心のマグマが目覚めたら   作:スターク(元:はぎほぎ)

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明日無き迷走

──3年前。

 

「上手くいかないッ!!」

 

机上の書類を薙ぎ倒す友人。その姿を後ろから見る。散らばったのは偽の王──メカゴジラの図面。

 

「……蓮。お前は、」

「言うなよヒロヤ。俺が父さんにこだわってるから“コレ”を作ったとでも?」

「否定しようにも、そのツラじゃ説得力が無いだろ」

 

設計者として難題に阻まれ、血走るその目は正気には思えない。やはり彼が変わったのはあの日──セリザワ先生の訃報が届いてからだ。不仲の親子関係である事は知っていたし、その上で信仰を培って来た。だがこうなっては……

 

「違う……違うぞ藤宮。ゴジラは人類の隣人ではない、越えなければならない“壁”なんだよ!」

「その為なら、ゴジラが他のタイタンを抑えて保っている秩序も破壊すると?ハッキリ言うぞ、今のお前は道を踏み外している!」

「じゃあ支配に迎合するのか?まさかお前、サノス女の自滅論に同調でもしたか!!」

「なっ……!?」

 

ヒートアップする口論。しかし互いにライン超えの自覚があったのが幸いし、沈黙を謝罪とする事で双方矛を収める。ため息と共に、次に口を開いたのはレンの方で。

 

「ヒーローが必要なんだよ、ヒロヤ。ヒーローが必要なんだ」

「メカゴジラが人類の英雄だと言うのか」

「今の時代のどこに未来がある、どこに希望がある?タイタンという天井に踏み潰されていては、人類は進歩など出来ない………必要なんだよ」

 

タイタンに並び立てるという証明が。ただ踏み潰されるだけの存在ではないと、人間の沽券を示す根拠が。

そうレンは宣う。俺は肯定できず、しかし否定もできない。

 

「その先に待つのは……血を吐きながら続けるマラソンだぞ」

「何を今更。世界は初めから生存競争だろう?」

 

……嗚呼。レン、お前はやっぱり変わったよ。

自らをおざなりにしてきた父に早逝され、見返す機会を失ったお前は。その矛先をゴジラに変えて、否定する事に躍起になっている。

さっき掲げた論も決して嘘じゃないんだろう。むしろ本心からそう信じて理性的に判断したのだろう。

 

(だが、早急が過ぎる…!)

 

理性だけではない感情の後押しによる焦燥。それに駆られ、彼は禁忌に手を染める事すら厭わなくなっていた。

……もし。俺が“あの光”の事を、明かしたら。

それにより訪れる未来の事を話したら、止まってくれるだろうか?

 

「ッ……」

 

ダメだ。言えない。今ポケットの中で握り締めた光電子管、その中に眠る“海色の力”の事は。

俺だって。俺だって、人としてタイタンに対抗する力を求めていたんだ。なんならお前より早く“手に入れた”。

 

──手に入れてから、“手に入れるべきではなかった”と知ったんだ。

 

「……その座を手に入れるのは人類にはまだ早い」

「いいや。今がその時だ」

 

隠し事をしながらの苦し紛れの反論、それをレンは切って捨てる。これで議論は終了。

 

レンと疎遠になったのはこれ以降。

エイペックス社上層部が、周囲の反対を押し切ってギドラの頭骨を買い取ったのも同時期。

ゴジラが社の施設を攻撃し始めたのもその頃合いから。

 

俺は、何もしなかった。

恩師の息子にして親友が、突き進んだ道の果てに死ぬまで、何も。

 

 

代わりに彼を止めてくれた少女達の申し出。それを受け入れたのはきっと、下らない代償行為が動機か。

 

 


 

 

「本題に入ろう」

 

時は戻って今。巨人がその姿を掻き消した翌日。徹底的な情報統制が敷かれたようで、外来タイタンと光の巨人の事は公になっていない。

 

「巨人の事ね!?」

「違うだろ」

 

完全にゴジラの行動原理の件を忘れている。まぁそれだけウルトラマンの件が衝撃的だったのだろう、呆れると同時にその子供らしい愛らしさに微笑んでしまった。

 

「そうだよエマ、僕らはゴジラが世界各地に現れて人類に威嚇してる件を……あれ?でも昨日解決したんじゃないの?」

「ふむ。そう思うに至った過程を聞こうか、ジョシュ君」

「ゴジラが動くのは地球の危機が迫った時だ。それに対し警戒を促す為に各地で吠えて、そして今回の脅威である隕石怪獣はもう撃破された訳で……」

「なら、注意喚起をする必要の無くなったゴジラはもう暫く現れない、と。悪くない仮説だが、早速答え合わせといこうか」

「あっるぇ!?」

 

ポチッと点けた最新ニュース映像には、それはもう派手に都市へ威嚇をかます怪獣王の御姿。今朝ハワイ沖に現れすぐに去ったとの事で。

 

「という事は……まだ危機が過ぎ去ってない、って事?!」

「あぁ。そして威嚇対象が人類にずっと限られているのを見るに、メカゴジラの時と同様に完全に人類に非があるパターンと捉えるべきだろう」

「最悪じゃない!!」

 

そう、最悪だ。母なる地球を人間が傷付けているという、『命綱を自分で切り刻む』に等しい愚行。同族としてこれ程腹が立つ事も無い。

……それに対する俺の見解を聞いて。君達はどうする?

 

「その犯人について、心当たりがある」

「本当!?」

 

 

「“DS”って知ってるか?」

 

 

「任●堂のゲームハードの事?後継機のオンラインサービスが最近終了したよね」

「バカッ!安心してヒロヤ、こう見えて私達は寝る時アルミホイルを巻いてるし洗脳の心配は不要よ」

「無理に話を合わせなくても良いから」

「「アッハイ」」

 


 

一方その頃、モナークは多忙極まっていた。ゴジラの件、外来タイタン2体の件、そして何より赤い巨人の件。引っ切り無しに情報が入ってくると言うのに、どの案件においても情報が不足すると言う矛盾じみた事態である。

マーク・ラッセルもまた、その渦中に揉まれる1人だ。

 

「……どうしろと言うんだコレ……」

 

本件の他にも、後輩であるガムの失踪・娘の暴走という問題が彼にのし掛かって来ている。どれから解決したものかと、頭を悩ませていたその時。

 

「マーク。来てちょうだい」

「何ですか長官」

「急用よ。絶対に貴方が関わった方が良い案件が、たった今発生したの」

「勘弁して下さいよっ」

 

渋々、モナークを統べる彼女の後に続く。しかし次に長官の口から飛び出した言葉に、彼の表情は一変する事となった。

 

「エマの使っていた回線を通じて呼び掛けがあったの。ご指名は貴方よ」

「!!!」

 

 

 

 

 

「やぁDr.マーク。君の事はエマから聞いている」

「……我々はテロリストとは交渉しない。さらばだ」

「待て待て待ちたまえッ!!」

 

アラン・ジョナ。かつてエマがモナークに繋げた秘密回線を使い、コンタクト図ってきたのは他ならぬ彼。オルカを用いてギドラを呼び覚まし、世界中にタイタンの悲劇をもたらした環境テロリスト。

通信を一方的に切られそうになり、流石の彼も慌てふためいた様子を見せる。

 

「手配書の間抜けヅラを拡大して眺めるような暇は無いんだ。既に軍にこの通話も横流ししている、震えて待て」

「そんなのは既に対策済みだ、君に通信を切るデメリットこそあれどメリットは無いのだよ」

「……なに?」

 

含みのある言葉に耳が傾く。その様子に気を良くして、ジョナは言葉を続けた。

 

「まず前提として、我々は“タイタンを頂点として調和した世界”を夢見る者として、志を本来同じくする存在だ。違いなど、そこに人類の介在する余地があるか無いかに過ぎない」

「何が言いたい」

「“ガイアリセッター”。悪しき人類が目論む環境破壊計画であり、それがゴジラを怒らせたのだ」

 

寝耳に水とはこの事。そんな大それた計画など聞いた事も無いし、ともすれば「このテロリスト、とうとう陰謀論にハマったか」「そもそもお前は陰謀側の人間だろうが」とツッコミたくすらなる……

……が。それを言おうとしたマットの口は、たった今届いた電子文書の内容を見て閉ざされてしまった。

 

「事実……だと!?」

「信じ難いだろうがね。尤も、具体的に何をするつもりかは以前掴めないが……そこに記されている連判状の通り、“地球ごとタイタンを皆殺しにする”という思想の下に、複数の金の亡者が結託しているのは確定だ」

「馬鹿な!自分の住む世界ごとなんて正気じゃない!!」

「狂気の在処について私達(テロリスト)に同意を求めるかね?まぁ完全に同意なんだが」

 

大国とは言わずとも、国家複数を余裕で動かせる程の大金が動いていた。どこから捻出したとか、そんな事を考えている場合ではないのは確かだ。

 

「我々が直々に叩き潰し、市民からの求心力を得ても良かったのだがね。相手もやり手のようで、早々にその手段を断たれてしまった──故にこそ、“手柄”を君たちに譲ろうという事だ」

「俺達に穢れ仕事をやらせて、お前は悠々と後ろで踏ん反り返るという算段か」

「悪し様に言ってくれるじゃないか。だが他に取れる手があるか?」

 

無いだろうと宣う彼に対し、マークの返答は沈黙。それを肯定と受け取り、ジョナは嘆息を一つ吐く。

同調を確信し、誘いの口説き文句を───

 

「───お前にしては随分と甘い目算だったな」

 

告げるその前に、瓦解を突き付けられる。

 

「どういう事だ?」

「テロリストが手に入れられるような情報を、アメリカの諜報部が得てない訳がない。その上でこれまで音沙汰が無かった……つまり公的機関は抑えられてるって事だ。俺達モナークも含め、知らない内に」

「違うな、モナークだけはタイタン関連で独立した特権を行使できる筈だ。故にこそ私は君達に、」

()()()()()()()まではそうだったよ」

 

ジョナの顔色が変わった。

“心当たり”があった所為だった。

 

「お前がエマをモナークから引き抜いて世界を滅茶苦茶にした所為で、モナークは四方八方から睨まれるようになった。それでもタイタンに関する事なら胸を張って自由に動けるが、こんな対人要素しか無いパワーゲームじゃ下手に動きを見せただけで初動を潰される。世の中“動かす”より“動かさない”方が労力も少ない、俺達など端金で黙らされるよ──お前の所為でだ、アラン・ジョナ」

「なっ……馬鹿な!そんな小手先に阻まれた程度で、地球の危機を見過ごすつもりか!?」

「動いてなんとかなるなら動いたさ。だがお前はテロリストという警戒されて当然の身分で、“上”に筒抜けの状態で俺達に情報を明け渡し、隠れて探るという手段すら奪った……やってくれたじゃないか。これでモナークは完全に手詰まりだ、満足か?」

「違……!」

 

それを皮切りに、モニターから銃撃音。逆探知か何かで嗅ぎ付けた特殊部隊が突入したのだろう。

 

「恨むなら手前の悪因悪果を呪ってくれ。俺はお前達の無能さを呪う」

「愚かなっ!!」

 

捨て台詞と共に通信途絶。緊張から解放され息を吐くと、後ろから肩を叩かれた。

 

「……ハンプトン長官」

「先ほど国務長官から直通電話があってね。内容は予想通りよ」

「釘を刺されたという訳ですか」

「少なくとも暫く、迂闊には動けないわね」

 

全てを掌握してる訳ではなさそうなのが救いだが、それにしたって取れる手段が少な過ぎる。ここからどう手札を揃えたところで、公的機関である以上は縛られるのだから。

かと言って、個人で動いてどうにかなる規模ではない。毒されてない組織をこれから探す?恐らくはもう手遅れだ。

この窮状を覆すとするなら……それは人類自身の意志に依る物ではなく。

 

「またゴジラに、人類の尻拭いをしてもらう事になるのかしら」

「………」

「…どうかした?ゴジラが止められるか不安なの?」

「まさか。人間が小賢しく立ち回ったところで、容易に踏み潰していくのがタイタンです」

 

その光景をマークは何度も見てきた。ましてや、そのタイタンの頂点に立つのがゴジラだ。同格のギドラを躙り殺し、秩序の為に犠牲を厭わないのが怪獣王だ。

きっと今回も、彼は企みを挫くのだろう。地球を穢さんとする者達を決して許さず、焼き滅ぼすのだろう。

 

……その対象は、企んだ者達のみに留まるだろうか?

 

「もしゴジラが…人類に未来無しと、そう判断してしまったら」

 

この種族に自浄作用はないのだと、地球意思の代弁者に断じられてしまえば。

 

我らは、どうなるのか?

 

「………」

 

長官は答えない。彼女の最後のテレビが流す有人ロケット打ち上げ予定の報、本来祝われて然るべき筈のそれも慰めにはならず。

 

 

悪夢は数日の後、現実となる。

 

 


 

 

「HAHAHA!良かったなブラザー、俺のお陰で実験動物ルートは回避だ!」

「は、はい…ホントに助かりました」

 

幸か不幸か、力尽きると同時に人間の姿に戻れた僕。でも一歩も動けなかった所を、駆けつけてくれたバーニーさんが匿ってくれて助かった。

どうやって隔離区域に入って来たのかは分からないけど、彼って、過去には半壊してたとはいえエイペックス社施設のかなり深部まで潜入してたらしいし。今回はそれに助けられた以上、あまり詮索はしないでおこう。

 

「で、これからどーすんの?折角巨人になれたんだ、他のデストロイヤー系タイタンをブッ倒してくか?」

「まさか。そんな大それた事なんかしないよ」

 

後部座席で車の振動に揺られながらふと、手元の光電子管を見た。今もその中に、僕の姿を変えた赫色が宿っているのを認める。

僕は、なんでか、“選ばれて”しまったらしい。

 

「この力を与えられた意味を、僕は探す」

 

当面の行動指針はそれ。未だ収まる気配のないゴジラの活動をラジオ越しに聴きながら、をギュッと握り締めた。




主人公格キャラの陰謀論者化というヘイト創作レベルの所業
我ながら酷い思う
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