心のマグマが目覚めたら   作:スターク(元:はぎほぎ)

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熱波襲来

ハワイのロケット発射場。かつて地元住民の猛反対によって建設が難航していたそれは、今ではしっかりとその威容を誇っている。

一説によれば、タイタンひしめく地上に絶望した事で逆説的に巻き起こった宇宙への希望論。それに後押しされ、建設が推し進められたという。

 

「これは酷い……」

 

……情報通り、そこに運び込まれる劇毒物満載のコンテナ達を見て思わずそう呟いた。薬物の処分場などここには無く、更にロケットに偽装された“ミサイル”まで複数見つかった事で、最終的な確信を得る事が出来た。出来てしまった。

“ガイアリセッター計画”とやらは本当なんだと。

 

「ミサイルを世界各地に打ち込んで環境汚染するつもりなのか。それで本当にタイタンを絶滅出来ると思ってる……?」

 

仮に億が一、地表タイタンを奇跡的に衰弱させられたとして、地下のタイタンの事を完全に度外視している。空洞世界への警戒が足りてない辺り、モナーク側からの情報流出は少なくとも無さそうだ。

………で。

 

「どう止めよう」

 

問題はそこ。莫大な金がミサイルの用意だけでなく各国の口封じに使われてる以上、公的機関は頼れない。僕個人で何が出来るのか──なんて、答えは既に決まっていた。

 

(ウルトラマンの力を使った、()())

 

それがある。それしか無い。だがこの力を壊す事に使って良いのか、その覚悟が足りてないんだ。

 

「どうしよう……」

「大丈夫ですか?」

「あぁすみません。邪魔だったらどきます」

「いえそうではなくて」

 

街のベンチで項垂れていると、体調不良と間違われて声をかけられてしまった。顔を上げると、鍛えられたガタイを持つ白人男性。恐らく米国軍人。

 

「ビックリしましたよ、死にそうな表情で蹲ってんだから」

「ほんとうにすみませn「父さーん!早く〜!」少し待ってろー!」

 

遮るように上げられた声。10代前半と思しき少年が手を振り、男性を呼んでいた。

 

「家族連れでしたか」

「ええ。アイツがハイスクールに進学したんで、その記念旅行に」

「なるほど」

 

彼らの表情に翳りは無く、未来に希望を見て健やかそのもの。

……ガイアリセッターが成功してしまえば。この光景も消えてなくなるのか。

 

「親父から“家族のところに戻れ”って言い残されたんです。だから俺はいつだって妻と子供と一緒だし、ずっと笑ってられる世界を守ってやりたい──とは言っても、いつタイタンの被害に巻き込まれるか分からないのが現状ですが」

「それは……良いお父さんですね」

「自慢の父でしたよ」

 

そうだ。この営みを守りたい、その願いに応えてくれたから光は、僕に宿ってくれたんじゃないか。

彼の言葉でそれを思い出し、立ち上がった。

 

「僕はガム・タカヤマです。失礼ながらお名前を伺っても?」

「フォード・ブロディです」

「そう、フォードさん。ありがとうございます、決心がつきました」

「なんだか分かりませんが、後押しになれたなら何よりです」

 

握手を交わして別れた。フォードさん──どこかで聞いた名前だけれど、全てが終わったら挨拶に伺おう。大事な休暇旅行を潰してしまう》》、その事への謝罪の為にも。

 

(いつ嗅ぎつけられるか分からない。決行は明日朝、出来る限り人がいなくなった時間帯だ)

 

人的被害は避けたい。そんな甘い事を考えながら、それでも僕は進み始めた。

 

 

 

 

巨神の輝きが朝焼けを照らし返す。突如顕現したそれを、人々は見上げる事しか出来ない。

東京にて新たに確認されたタイタンの再出現に、その報を知らされていない市井は、驚愕の嵐に見舞われた。

 

「こちらハワイ駐留部隊!応答願います、未確認のタイタンが出現しました!対象は本島北部より中央……恐らくはロケット基地に向けて侵行中!!」

「防衛線を張れ、これ以上好き勝手させるな!!」

 

流石と呼ぶべきか、即座に地上部隊を配した米軍の砲火。対し彼は腕を組んだ防御姿勢で突き進む。反撃はせず、しかしびくともせず、歩みを微塵も止めはしない。司令部は漏れなく旋律に見舞われる事となる。

 

「駄目です、戦車砲では歯が立ちませんっ」

「目標は川を遡上する形で依然進行。市街地を避けている……?」

「周辺住民の避難が完了しました、スクランブルOKです!」

「地上全力で駄目なら航空戦力だ!発進せよ!!」

「モナークからの返答は?」

「碌に役に立たん!!」

 

戦闘機編隊も加わり、苛烈さを増す迎撃。ダメージは無くとも姿勢を揺るがす衝撃はあり、だがそれでも尚彼は止まらない。

その巨躯を手繰るガムは、進撃する自身に一種の手応えを感じていた。

 

(やっぱり、前より“馴染んでる”……!)

 

東京で戦った時より体が軽い。精神が力に馴染んだのか、格段に効率が上がっていた。

前は3分でバテてしまったが、今この調子なら半日変身し続けてもギリギリ大丈夫だろうか。

そうしている内に川が曲がり、進行方向から逸れてしまった。このまま歩けば市街地を踏み潰してしまう……ので、跳躍からの飛翔を選択。人間には本来不可能な挙動であるため、着地の際の二次被害を懸念して避けていたが、見事に目的地前で軟着陸した感触により確信を深めた。

……準備運動は終了。本題はここからである。

 

(これから此処は、破壊されるんだ)

 

眼下に広がる発射場。立ち並ぶロケット群。どれがガイアリセッターの物なのかを、外見から知る術は無い。

だからガムは、苦渋の思いで拳を振り上げた。

 

(…僕の、この手で!)

 


 

「分かってる。ああ見えてる、今からそっちに向かう。指揮系統はどうなって……分かった」

「フォード……」

「エル、すぐ戻る。幸いあの巨人は破壊活動を好まないようだしな」

 

基地からの電話を受けて身支度。憂う妻を励まし、しかし今度は息子に行く手を阻まれた。

 

「でも父さん、爺ちゃんだってタイタンに!」

「サム、それでも行かなきゃいけないんだ──」

 

またゴジラが助けてくれる、だなんて楽観はしない。そもそも彼は彼の愛する世界を守っているだけで、人間が助けられてるのはただの偶然だなんて分かり切ってるから。

……それでも、彼が地球にいる。それだけで、どんなタイタンがいても安心だと思えてしまうのは……嗚呼、これじゃ親父を笑えない。

 

「──ママを頼むぞ。男の約束だ」

「っ、パパぁ!!」

 

思春期に口調を変えてしまった我が子。だから、そう呼ばれるのは本当に久しぶりだった。

その呼び声に後ろ髪を引かれながら、それでも巨人の背を追った。

 


 

伸ばした手のひらから三日月状の光弾を飛ばす。待機中のロケットに当たったそれは切断と同時にエネルギーを浸透させ、外殻ごと中身を分解する。

あ、これはガイアリセッターじゃなかった……っ。

 

「これで五基目です!止められません!!」

「ロケットが邪魔で撃てない!他所に誘導は出来ないのか!?」

「何にも反応を示さない、コイツ目標目掛けて一直線だ!」

 

これまで、毒物の積載を確認出来たロケットは3基。これが世界全土に向けて発射される予定だったと思うと恐怖しか無く、けれど同時に人が精魂込めて作り上げた機器を潰す度に心が悲鳴を上げるようだ。宇宙への夢で作られた筈、でもどうしてこんな事に。

 

(考えるなっ……)

 

何故、だなんて責任逃れだ。僕は地球の為に、地球に息づく人々の為にこうすると決めた。他に考える事があるのか!?

そう叱咤し、頭から放った光刃が一挙に4基を薙ぎ払う。残り、1!

 

「死守せよ!」

(どいてくれ!!)

「「「ホワァァァァ!!?」」」

 

通せんぼするように立ち塞がった戦車隊。踏み潰すわけにもいかず、ロケットが暴発した場合の爆風に巻き込む訳にもいかず、しゃがみ込んで手で除けた。数秒食ったがミッション完了はもう目の前。

これで終わりだと。そう思った刹那だった。

 

「待ってくれぇ!!」

 

ロケット下部から人影が飛び出し、思わず手を止める。その隙に人影は、なんと噴射孔に縋り付いてしまったのだ。

 

「これは人類の希望なんだ!タイタンという悪夢を振り払う黎明への祈りなんだよ!!」

(ち……違う!)

 

断固として反論できる。地球を傷付け、多くの人を見捨てて撃たれるそれが、祈りなんかである筈が無い!

……けれど、その人の叫びは。

 

「タイタンが目覚めて、地球は地獄に変わってしまった!どこにいたって安全なんか無い、愛する人を安らかな眠りにすら就かせてやれない!そんなのが永遠に続くだなんて、死んでも嫌なんだよ!!」

(っ…!!)

 

───後から知った事だけれど。

 

この人は、エイペックスから離反した学者である彼は、サンフランシスコの一件で両親を失っていた。死因は倒壊した建物に巻き込まれての圧死。

 

ボストンの一件で妻の墓を踏み潰されていた。遺骨も遺灰も見つからない、2度とお参りすら出来ない。

 

最後に。疎開させたリオデジャネイロで、我が子が重篤な凍傷。2度と歩けなくなったという。

 

望む全てをタイタンに奪われた男。だから、と言うのは言い訳だろうか。

 

「やめてくれっ……化け物共を!皆殺しにさせてくれぇぇえええッ!!」

 

その叫びに、惑わされてしまった。

 

(──どうして)

 

否定するのは簡単だ。というか、否定されなければならない理屈だ。

けれど今の世界で幸せなど掴めないという、その生き証人を前にして、ただ正論を突きつけて何になるのだろう?

 

(どうして、こんな事に……!)

 

先刻の疑問がぶり返す。自問に自答を返せず、振り上げた拳が行き場所を見失いかけた。

でも……それでも!

 

(その願いを、通す訳にはいかないんだッ!!)

 

冷気を纏う掌。学者を無事のままロケットを破壊する、その唯一の手段がこれだった。人を殺さず、僕はこの計画を止めようとした。

 

その、過程で。

 

 

 

 

 

『 臆 し た な ? 』

 

 

 

 

()()()するような、殺気。

肩を擦過した、()()殺意。

ロケットに直撃。引火。

 

「いゃ──!」

(あっ…!)

 

学者の姿が爆炎に飲まれる。骨まで焼き尽くされ消し炭になる様を、ウルトラマンの瞳は克明に捉えてしまった。

火を振り払いながら、誰の仕業かに思いを馳せる。いや馳せるまでもない、あの“熱線”は!

 

『………』

(ゴジラっっ!!)

 

唸る巨獣に対し、僕が抱いた感情は“怒り”。

どうして撃った。どうして介入してきた。どうして僕に最後までやらせてくれなかった?どうして彼を、死なせた!!

 

『ジェアッ!!!』

『………■■■ッ!!

 

答えろ、という思いが戦志に変わり、掛け声となって放たれる。対しゴジラの返答は以下の通りだ。

輝く背鰭。再度放たれる熱線──ただし、標的は僕やロケット発射場ではない。彼の胸元まで揺蕩う水面である。

海水中に瞬時に生まれた、摂氏で裕に万を超える超熱空間。それに揮発・膨張させられた蒸気が隣の水を押し出し、巨大な水の壁を反り立たせた。

 

(なっ……!?)

「た、たっ…退避ぃぃぃぃ!!!」

 

王は()()すら容易く引き起こす。

この星の王であるが故に、自然災害すら彼の物なのだから。

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