今回から新章に入ります。お楽しみください
11話 妖怪の山に新たな神社
メノス・グランデの一件から、月日は流れ十月。
十月も中旬を過ぎると、一気に秋は深まる。夏の暑さはどこへやら、冬服でも少し肌寒い。
夕焼けでも反射したような紅葉が、ちらほら見える山の天辺。
長い階段を上った先にそびえる神社──名を、博麗神社。
その境内を掃除する、霊夢の姿があった。
本日も当たり前のように参拝客は来ず、彼女は暇を持て余していた。
いっそのこと掃除は止めて、龍牙にでも会いに行こうか……そのようなことを考えていた時だった。
ざっざっ、と小刻みに靴音を立てながら、階段を上る音が霊夢の耳に入った。
久方ぶりの参拝客だ。
霊夢は期待しながら、音の主の到着を待つ。
やがて霊夢の眼前に現れたのは、蛇と蛙の形をした髪飾りをつけた、緑髪の少女であった。
「博麗神社の巫女・博麗霊夢! 降伏するか、神社を廃業するか、好きな方を選びなさい!」
「──いきなり何よ、あんた誰?」
霊夢はいら立ちを隠さず、緑髪の少女の方へと大またで歩き出した。
だが、少女は口上をやめず、
「八坂神奈子様こそ、まことの神! 守矢神社は神奈子様の神社! 私はその巫女・東風谷早苗です!」
「守矢、神社……?」
「ろくに神もいなければ、参拝客もいない! たまに来るのは妖怪だけ! こんな神社は無意味です!」
「ぐっ……」
痛いところをつかれ、霊夢の顔が歪む。
「私達は、幻想郷に真の信仰をもたらすためにやって来ました!」
「何を訳の分からないことを──」
「既に、幻想郷最強勢力・妖怪の山を我々は従えています! 抵抗は無意味ですよ!」
早苗の発言に、霊夢の眉がぴくっと動く。
「神奈子様の慈悲として、猶予を与えましょう! 三日後、再びここにやってきます! その間によく思案しておきなさい! はっはははははは!!」
魔女のような笑い声をあげると、彼女は姿を消した。
霊夢はしばらく唖然とする。
階段を上る音が聞こえて、はっと我に返った。
「霊夢〜、さっき変なのが飛んでったけど、知り合いか〜?」
やって来たのは先程と違う少女。
薄い茶色のロングヘアを先の方で一つにし、なにやら瓢箪を持ち歩いている。死覇装に副官章がついており、〈十一〉と書かれていた。
霊夢が彼女にいきさつを説明する。
霊夢の話を聞いた後、少女は瓢箪を傾け、中の液体をぐいっと飲んで満足気な表情をすると、口を開いた。
「へぇ〜、妖怪の山に新しい神社、ね……で、どうすんの?」
「向こうの神様は優しいから、三日も待ってくれるそうよ。でもねぇ、私は優しくないからそんなに待ってあげない」
「そう言ったって、妖怪の山も味方についてるんだろ?」
「関係ないわ。妖怪の山も守矢神社につこうっていうなら、まとめて退治してやるわ、今から! ──戦争よ!!」
*
人里のとある一軒家。
高く積み上げられた専門書に、書き散らかした書類やノート。整理整頓の「せ」の字もない部屋で、龍牙は一心不乱に書類仕事を片付けていた。
突然、こんこんと扉を叩く音が鳴る。
「入れ」
「失礼します!」
龍牙を訪ねたのは、七番隊の隊士であった。
急いでやって来たのか、呼吸が乱れている。
「
片膝をつき、慌てた様子で隊士は言った。
「おう、どうした?」
龍牙は、一旦書類仕事をする手を止めて、隊士の話を聞く姿勢をとった。
「はっ! 妖怪の山に突然現れた神社の巫女が、博麗隊長と接触! 神社の譲渡を迫ったそうです!」
「おいおい、相手は霊夢だぞ? 命知らずな奴がいるもんだな……それで?」
「その件について、博麗隊長から、雨宮三席へとお話があるそうで、すぐに来られよ、とのことです!」
「──分かった。わざわざ悪いな、下がっていいぞ」
「はっ! 失礼します!」
龍牙は、隊士が去ったのを確認すると、飲みかけだったお茶を飲み、一息ついた。
傍らに置いてあった刀を腰に携え、外出の支度をする。
溜まっている書類に一瞥して、少し頭を悩ませるも、結局手は付けずに自宅を後にした。
人里は相も変わらず賑わっている。
七番隊に入隊してから、ほとんどの時間を人里で過ごしているうちに、どうやら顔が知れ渡ってきているようで、至るところで龍牙は声をかけられていた。
「龍牙!」
振り向くと、見覚えのある姿。
腕につけた副官章と、雪のように真っ白な髪がトレードマーク。
「藤原副隊長、どーも」
「龍牙も見回りか?」
「あー。いや、霊夢のとこへ行くとこっす」
「──
妹紅の燃え盛るような赤い瞳が、どす黒い瞳へと変貌する。
周囲にただならぬ気配を漂わせていた。
「いっ……!? あ、あいつが、俺に用事あるみたいっす……」
軽く頬をひきつりながら龍牙は言った。
それを聞くと妹紅は、ぱあっと満面の笑みを見せる。
「そうか! じゃあ仕方なくなんだな!」
「──っすねぇ~」
妹紅の答えづらい質問に、龍牙は曖昧に返事した。
「それは仕方ないな! あの女ぎ──霊夢には、程々にするよういっておこう!」
「た……助かります。ともかく、急ぎの用事みたいなんで、俺はこれで」
「分かった。慧音には私から伝えておく。気をつけてくれ」
妹紅に軽く礼を言い、その場を後にする。
博麗神社へと続く道中、龍牙は妙に気分が高揚していた。
それは、失くしたものを見つけたときのように。
それは、恋人と待ち合わせをしているときのように。
それは──
──長らく会っていない旧友と、再会するときのように。