ルビ振るのがめんどくさくて、途中から虚のルビ振ってないです。ごめんなさい
龍牙が『瞬歩』を習得し、一ヶ月の時が流れた。
現在龍牙は人里周辺の見回りする職務を与えられ、
グランドフィッシャーとの戦い、そして妹紅との修行を経て、殆ど無傷で
初めて
慢心はしていない、しかし龍牙はとある事で悩みを抱えていた。それは、龍牙が初めて妹紅に稽古をつけてもらった日に説明された、斬魄刀との〈対話〉と〈同調〉である。
妹紅の話によると、自身の精神世界に存在する斬魄刀の本体と対話し、同調することによって名を知ることができるとの事。精神世界のくだりから理解できなかった龍牙は、未だに同調はおろか対話すらできていない。妹紅に何度か訊ねた事はあったが──
『こればっかりは一朝一夕で何とかなるものじゃないからな……気長に待つしかない』
このような事を言われてしまったため、どうにかする事はできず、龍牙は妹紅の言う通り気長に待つ事にした。
「急いては事を仕損じるって言うしなぁ」
龍牙は現在調査の為、人里外れた森の中にいる。
ここ最近、森の中での
出現頻度が上がったとはいえ、グランドフィッシャー級の大物が出現する事はなく、言葉も話せない下級の
一体一体を相手取るなら訳はないが、束になってかかってきた場合は非常に厄介だ。早めに原因を突き止め、問題を解決するに越したことはないだろう。
物思いに耽る龍牙の隣から、突如
「──バレバレなんだ、よッ!」
飛び出してきた
「まだ一時間も経ってねぇのにこれで十体目だぞ……どうなってやがる」
通常、
やれやれ、と溜息をつき、龍牙は歩を進める。
「しっかし、緊急を要する調査って言ったって、駆り出されたのが俺一人ってのは釈然としねぇな」
そう、今回の調査は雨宮龍牙を調査に向かわせろ、という名指しでの依頼であった。慧音も怪訝な顔をし、調査人数を増やすよう進言していたが、紫によって却下され、結局龍牙一人で調査を行う事になった。
もうさすがに幻想郷のトップとして、阿呆な事はしないで欲しいと龍牙は心から願っていた。
少し歩みを進めると、目の前に一匹の
龍牙は立ち止まって刀を抜く。
「待ち構えてたのか? 狡賢い奴だな」
片手で刀を持ち、一歩二歩と
三歩目を踏み出した時、龍牙は異変に気付く。目の前の
(五、十、十五……いや、それ以上か……)
龍牙が感知したのは、両手両足を使っても数え切れない数の虚の霊圧。大物の霊圧は感じないものの、相当な戦力。やはり数に勝る有利はない。
間もなく、そいつらは攻撃行動に移った。
飛び出してきたのは、動物の頭部に似た仮面を付けた虚達。鳥や魚、実在する動物達によく似ている。
飛び出してきた虚の内、一匹を蹴り飛ばした。膝丈程もなさそうな小型の虚は、ゴムまりのように吹っ飛んでいく。そのまま、背後から迫っていた虚を、振り向きざまに斬り裂いた。
まずは二体。
龍牙は油断なく、戦場を見渡した。
既に取り囲まれており、逃げ出す事は不可能。例えこの包囲網を抜け出したとしてもこれだけの数、里に危険が及ぶ可能性は拭い切れない。
ここで全員斬る、と、龍牙は覚悟を決めた。
敵は総計二十体以上。既に体裁は軍団だ。
一匹の虚が飛び出し、龍牙を襲いにかかる。
龍牙は軽々とかわしたが、今度は横から別の虚が攻撃してきた。際どくかわし、お返しと言わんばかりに虚を斬り裂く。
「──ちっ。夏の虚大感謝祭かよ」
龍牙は軽口を叩く。
息つく暇もなく、次々と虚が襲いかかる。
次は上空からの攻撃。嘴の様に鋭利な仮面をつけた虚が、上空から降下し、龍牙の身体を貫かんとする。
軽く身を引き、左手で嘴を掴むと、身動きが取れなくなった虚を両断する。
そこへ更に新手。
ゴブリンと似た体格の虚が突進してくる。愚直に真っ直ぐ突っ込んできたため、横一閃に真っ二つにする。
単純な動き、統率のとれていない烏合の衆を、龍牙は次々と蹴散らした。
少しずつ、龍牙の息が荒くなる。
長期戦になることを覚悟したそのとき、とある違和感に気付く。
虚共が動きを止め、まるで
──ぴしっ。
目の前で起こっている現象に、龍牙は自身の正気を疑い、目を擦ってもう一度空を見上げる。
否、錯覚などではない。
「な……何だよ、あれ……!?」
全身の毛穴が開き、脳が警鐘を鳴らす。奴は危険である、と。
刹那、不意をついた虚共の一匹が龍牙に襲いかかる。はっと我に戻り、とっさに身を投げ出して、横っ飛びでかわす。
大勢の虚に、突然現れた巨大な虚……自身の死を強くイメージしてしまった。
虚の大群がジリジリと距離を詰める。
自身が圧倒的に不利であることを悟り、思わず苦笑いが浮かんでしまう。
まさにその時だった。
「──破道の三十一、
呪文のような言葉を唱える声が聞こえてきた後、目の前が一瞬で猛火に包まれた。後方から火の玉が飛んできて、虚に直撃したのだ。
「しばらく見ないうちに、随分と虚にモテるようになったのね、龍牙」
聞き覚えのある声に思わず振り向くと、そこには博麗霊夢の姿があった。
霊夢が呪文のようなものを唱えたのだろう。恐らく、以前妹紅が語っていた『鬼道』の一つだ。特筆すべきはその威力。相手が小型の虚とはいえ、一瞬で焼き尽くしてしまった。
思いもよらない助太刀に、龍牙は笑みを浮かべて霊夢に近づく。
「悪い。助かったよ、れい──ぐほォッ!?」
真下から突き上げるような、強烈な蹴りをあごに見舞う。
木々と同じ位の高さまで打ち上げられ、勢いよく倒れ込んだ。
「──ってぇ! 何すんだよ!」
すぐに身体を起こし霊夢に抗議する。
霊夢は龍牙の襟首を掴んで引き寄せ、噛み付くような剣幕で話し始める。
「アンタ、なんで一言も言わずに出てったわけ?」
「は? 手紙を残してたぞ俺は! 気付かなかったのか?」
「そんなの分かってるわよ! なんで直接言ってこなかったのか聞いてんのよ! その日はたまたま出かけてていなかったから仕方ないけど、一ヶ月の間に顔見せる暇くらいあったでしょ!?」
「う……そ、それはだな……」
言えない。鍛錬に明け暮れて、霊夢に会いに行くことを忘れていたなどと、口が裂けても言えない。
「どうなのよ?」
冷ややかな声で霊夢が問う。
「──俺は誓ったんだ。世話になった霊夢に、いつか立派になったら会いに行こうって……遠く離れても、お前の事を忘れたことは一度だってないよ」
芝居がかった台詞を吐き、機嫌を治してもらおうと試みる。
「里から神社まで、二十分もかかんないですケド」
「……すんませんした」
だったらお前が来いよ、と言いたいところをぐっと堪え龍牙は謝罪する。
浮気がバレてしまった彼氏の如く平謝りする様子を見て、霊夢は深い溜息をついた。
「まぁ、いいわ。悪気はなさそうだし。それに──」
霊夢は刀を抜き、背後に迫っていた虚を両断する。
「──話をしている暇なんてないわね」
「……ああ」
高層ビルを凌駕する大きさの虚を睨み言い放つ霊夢に、龍牙は力強く返事をした