいでしまう。
「始め!」
「怪我しても恨むんじゃねぇぞ!!」
ヒサメにパンチを繰り出す男。
傍から見たら速度も速く避けるのも困難、破壊力もありそうですぐに終わると周囲は思った。
しかし、ヒサメ本人は違った。
(遅い!)
相手の攻撃が遅く見えた。
そのまま手で男の手を横にパシンと払いのけた。
「え!?」
「ハァ!!」
「ごぼぉあ!!」
手を払いのけて驚いた男の隙を狙って近寄り、発勁で相手の身体に食わらせたらそのまま壁にぶち当たり気絶してしまった。
「・・・・ひ、ヒサメ選手の・・・勝利・・・。」
自分より一回り大きい男をたったの一発で倒した事で審判も周りの観客たちは呆然としてしまった。
そして相手を倒した本人も同じだった。
(わ、私・・・こんなに強くなったの?)
・・・・これなら・・・・行ける!
っと自分の手を見て強く握って強くなった事を確信した。
◇◇◇◇◇
一回戦に引き続き、二回戦、三回戦と順調に進み、準決勝で道場破りと当たった。
「あの時の小娘か。」
「ようやく此処まで来れた。私が勝ったらあの言葉を訂正してもらいます。」
「いいだろう。だが俺が勝ったらお前は俺の嫁だ。女らしく一生寄り添え。嫌なら辞退していいんだぞ。」
「そんな事しない!」
下に見る道場破りを睨みつけるヒサメ。
「始め!!」
審判の合図とともに道場破りの蹴りがヒサメを襲ったが、片腕で防御。
「フン!少しはやるようだな!」
「あなたはそんなでもないみたいね。」
「なにぃ!?」
余裕を見せ逆に挑発するヒサメに道場破りの男は怒りをあらわにし更に猛攻を繰り出す。
だがそんな猛攻を見切っており軽々といなしていた。
(な、何なんだこの女!?以前とはまるで別人だ!!)
(遅い・・・この人・・・こんなに弱かったんだ・・・。いや、私が強くなり過ぎたんだ。)
この短期間で強くなり過ぎたヒサメは、なぜこんな男に負けたんだろうと無自覚に情けなく思った。
そして、思っちゃいけないと分かってても・・・・。
(期待外れ・・・。)
そう思ってしまった。
「このぉぉ!!」
「ふっ!」
「ぐぉおおおおお!!」
大振りの攻撃を避け、ガラ空きの身体に蹴りを入れ発勁を叩き込めた。
ヒサメの一撃で吹き飛ばされた道場破りの男は壁に激突して気絶し、勝利したのだ。
(簡単に勝てちゃった・・・。この調子だと決勝戦も・・・・。)
リベンジはやり遂げた・・・だけど気分は晴れなく勝っても嬉しくなかった。
こんなものか、と落胆してしまった。
そんな気持ちのまま決勝戦を迎えた。
(あの人が決勝戦の相手?)
ヒサメの前の前には目元以外顔全体に覆面で素顔が隠されていた。
(なんだか、あまり強そうには・・・。)
決勝戦まで勝ち抜いたから強いとは思うけど、一回戦の人や道場破りの人に比べると雰囲気が強く感じなかった。
「それでは決勝戦!始め!」
「悪いけど勝たせてもらうね!」
「・・・・。」
「?」
審判の合図とともに勝利を確信するヒサメに覆面男は掌を上にしてヒサメの方に伸ばした。
そして指で手招きをした。
「なっ!」
完全に挑発だった。
その行動にヒサメはムカッとした。
「馬鹿にして!ハァアア!!」
「・・・・・。」
襲い掛かるヒサメの攻撃を無言で避けた。
更に追撃するもそれを腕を後ろに組んで悠々と躱されてしまう。
「これでっ!」
「・・・・。」
「きゃっ!」
強めの打撃を繰り出そうとしたら、素早くしゃがまれ軽く足払いされてしまった。
崩された体はそのまま地面に激突。情けなくお尻を打ってしまう。
「いててて・・・。」
「足が留守だぞ。」
「な、舐めないでよね!!」
「遅い。」
「がっ!!」
背後に回り込まれ背中を蹴られてしまった。
「貴様相手には足だけで十分だ。」
「なっ!」
完全になめられている。
ヒサメは冷静さを忘れて怒りのまま攻撃を繰り出すも、覆面男の身軽さや足さばきによってすべて防がれる。
「たぁああああ!!」
「力振るうだけなら誰でもできる。」
「ぐっ!」
「あの程度達に勝て喜んでるようじゃまだまだだな。」
「よ、喜んでない!」
「なら、自分が強くなり過ぎたと思いあがって勝手に落胆したか?」
「っ!?」
自分が思っている事を覆面男に言い当てられてしまった。
確かに道場破りの男に勝ちたいと思って頑張って修行した。
リベンジのチャンスとしてこの大会にでて決着をつけたが、思いのほか呆気ない決着だった。
自分の全力を出す事もなく。
そんな自分は強くなり過ぎてしまったとそう思った。
「俺からして見ればお前もあの者たちと同じ、自分の力を過信してる井の中の蛙共だ。」
「そんなことっ!」
「現に俺に手加減され、一撃すら当てられない。これの井の中の蛙じゃなければ何だ?」
「がはっ!!」
腹部に膝を減り込まれ、ヒサメはお腹を押さえて倒れてしまった。
そして覆面はヒサメの頭を踏みつけた。
(つ、強すぎる・・・。こんな人に勝てるわけない・・・。)
戦意を失いかけ、降参を口にしようと
「お前を鍛えた奴は見る目がない愚か者だ。」
「!!」
「この程度にしか鍛えられないって事は、そいつも大した事ないな。」
した時、覆面の発言で失いかけた戦意が再熱した。
自分を貶すならまだいい。
でも、カゲチヨを・・・大切な人を貶されて黙ってられなかった。
相手がどれだけ強いだろうと関係ない。
この人には、負けたくない!!
そう強く思い、足で頭を抑えられたまま手に力を込めて起き上がろうとした。
「・・・かいし・・・。」
「!」
「さっきの言葉・・・撤回しろ!!」
起き上がると同時に下から掌で覆面の顎目掛けて攻撃した。
だが、覆面はバク宙で一回転して躱す。
「まだやるか。その意気や良し。だが、怒りや力押しでは俺に勝つ所か一撃入れる事すら無理だ。」
「やって見なきゃ分からないでしょ!」
ヒサメは覆面に拳を叩き込もうとした。
(!?)
顔まで拳が迫った時、寸前で止まったと思ったら蹴りが飛んできた。
ヒサメのフェイントを驚きながらも、躱す。
「はぁああああああ!!」
(さっきより動きがよくなったか。)
先程よりも攻撃動作がよくなっていた。だがそれでも覆面には攻撃が一切当たらない。
(こんなんじゃ何時までたっても・・・っ!)
覆面の蹴り攻撃をギリギリ躱す。
お互い長いようで短い攻防一戦を繰り広げる。
(焦るな!相手の動きをよく見て!冷静に見極めるんだ!)
相手の動きを冷静に見て、一撃入れるチャンスを狙っていた。
覆面がヒサメの顔面に蹴りを叩き込もうとした。
(ここだ!!)
蹴りを避けつつ、グルっと回って裏拳を覆面の顔面へとカウンターを仕掛ける。
「たぁああああ!!」
「見事な動きだ。」
「え!?」
ヒサメの反撃を称賛したと同時に、自分の影だけ置いて回避した。
繰り出された裏拳は空を切ってしまった。
「この技はカゲが使ってたっ!!」
「だがまだまだ甘い。」
「きゃぁ!!」
覆面男もカゲチヨと同じ残像拳を使って回避され、背後に回りこまれ鉄山靠を決められた。
もろに攻撃が直撃したことで吹き飛ばされ壁に激突してしまい倒れてしまった。
審判の合図で試合が終了。
ヒサメは負けてしまった。
(悔しい・・・。ごめんカゲ・・・私が慢心したせいで負けちゃった・・・。)
「お前はまだまだ弱い。力も精神もな。」
「・・・・っ!」
「だが、お前は伸びしろがある。これからも精進すればもっと強くなれるだろーぜ。」
「え・・・。」
「先ほどのお前を鍛えた人、そしてお前を侮辱したことを撤回し謝罪しよう。すまなかった。」
「え!?あ、その・・・はい・・・・。」
ぺこりと頭を下げる覆面にヒサメは驚きつつ、謝罪を受け取り許した。
「あの・・・もしかしてわざと・・・。」
「お前の様な奴を腐らせるのが勿体なかった。それだけだ。」
「・・・・。」
「力に奢らず慢心せず修行に励め。じゃあな。」
「ま、待ってください!!」
背中を見せヒサメから去ろうとした覆面を引き留めた。
「私が強くなったら、また戦ってくれますか?」
「・・・・・。気が向いたらな。」
そう言い残して今度こそ去って行った。
◇◇◇◇◇
「負けちまったな。」
「うん・・・完敗だった。」
広場でヒサメを労いに来たカゲチヨ。
覆面との戦いで自分はまだまだだと実感していた。
けど、そこまで凹んでいなかった。むしろ全力で戦えた事によって清々しい気分だった。
「ま、この短期間で強くなったとは言え上には上が居るもんさ。」
「うん。私、慢心してた。これからももっと強くなるよ。鍛えてくれたカゲに泥を塗らないようにね!」
「へへ。その意気だ。」
笑顔でもっと強くなる事を誓った。
「んじゃ、早く着替えて来い。帰りに食べ放題行くぞ。」
「本当!?やったー!!すぐに着替えて来るね!!」
早く食べ放題に行くためにヒサメは走って着替え室へと向かっていた。
そんなヒサメをやれやれと呆れながらも笑顔で息を吐き、見送った。
そして、背後に立っている人物へと語り始めた。
「よぉ。お疲れさん。」
その人物は、先ほどまで決勝戦でヒサメと戦って優勝した覆面だった。
「まったくだ。ヒール役はこれっきりにしたいもんだぜ。」
そう言って、覆面を取り姿を見せた。
その顔はカゲチヨにそっくり・・・いや、本人だった。
このカゲチヨは第22回の天下一武道会分くらいの強さと身体を再現した分身体だったのだ。
なぜわざわざそんな事したのか。
その理由はヒサメが慢心させないようにするためだった。
要は名を偽って武道会に出場して優勝した亀仙人の真似事をしたのだ。
「ヒサはどうだった?」
「これからも精進するんだってさ。」
「そーかい。それならここまでやったかいがあったってもんだ。」
「けど、ヒサの頭を踏むのはちとやり過ぎじゃねぇーか?」
「俺だってやり過ぎだと思ってる。」
自分の行動に若干後悔しつつも、分身体は血液体になり本体へと戻って行った。
「ふぅ・・・。これで一段落だな・・・。弟子を持ったなら道を外さないように最後まで面倒見ろ。そーだよな。亀じーさん。」
カゲチヨは天井を見ながら、この世界に居ない自分の師匠にそう語ったのだった。