心のマグマが目覚めたら   作:スターク(元:はぎほぎ)

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その名はGAIA

「隕石……ですか?」

「ああ。太陽系外から地球に迫っている」

 

出向してきた米軍人はそう言ったが、聞いた僕達に出来る事など多くは無い。各々で顔を見合わせてから次の言葉を待つ。

 

「直径100mほどの大きさだ。そのまま大気圏に突入すれば、甚大な被害を齎すだろう」

「……で、我々に何をしろと?」

「ゴジラだ」

 

要は、ゴジラがこの隕石にどう対応し得るのかを予測しろという事。それに対し一番早く口を開いたのは、当然というかゴジラの動向を専門として解析している同僚だった。

 

「少し待って下さい。参考までに、隕石がいつどの方角から来るか聞いても?」

「明後日、グリニッジ標準3時にオリオン座の方角から。恐らく東京付近へ」

「あー……すみません、これ確実に気付いてますねゴジラ。最近の行動パターンを見るに、恐らく“迎撃場所を下見してる”かと」

「えっ……!」

 

つまり正午の東京に落ちてくる隕石を、ゴジラが迎え撃つと言う事。どうやってかなんて聞く余地も無い、地殻を貫く程の出力を放てる熱線だ。

そんな物が隕石と激突したら、その熱量が都民の頭上に降り注ぐ事になる……!

 

「米軍の力でなんとか出来ないんですか?事前にミサイルで軌道を逸らすとか!」

「実の事を言えば、既に行って失敗しているのだ。異常な硬度と“軌道修正”によって…っ」

「…そんな事が出来るのなんて、()()()くらいだ」

「まさか…?」

 

ここにきて最悪の可能性、つまり外来タイタンである説さえ浮上し始めた。もしそうだとしたら地球全土がゴジラに与して戦わなければならない案件で、とてもじゃないが東京一つに構ってられない。避難してもらうしかない。

……今から?間に合うのか?

 

「既に日本政府の協力は取り付けてある。在日米軍に応援を送り、自衛隊と連携して対応する事になるだろう。後は、」

「ゴジラ次第、と」

 

そこで話はおしまい。ミーティングを終え、各々が業務に取り掛かる。

僕に出来る事は……無いのか?

 

「………すみません!ちょっと待って下さい!」

「どうした?まだ何かあるのかね」

「“ファイター”の開発はどうなってるんですか!?アレなら宇宙空間だって飛べます、大気圏外で戦闘機による破壊を試みれる!」

「何故君がファイターの事を?重大機密の筈だが」

「リパルサーリフトの開発者は僕ですっ!」

 

タイタンが跋扈する地上において、人類の安全保障は著しく脅かされている。例えタイタンの活動に正当性があっても、人類がそれに備えてはいけない理由にはならない筈だ。その一心で僕は、モナークを通じて米軍に技術供与をしていた。

けれど軍の応答は芳しくなくて。

 

「そうか、君が……しかしアレはまだ試作段階に入るか入らないかの所だ。人を乗せて宇宙に飛ばせる代物ではない」

「そんな!」

「……すまない」

 

今度こそ終わり。何も出来ず、何も成せず、指を咥えて眺める事しか許されない。

 

「………間に合わなかったのか」

 

ほぼ確定した故郷の破滅に。

僕のしてきた事は、何一つ。

 

(力が、欲しい)

 

この運命を覆す力が。

黄金の絶望すら殴り飛ばした、あの光のような……希望が。

 

 

ふわりと、蝶が舞い降りたのはその時の事。

「え?」

 

ヒラリヒラリと舞い遊ぶ羽は、人工物に占められたモナーク基地には相応しくない物。けれど目の前に確かに存在するそれは、僕を誘うように離れていく。

その導きのままに歩き出し──気付けば、整備されたHEAVへ案内されていた。

 

「……乗れって言うのかい」

 

蝶は答えてくれない。不思議な事に、周りであくせく動く人達は僕達に気付きもしない。

その様子を見回してから──覚悟を決めた。

 

 


 

 

『●●●●●ーーーッ!!』

「ありゃ紛れも無い威嚇行動だね。方向は……」

「ドンピシャリだ。いよいよって具合だな」

 

地上へ向けてドラミングするコング。それを見上げるトラッパーとネイサンへ一瞥してから、ジアを見た。

彼女を迎えに来てくれた地下イーウィス族も。

 

「《脅威が、近付いてる。お母さんも一緒に来て》」

「《私にはやらなきゃいけない仕事があるの。また後で会いましょう》」

「《ずっと一緒って言ったのに》」

「《その約束を果たす為よ。貴方と私の、地上の故郷を守るの》」

 

それを最後に、一族の護衛に目配せ。有機体の膜が閉ざされ、その向こうにジア達の姿は隠された。

……これで良い。少なくとも、隕石の影響は地上よりかは免れる筈だから。

 

「良い訳ないだろ。それは全てが終わってから出すべき結論だ」

「どういう事かしら?」

「安心するのはジアが気兼ねなく地上に来れるようにしてからにするべきって事だよ先生。サンダーグローブの調整も終わったぜ」

 

来たる混沌に備え、コングの装備の点検の為に連れて来た2人。それが終わったようで。

後は待ち構えるだけだ。逆に言えば、待つ事しか叶わない。

 

「やれるだけやったんだ。後は土俵際でギリギリまで踏ん張るだけ、胸張ってやろう」

「貴方ホント……臆病者だったのが嘘みたい」

「バカ言うな、怖くて仕方がないって」

「生きるも死ぬも時の運さ。ドーンと行こうぜドーンと」

「「死にたくないから頑張ってるのよ(だぞ)!?」」

 

………無力でも、無力なりに。

私達はただ、黙って滅ぼされるだけの存在ではないのだから。

 

そんな私の覚悟へ応えてくれるように、コングは一際強く胸を叩いてくれた。

 

 


 

 

時は進む。事態が進む。

当日朝、日本時間6時。ゴジラ、東京に上陸。厳戒態勢が敷かれ無人となったビル群を尻目に、悠々と都心を闊歩する。

やがてその歩みが止まった。とある塔の真隣で。

 

『……ッ!』

「ゴジラ、東京タワーを破壊!以降その場に留まっていますっ」

 

邪魔とでも言いたげに積み木の如く崩される、昭和の繁栄の象徴。軋みを上げて倒壊する鉄骨を踏み荒らし、ゴジラがその場で行ったのは“四股”であった。

 

一歩。地面が凹む。

もう一歩。大地を揺るがす。

最後に尻尾。打ち付けられた世界が慄く。

 

自らをアンカーに、地球へ固定するかのよう。

 

「体内核エネルギーが増大中。ここを迎撃地点と定めたようです」

「……なら、この街も見納めという訳だな」

 

市民への人的被害は皆無に出来た。だがこの地に刻まれた人々の営み、その記憶は熱波で消し飛ぶだろう。

しかし他に選べる道は無い。人類はゴジラに身を委ねる他無く、命だけは助かる事に感謝する。それが今この時代の本質なのだから。

 

分水嶺まで6時間。その時は着々と迫っていた。

 

───

 

機材は全て積み込んだ。条件は“あの時”と揃えた。

後は出発するだけだ。

 

「……ん?オイ誰だ、こんな時にHEAVを!」

「すみません、お借りします!!」

 

浮上と同時に、窓に泊まっていた蝶も飛び立つ。また僕を導いていく、地下空洞へ続くポータルへ。

 

分かってる。僕が今やってるのは他力本願、だとしても!

 

「守りたい世界が、あるんだ!」

 

人類の未来だけではない。その尊厳も。

 

意を決して踏み込んだペダルが急加速で応え、舌が喉の奥に詰まりそうになって。それでも開き続けた視界が、大地の光に染まった。

 

果たしてそこに、ウルトラマンは待ってくれていた。

 

「君の光が欲しい!」

 

単刀直入に告げる。人として、人の形をしたその光に、僕は縋った。

そこに誤魔化しは不要だと、魂が告げている気がした。

 

「僕に力を!!」

 

巨大な掌が翳される。それはまるで迎えてくれるかのように。

それに甘える形で、応じる形で、僕もまた両手を掲げてみせた。

 

距離が縮まる。熱気が、光が、僕の体に入ってくる。

 

「“君”に!なりたいんだッ!!!」

 

──身を捧げる覚悟だった。先生がそうしたように、自分を生贄にしてでもこのタイタンに救って欲しかった。今思えば、そうする事で先生の最期を理解しようとしていたのかも知れない。

なのに僕は今、このタイタンの力を自分の物にしたいかのような言動をしている。その理由は自分でも分からない保身ゆえの傲慢が無自覚に浮き出たんだろうか。

 

それでも、光は。

僕の身に宿る形で、それを叶えてくれたのだった。

 

「……───!』

 

力が満ちる。膨れ上がり、舞い上がる。

地の底から地の上へ、その先の空へ。

 

もっと。もっと高く、もっと高みへ。

 

やがてその果てに、地平線が丸みを帯びたタイミングで、“敵”を見初めた。

 

打ち砕け。

 


 

日本時間午前11時58分32秒。その異変は、地上に展開された全部隊に目撃される事となる。

 

「こちらアルファ2-6!目標と思われる隕石に、突如飛来した赤い光が激突!大爆発を引き起こした模様です!」

「赤い光はモナーク管轄のポータルより出現したとの事。正体不明」

「ゴジラ、熱線発射を中断!様子を伺っているようですっ」

「隕石、衝撃で二つに分裂した模様……待って下さい、片方が大幅に制動しつつ郊外に落下して来ます!?」

 

幸か不幸か──いや間違いなく幸運にも、突然の闖入者によって被害を免れた東京。しかし脅威が終わった訳ではなく、フラフラと落下しクレーターを作った隕石、その正体に一同は戦慄する事となった。

目を殺意に光らせ、その隕石は両の足にて立ち上がったのだ。

 

「報告します!隕石の正体はタイタン!宇宙から来た外来性タイタンですっ!!」

「やはりか……!」

『▲▼▲▼▲▼!!!』

 

咆哮を轟かせ、そのタイタンは山々の向こうに聳えるビル群を睨む。ギドラによく似た破壊衝動と悪意を携え、それは一歩を踏み出そうとし。

 

降り立った巨人に、その進撃を阻まれる事となった。

 

全員の開いた口が塞がらなかった。それは初めて確認される姿形──シルエットがコング以上に人間“そのもの”だったから。

驚かなかったのはゴジラだけ。王もまた、光が着地する様から目を離さない。

 

地震を齎し、地盤を捲り上げて立ちはだかる巨影。纏う光が収束し、その胸に碧い輝きを灯す。

やがて彼は、守るべき人々の営みの証を背に。勇気と闘志を燃やし、迫る敵へ構えた。

 

『ジェアッ!!』

 

その名はウルトラマン。

 

その名は、ガイア。

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