【逃避行】ワイ将生徒 一年間練りに練った自治区脱走を本日決行   作:ホッケ貝

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「半分は過ぎたかな…!はぁ、はぁ…!あともう少し、頑張ろう…!」

 

「はい…!」

 

 ケーブルリールを二人で持ちながら、私らは少しでも出口に近づこうと走っていた。

 逃げるにあたってケーブルリールはもう無用なのでは?と思うだろう。

 実際、こんな重たい物はとっとと捨ててしまいたい。

 しかしそうすることができない事情が存在するのだ。

 なぜなら、そこらをウロウロ巡回している歩哨と運悪く出会ってしまった場合、言い訳をすることができなくなってしまうからである。

 

 本来、こうしたカタコンベ内での作業は逃亡防止のため護衛兼監視役が必要だ。

 しかし、私らは交代の隙をついて監視抜きでカタコンベ内へ入った。

 なぜそのような強引な手段を用いたのか?

 ずばり、認識の差を利用――『現場猫案件』を駆使して時間を稼ごうという算段である。

 

 12時30までを第1班、以降を第2班という仮定で説明しよう。

 第1班からすれば第2班の連中が早く仕事を終わらせようとフライングし、監視もその後からついてくるのだろうと考える。

 しかし2班からすれば、1班の時に出発したので1班の監視がついたのだろうと考える。

 そう、「え、これ君がやるんじゃないの?」案件の成立という訳である!!

 

 ……っと、少々気が走ってしまった。

 冷静に、落ち着かなければならない。

 

 こうなってしまったのもすべて、今まで経験したことのないほどの高揚感を感じているからだろう。

 失敗したら間違いなく処刑されるという、絶対に失敗してはならない緊迫感――

 自由が目前に迫りつつあるという解放感――

 これらが織りなす二つの感情が混ざり合い、私のテンションを最高潮へと引き上げる。

 そして、生と死の狭間を綱渡りしているという非現実感が私の認識を麻痺させていくのだ。

 しかしそうした高揚した状態の中、己の手に握られている、まさに命綱ともいえるケーブルリールと各種装備類の重さが否応にもきつい現実を突きつけてくる。

 その重さが私を冷静にさせ、私に思考させるのだ……。

 

「…あともう少し、あともう少しで自由になれるぞ……!」

 

「はいっ…!はぁ…はぁ…!」

 

 私の言葉に、センは息を切らしながら答えた。

 その時だった。

 

「……っ!」

 

 アリウスの校章を模した腕章に、白いコート、そして無機質な威圧感を放つグレポンとガスマスク――歩哨が三人、暗闇に立っていた。

 

「あっ……!」

 

 刹那、目が合う。

 ガスマスクの中に映る目が、まるで壮絶なものでも見ているかのようにカッと開いたのがよく見えた。

 

「と、止まれ!!」

 

 隊長格と思われる少女は咄嗟にグレポンの銃口をこちらに向けると、制止を命令する。

 その言葉に私らは素直に止まり、彼女の指示を待つ。

 そのときセンがケーブルリールから手を放し、両手を上げようとした。

 

「ん」

 

 センの行動に対し、私は手を出してあえてそれを止めさせた。

 

「あなた方は、何用でここにいるのですか」

 

「見れば分かるだろう」

 

 私は横たわるケーブルリールに指をさす。

 

「……」

 

「前哨基地と後方を結ぶ電信ケーブルを敷設している」

 

 私は飄々とした態度で答えた。

 「わざわざ答えるまでもないだろう」と言いたげに。

 そんな私とケーブルリールを、彼女は訝しそうに見つめる。

 

「誰の命令で?」

 

 当然出てくるであろうこの問いに、私は意味深に「フッ」と鼻で笑う。

 

「上だ」

 

「…どこの?」

 

 一見すると言葉の連続性が無い私の答えに、彼女は案の定困惑するそぶりをする。

 よしきた。

 押し、そして勢いのまま突っ切れと、私の中の天使と悪魔が同時に囁く。

 

「上、ずっと上、遥か上……」

 

 一歩ずつ、まるで劇場の役者のようにゆっくりと彼女の元へ近づいていく。

 疑い向ける銃口のスレスレまで近づいたとき、私は右手を差し出して、彼女の後ろ髪を撫でる。

 

「我らの首領、我らの母、偉大なお方……」

 

 溜めに溜める。

 そして、彼女のストレス値がもう限界に達したであろうそのとき、ポンと肩を叩いてこう告げた。

 

「ベアトリーチェだ」

 

「――ッ!」

 

 その瞬間、彼女は大きく息を詰まらせた。

 間違いなく動揺している。

 目論見通り、効果はテキメンだった。

 

「……とりあえず、その鞄の中の荷物を検査させてください」

 

 しかし、彼女は新兵なりに冷静さを取り戻し、職務に忠実であろうとする。

 

「この中には最高機密の文書が入っている。そう、あのお方の許可なしで閲覧した場合、良くて処刑だ」

 

「う…!そ、そんなハッタリに騙されないぞ、私は…!」

 

「ハッタリだと思うか?」

 

 私は彼女に対し、真顔でそう問うた。

 

「……!」

 

 しかし彼女は黙って私の鞄を奪い取り、チャックを開けて封筒に梱包された紙資料を漁り始める。

 不味い事にはなった。

 しかし、ピンチをチャンスに変える絶好の機会だ。

 

 三人の歩哨は注意散漫な事に、全員揃って資料を熱心に読んでいる。

 この隙があれば逃げることも可能だろう。

 しかし、とあることを思い立った私は逃げるような事をせず、その場にとどまる選択を瞬時に下した。

 

 そして、堂々とスマホを取り出しスレを開く。

 


 

403:名無しの生徒●/●/●(●)ID:/shBBF/t9

1が地上に出たらどういうプランで逃げるんか気になる

戻ってきたらそこらへんも実況してほしいな

 

404:名無しの生徒●/●/●(●)ID:ZARg8tC3J

やばい

 

405:名無しの生徒●/●/●(●)ID:bU4CCIvim

1どうした?!

 

406:名無しの生徒●/●/●(●)ID:x1KyXVL0j

バレた!!!!

 

407:名無しの生徒●/●/●(●)ID:KPO22vbSd

ファーーーーーwwwwww

 

408:名無しの生徒●/●/●(●)ID:CFJ0zSh/s

 

 


 

 あまり詳しくは見れなかったが、これで十分なはずだろう。

 スマホをポケットに押し込め、今だ資料を読む彼女らに目線をくれてやる。

 

「……」

 

 ガスマスク越しに分かる蒼褪めた顔――どうやら本当に機密に触れてしまったことに恐怖しているようだった。

 

「あーあ、見ちゃったね」

 

 肩を組み、大げさに呟く。

 

「……」

 

 このような大胆な行動にも関わらず、彼女は資料から目線を逸らし、俯いたままだ。

 そんな彼女から資料を取り上げると、私は後ろ手を組んで数歩ほど遠ざかる。

 

「これで私と君は、共犯だ…!」

 

「え…!」

 

 私の言葉に、その場にいた全員が立ち止まる。

 沈黙が場を支配した。

 しかし、その絶対的支配を打倒するかのように、毅然と私は言葉を紡ぎ始める。

 

「あいにく、君が鞄から出した時に私も見えてしまってね……どうだ、ここで一つ、提案がある」

 

「提案…?」

 

 これはいける――確信した私は、ニヒルな笑みを浮かべた。

 そして、自信満々に提案の内容を冷静さを欠いている彼女らに告げた。

 

「一緒に逃げないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

597:名無しの生徒●/●/●(●)ID:ZARg8tC3J

太陽ってこんなにも美しいんだね

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