「先生の門下生だ。通してくれ」
「えっDr.フジミヤ!?しかし貴方は既に退職されて……」
「ガム研究員から許可は得ている。入らせてもらうぞ」
「ちょまっ」
警備員を押し除け、入った研究室はあの日と何も変わってなかった。先生がまだ生きていて、俺達も袂を分かってなかった日々と。
「……先生、失礼します」
遺品でもある資料達を手当たり次第鞄に詰め込んでいく。目的は尚も進撃を続けるゴジラへの対策、その進路を見定める為だった。
「タイタンは強く偉大だ。彼らによってこの地球は支配され、平定され……そんなこの星に、我々が叡智を持って生まれた理由とは、何なのだろうな。なぁ、藤宮」
「……なんでこんな時に思い出すんだっ」
たった今、人類の命運はゴジラに左右されている。その脅威を前にして、尚も諦めずに足掻く人々がいる。
それを目の当たりにして、俺ですら立ち上がらなければと。そう思ったんだ!
記憶の中の言葉をそうやって振り切り、俺は資料と共に部屋を飛び出す。その折、我が子と共に笑顔を映し込んだ先生の写真が目に入り──それでも、駆けた。
青は今でも澄んでいる。
先生と、我夢と、
胸ポケットに仄かに瞬く、アグルの光と同じように。
破綻は前触れ無く訪れた。
5時間が経ち、着々と進んでいた講義、作戦立案、ブリーフィング。それを邪魔するように、アラートが地下基地を揺らす。
「どうした!?」
「ち、地下より高熱源体が接近!マグマが競り上がって来ます!!」
「マグマ!?」
シャイアン山は火山なんかじゃない。にも関わらずマグマって、そんなのタイタンの仕業以外には考えられなかった。
それも、タイタンの中では最悪に近い類の……!
「ファイターは!!」
「麓の飛行場へ移送中!マグマの遡上ルートからはギリギリ逸れていますが、基地本部は直撃コース上ですッ」
「ここは放棄する!総員退避せよ!!」
石室さんの指令に従い、僕もまたありったけの資料を掻き集めて走った。緊急エレベーターに乗り込む時には、既に地面が熱を帯びていた。
地上に出ると同時に、大爆発。熱風に押され、倒れながら振り向けば、威容を誇った大山が火を噴いている。
その噴煙の中に、影。
「ラドン……!」
『▲▲▲▲▲▲───!!!』
メキシコの火山に眠っていた筈の火の悪魔。アルファタイタンを除けば最強、含めたとしても暫定3位級の実力を誇る獄炎のタイタンがそこにいる。地脈を溶かし、ここまで潜航してきたというのか?
「もうダメだ…おしまいだァ……」
「しっかりして下さい!!」
隣で落石を受けた学者を介助しながら、それでもラドンから目を離すわけにはいかない。彼はすぐには飛び立たず、何かを探すように眼下を見繕っていた。
「我夢!」
ここで駆け付けてくれたのは藤宮。本部ゴジラの資料を持って来てくれた所だっただろうに、こんな事になってしまうなんて……っ。
「藤宮、奴をここから離さなきゃ。多分ファイターを狙って、ここに差し向けられたんだ」
「ゴジラにか……だが恐らく、もう時間の問題だろうな」
「くぅっ…!」
飛行場へと固定されたラドンの視線を見て、悔しさに地面を叩いた。後ちょっとだったのに、こんな所で……!
「終わってたまるか…ッ!!」
出来る事を探せ。無くとも探すんだ!
「大切な物を、守るんだ……!!!」
何が大切なのか?地球だけ?環境だけ??人類だけ?……どれでもない。全部守る、その為に僕はここに来た。ウルトラマンの光に選ばれたのが理由なんかじゃない!!
そう駆け出そうとした拍子に、掴まれた肩。
「んん見ろ」
「何!?」
「これを見ろ」
「だから!何…を……」
二の句を告げない。藤宮が見せた掌にあったのは、僕を黙らせて余りある物で
それは、かつて僕が、地球の光を宿した容れ物───光電子管だったから。何よりその中に、僕の赫い光に似た、蒼色の光が眠っていたからだ。
「……それは」
「“アグル”。俺はこの海色の光を、そう名付けた」
「君も僕も同じ研究に挑んでいたのか?」
「ああ、そして先に掴もうとして……だが.俺には勇気が無かった。海を割る巨人の力に怯え、それを人類が我が儘に振るった先の未来を幻視して、中途半端に掴み損ねた。その結果がこれだ、幾ら起動しても“アグル”は応えてくれない」
何度かスイッチを押すけれど、光はほのかに明滅するのみ。けれどその度、僕の中の鼓動が強く脈打つ……赫い光は、ゴジラに没収された筈なのに。
「奪われてなんか無いぞ。地脈に優先的に干渉する力で、封じ込められただけだ。お前が気絶してる間に調べさせてもらった」
「つまり地球の光は、まだ僕の中に?」
「それをアグルと共鳴させ、活性化を促す。前よりはマシに戦えるだろう」
差し出された管を、僕は手に取った。熱く、激しく、より輝く鼓動。青の光もまた強く。
「光を獲れ、高山我夢!」
託された言の葉と力。瞬間、直感に任せ、僕の持っていた分とフジミヤから渡された分、計2本の光電子管を接続。瞬間、溢れた光が包み、管を分解。最適な形へとその有様を変える。
金の外殻に透き通るような水晶を嵌め込んだ……ウルトラマンの胸に輝く結晶と、似た形へ。
『▲▲▲……〜〜〜ッ!』
そうしてる内にとうとうラドンが羽ばたいた、目指す先には飛行場、そこに姿を現した人類の希望が詰まったコンテナだ。壊される訳には、いかない。
「うっ…ぉぉおおおぉおお!!!」
追い駆け、跳び、叫んだ。渾身の力で、僕の中の光を爆裂させるように。
その名を呼ぶ。光よ、今一度!
「 ガ イ ア ァ ァ ァ ア ア ア ア !!! 』
海の蒼に触発された赫い大地が、その咆哮で目を覚ました。
『ジュオオアァッ!!』
『▲▼っ?!』
出現した巨腕が、飛び立ったばかりの鳥を下から殴り上げる。かくしてここに巨人再誕。
肩のアーマーを赤から黒に染め、より重く厚くなった肉体。名付けるなら“Version2”、と言った所だろうか。
「……光の巨人。生きていたのか」
押し寄せる絶望を打ち払う希望の化身。退避に成功した石室を始めとする人間達の視線を受けて、大地の光はここに輝く。
ガイアよ再び。今ここに、紅の巨人は地球を揺るがしたのだった。