心のマグマが目覚めたら   作:スターク(元:はぎほぎ)

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勇者立つ

戦端を開いたのは外来タイタン──後にモナークによって“モンスターX”と定義される怪獣の放つ光弾だった。

1発で軍用ビルを跡形も無く吹き飛ばすような破壊エネルギーが、絶え間なく連射。スキュラ辺りが喰らえば一撃ずつ脚を捥がれていくであろう威力を前に、しかし巨人は避けない──背後の街へと流れ弾を飛ばさぬように、選んだのは腕による防御。

飛来する一撃一撃を、脅威的な反射で以て的確に叩き落とす。一、二、三、四五六七八───二十を叩き落とし、なおも彼は無傷だった。

 

「巨人、健在!どちらを援護しますか?!」

「上の指示を待て!……なんだ、巨人の様子が……?」

 

その頑強さに驚いたのは人類側だけでなく、他ならない巨人もまた慄いている。その戸惑いを突いて、Xが次に選んだのは突進だ。

気付いた時にはもう遅く。衝突、衝撃が巨人の身体を襲う。大地が砕け、土埃が舞い、遷ろう戦況。進撃は進み……やがて、止まった。

 

『▼▲!?』

『ジッ…!!』

 

巨人が、止めた。

組み合った腕を強引に捻り上げ、相手の質量を完全に制する。強大な膂力で宙に浮かされ、Xが苦悶の声で威嚇する。

対しガンを飛ばすように、目前で巨人が咆哮した。

 

『ジアアァァアッッ!!!』

 

言葉は分からない。だが現地の自衛隊員も、米軍人も、一様にその意味を理解する。

ここから一歩も下がらない”、彼はそう叫んだのだと!

 

『〜〜〜ッ▲▼▼▲!』

 

怒りを高らかに吠え、Xが力任せに地へ降りる。離れたかに思った瞬間、飛び上がり回転。敵を薙ぎ倒さんと迫るは尻尾。

巨人は屈んでそれを躱し、しかし回転の勢いそのままに振るわれる裏拳が、二の太刀とばかりにその頬を捉えた。

予想外の一撃で、推定身長80mの巨体が横に吹き飛ぶ。それに気をよくしたのか、喜色を浮かべながら追撃しようとしたXの瞳を、迫る光が赫く染める。

飛び起きての反撃。逆転の光線(クァンタムストリーム)が、その顔面に直撃したのだ。

急所への大ダメージにひっくり返ったXへ、一気呵成に巨人が詰め寄る。その尻尾を掴み、豪快にジャイアントスイング。山に叩きつけられた白黒の獣が悲鳴を上げた。

 

「圧倒的だ……」

 

まるで地球をその身に纏っているかのような重厚さ。ある米軍人は、まるでゴジラのようだと巨人を形容した。それ程の強さだった。

 

──なお一方で、巨人の正体である我夢の精神はそれどころではない。

 


 

(えっ出た!?なんか出た!!ビューって出ぇたぁ?!)

 

人生で初めて行う喧嘩、使うのは未知の力で懸かる運命は地球規模。そんなプレッシャーの中でヤケクソに足掻いていたら、突如暴発した赤熱の光に困惑してしまった。いや、確かに“距離が空いたし遠距離攻撃できないかなぁ”とは思ったけども!

 

(ええい、どうとでもなれっ!)

 

でも僕が今死線に立っている事だけは理解しているので、当然戸惑っている暇など無い。とにかく相手が動かなくなるのを祈って、攻勢を掛けた。

投げる、殴る、蹴飛ばす。一挙手一投足の度に力が溢れ、弾け、自分の制御から外れそうになる恐怖。

何より怖いのは、先述の通り喧嘩もした事無い筈の僕が、それでも的確に相手に打撃を与えれている事。どんどん流れ込んでくる力の使い方、過去の記憶のような物に、身体を操られているかのようだった。

 

(こんな物を、タイタンは……ゴジラは使いこなしてるのかっ!)

 

その偉大さに畏怖し、そして自分の置かれた状況に何より恐怖した。今僕は、僕の意思で身体を動かせているのか?それは錯覚で、もっと大きな何かの意思で操り人形にされてるのでは?

……そんな迷いが頂点に達した所為で、攻勢が緩まった。解放された敵タイタンが攻撃範囲から飛び退いてしまう。

 

目が光る。多分敵の光弾、いや光線?今回は念の為避けて……いや、モナークの調査部隊が背後の山に陣取ってる!

 

(くそっ、壁とか作れないのか!?えっ作れる?そうか、バリア!!)

 

またも流れ込んできた記憶に従い、両腕で力場の防壁を作り出した。次の瞬間に発射される雷撃は、ギドラがかつて放ったそれと酷似していた。

怖い。でも………!

 

『▲▼▲▼▲▼▲▼ーーー!!!』

 

光弾とは比べ物にならない出力で押し寄せられ、ゴリゴリと削られるバリア。内側からそれを補強し、でも同時に僕の中の“力”の総量が無くなっていくのも分かった。このままじゃ……と思ったその時。

 

「攻撃目標、外来タイタンの後頭部!責任は俺が取る、発射!!」

 

ミサイル、目算10発が敵の頭に着弾した。その衝撃で体勢を崩し、光線が途切れる。僕を助けてくれた……?

 

「ターミネート1、まだ攻撃命令は出てない筈だ!」

「現場判断だよ!俺は好きにした、アンタも好きにしろ!!」

 

何故か聞こえる通信に、確信を深めて立ち上がった。ありがとう、僕は──勝つ!

 

『ジュッ──ォォオオ!!』

 

これもまた記憶が教えてくれた。この巨人が持つ最強の切り札。かつてギドラの片翼を斬り飛ばし、地殻を貫いて地表の南極圏まで追い出した、ウルトラマンの必殺技を。

“力”が滾る。流れ、集い、頭部から現出する。鞭のようにしなるそれは、必殺の威力を誇る光の刃。

 

『デァァァァアァッ───!!!』

 

唸れ。叫べ、心を砕け!その一心で、投げ付けるように解き放った。光流は一直線に、戦闘機に気を取られていた敵の胸に命中。光が浸透し、体内から斬り刻む確かな手応え!

 

『ッ、▼、▲▲▲▼〜〜………?!?!!』

 

名状し難い断末魔を上げ、倒れる巨躯。次いで、決着の大爆炎。

未だ怯える調査隊をその破片から守りながら、僕は空を見上げてサムズアップを翳した。戦闘機の人、これで伝わるかな。伝わると良いなぁ。

 

 

(……疲れた)

 

ピコン、ピコンという音は胸から。疲労を表すように鳴り響くそれは、明滅する光によって僕自身の消耗を伝えているようだ。

それはともかくとして……どう元に戻ろう?まさかとは思うけど、2度と人間の姿に戻れないとか?それは困るなぁ、覚悟はあったけどいざ直面するとこう…… !?

 

(ぐあっ!!)

 

突如背中を襲った衝撃に倒れてしまう。そのまま頸を押さえつけられ、ギリギリと首を絞められた。

辛うじて視界の淵に映ったのは、さっき倒した筈の敵怪獣の姿……いや、違う!

 

『▼▼▲▼▼……!』

「2体目だと!?」

「隕石の片割れから出て来たのか!」

 

無駄の多い戦い方をしてしまったから、僕にもう力は残されていない!万事窮すか…!!

 

 

そんな僕の思考を置き去るように、焼き尽くすように。

 

 

熱線、一閃。

 

 

『……!──………』

 

敵は一瞬で絶命した。上半身を蒸発させられ、死に別れた下半身が力無く倒れた。

自由になった上体を起こせば、視線を感じ振り向く。東京都心、かつて東京タワーの聳えていた場所こそが熱線の発射地点。

 

ゴジラの狙撃によって、助けられたのだと。そう判断するには余りにも容易過ぎた。

 

(どうして……?)

『………』

 

怪獣達の王は答えてくれない。地平線の彼方からじっとこちらを睨み、そして数拍の後に踵を返してしまった。きっと海へ、恐らくはローマに帰るのだろう。

 

それを見送って、今度こそドッと力が抜けてしまった。もう気張れない、意識を保っていられない。とっくの昔にギリギリのラインを超えてたみたいだ。

これからどうなるんだろうか。身柄を確保されたら……モナークが一番マシなルート。自衛隊が次点、米軍はどうかな?いずれにせよ、最終的に人体実験にでも利用されちゃうかもな。

 

(でも、後悔は無い)

 

守れた。人の営みを、タイタンの脅威から。

救えた。地球の平和を、宇宙の脅威から。

それにゴジラが見逃してくれたって事は、そこまで悪い帰結にはならない筈だ。そう楽観的に考えてから、僕はその意識を閉ざした。

 

その寸前。視界の端に映り込んだ一羽の蝶が、僕を労ってくれたみたいだった。

 

 


 

 

「すっげ……」

 

ジョシュという少年が、俺のハッキングした衛星映像を見て驚嘆する。新たなるタイタン、それも人型のそれが悪の宇宙怪獣を撃破するその姿は、まるで子供番組のヒーローのように彼の目には映ったのだろう。

 

「市街地を庇った?ただの偶然?でも最後のサムズアップは明らかに人間特有の文化……ねぇ、背中あたりにチャックとか無いわよね?」

 

一方、マディソン・ラッセルは怪訝な目つきで分析している。流石はマーク博士・エマ女史の愛娘といったところか、学者としての視点を濃く受け継いでいるようだ。

 

……俺はと言えば。

 

「お前は、何者だ……?」

 

人の姿を象った巨人、その力を手に入れた者。その正体に思いを馳せていた。

俺と近似した研究分野、俺と相似したアプローチ、でなければあの研究“成果”は掴めない。

 

俺と()()()()を、どうやって───?

 

モニターに幾ら問いを投げようと、答えが返って来る筈も無く。

赫い巨人は、新たなる巨神(タイタン)は、その姿を泡沫のように消してしまったのだった。

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