ゲームの自機が現実世界にやってきた   作:屍モドキ

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三話 迷子の騎士

 

 授業を聞き流しながら、俺は朝の出来事を思い出していた。

 謎の女が部屋にいて、何故か自分のゲームキャラを自称し、諸手を上げて迫ってきた。怖かった。

 それでもゲームグラフィックと現実の差異こそあれど、確かに彼女は俺のゲームアバターとまったく同じ容姿、同じ装備で現れた。

 

 胡粉色の長髪に陶磁器のような肌。赤い瞳は丸く大きく、華奢ながら骨のある体格。

 幻獣ユニコーンを倒した際に作製した装備は若干の露出もそこそこに、純白の革素材で造られたバトルドレスのような装備を纏い、額には特徴的な角飾りが雄々しく伸びていた。

 

 左手に鋼鉄のガントレットと篭手が嵌められ、右手は革の長手袋と対比した装備もそのまま。盾をメインに据えて遊んでいたため、そのような構成にしていたのだが、まさかその辺りの特徴すら全て同じにしてきたのだから困る。

 まさか本当にあのゲームキャラが現実にやってきたのでは……?

 

「村崎ー、起きろー」

「すみません、寝てません」

 

 流石に露骨に話を聞いていなかったのがバレたか、教師様からお叱りを受ける。

 周囲の視線が一斉に集まり、若干の居心地の悪さを覚える。

 

「まったくお前は……お姉さんは優秀だったのにな。わはは」

「…………」

 

 勝手に一人で笑う教師。

 また姉か……勝手に比べてくれるなよ。あの人は特別凄いだけじゃないか。俺はただ平凡なだけで。

 

 だが反抗など馬鹿なことはしない。

 事実は事実。受け入れただけだ。

 

 それに余計なエネルギーを使って腹減りたくない。

 

 早く今日が終わる事を願いながら、つまらない授業を聞き流す。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 弁当を片手にぶら下げ、見ず知らずの町に繰り出した騎士の少女。

 現実世界の目で見れば明らかに一般的な格好とは言い難い、バトルドレスに角飾りなど奇抜な格好をした彼女が目立たない訳などなく、すれ違う誰もが振り向き彼女の後ろ姿を見つめていた。

 

「あっちの方角、行き先、道順……」

 

 『ドラゴンナイトハンター』はアクションゲームであり、その要素の中にはプレイヤーキャラに付与されるスキルが存在する。

 今、ラヴィナはそのバフスキルの一つ【探知】を発動させながら、見知らぬ町をなんとか歩く。

 

 そんな時、現代社会など知る由もないラヴィナは車道を渡ろうとした。

 

「あー! いけないの!」

「ひゃい!?」

 

 突然子供に呼び止められ、ラヴィナは慌ててその場に静止する。

 急な声掛けに驚いた彼女は声のした方を見ると、ランドセルを背負った子供が彼女を指差して言った。

 

「赤信号は渡ったら行けないんだよ!」

「赤、信号……?」

 

 ん、と子供が指差した方を見ると、歩行者信号が男性が立っているマークを赤いシルエットで示していた。

 

 目の前には鉄の車が遠慮ない速さで横切り、確かに当たればひとたまりもないだろうと考える。しばらく立ち止まっていると、車の通行は止み目の前の進行は黄緑の光で歩くマークを光らせた。

 

「手を上げて渡りなさいって学校の先生も言ってたよ!」

「は、はい!」

 

 ラヴィナは見知らぬ子供に倣い、高々と手を上げ横断歩道を渡った。

 渡り終わった先で子供は元気よく手を振りながら彼女から去っていった。

 

 知らない事ばかりで危ないかも。気をつけて行かなきゃ。

 まだ日は真上まで昇ってないし、お昼時の時間には間に合うといいな。

 

 そんな呑気なことを考えながら歩く彼女だが、道行く人々は誰もが振り返りラヴィナを二度見していく。それもそのはず。彼女の格好はゲームでの騎士の格好そのまま。傍から見ればコスプレをした女が弁当箱片手に町中を歩いているのだ。

 これを怪しまないのは同類か無垢のどちらかだろう。

 

 そんな奇異の目を意にも介さず、彼女はニコニコしたまま歩いている。

 

「最短ルートはこっちです!」

 

 そして入り込んだのは袋小路だった。

 

「あ、あれ?」

 

 彼女が今発動している【探知】の能力。それは目的の対象が居る場所を知れる能力だが、地理まではわからない。

 ゲーム内ではマップ情報が手元に無ければ扱いづらい能力でもある。

 

 暗がりの脇道で立ち尽くすラヴィナだったが、すぐに表通りに出て別のルートを模索する。

 

「ま、まだ時間はあります! すぐに届けますから!」

 

 そうして騎士は踵を返す。

 

 あっちこっちを歩き回り、昇る日を気にしながら彼女は街を練り歩く。

 そして────。

 

 

 

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、どこ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラヴィナは道に迷った。

 現代社会の入り組んだ町中は自然が蔓延る世界を歩いて来た彼女にとっては複雑で、目的地だけが明瞭に分かる状態で道程が完全に狂ってしまった。

 

「日が昇ってきてる……急がなきゃ、急がなきゃ……!」

 

 時刻は正午手前。そろそろ昼時の時間帯。

 迫る時間に焦り始めた彼女にもう選ぶ手段など無くなっている。

 

【速度上昇】!

【身体強化】!

【跳躍距離上昇】!

 

 腰のポーチから宝珠のようなものを取り出し、纏っている装備のスロットに収まっていたものと交換するように嵌め込む。すると彼女の発動能力が書き換わり、それを知覚すると同時にラヴィナはその場から駆け出した。

 

 目的地は主の居所。

 そこへは向かい、上下左右も関係なしに障壁を文字通り飛び越え、ほぼ一直線で走り出した。

 

「うわ〜〜〜ん!!! もう意地です!!!」

 

 ひと目も憚らず町を走り抜ける様を誰もが目で追いかけ、その姿は瞬く間に噂され人々の間で広まっていた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 四時限目の終わりを知らせるチャイムが鳴る。

 がやがやと騒がしくなる学校は昼飯にありつく生徒が溢れ廊下も教室も往来が激しくなる。

 それを教室の窓辺で眺めながら、休憩時間のうちに買っておいた缶コーヒーを片手にアキラは気怠けに机の上に突っ伏した。

 

 昼飯が無い。

 腹は減るが、体育の授業が無いのが救いだったか今日はなんとか凌げそうだ。

 

 伏したまま顔を横に向け、スマホを起動し暇つぶしにSNSで面白い話題が無いかとスワイプする。

 

 今日の話題。トレンド。注目の記事。

 

「謎の美少女?」

 

 一枚の写真ともにタイムラインに流れてきた一つの投稿。

 映されていたのは、今朝方自分の部屋に現れた謎の女だった。

 

「あ!?」

 

 思わずその投稿に反応してしまう。

 拡散された投稿や別の人間が撮影したであろう動画には、屋根や電柱を躊躇いなく駆け抜けるその少女の姿が映されていた。背後に映っている町の背景を見てもそこが自分の住んている所だとわかった。

 

 そして複数の写真や動画から、その少女はある場所へ向かって一直線に進んでいるようだ。

 もしかしたら……そんな気がして窓の外を見ようと席を立ち振り返ると、ダンッ、と音を立てて画面の中に映っていた少女と同じ人物が、教室の窓辺に着地した。

 

「あ! マスター見つけました!」

「は?」

 

 半泣きの少女は俺を見つけた瞬間に満面の笑顔に浮かべ、窓辺から飛び込んで俺の胸にしがみついてきた。ふわふわの長い白髪が汚れるのも構うことなく少女は床に俺を押し倒したまま頭を擦りつけてくる。

 そんな様子をみてあたりは騒然として人だかりができ始めるが、一番騒がしいのは俺の胸の中だ。

 

 ラヴィナ!? ただのコスプレ女のはずじゃなかったのか!? 明らかに人間の身体能力じゃなかった! というか学校に不審者が居る状況がヤバイヤバイ! というかの見るんじゃない、俺だってわかんねぇよこの状況がよ! そこ写真撮るな動画撮るな!! 

 

「村崎……お前……」

「加藤! 助けてくれ!」

 

 ちょうど戻ってきたらしい親友が信じられないものを見る目で俺達の事を見下ろしていた。

 

「お前、彼女いたのかよ……!」

「そうじゃねぇ!!!」

「マスター……♡」

「お前は離れろ!」

 

 誰か助けてくれ!!

 

 心の中で俺の悲鳴が轟いた。

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