斬魄刀で戦う世界でなぜかハーレムが築かれてく話   作:眞珠

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10話 vsメノス・グランデ

 

 霊夢は襲い来る虚を次々と薙ぎ倒す。

 龍牙は一番近い敵を狙い、飛びかかって斬り裂く。

 だが、敵もやられっぱなしでは無い。

 二人を包囲すべく、半数が背後に回り込んでいる。

 幸い、あちらは連携が取れていない。飛び道具はなく、直線的に襲いかかって来るだけ。グランドフィッシャーとは大違いだ。

 龍牙と霊夢は呼吸を合わせ、端から順に攻撃した。一体を縦に真っ二つ、一体の頭部をつぶし、一体を横に真っ二つにする。

 甘い食べ物に群がる蟻のようにワラワラと虚は湧き続ける。

 二人は少しずつ後退りし、ついには背中合わせになった。

 

「キリがないわね」

「全くだ。虚は一向に減らねーし、あのデカい虚もいつ動き出すか分かんねぇ」 

「──大虚(メノス・グランデ)よ」

「メノス、なんだって?」

「メノス・グランデ。共食いを何度も繰り返して生まれる、虚の集合体みたいなものよ」

「共食いって、虚同士でか? 成程。こんだけ虚が集まってりゃ、バイキング気分で寄ってくるわな」

 

 龍牙がおどけた調子で言う。

 

「そんな軽口が叩けるならまだ大丈夫そうね。作戦を考えてきたわ、好きなのを選んでちょうだい」

「分かった」

「一、私が大勢の虚を引き付けてるうちに、龍牙がメノス・グランデを倒す」

「成程?」

「二、私が傍観しているうちに、龍牙が全てを解決する」

「……とりあえず、お前が作戦を立てるのに向いてないってことだけはよーく分かった」

「二ね、了解したわ」

「おい待て、異議あり! 異議ありありだ!」

 

 返事を待たずに勝手に決め、霊夢は刀を鞘に収めようとする。

 危うく最悪の展開になりそうなところを、龍牙は全力で静止して、明らかに片一方の負担が著しくなる作戦に、異議を唱える。

 

「じゃあ一ってことでいいのね?」

「トロッコ問題より渋い選択だけど、その二択なら一がいいな……まぁ、それはいいとして。どうやってアイツのとこまで行くんだよ?」

「簡単じゃない」

 

 霊夢はキョトンとし、

 

「──こうすんのよ!」

 

 龍牙の臀部を思いっきり蹴り上げた。

 デジャヴ。

 木々よりも高く打ち上げられ、その身は一直線にメノス・グランデへと向かう。

 龍牙はおろか、虚も予想だにしなかった無茶苦茶な突破方法に、(メノス・グランデ以外が)唖然としてそれを見ていた。

 

「覚えとけえええぇぇぇッ!!」

 

 やられ役の、悪者のような捨て台詞を叫ぶ龍牙。

 彼の遠く離れていく背中を見送ると、霊夢は呟く。

 

「これは必要な戦いなの……龍牙、アンタにとってね」

 

 

 

 

 一方、龍牙は最早、メノス・グランデの目前まで来ていた。

 先程まで相手していた虚とは違い、襲いかかってくる気配はないが、佇んでいるだけで威圧感というものがある。

 

(でけぇ……足だけで俺の二倍はありそうだ)

 

 高層ビルに匹敵するほどの巨大な体躯。

 鼻の尖った仮面を着け、全身が黒い布のようなものに覆われた姿は、なんとも不気味である。

 ともかく、こんなものが人里をのさばってしまえば、大々的な被害は避けられないだろう。

 

(何としてもここで止めねーと……)

 

 龍牙は刀を構えると、雄叫びをあげて足部へと突っ込む。虚を両断するとき、いや、それ以上の力を込めて刀を振る。

 それはすさまじい破壊力を秘めて、メノス・グランデの足を真っ二つ──

 ──にはしなかった。

 数センチしか刃は入り込んでおらず、かすり傷より若干酷い痕が残るだけであった。

 じろっ、と、メノス・グランデは足元に視線をやると、石ころを蹴飛ばすように、龍牙を数メートル先まで吹っ飛ばした。

 幸いにも木々がクッションになり、龍牙は着地の勢いでダメージを受けることはなかった。

 

「痛ってぇ……女に蹴られ虚に蹴られ、今日は散々だな」

 

 小言を呟き、身を起こした。

 妹紅との修行で会得した歩法を使い、メノス・グランデの方へと踏み出していく。

 戦力差は歴然。

 龍牙は、どうしたものか、と頭を悩ませる。

 鬼道を使えなければ、飛び道具もない。かと言って慧音のような能力を持っているわけでもなく、攻撃方法は刀で斬ることただ一つ。

 その方法でさえ、メノス・グランデには、かすり傷程度のダメージにしかなっていないのだ。

 吐き気がするほどのクソゲーぶりに、龍牙は思わずため息をつく。

 その時、鋭く強烈な悪寒が龍牙の背中をはしった。

 

「何だ……!? 霊圧が高まってる……!?」

 

 大気が震える。

 特に身動きをとっていないのに、メノス・グランデの身体に膨大な力がみなぎっている。

 圧倒的な力感。大技が来ると本能で理解する。

 技を放つ前に仕留めるか、逃げて態勢を整えるか……。一瞬の迷いがスキを生む。

 光の束がメノス・グランデの口元に収束される。それが霊力であることに気づくまで、そう時間はかからなかった。

 赤い目玉がジロリと龍牙を睨む。

 狙いは龍牙だ。

 逃げる間もなく、龍牙の方へと特大の光線が放たれる。

 ばちん、と炸裂音が鳴る。

 龍牙が光線を刀で弾いているのだ。

 気を緩めば一瞬でお陀仏してしまう、緊迫した状況とは裏腹に、龍牙の胸は高鳴っていた。

 自身の霊圧が増大しているのだ。

 メノス・グランデの光線を受け止め、まるで共鳴しているかのように。砂の中に埋もれた砂鉄が、強力な磁石で無理矢理掘り起こされるように……。

 やがて龍牙の霊圧はメノス・グランデの光線を遥かに凌駕した。

 刀を持つ手をあげ、光線を完全に弾き、かかげた腕を振り下ろす。すると、かすり傷程しかつかなかったメノス・グランデの身体が両断された。

 想像以上の手応えに、龍牙は笑みを浮かべる。

 

『オオオオオオ!』

 

 姿は不気味。一見無感情そうに見える面構えでも、ちゃんと痛みを感じるようだ。

 メノス・グランデは、白い煙を吐きながら、唸り声をあげた。

 最初に出現したときのように、空に裂け目をつくると、真っ黒い空間の中に姿を消してしまった。

 

「はぁ、はぁ……帰ったのか……?」

「──ええ。よくやったわね、龍牙」

 

 龍牙に賞賛を送ったのは霊夢。

 あれだけの数の虚を相手取りながら、かすり傷はおろか、呼吸の乱れすらない。

 さすがは隊長格、といったところか。

 

「霊圧が格段に増してる……あいつと戦って急成長したのか……? それとも、これが俺の本来の霊圧なのか?」

「──アンタ本来の霊圧よ、それが。理由は分からないけど、抑圧されていた、ね」

「霊夢は、気付いてたのか?」

「確信は持てなかったけどね……だからこそメノスと戦わせたのよ。本来の霊圧を引き出すために」

「そうか……また一つ、強くなれたんだな。ありがとう、霊夢」

「礼はいらないわ。最悪、龍牙は傷だらけになる可能性もあったしね。罵倒ならいくらでもどうぞ」

「いや、お前のおかげで強くなれるんだ。礼を言わせてくれ」

「──かっ、勝手にすれば?」

 

 霊夢は鼻の付け根を赤らめ、視線を逸らす。

 もう一度礼を言うと、霊夢は「ふん!」とそっぽを向いた。

 それから、厳しい目つきで振り向いた。

 

「メノス・グランデを退けたことは、すぐに上に伝わるわ。間違いなく席官──下手すれば空席の副隊長の座につくかもしれない。そうなったら──」

「危険な任務が増えてくる、だろ」

「そういうことよ」

 

 冷徹な顔をして霊夢は言った。

 ──が、急に挙動不審になり、視線をあっちこっちにさまよわせて、かなりためらってから口を開く。

 

「仮に、もし仮によ? その、副隊長の着任は拒否ができるの……それだけ、一応伝えておくわ!」

 

 嫌だったら副隊長を断れ、と言ってくれているのだろうが、なぜそんなに挙動不審になるのか、龍牙は理解できずにいた。

 

「一応伝えておくわ、一応ね」

 

 二回言った。大事なことらしい。

 だが、もし副隊長への推薦が来たのなら、少し考えなければいけない。霊圧が増したとはいえ、戦いにおいてはまだ稚拙。

 龍牙が知っている副隊長と言えば妹紅だが、今回の件で彼女との差が縮まったかと言えばそんなことはない。

 副隊長という役職が自分に余りある、と感じるならば断るのも一つだろう。

 龍牙は天を振り仰ぎ、青ざめる空を睨んだ。

 

 

 

 

「あ〜? 知らねぇよ。家出でもしたんじゃねーのか?」

 

 深夜二十三時。入眠が早い人間なら、既に夢の世界にいる時刻。

 緑色の髪をなびかせた少女は、夜更けだというのに、人の家を訪ねていた。

 応対しているのは、手入れされていない無精髭を生やした、ぶっきらぼうな男であった。

 

「知らないって、貴方の息子の話なんですよ!?」

「うるせぇ! あんな気味わりい奴、息子だと思った事なんてねぇよ!」

 

 男は悪態をつくと、勢いよく扉を閉める。

 少女はインターホンを押そうとするも、これ以上話をしても無駄だと判断し、帰路につく。

 

「私がいるからって、こんな夜更けに外に出るなんて二度とダメだからね」

 

 暗がりから金髪の幼女が現れる。

 現代には珍しい市女笠に、目玉が二つついた特殊な帽子は、蛙を彷彿とさせる。

 

「愛しの彼の行方は分かったの?」

「──いえ」

 

 少女は可哀想な顔をして俯く。

 

「信じていれば、きっとまた会えるよ。だから──」

「……私、お風呂入って寝ます!」

 

 幼女の言葉を最後まで聞かずに、緑髪の少女は目の前の神社(・・・・・・)へと入っていった。

 

「ウチの早苗を泣かせるなんて、まったく、酷い男だねぇ」

 

 少女と入れ違うように、青髪の女性が姿を現した。

 

「──神奈子、気付いてる?」

「ああ。アイツにした蓋がこじ開けられちゃってるわね」

 

 神奈子、と呼ばれた女性は肩をすくませながら言った。

 

「膨大な霊圧が漏れ出るのを防ぐために、せっかく蓋をしてあげたっていうのに……」

「誰かがこじ開けたか、自分でこじ開けたか……いずれにせよ、只事じゃなさそうだね。諏訪子、やっぱり──」

「──うん。どちらにせよ、行くしかないね……早苗、あんたが会いたい人には、そこで再会できるよ──幻想郷でね」

 

 月が湖面に影を落とす。

 神奈子は、諏訪子に「先に戻るよ」と声をかけ神社の方へと戻っていく。

 月を見上げ、一人きりになった境内で諏訪子は呟いた。

 

「元気にしてるかなぁ──龍牙」

 

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