初めまして、眞珠と申します。
【幻想漂白記】に興味を持っていただき、ありがとうございます。この作品は、「東方Project」と「BLEACH」、両方の作品にハマっていた時にしていた妄想を1から、考え直し書き起こしている作品です。
二次創作であるため納得のいかない展開が多数あるかもしれませんが、完結するその日までお付き合い頂けると幸いです。
プロローグ 誘拐
「あ、あっちぃ〜」
焼け死んでしまいそうな程の日差しにうんざりしながら、俺は帰路についていた。初夏には煩わしかった蝉の鳴き声は聞き慣れてしまい、四季で最も嫌いな夏を今年も耐え抜かなければいけないという現実に、嫌気が差しきている。許されるなら夏の間中はエアコンの効いた部屋で引きこもっていたいものだが、高校生という身分上それは不可能であり、殆ど諦めはついてる。
「年々暑くなってきてるみたいですからねぇ、そろそろ扇風機だけではしんどいかもしれません」
「むしろよく今まで扇風機だけで生きて来れたな……」
彼女の名前は東風谷早苗。
付近では唯一の神社、守矢神社で巫女をしている俺の幼馴染だ。緑色の長い髪を一房左側で留めていて、その可愛らしい容姿と派手な髪色で校内でも中々の人気を博している。
今は学校帰りなので制服だが、仕事中は脇を露出した独特な巫女服を着ており、はっきり言って破廉恥だ。
守矢神社自体、参拝目的より早苗の巫女服を見るために来ている人の方が多いような気がする。あくまで俺の偏見ではあるが。
だがあの神社には約2名ほど喧しい神様が実際にいるので、しっかり信仰しておいた方が良いと思うが、普通の人間には見えないらしいので仕方がない。
「風通しさえ良くしてれば大丈夫でしたよ、去年までは!」
「俺はエアコンがない生活なんて絶対勘弁だね」
「龍牙さんは干からびてそうですもんね!」
「言い得て妙」
「あ! クラスの女子達が、ホラーを見ると涼しくなった気がするとか言ってましたよ!」
「ホラーねぇ、あれは実在しないと思ってるモノが本当は存在しててこえぇーってなるやつだろ? 見える俺達が見ても意味ないんじゃないの? つか殆どCGだしな、あれ」
それもそうですね、と早苗は笑った。
「ホラーなんかより、早苗と話してる時の周りの男からの視線の方が俺はよっぽど怖いけどな」
「私は悪くないですよ! 告白はちゃんとお断りさせていただいてますから!」
容姿端麗で人当たりもいい、モテないはずがない早苗は色んな男からアプローチを受けているらしい。校内一のモテ男やらサッカー部のエースやら他校の御曹司やら、月一どころじゃないペースで告白をされているらしいが、どんなハイスペック男子の告白も断り続けている。
終いにはしきたりのせいで付き合えないとかいう噂まで流れていたが、実際のところどうなのか、早苗は頑なに教えてくれない。
「なぁ、いつになったら告白を断る理由教えてくれんの?」
「──断る理由なら、すぐそこにいるじゃないですか。この鈍感」
「なんて?」
「なんでもないですよ!」
「……なんか怒ってる?」
「別に怒ってないです! それじゃあ私こっちなので!」
「お、おう」
早苗は踵を返して行ってしまった。
やっぱり何か怒らせてしまったのかもしれない。後で謝罪のメールを送っておこう。
「あの!」
「わ! な、なんだ?」
早苗が突然歩みを止め、大きな声を出したので素っ頓狂な声が出てしまった。
「……いえ、やっぱりなんでもないです」
そう言うと早苗はくるっと回り、此方を向く。
「また、明日」
少し微笑んで早苗は言った。
幼馴染の早苗の笑顔は見慣れているはずだが、少しドキッとしてしまった。
「あ、ああ。また明日」
緩んだ口元を見られないよう手で隠しながら、返事をした。
早苗は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべながら、はいと嬉しそうに返事をした。足取り軽やかにその場を後にする。
何となくだが、機嫌が良さそうに見える。何はともあれ、謝罪のメールは送らなくて良さそうで助かった。女の子は怒らせると怖いからな。
「にしてもあちーなぁ。少し日陰で休むか」
そう言って俺は人気のない路地裏に入った。
暑いことには変わりないが、日が当たらないだけでも俺にとっては天国だ。
「──それで、まさか家まで着いてこようって訳じゃないよな」
何も無い空間に俺がそう言い放つと、目の前に裂け目が発生した。
姿を隠すのが上手い霊の類だと思っていた俺は、予想外の事が目の前で起きたため咄嗟に身構えた。
ただの霊であれば安心だが、人間に危害を加える悪霊であれば俺にはどうする事もできないからだ。
「あら、気付いてたの?」
聞こえてきたのは女性の声。それも、やけに胡散臭い女の声だ。
裂け目が開き、中に異質な空間がある事が確認できた。両端の切れ目がリボンで結ばれていて、中には多数の目が見え非常に物々しい。
今まで出会ってきたどの霊とも違う異質な雰囲気に、恐怖を感じ数歩後ずさる。
すると裂け目の中から金髪の大人びた女性が現れた。黒い袴に白い羽織り、腰に刀を携えた格好は一目で異質だと分かる。
「そんなに怯えなくてもいいのよ、貴方に危害を加えたりはしないから」
「刀を持ってんだ。そんな台詞、一体誰が信じる」
「それもそうね。それじゃあ、その距離で良いから聞いて頂戴」
胡散臭いが、下手に刺激する方が危険だと考えた俺は、とりあえず話を聞く事にした。
彼女もそれを理解したのか、少し微笑むと言った。
「貴方、幻想郷に来ない?」
「……?」
全く聞き覚えのない単語に、思わず首を傾げる。
怪しい宗教か団体か、ニュースで見た覚えは無いがその類かもしれない。
俺は慎重に話を進めることにした。
「えっと、宗教か何かの勧誘か? それなら悪ぃけどお断りだ」
「違うわよ。幻想郷は、貴方が暮らす世界・現界で忘れ去られた物達が集う場所。結界で隔離された、此処とは違う世界のことよ」
更にややこしい事になってきた。怪しい以外の感想が全く思い付かない。
大前提、この世界と別の世界が存在するみたいなことをいきなり言われても、はいそうですかと納得する事はできない。やはり頭のネジが何本か外れてしまっている人の可能性がある。
ここは穏便に済ませて、早めに帰るのが良さそうだ。
「な、なるほど。とはいえ俺も学校終わりで疲れてるんだ。話はまた今度で! それじゃ!」
そう言いながら後ずさりし、路地裏を出ようとする。
背を向けようものなら、何をされるかわかったものでは無い。路地裏を出たら全力で走って逃げれば撒ける可能性はある。とにかく、こんな怪しい女性と関わるのは勘弁だ。
彼女は追いかけてくる様子は無さそうで、安堵した。だが、妙な薄ら笑いが心に引っかかる。
そう思っていると彼女が口を開いた。
「百聞は……」
そう言って彼女は裂け目に入った。
彼女の姿が消えたが、何となく感じるオーラのようなものは消えていない。周囲を見回しながら、一歩二歩と後ずさる。
「何とやらよ」
突然、後頭部に柔らかい感触がした。
気付いた時にはもう遅い。俺は彼女にガッチリ抱き抱えられており、逃げることは出来ないと悟った。
自分が先程までいた路地裏が遠のくのが分かる。裂け目は徐々に閉じ、ついには完全に路地裏が見えなくなってしまった。
「おい! 離せって!」
彼女が作り出した空間の中に完全に閉じ込められた後、何とか脱出しようと試みる。
しかし、女性とは思えないような腕力で抑え込まれてしまい、全く身動きが取れないでいた。
「こら、暴れないの」
そう言って彼女は俺をゆっくりと地面におろした。地面と言っていいのか分からないが、一応足は着くため大丈夫だろう。
「元の場所に返してくれよ!」
「まぁまぁ、まずは見学だけでも、ね?」
そう言って彼女はまたもや裂け目を作る。裂け目の中に見える景色は先程の路地裏ではなく、神社の様な建物。本当に幻想郷とやらに連れていかれてしまうようだ。
呆気にとられ、身動きが取れないでいる俺に彼女は声を掛けた。
「着いてきなさい」
そう言って彼女は裂け目の中に入ろうとする。
「そう言えば名乗ってなかったわね」
彼女は背を向けたまま思い出した様に言った。
「郷廷十三隊・一番隊隊長、八雲紫よ。よろしくお願いしますわ、雨宮龍牙」
そう言い放った彼女の羽織には、ひし形の紋様と「一」という数字が刻まれていた。