寝っ取りしていってね!!!   作:とくめ一

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NTR大嫌いなのにNTRでしかレベル上がらないってマジ?②

 

 

 正直に言おう。

 ウハウハだった。

 

 だって憧れで夢だった勇者になるのだと言われた上、教会──正しくは神殿だったらしい──の皆さんからされたのは歓待も歓待。

 最初からこんな幸せで良いのか、俺の異世界転生。

 

 多分死んだのに突然勇者で嬉しいとか正気かと言われそうだが、『あまりにも現実味のない死』と『あまりにも真実味のある異世界転生』の両方に襲われたら楽しい方にしか目が向かないに決まっている。

 

 ……それにしても、勇者になったにしてはこう、特別な力! とか授かった感じはしないな。

 

 加護やなんかはあったりしないのかと最初に俺を見つけた神官さんに問いかけてみると、神官さんは「あぁ」と、伝え忘れていたのだろう様子で口を開いた。

 

「勇者様には、明日女神アンニー様にお会いしていただきます」

「め、女神様に会えるんですか!?」

「ええ。我々のような者は特別な理由でもない限り女神様のお姿を拝見することすら許されていませんが、勇者様は別です。

 神託でも、初日はたっぷりともてなし、二日目に女神様の御前にお連れするよう仰せつかっておりますから」

 

 そう微笑む神官さんの表情には、純粋な優しさだけが込められていて。

 

「えと、その……嫌じゃ、ないんですか?」

「? 何がですか?」

「だってずっと信仰してる貴方がたは女神様に会えないのに、ポッと出の俺がそんな……」

 

 気まずさに耐えかねてもそもそとそう伝えると、神官さんは一瞬驚いたような顔をして、それからクスクスと笑った。

 

「勇者様はお優しい方なのですね。

 流石はアンニー様がお選びになった方です」

「い、いや、そんなことは……」

「ですが、アンニー様も我らを疎ましく感じているからお会いしてくださらないわけではないのです。

 会いたがっているからと一人に会えば、他の者もアンニー様への謁見を求めだします。

 けれどアンニー様は日夜魔王リリスを抑えるため力をお使いになっておられますので、そう頻繁に皆へお姿を見せるわけにもいかず……」

「……信者間の立場の差や不和に繋がらないように、ってことですか?」

「その通りです」

 

 なるほど、色々と考えられてるんだなぁ……。

 なら俺も神官や信者の人たちに胸を張れるよう、敬意を持ってアンニー様にお会いしよう! 

 

 そう決意して俺の異世界転生初日は終わり、次の日早くも女神アンニー様への謁見の時がやってきた。

 

 やはり最初に会った神官の人に案内された儀式の間の中心に膝をつき、目を瞑り両手を組んで女神アンニー様に祈りを捧げる。

 

 ……静かだ。

 

 神官も出ていって俺一人になった儀式の間は、神聖な雰囲気も相まって呼吸音もたててはいけないようにすら感じる。

 

 そんな中で手を組んでから、十秒と経たず閉ざしていた瞼の向こう側に眩い光が現れて。

 あまりの眩しさに瞼を開きたくとも開けなかったが、光が止んだことが分かると、俺はゆっくりと瞼を開いた。

 

 と、俺は思わず息を呑んだ。

 

 そこにいた女性は透き通るような肌と、穢れなき泉のような髪と、髪と同じ色を宿した瞳の、ひどく美しい女性だったのだ。

 

 女神アンニー様なのか、と訊かずとも分かる。

 こんな神秘的な女性が女神様でないのなら、きっとこの世には女神など存在しないだろう。

 

「──(われ)は女神アンニー。貴方を待っていました。

 ……さぁ、名を名乗りなさい」

 

 威厳あるその声にハッと我に返る。

 そうだ、美しさに呆けている場合ではない。

 

「お初にお目にかかります、女神アンニー様! 

 お、(わたし)は田中将生、貴女様の導きでこの世界に参上した者でございます!」

「……では田中将生、貴方に問いましょう。

 我が貴方に祝福を与えれば、貴方はこの先苦難に立ち向かうことを余儀なくされます。

 失うものもあるでしょう。傷つくこともあるでしょう。

 それでも貴方は、勇者としてこの世界で生きていきますか? その覚悟が、貴方にはありますか?」

 

 その問いにすぐに頷こうとして、一度止まる。

 

 本当に、良いのだろうか。

 

 だってこれは本物の異世界転生だ。

 俺がゲームや漫画や小説やらで散々見て目を輝かせた夢物語ではなく、現実なのだ。 

 

 もう十分じゃないか。と、臆病な自分が告げる。勇者という名の“特別”が欲しいだけならやめておけ、と。

 その通りだ。

 異世界転生させられて、勇者になってほしいと頼まれて……ただ特別になりたいなら、きっとそれで十分なのだろう。

 

 ……けど。そもそも俺が勇者に憧れたのは、ただ“特別”になりたかったからじゃない。

 何者でもなかった誰かが勇者として、誰かにとっての“何か”になるその展開に、自分を重ね合わせて夢を見たからだ。

 何者でもないと思っていた自分に、誇りを持てるようになりたいという願望があったからだ。

 

 だから、俺が勇者になることで誰かを救えるのなら。

 俺が、誰かにとっての何か(ゆうしゃ)になれるのならば。

 

「……はい。

 俺は、勇者として戦いたいです」

「…………意志は固いようですね。

 分かりました、貴方に祝福を授けましょう」

「! ありがとうございます!!」

 

 アンニー様が俺に向けて手をかざすと俺の周りをパチパチと光が瞬いて、かと思うと瞬いていたそれら全てが俺の中へと入っていって。

 

「それでは『ステータス』と言ってみてください」

「は、はい! 『ステータス』!」

 

 異世界転生テンプレのそれやっぱりあるんだ! とウキウキ半分気恥ずかしさ半分でそう告げると、俺の目の前にはゲームでよく見るようなステータス画面が表示された。

 

 えーとなになに……。

 

 ────────────

 

 ▶▶田中将生◀◀

 職業︰勇者

 

 ▶基本ステータス◀

 Lv︰1

 HP︰36/36

 MP︰10/10

 力︰20

 防御︰20

 器用︰15

 回避︰15

 素早さ︰20

 

 ▶魔法◀

 なし

 

 ▶スキル◀

 なし

 

 ────────────

 

 お、おお。思ったより大分ショボいな。レベル1だからか。

 じゃあ加護の効果とかは……? 

 

 とステータス画面の下の方に目を向けて、俺は言葉を失った。

 

 

 ────────────

 

 ▶加護◀

 ○NTR(EX)

 寝取り寝取られ寝取らせをする、もしくはされることでしかレベルが上がらない。

 強い相手から誰かを寝取ると、その強い相手の強さに比例してレベル上昇値が上がる。

 スキルでの解呪不可。永続。

 

 ────────────

 

 ……。

 …………。

 ………………は? 

 

「あ、あの、女神様。

 この加護って、なんか……呪いみたいじゃ──」

「はは、は、ははははははははッ!!」

 

 言いかけた言葉は、女神様の大笑いに掻き消された。

 

「バカな男だ。勇者にはならないと答えておけば、凡夫なりに人並みの生活は出来たろうに」

 

 何、を。

 そう問いかける前に、女神様を黒いモヤが覆い隠して。モヤが晴れた先にいたのは、大きなツノの生えた金髪赤眼の美しい女性だった。

 

「改めて自己紹介しようか。

 我はリリス。この世界の魔王にして、今後この世界を掌握せし者だ」

 

 理解が追いつかず間抜けに呆けたままの俺を見下しながら、魔王リリスは言葉を続ける。

 

「アンニーめ。予め解除出来ぬよう召喚術式を組み、その上で下手に呪いをかけられぬよう呪いの防御の役割も担った祝福の基礎を組んでおくとは……全く厄介なことをしてくれた。

 本来は魔力を注ぐ意外の行動は出来ないようにされていたようだが、まあその祝福を可能な範囲で書き換えて呪いにしてしまえば済む話だったな」

 

 機嫌良さげにニヤニヤと笑みながら告げられる言葉は、俺に言っているのかそれとも独り言なのか。

 ……いや、きっと独り言なのだろう。

 だって恐らくリリスにとって、今の俺は羽虫と同等の無力な存在だ。

 

 だが、それでも。

 

「あ、アンニー様を……女神様を、どうしたん、ですか」

 

 恐れで思わず敬語になってしまった俺を鼻で笑って、魔王はニタリと口角を上げた。

 

「アンニーは既に我が手に落ちたよ」

「なッ……!?」

「だがあの清廉な心が上手くへし折れなくてなぁ。『勇者様が貴方を討ってくれる』と、健気にも勇者を信じているようだが……羽のもがれた勇者では我が元へ辿り着くことすら出来まい。

 ……いや。そもそももう、旅立つ気力すら折られてしまったか?」

 

 可笑しそうに俺を見るリリスを見て分かる。

 生物として、俺は魔王に敵わない。敵いっこない。

 思考する前に本能がそれを察知するせいでガクガクと脚が震えるが、それでも俺は拳を握り締めて魔王を睨みつけた。

 

「俺は、お前に心を折られたりなんかしない……!! 

 女神様が、この国の人々が“勇者”を信じてくれている以上、絶対にお前の思うようになんかなってたまるか!」

「良い啖呵だ。今この場で殺されてもおかしくはない矮小な生命だというのに、よくもまぁそうも反抗できるなぁ?」

「……いや、お前は俺を殺さない」

「…………ほう?」

 

 ピクリと、魔王が片眉を上げる。

 

「この場で俺を殺せるなら、祝福の書き換えなんてまどろっこしい真似をする必要はなかった筈だ。

 つまり、お前は何らかの理由で俺を殺せない。そうだろ?」

「……ふ、正解だ。我はアンニーの力で、魔王城以外ではお前に手を下すことは出来ん。

 だがお前が勇者として動く以上、お前が魔王城に来ざるを得ないことも確かだろう?」

 

 リリスの言う通りだ。

 女神様を助ける為には魔王と戦う必要が──魔王城に乗り込む必要がある。

 しかし魔王に勝つためにはステータスを上げなければならなくて、その為にはNTRをしなくてはならなくて……。

 

 黙り込む俺に、魔王はまたケタケタと笑った。

 

「まァ精々、お前のだぁい嫌いなNTRで強くなるといいさ。お前の心がもつなら、の話だがな」

「っ!?」

「なんだ、知らぬとでも思ったか? 

 鑑定の最上位スキルにあたる我の『魔王眼』にかかれば、心底嫌っておること程度特定は容易い」

 

 つまり魔王は、俺が心底NTRを嫌っていることを分かっていてスキルにしたわけか……!? 

 

「人の心とか無いのか!?」

「ヒトではないからなぁ。

 まぁ、精々頑張るが良い」

 

 どれだけ努力しようが無駄に終わるだけだろうがな。と笑って、魔王リリスは俺の前から消えた。

 

 必ずやあの魔王リリスを打ち負かし、女神アンニー様をお救いしなければ……! 

 

 …………しなければならない、のだが。

 

「…………ど、どうしよう………………」

 

 

 全然、上手くいく気がしない。

 

 

 

 

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