斬魄刀で戦う世界でなぜかハーレムが築かれてく話   作:眞珠

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13話 平和戦士・イナリマン

 

 霊夢が取り出したお面を見て、龍牙はまさかといったふうな顔をする。

 狐の顔の形に造られたお面は確かに、顔を見られることなく立ち回ることを可能にするだろう。

 基本的ずぼらで書類仕事も溜めがちな霊夢が、珍しく用意周到にお面を持っていることに、龍牙は吃驚した。

 

「お前にしては用意がいいことはさておき、平和戦士・イナリマンってなんだよ」

「あら、嫌なの?」

 

 霊夢はキョトンと首をかしげた。

 

「いや、狐のお面自体は嫌じゃねーんだけど……」

「じゃあ問題ないじゃない。はい、装着装着」

 

 お面をグイグイと押し付けられ、仕方なく龍牙はそれを受け取った。

 嫌々ながらもお面をつけようとすると、霊夢から「ストップ!」と声がかかった。

 

「──なんだよ」

「言い忘れてたけど、お面をつけてるのが龍牙だってバレないように、そのお面には霊圧を抑える術式を施してあるわ」

「へ〜。そいつは便利だな」

 

 霊夢の説明を聞いて、改めてお面をつけようとする。

 すると、もう一度霊夢からストップがかかった。

 

「まだなんかあんの?」

「あるわよ。私が練り込んだのは鬼道と似た術式──つまり、発動するには詠唱が必要なのよ、使用者のね」

 

 鬼道に似た術式をお面に刻み込む。

 霊夢がしていることはほぼ、オリジナルの鬼道を創り出していることに等しい。

 龍牙は素直に感心した。

 

「俺が詠唱しないと意味がないってことか……分かった。教えてくれ」

「一回しか言わないからよく聞きなさいよ?」

「おう、分かった」

「いくわよ? ──受けてみよ、正義の力! 正義装甲ジャスティスマスク、装‪☆着!」

「……は?」

「もう、聞き逃したの? もう一回いくわよ」

「まてまて!」

 

 二度目の詠唱を唱えようとする霊夢を、龍牙は慌ててそれを止めた。

 

「なによ? なんか変なところでもあった?」

「全体的に変だったけどな!?」

 

 小首をかしげる霊夢に、龍牙は異議を唱えた。

 

「幻想郷では意外と人気あんのよ、こういうの」

「嘘つけ! 絶対にやりたくないんだど、詠唱破棄とかできねーの?」

「はー? 龍牙みたいなタイプはどうせ、魔法は詠唱してから放った方がかっこいい、とか思ってるんでしょ? だからわざわざ詠唱破棄できないようにしたのに!」

「余計な気回ししてんじゃねぇ! そんなの唱えるくらいなら、クビ覚悟で行くか帰るわ!」

 

 魔法は詠唱してから放った方がかっこいい、については、龍牙は否定しなかった。

 問題は詠唱の方にある。

 どうしてもやりたくない龍牙は、お面を霊夢に突き返した。

 

「そんなっ──そんなに嫌がらなくてもいいじゃない……っ!」

 

 霊夢はその場でうずくまり、涙ながらに言った。

 

「……いや、悪い。泣かせるつもりじゃなかったんだ」

 

 さすがに泣かれるのは予想外だったのか、龍牙の表情に焦りの色が見える。

 しばらくすんすんと鼻を鳴らした後、霊夢はぽつりぽつりと語り始めた。

 

「──相手は多分、巫女だけじゃなくて神様……それに、妖怪の山の連中も味方についてるわ。正直、一人じゃ不安なの……」

 

 隊長とはいえ、現界ではまだ中学生程度の齢。

 普段は気丈に振舞ってはいるが、その実、普段から不安を抱えているのかもしれない。

 龍牙は反省し、霊夢が手に持つお面を奪い取る。

 

「……分かったよ! 言えばいいんだろ、言えば!」

「──龍牙」

 

 霊夢は、ぱあっとした表情を見せ顔を上げた。

 

「……う……受けてみよ、正義の力! せ、正義装甲ジャスティスマスク、装‪☆着!」

 

 顔を赤らめながらも、霊夢のために詠唱してお面をつける。

 

「──うわ、ほんとにやった……」

 

 はっと振り向くと、若干引き気味な様子の霊夢の姿。

 

「……張り倒すぞ?」

 

 お面をつけたまま霊夢に凄む龍牙。

 そんな龍牙を押し退け「行くわよ」と霊夢は先に進む。

 龍牙は溜息をついて、その後に続いた。

 

「それにしても、なんだって妖怪の山の連中が味方についてんだろうな?」

 

 龍牙の疑問は尤もである。

 博麗神社は外の世界と現界を隔てている、博麗大結界の境目に位置している。

 結界の要となっているのは、神社周辺の木々と、博麗の巫女。

 大袈裟に言ってしまえば、博麗の巫女は幻想郷の要そのものとなる。

 それに対して降伏や神社の譲渡を迫る行為は、幻想郷そのものを支配すると言っているようなもの。

 幻想郷を護る立場のものがそれに加担するのは、裏切りに等しい。

 なにか裏があるのかもしれない、龍牙はそう考えていた。

 

「さあ? 知らないわよそんなこと」

「考えたって仕方ねーけど、ちょっと気になるよな」

「──そうね。九番隊を相手しなきゃいけない可能性もあるわ。ここからは、気を引き締めて行くわよ」

 

 気付けば二人は、妖怪の山の目前まで来ていた。

 複数の強い霊圧を龍牙は感知する。隊長格、それと、山の天辺から感じる一際強い霊圧。

 新参者の俺が相手になるのか、と龍牙は不安を感じた。

 

「大丈夫よ、龍牙なら」

 

 龍牙の不安を感じ取ったのか、霊夢は優しい口調で言った。

 

「──ほら、来るわよ」

 

 霊夢が指差した方向からやって来たのは二人の女性。

 二人して金髪のボブであり、違うとすれば髪型。

 片方はウェーブがかった髪をしていて、もう片方は前の方向にカールしている。

 

「誰よ、あんた達」

「私は秋静葉(あきしずは)。紅葉の神です」

 

 ウェーブがかった髪をした方が、スカートをたくし上げ、礼をする。

 「神」という単語を聞いて、龍牙は反射的に小さく礼を返した。

 

「私は秋穣子(あきみのりこ)! 豊穣の神よ!」

 

 続いてもう片方が自己紹介をした。

 静葉と違い声が大きく、明るい性格のようだ。

 

「ふぅん、秋の神がなんか用?」

 

 霊夢は二人を睨みつけるようにして訊ねた。

 

「私達は名乗ったんだから、そっちも名乗りなさいよ!」

 

 穣子が目くじらを立て龍牙達を指差した。

 

「──郷廷十三隊、十三番隊隊長・博麗霊夢」

「そっちは?」

「俺はなな──」

 

 龍牙がそこまで言いかけた時、霊夢が穣子達に見えないように肘で龍牙を小突いた。

 龍牙は何だよ、と言いたげな表情で霊夢を見る。

 

(アンタ、バカなの? 何のためにお面つけてると思ってんのよ)

(……そうでした)

 

 龍牙は「ゴホン」と咳払いをすると名乗りをあげようとする。

 しかし、平和戦士・イナリマンなどと名乗るのはさすがに癪だ。霊夢にバカにされる未来は見えている。

 だが、いつまでも待たせてしまうのは申し訳ない。

 龍牙は意を決して、

 

「──へ、平和戦士・イナリマンだ」

 

 と可能な限り声を低くして名乗りをあげた。

 

「……」

 

 沈黙。

 なにかおかしいことをしてしまったのか。

 否、おかしなことをしたのだ。

 お面越しに、龍牙の顔がみるみる赤らむ。

 

「──ぷっ」

 

 沈黙を破ったのは、穣子の噴き出す声。

 

「あっはははははは!!」

「……し、失礼ですよ、笑っては……」

 

 穣子は腹を抱えて笑い転げる。

 静葉も声を上げてはいないものの、顔を背けて身体を震わせている。

 

「んぐっ、ふふふ」

 

 霊夢は龍牙の肩に腕を乗せてよりかかり、手で顔を隠して、声を押し殺しながら笑っている。

 龍牙は惨めな気持ちになった。

 今すぐ家に帰って、隅の方でうずくまりたい気分だ。 

 だが、残念ながら今はそんな場合ではない。

 

「ひーっ、ひーっ、お腹痛い!」

「──さっさと用件を言え!」

 

 痺れを切らした龍牙は、つい大声を出してしまった。

 

「ふぅ……いい? 妖怪の山にいる妖怪はね……くっ……そこら辺にいる妖怪とは違うのよ! 危険なの!」

「貴方達を危険な目に合わせる訳には行きませんので、ここから先は通せません」

 

 一頻り笑って落ち着いた穣子と静葉は用件を語り出す。穣子の方はまだ少し笑っているのが龍牙の癇に障るが、ツッコミ出したらキリがないので無視をする。

 失礼な神とはいえ、どうやら龍牙達のことを心配しての行動のようだ。

 

「悪いけど、こっちだって事情があんのよ。通さないって言うなら、力づくで通してもらうわよ」

 

 いつの間にやら真顔に戻っていた霊夢は、掌を彼女達に向ける。

 霊夢が何をするつもりか理解し、龍牙は数歩後ろに下がった。

 

「どうしても通りたいと言うのならば、私達を倒していき──」

「破道の三十一・赤火砲(しゃっかほう)!」 

「ひうっ!?」

 

 静葉が言葉を言い終わる前に、霊夢は破道で静葉を撃墜した。

 

「ちょっ!? 実りの神なのよ! もうちょい敬いな──」

赤火砲(しゃっかほう)!」

「きゃ〜!?」

 

 穣子も言葉を言い終わる前に、霊夢の破道によって撃墜される。

 穣子は空中から落下しながら「焼き芋になっちゃう〜!」といかにもな言葉を叫んでいた。

 少々卑怯ではあるが、散々バカにされたために、龍牙はスッキリとした気分になった。

 

「よし、行くわよ」

「血も涙もねぇな……」

 

 霊夢のあまりの容赦の無さに、龍牙は引き気味で言った。

 

「あいつらが邪魔するのが悪いのよ」

「まぁ、それもそうか」

 

 霊夢の言葉に納得する。

 秋姉妹を撃退した二人は、いよいよ本格的に妖怪の山へと攻め入るのであった。

 

 

 

 

 ──妖怪の山のとある一軒家。

 おびただしいほど鳴り響く警報。

 山に面して建てられた自宅の窓から、黒髪の女性は身を乗り出して様子を確認する。

 

「今の警報は……っ! 報告!」

「隊長!」

 

 窓際の木の枝に乗り、副官章をつけた白髪の女性が報告へとやってくる。

 

「何事ですか!」

「山に侵入者! 博麗の巫女ともう一人、謎の男が警備を蹴散らして攻め込んできました!」

「──やっぱり来ましたか。博麗の巫女はいいとして、もう一人の男とは?」

「はっ! 一部始終を見ていた者の証言によると、イナリマン(・・・・・)と名乗っているそうです!」

「なんですかそのトンチキな名前の不審者は!?」

 

 黒髪の女性に問われ、困ったような顔をする。

 

「詳しいことはわかりません……とにかく、私は九天の滝にて防衛ラインを張ります!」

「分かりました、私も後程向かいます!」

 

 報告を終えると、白髪の女性は姿を消した。

 誰もいなくなったところで、一人溜息をつく。

 妖怪の山を守護する隊として、警備には決して弱くない隊士を配備している。

 腕利きの隊士が次から次へと蹴散らされているということは、攻め込んできてる敵の実力は折り紙付き。 

 博麗の巫女は想定内。

 そこにトンチキな名前の男もいるという。

 

「──久しぶりに、骨が折れそうですねぇ」

 

 空を見上げ、黒髪の女性はそう呟いた。

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