心のマグマが目覚めたら   作:スターク(元:はぎほぎ)

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嘲笑う手

「高山。ガイア理論は知っているか」

「地球を一個の生命体として考える説ですよね。このご時世ですもん、そりゃ知ってますよ」

 

ある日、芹沢先生はそう聞いてきた。サンフランシスコでの一件以降、世界各地でタイタンの動きが活発化し始めた報を読みながらの事だった。

 

「なら、王権神授説は」

「いえ政治の事はあんまり……字面からある程度予測はつきますが」

 

全くジャンルの違う話に困惑するけれど、先生は至って真面目なようで。きっと彼の脳裏にはあのタイタンの面影が色濃く残っているのだろう。

ゴジラという影が。

 

「人類は長らく霊長として地上に君臨してきた。諸説こそあれど、その事実自体は特に否定要素も無いだろう」

「……人類が自然を支配していたと?」

「そうではない。が、一種の調停役として機能していた側面はあった筈だ」

 

だが、と続けられる言葉。そこに憂いの色を見て、僕もまた顔を引き締める。

 

「その権利が、人類自身が勝ち取った物ではなく……“神”から賜った物だとしたら?」

「地球における神、それは地球自身かもしくは……タイタン」

「人類は飽くまで委託されていただけ。いや、家の主人がいない間に居着いた盗人か?我々は神に何もかも明け渡すべきなのか……!?」

「先生、落ち着いて下さい!」

「………すまない。私はもう、人類の叡智すら誇りには思えないんだ」

 

巨神達の激突を目の当たりにして、先生の心は弱っていた。僕にはどうする事も出来なかった。

 


 

結論から言うと、僕の記憶は巨人の登場と同時に途絶えている。それはアイリーン博士達も同じ。

気付けばHEAVの中に舞い戻っていて、そしてそのHEAVはコングの手の中にあった。外付けカメラを確認したところ、どうやらパイロットも気絶して落下していたところに駆け付けてくれたらしい。

 

その後、僕は実験を中断して地上に帰還。地下突入中の機材暴走の原因や、あの時の光の巨人の正体を探るべく再び研究室に籠ることを選んだ。

……けれど、どちらも難航。不具合の温床は見つからず、巨人の文献も全く存在せず、疲れた合間に“大怪獣の真実”を聞くぐらいしか出来ない。

 

『エイペックスはまたも悪事を企んでいる!タイタンに支配された地球に見切りをつけ、ごく少数の上級市民だけで宇宙脱出しようと企んでいるんだ。ゴジラが再び世界各地のリゾート地に現れ、威嚇行動を繰り返すのもその証拠!!』

「陰謀論が過ぎるでしょバーニーさん……」

 

ゴジラが活動を再開しているのは確かに事実、でもその実態は人類の生活圏を遠巻きに眺めて数度吠えてから去る程度に留まっている。現在モナークでは、彼の行動の意図を探るべく東奔西走中だったり。

僕にもその仕事の一部が回ってきてるし、これもまた難解なんだよなぁ。キャスに協力を頼めるかなぁ……?

 

「パパの馬鹿ァ!」

「マディソン、待てッ!!」

 

ふと聞こえてきた怒声の応酬。気になってドアを開けた瞬間、その目の前を少女が駆け抜けていった。

 

「マークさん、今のってもしかして」

「見苦しい所を見せてすまん……ああそうだよ、娘だ」

「あぁ、あの……」

「そう、あの」

 

 


 

 

パパはやっぱり分からず屋だ。前よりは聞く耳を持ってくれてるけど、それでもまだ頭が固い。ゴジラはいつだって地球の事を考えて動いてるのに、尻込みする理由がどこにあるの!?

 

「もういい。また私達でやってやるわよ、ジョシュ」

「えぇ…前の件で僕、君のお父さんに殺意向けられてるんだけど」

「地球が滅んだらパパに殺される前に死ぬのよ?」

「とほほ……」

 

頼りないけど頼りになる相棒、ジョシュを今回もお供にする。目指すはエイペックス本社、ただし車ではなく電車だ。車借りれなかったし。

 

「安心しなさい、今回は危ない橋を渡るつもりは無いから。私はお父さんを助けたいだけで、お父さんを困らせたい訳じゃないし」

「あれっ。君そんな殊勝なキャラだっけ?」

「ブン殴られたい?……流石に自覚したのよ。はっちゃけてる時の私、“ダメな時のママ”そっくりだって事」

「Ah-Huh……」

 

前回、メカゴジラの暴走に巻き込まれた時は怖かった。抱きしめてくれたお父さんが温かくて、そして一層叱られたのが効いた。もうあんな向こう見ずな真似はしない、必要に迫られない限り。

 

「正攻法よ。アポだってとってあるんだから」

「エイペックスに個人で?よく取れたね」

「言っとくけどコネは使ってないわよ。快く応じてくれた親切な人がいたの」

 

その中捨てた物でもないわね、と相棒に見せたのは顔写真。これから会いに行くエイペックスの研究員、それもあのメカゴジラを作った奴とライバルだったらしい人だ。

 

「ヒロヤ・フジミヤ。なかなかイケてる人でしょ?」

「……何がイケメンだよ、こんな奴」

 

何故か急に拗ねてしまった悪友を疑問に思いながら、車窓の中の海へ写真を翳す。予想通り、憂いを帯びたDr.ヒロヤの顔立ちは、海色によく映えて見えた。

 

 


 

 

「蓮。お前は、今の俺を見てどう思う」

 

異郷の墓に眠る同胞へ、彼は問う。

 

「俺はお前とは違う。ゴジラを憎まないし、憎めない──抗えない」

 

王へ身を捧げた父とは真逆、王を殺す方角へ舵を取った友。しかし彼は、そのどちらへも追随しなかった。

その手に握る光電子管の、()()輝きがそうさせたから。

 

「……アイツにも、笑われてしまうだろうな」

 

その声音に諦念を滲ませ、彼は踵を返す。祖国にて父と同じ墓に入る事を拒んだ友が、彼に言葉を返す事はついぞ無い。

 

 

 

 

 

 

───脅威が、惑う人々の行方などお構いなしに迫り来ている事も。今はまだ誰も、知る由も無い。

どこか白骨自体を思わせる白い紋様を纏い、大宇宙を漂う一つの隕石。しかし突如、その軌道が()()に逸れた。何もぶつかってなどおらず、それは通常の物理法則から反する現象だ。

 

新たな進路の先には太陽系。その第三惑星に豊かな資源と()()()()のある生命達の気配を感じ取り、隕石の中に眠る影はその速度を早める。彼に深い思惑など無く、全ては本能に委ねたが故の衝動で。

 

一方、彼をその方向へ誘導した不可視の手は、その様子に嘲弄の色を濃くして微笑んでいた。それはまさしく滅びの微笑であった。

 

生きとし生けるものに“破滅”を。

 

根源へ至る絶望を、と。

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