TS転生者さんは脳破壊がお得意 作:juki
失いたくない日常
異世界転生。
文字通り異なる世界へ転生をすること。
この異世界というのは恐らく明確な定義など無く、自身が生きていた世界と何かしら違うのであれば、それは異世界と言うことになるのだろう。
魔法が存在する世界、空想上の生物が存在する世界、人類の文明がまだ発達していない世界、反対に科学技術が高度に発展した近未来的世界。はたまた、こんな分かりやすく明確な違いなどは無く、世に言う平行世界的な世界も捉え方によっては異世界と言ってもいいのではないか。
まあ、そんな事考えてる私は魔法も空想上の生物も存在する世界に転生してしまっているのだが。
ふと、コンコンとノックする音が聞こえる。
「 マヤ様。失礼いたします。」
返事する代わりにベットから上半身を起こし、音のした方向へと顔をむける。
扉を開けて入ってくる少女は私より1つ歳下のはずなのにしっかり者の長女のような雰囲気がある。
深海を思わせる深い紺色の髪を肩口で切り揃え、寸分の狂いなく真っ直ぐ佇む姿はまるで西洋人形のようだ。彼女の纏う黒と白を基調としたシンプルなメイド服は、より彼女の造り物のような造形美を際立てさせている。
彼女はユナ。幼い頃から私の専属メイドをしていてくれた子だ。訳あって今はお金がなく、彼女にお給金を渡せなくなってしまっているのだが、お金など要らないと言って私のメイドを続けてくれている。彼女なら何処へ行っても食い扶持に困らないだろうに、それでも私に仕え続けてくれているのだから本当に頭が上がらない。
「お目覚めですか?目が覚めたのでしたら、朝食の支度が出来ておりますので着替えて下に降りてて下さい。私はアニエス様を起こして参りますので。」
「うん、分かった。ありがとう。」
そうユナに返事をすると、彼女は人形のように整った無表情とも取れるその尊顔を少し緩め微笑む。普段無表情の娘が偶に見せる笑顔って破壊力すごいよね。同性の私でも思わず見とれてしまった。転生前は男だったというのもあり、16年女性を続けてきた今でも、未だ女性を異性と認識してしまっている節はある。
そんな風にドギマギしてるうちに元の無表情に戻ってしまった彼女は、手に持っていた着替えを私の横に置き「では失礼いたします。」と言ってこの部屋を後にする。
置かれた着替えを見れば、シワ一つなくきっちりと畳まれている。うーん、出来たメイドさんだ。
ベッドから立ち上がり、着替えるために着ていたネグリジェ脱ぐ。そして下着を脱ぐ前に、ふと部屋に立てかけてある鏡を確認した。
光を吸い込んで映し出したのは女性の姿。安産型のお尻に胸は程よく大きく、かと言ってお腹周りはスラッとしていてくびれも出来ている。まさに女性が理想とする肢体で、男もこの女を抱くためなら迷わず命すら差し出すだろう。整った顔立ちに加え瞳の両側には、純度100%のアメジストが埋め込まれている。色素の薄い金色の髪は、カーテンから漏れ出た光に当てられ、皮肉だがまるで女神の如き犯し難い品位を醸し出している。
そう、この10人が10人振り向くであろう美人さんが今の私なのだ。前世の俺がこんな美人を見たら一発で惚れる自身がある。今世ではその肢体を好き放題出来る権利を得たのだが、如何せん自分の体である。試しに両手でそれぞれの胸を持ち上げて揉んでみても、流石に何も興奮しない。それが少し残念にも思える。
着替えて階段を降りリビングに向かえば、既に食欲を刺激する良い香りが漂っていた。木目が綺麗に並んでいるテーブルの上の中央にはサラダが、それぞれの椅子の前には程良く焦げ目のついたトーストとマーガリンが並べられている。相変わらず美味しそう。
私もこの家の家主も料理はからっきしなので、ご飯はユナが作ってくれている。うちのメイドさん何でも出来るなあ。
足早に何時もの座席に座ると、対面には既に先客が座っていた。
彼女はアニエス・ルチルバール。
高い背丈に私よりも1周り2周り大きいお胸。少し釣り上がった瞼の下には、まるで蒼天を映し出したかのような青く透き通った瞳。くすんだ深紅の髪を腰まで靡かせる彼女は何とも言えない妖艶さを感じる。
普段、彼女は仕事中、髪を低めの後ろにまとめた所謂ポニーテールにしているのだが、オフのときはこうしてまとめずにおろしている。私的にはこっちのおろしている方が好き……、いやでもポニーテールで仕事する姿も凛々しさがあって良きだし……。うん、結局美人はどんな髪型でも似合うね。
私の中で美人髪型万能論が提唱されると、寝起きの少し掠れた声でアニエスが話しかけてきた。
「おはよう、マヤ。今日はいよいよ我が騎士団の入団試験なのだが……、調子はどうだ…?」
「アニエスさん、おはよ。調子はいつも通りって感じかな。」
「そ、そうか。もし体調が優れないようだったら遠慮せず言うんだぞ?試験の日なんていくらでもズラせるんだからな。」
それは職権乱用というやつでは…?
「なんだったら、無理して騎士団へ入らずともいいのだぞ?女子2人くらい私なら余裕で養えるし、ここにずっと暮らしてても──」
「大丈夫、心配し過ぎだって。それに騎士団には私が入りたいから。少しでもアニエスさんの力になりたいし。」
このやり取りでも分かるように彼女は事あるごとに何かと気にかけてくれている。
ちょっと過保護気味なのかもしれないけど、純粋に私のことを思って心配してくれているのが素直に嬉しい。こんな思慮深い人だからこそ、何か力になりたいと思えるのだ。
「そ、そうか?」と言って彼女は斜め上へ視線をそらす。なんだかちょっと嬉しそう。そんな可愛らしい一面も持つ彼女だが、実は魔装騎士団と呼ばれる騎士団の第四部隊体調様なのだ。頬が緩んでニマニマしてるけどお偉いさんなのだ。
魔装騎士団。この国、王政エンディミリオン王国が誇る最高戦力であり、国防や治安維持の役割を担っている。
特徴は名前にもあるように"魔装具"と呼ばれる武器を用いて戦うことだ。
全四部隊で構成されており部隊ごとに役割が異なる。アニエスさんが隊長を務める第四部隊は国外治安維持、つまり街の外で起きた魔物討伐や紛争を納める役割を担っている。
私は今日、そんな第四部隊への入隊試験を行うのだ。まあ、女性は強制的に第四部隊へ入れられるので、入隊先は選べないのだが。
「ユナが強いのは知っているが…、何分、私はマヤの実力を知らんのでな。心配にもなるさ。」
「──心配しなくてもマヤ様はちゃんとお強いですよ。」
いつの間にか凛々しい表情を取り戻したアニエスさんの言葉にユナが反応する。……いつの間に居たのだろうか。足音も一切聞こえなかったけど。
「それにマヤ様は私が必ずお守りしますから。」
あらやだこのメイド様ったらイケメン。ちなみにこのイケメンメイド様は私よりも全然強かったりするので、しっかり発言に説得力がある。
「私も一応、剣術と魔装具の扱いは心得てるから。心配しなくても、余裕余裕。」
「そこまで豪語するなら、期待して待ってるよ。っとほら、ユナも座って座って。せっかく作ってくれたのに冷めちゃうぞ。」
「そうですね。では、失礼して。」
ユナも揃ったところで、私は"いただきます"をせずにトーストにマーガリンをつけて囓りだす。ユナはサラダを私達に取り分け、アニエスさんはそのサラダから食べている。
朝日が登る度やってくるちょっとした幸せ。こんな日々をこれからも続いてほしいって思うから。がんばらなきゃね。
魔装騎士団本部。
並の住宅よりも高く聳え立つ門の両側には屈強な門兵が立っている。ここが今日の目的地。そして私の職場になるかもしれない場所だ。
アニエスから貰った入団試験受験票を門兵に見せれば、顎を擦ってこちらをジロジロと見てくる。特に胸。女性に生まれてからはこういった厭らしい視線は沢山浴びてきたので流石に慣れたものだ。
「通ってもいいですか?」と問いかけると、確認のためにと何個か質問に答えると中に通してくれた。
門を潜って中に入り、騎士団の総合窓口にて再度受験票を渡す。
受付といえば女性が担当するイメージだが、ここでは気前の良さそうな男性が担当している。
アニエスさんから聞いた話だと騎士は男がするものという風潮が強いらしく、女性の入団希望者は軒並みアニエスさんの第四部隊に押し込まれるのだという。
「どれどれ?入団希望者か。名前は……マヤ、名字が無いから市民の出か。性別は女、年齢は16歳と。間違いないな?」
「はい。」
「よし、入団条件は問題無いな。横のお前さんも入団希望者か?」
「いえ、私はアニエス様の付き人です。」
そう、ユナは入団しない。あくまで入団試験を受けるのは私一人だ。平民扱いの私にメイドがいるのはおかしいので、隊長であるアニエスさんの付き人ということにしてもらっている。
「そうか、了解した。直に案内役が来るからそこで待ってて──ほら来たぞ。」
「え、来たってどこに?……あ。」
案内人を探すため辺りを見回すと、両手を広げてこちらにダッシュしてくる女性、いや、女の子が遠くに見てた。
「マ〜〜ヤ〜〜きゅーーーんっ!!!」
ダッ、ダッ、ダッ、ダッと勢い良くこちらにダッシュしてきた少女は私に向かってハグタックルを決めてくる。
見た目通りの軽さなので大した衝撃もなく軽々受け止めることができた。身長差のせいで少女の頭が私の胸の隙間にすっぽりハマる構図が出来上がっている。
胸元に食い込んでる少女の髪は光を全て透過するような水色。だが、無造作に伸ばされているせいで、だらしなく見えてしまうのが勿体ない。
この人はシュクロ・セリ。こんな少女みたいな風貌でも、アニエスさんの同い年で立派な年上のお姉さんなのだ。
「わっ……!シュクロさん……!?」
「久しぶり~~。ふむふむ、相変わらずけしからんもんをお持ちですなあ。」
「ひゃっ…!ちょっ、どこ触って!」
「うーん、やっぱこれが一番しっくりくる〜。アニエスのは大きすぎるけどマヤきゅんのはちょうどいいサイズ。」
「ちょっと…っこんなところで……っ!せめて、人のいないところで……!」
「ほーん、人のいないところならいいんだ〜。」
私の谷間に顔を埋めた少女はそのまま顔を動かさず、ハグしていた手を私の胸において揉んできた。
アニエスさんやユナも良く揉んでくるし女性同士であればこれは人の胸を触るのは普通のことなのだろうか。しかもなんか触り方がいやらしくて、思わず変な声が出てしまっま。
目の前にさっきの受付さんも少し気まずそうに眼をそらしてる、……ちょっと恥ずかしい。
「シュクロ様。胸を触るのであれば、人目の付かないところでやりましょう。」
いや、そういうことじゃない。
「お、ユナちゃんもおひさ~。たしかにそれもそうだね。」
ユナの言葉に納得したシュクロさんは最後に一揉みして手を放す。男に触られるのとはなんか違う感じがして…、変な扉が開きそうで危なかった……。
「はぁ……はぁ……っ!そ、れで!シュクロさんが、今回の試験案内人ですか?」
「あ、そうそう、そうだった~。さあマヤ、こっち~アニエスが待ってる~~。」
「え、あ、ちょっといきなりっ!」
自分の目的を思い出したシュクロさんは、私の手を引っ張って駆けていく。
通り過ぎていく人はほとんど男性しか見受けられなかったので、やはり騎士団は男所帯らしい。そんな中、女性で構成された第四部隊を指揮するアニエスさんは、肩身の狭い思いをしてたに違いない。
と、急にシュクロさんが止まる。勢いを殺しきれず倒れそうになるも、地面にぶつかる前にユナの手が私を抱えた。いつの間についてきたの……?
「お怪我はありませんか?」
「あ、ありがとう。大丈夫だよ、ユナ。」
私の手を放し一歩前に出てシュクロさんは笑顔でこちらに振り向く。
「よし、ついたよ!ここがこれからマヤの職場だよ〜!」
「おい、まずは試験に合格してからだろ。」
「いてっ、あれ~そうなの~?でも、マヤきゅんなら問題なく受かるでしょ。」
既に待機していたアニエスさんが書類をシュクロさんの頭に落とす。結構書類の量は多くて、べしっ、と結構いい音を奏でる。
この二人は騎士団の同期だそうで、普段のやり取りからも仲が良いのが分かる。アニエスさんの家に時々顔を出しに来ていたので、シュクロさんとは必然と顔を合わせる機会も多かったというわけだ。
「というか、シュクロ。お前また夜更かししただろう。クマがすごいことになっているぞ。宿舎の仮眠室空いてるからいったん寝てこい。」
「え~、こんくらい大丈夫だよ~。それにマヤきゅんの試験監督もしなくきゃだし~。」
「それは、私がやっとくから。ほら、行って来い。」
不満げにぶーぶー言いながらシュクロさんは宿舎の方へとてとて歩いていく。
さすがはアニエスママ。
「シュクロはあれでかなり優秀なんだがな。放っておくと一生魔術書やら戦術書読む漁っているからな、ああやって定期的に無理やりでも寝かせとかないといけないんだ。」
「たしかに目のクマすごかったしね。さすがアニエスママ。」
「誰がママだ。誰が。」
シュクロさんはあの小柄な体系もあって戦闘があまり得意ではない。しかし代わりに相当頭がキレるらしく、第四部隊の参謀として少なくない成果を上げているのだ。
「さてと、そろそろマヤの入団試験を始めようか。以前も話した通り、試験内容は学科試験、模擬戦闘、魔力量調査の三項目だ。その平均値が基準以上だと入団を認められる。そして申し訳ないが、お前は女性だから合格してもほぼ強制的に私の第四部隊へ入れられることになるだろう。そこは了承してくれ。」
「うん、大丈夫。理解してるよ。」
「よし。では、まずは学科試験からだ。試験用紙はすでに会場に用意しているから移動しよう。」
アニエスさんが会場へと先に歩き始める。私は深呼吸をしてその後をついていく。
まずは第一歩。何としてもこの入団試験は合格する必要がある。ここで落ちてしまえば全てが台無しになってしまう。
ユナとアニエスさんと、これからも幸せな生活を続けていくためにも。