斬魄刀で戦う世界でなぜかハーレムが築かれてく話   作:眞珠

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12話 妖怪の山へ強制連行

「私を待たせるなんて、いい度胸してるわね──雨宮第三席?」

 

 博麗神社の境内で、仁王立ちして待っていた霊夢。

 気が立っているようで、非常に落ち着かない様子だ。

 

「嫌味ったらしく言うなよ……嫌だったら断ってもいいって、お前が言ったんだろ?」

「ふーん? へー?」

 

 霊夢は目を鋭くして、龍牙を睨みつけた。

 

私の隊の副隊長(・・・・・・・)をやるのが、そんなに嫌だったわけ?」

「……あのなぁ、誰もそんなこと言ってないだろ?」

「言ってるようなもんよ!」

「……はぁ」

 

 誤解を解こうにもすぐ否定されてしまい、龍牙は思わず溜息をついてしまう。

 

「──あ! あんた今『めんどくさこの女』って思ったでしょ!」

「オモッテナイデス」

 

 龍牙は目をそらす。

 実のところ結構思っているが、口は災いの元だ。

 下手に刺激せず、穏便に済ませようとしたが、龍牙は嘘が下手である。

 火に油となってしまった。

 

「だいたい、私の何がそんなに嫌なのよ!」

 

 別れたくないとごねる彼女のようになってしまっている霊夢。

 さっさと本題に入りたいところだが、この状況では入れそうもない。

 龍牙はどうしたものか、と頭を悩ませる。

 嘘をつく方が後々めんどくさいと考え、龍牙は、正直に断った理由を話すことにした。

 

「──いいか、霊夢。俺が副隊長を断ったのは、実力と経験が足りないからだ。決して、お前の隊が嫌だからとか、そんな理由じゃない」

「……ほんと?」

 

 手応えあり。

 気分はさながら、恋愛ゲーム。上手くことを運べば機嫌が直り、下手なことをすれば機嫌は悪くなる。

 霊夢の機嫌を直すため、龍牙は慎重に話を進める。

 

「霊夢には、幻想郷に来てからずっと世話になってんだ。副隊長として、お前のことを支えてやりたい気持ちもある」

「龍牙……」

「お前のことを支えるために、もう少しだけ副隊長の何たるかを学びたいんだ──藤原副隊長のもとで」

 

 ぴきっ。

 

「……あれ? 霊夢さん? 顔が仁王像みたいになってますけど──ちょ、まっ、落ち着け!」

 

 ひたひたと、左右に揺れながら霊夢は龍牙の方へと近づく。

 さながら襲い来るゾンビのように近付いてくる霊夢に、龍牙は恐怖を感じて背筋を凍らせる。 

 

「妹紅といい、美古都といい、少しづつ女の影が増えてくわね……次は慧音かしら……?」

「いやそもそも、ここ自体男の人口が少なすぎるっていうか! 女の影つったって、別に彼女達は俺を好いてる訳じゃ──」

「──問答無用!」

 

 霊夢は、龍牙の死覇装の襟首を掴むと、前後に激しく揺さぶった。

 龍牙の視界が、洗濯機で回されているかのようにグワングワンと揺れる。

 

「あばばばばばばば!」

 

 言葉にならない叫び声をあげる龍牙。

 

「居候をやめた瞬間に、女に手を出すなんて……っ! 最低の破廉恥野郎!」

「勘違いすんなっ! 何もしてねぇって!」

「嘘おっしゃい!」

 

 弁解をするも、霊夢が聞き入れる様子はない。

 視界が揺れ、このままでは今朝食べたものが出てきてしまう、その時だった。

 

「──おいおい、痴話喧嘩か〜?」

 

 博麗神社の本殿がある方角から、飄々とした声が飛んできた。

 霊夢は龍牙を揺らすのをやめ、声のした方へと目を向ける。

 龍牙も揺れる視界の中、声のした方を見据えると、本殿の屋根に瓢箪を持った少女の姿があった。

 

「い、伊吹副隊長……痴話喧嘩なんてそんな可愛いものじゃないことくらい、見て分かりませんかねぇ……」

 

 十一番隊副隊長・伊吹萃香。

 郷廷十三隊随一の武闘派集団、十一番隊の副隊長を務める彼女は、比喩ではなく〈鬼〉である。

 頭に生えた角と、人智を超えた身体能力がそれを物語っていて、常に酔っ払っているため、誰も素面の彼女を見たことがない。

 暇さえあれば博麗神社に遊びに来て、酒を飲んでは帰る彼女と龍牙は面識があり、戦い方を指南してもらっている。

 妹紅に次いで、龍牙にとっては師匠と呼ぶべき存在でもある。 

 

「鬼の喧嘩に比べたら、大したことないねぇ」

 

 「よっ」と声を上げながら、少女は屋根を降りた。

 上機嫌な足取りで、こちらの方へと近付いてくる。

 ──この人が不機嫌なところなど、見たことないが。

 

「その辺にしてやったら? 霊夢」

「い、伊吹副隊長ォ……」

 

 助けを求める子犬のように、目をウルウルさせる龍牙。

 普段は酔っぱらいが過ぎるため、龍牙には「めんどくさい」と思われているが、今回ばかりは天使を見るような目で萃香の助けを求めていた。

 

「萃香、甘やかしちゃダメよ。女を(たぶら)かすような男にならないように、しっかりお灸を据えないと」

「それもそうだ、ははは」

 

 龍牙の脳内で、天使は一気に悪魔へと変貌する。

 

「ははは、じゃねぇよ! 何笑ってんだ角ガキ!」

「そうかそうか、龍牙は私と斬り合いたいんだな〜?」

 

 萃香と呼ばれた少女は、背中に背負った刀に手をかける。

 龍牙はギョッとして、両手を挙げて降参のポーズをとる。

 萃香とは打ち合いの経験がある龍牙。結果は五十三戦零勝五十三敗。

 清々しいほどの負けっぷりだ。

 

「アンタとやったら気が持たないっすよ」

「ははは、分かってるじゃん、龍牙」

 

 萃香は龍牙の背中をバシバシと叩く。

 龍牙は「いてっ」と声をあげる。

 

「アンタの力で叩いたら、骨折れるだろやめろ!」

「ははは、龍牙は面白いな〜」

 

 萃香は高らかに笑い、龍牙をコケにする。

 強くなったら絶対にボコす、と龍牙は心の中で誓った。

 

「そんなことより霊夢、こんなとこでボサっとしてていいの〜?」

 

 萃香の言葉で霊夢は我に返る。

 同時に、龍牙の襟首を掴んでいた手を離した。

 やっとの思いで解放され、龍牙は安堵の溜息をつく。

 

「そうだぞ、さっさと本題に──ん?」

 

 自由になったのも束の間、今度は後襟を掴まれ、気付いた時には踏みしめていた地面が遠く離れていた。

 

「ちょ、霊夢さん! くっ、首が!」

「行ってくる!」

「お〜」

 

 もがき苦しむ龍牙を余所に、霊夢は出発する。

 徐々に遠くなっていく二人の後ろ姿を、萃香は手を振って見送った。

 

 

 

 

 後襟を掴まれたまま、龍牙達は空中を飛行していた。

 最初の数分は「離せ」ともがいていた龍牙は現在、電池の切れたおもちゃのように静かになっていた。

 

「霊夢、さっきの話の続きだけど」

「なによ」

 

 霊夢はぶっきらぼうに返事をする。

 

「副隊長に指名されたときは、その……」

「なに?」

「……嬉しかったんだ」

「──」

「一番支えてくれた人間が、今度は俺に支えてほしいって寄りかかってくれることが。俺はまだ未熟……だけどこんな俺に期待を寄せてくれたお前を──」

「……もっ、もういい! もう、怒ってないから……」

 

 龍牙に、霊夢の表情を見ることはできない。

 彼女の言葉を信じるしかなかった。

 

「……ところで、いつ離してくれんの?」

「──あ、忘れてた。ごめんごめん、途中から完全に無意識だったわ」

 

 飛行するのをやめ、霊夢は龍牙の後襟から手を離す。

 二度目の自由を得た龍牙は、コキコキと首を鳴らした。

 

「はぁ……やっと解放かよ。首輪するみてーに襟首掴みっぱなしにしやがって。俺は犬かっての」

「言い得て妙……いっそのこと、博麗神社(ウチ)で狛犬やってみる?」

「ウチでバイトしてみる? みたいなノリで言ってんじゃねーよ」

「──お手」

「やらねーよ!」

 

 霊夢が差し出した手を、龍牙はぴしゃっとはたいた。

 はたかれた霊夢は「ちぇっ」とつまらなさそうにした後、野良猫のような目で、じーっと龍牙を見つめた。

 

「どんだけ見つめてきてもやらないからな?」

「──ちっ」

「なんの舌打ちだ! ホントに舌打ちしたいのは、襟首掴まれたまま三十分以上空中浮遊させられた、俺の方だ!」

 

 軽く言い負かされ、霊夢は悔しそうに前に向き直す。

 

「あ、おい、待て。そもそも、どこに行くんだ?」

「ばかなの? 死ぬの? 勘の悪い男ね。話の流れを読めないのかしら?」

 

 霊夢は呆れたふうな顔をして振り返り、前方の山を指差した。

 

「妖怪の山に決まってるじゃない。話をつけに行くのよ」

「例の神社の件な。まぁ、気をつけて行ってこいよ、それじゃ」

「待ちなさい!」

 

 霊夢は、帰ろうとする龍牙の腕をガシッと掴んだ。

 

「どこ行くつもり?」

 

 霊夢はひやひやとした声で訊ねた。

 

「どこって、帰るんだよ。まだ書類仕事が溜まってんの」

「そんなもの後回しにしなさい。私と一緒に、妖怪の山に戦争を仕掛けるのが先よ」

「……今、なんて?」

「──戦争よ」

「あーっ、聞き間違えであってほしかった。こいつ今、ハッキリ戦争(・・)って言ったぞ」

 

 龍牙は、腕を離してもらおうと、ブンブン振ったり、引っ張たりするなどしたものの、霊夢の方が力が強いのか振りほどけないでいた。

 しばらくするとまた、充電の切れたおもちゃのように大人しくなった。

 

「だいたいなぁ、妖怪の山って言ったら、九番隊の管轄だろ? 入るには正式な手続きがいるし、無論、侵入はご法度だ。霊夢みたいに隊長職なら分かんねーけど、俺みたいなヒラが侵入したなんてバレたら、クビもいいとこだぞ……」

 

 ここ数ヶ月で詰め込んだ幻想郷についての資料を思い返し、龍牙はげんなりしながら言った。

 

 ──九番隊。

 妖怪の山の守護(と正式ではないが、隊長のゴシップ新聞の発行)を生業としている隊。

 妖怪の山の守護、とは言ったものの、妖怪の山の中では決して立場は高くはなく、隊長ですら妖怪の長には頭が上がらない程。

 だが、統率力は高く、妖怪の山全域を含めれば、幻想郷最強勢力という言葉に過言はない──

 

「やっと第三席まで来れたんだ。こんなところでクビとか勘弁だね。職を失ったら無一文だぞ、俺は」

「大丈夫よ。その時はちゃんと、首輪をして飼ってあげるわ」

「だからその犬扱いをやめろ!」

「はいはい、吠えないの」 

 

 機嫌の悪いペットをなだめるように霊夢は言った。

 

「だからっ──まぁ、いいや。ともかく、今回ばかりは協力できねーよ。どうしてもって言うんなら、あの金髪盗人女(・・・・・)を連れてけよ」

「魔理沙のこと? 嫌よ。なんかやらかして、トラブルを起こすのが目に見えてるわ」

「戦争しに行く奴がトラブル云々を心配するのは、本末転倒なのでは……?」

 

 返す言葉もないのか、霊夢は目をそらすと「ゴホン」とわざとらしい咳払いをした。

 自分がトラブルの火種になるのは、自覚しているようであった。

 

「まぁ、龍牙の心配も(もっと)もね……でも安心して。そう言うと思って、対策を用意してきたわ」

 

 霊夢は懐に手をやると、中から狐の仮面を取り出した。

 それを見て、龍牙は何かを察する。

 

「お前、まさか……?」

「そのまさかよ。アンタは今から──平和戦士・イナリマンよ!」

 

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