斬魄刀で戦う世界でなぜかハーレムが築かれてく話   作:眞珠

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14話 龍牙vs椛

 

 妖怪の山に侵入し、龍牙達は襲い来る警備を蹴散らしながら進んでいた。

 しかし、ほとんどの敵を霊夢の鬼道で撃墜しているため、龍牙がやっていたのはあくまで引き付け役だ。

 そんな二人が辿り着いたのは、九天の滝と呼ばれる大きな滝。

 龍牙が滝を上ろうとすると、霊夢が「止まって」と龍牙の動きを中断させる。

 霊夢の言われた通りに、龍牙は動きを止める。

 動きを止めたその時、急速にこちらに接近する二つの霊圧に気付く。

 前方──いや、上だ!

 龍牙が上を向くと、二人の女性の姿。

 一人は白色の短髪。腕には副官章をつけており〈九〉と数字が書かれている。珍しく刀を二振り所持しており、腰の右と左で一つずつ携えている。

 もう一人は黒髪のボブ。死覇装に気重ねた白い羽織が、隊長であることを示している。

 言わずもがな、九番隊の隊長格の二人だ。

 これまでの警備とは段違いの霊圧を持つ二人。

 龍牙は固唾を呑んだ。

 

「やっぱり来ましたねえ、霊夢さん」

「──出たわね、コウモリ天狗」

 

 まるで部屋の中に害虫が出たような言い方をする霊夢。

 コウモリ……とは少し違うが、彼女の背には確かに黒い翼が生えていた。

 コウモリというよりは、鴉といったところか。

 以前、妹紅から聞いた話によれば「ふざけたことをしているが、飄々としていてどこか抜け目のない性格」と評されていた。

 しかし、龍牙がイメージしていて人物像とは違い、眼前にいるのは、殺気混じりの威圧感を飛ばす強者。

 身体全体に緊張を走らせながら、龍牙は刀を抜いた。

 

「立ち入り禁止の山に侵入した挙句、警備の隊士に乱暴狼藉……いくら霊夢さんといえど、見逃す訳にはいきません!」

 

 刀を抜き、切っ先を霊夢へと向ける。

 同じ隊長同士、顔見知りといえど譲れないものがあるのか、彼女の言葉には力がこもっている。

 それに続き、白髪の副隊長も二本の刀を抜いた。

 霊夢の表情はいつになく真剣だ。冷や汗すらかいている。

 ゆっくりと抜刀し、戦闘態勢をとった。

 どうやら避けることのできない戦いのようだ。龍牙の刀を持つ手に、自然と力が入る。

 

「椛さん、貴女はあっちの不審者を。私は霊夢さんの相手をします」

「承知しました」

 

 黒髪の隊長──射命丸文(しゃめいまるあや)は、副隊長の犬走椛(いぬばしりもみじ)へと指示を出す。

 龍牙が相手取るのは、椛のようだ。

 妹紅と萃香、龍牙がよく知る二人の副隊長ほど霊圧は高くないが、副隊長まで上り詰めているのだ。龍牙にとって強敵であることに違いはない。

 隊長格同士の戦いであれば、下手に近付いては邪魔になる。そう判断した龍牙は、霊夢から数歩距離をとる。

 

「そっちは任せたわよ」

「ああ、お前も気をつけろよ」

 

 二人は短く言葉を交わし、それぞれの敵へと目を向ける。

 すると椛は、何やら怪訝な顔をして龍牙のことを見ていた。

 何か癇に障ったのか、その顔からは怒りの感情が滲み出ている。

 

「敵の眼前で味方の心配ですか? 随分と舐められたものですね」

 

 霊夢に対する激励を、油断していると取られてしまったようだ。

 椛の霊圧がみるみるうちに高まっていく。

 今まで戦った敵とは比にならない霊圧。

 目の前の椛に比べれば、今までの虚の霊圧など、ちっぽけなものだ。

 

「──貴方は、何者ですか?」

 

 椛の唐突な質問に、一瞬龍牙は固まる。

 秋姉妹も同じだったが、幻想郷の住人は名乗りを上げなければいけない風習でもあるのだろうか。

 先程の光景がフラッシュバックした。

 名乗りを上げ、敵味方全員から爆笑されていた嫌な思い出が。

 

「……平和を願う、名も無き戦士だ」

 

 肩に刀身を置き、可能な限り格好をつけて龍牙は言い放つ。

 例の如く、しばらく沈黙の時が流れた。

 ……やってしまったか?

 しかし、椛は口元をピクリとも動かさず、笑うどころか怒りが増しているようにも見えた。

 

「……成程。狐の面を被ったタダの変態、報告にはそう残しておきます」

 

 惨めである。

 ここまで冷ややかに言われてしまうくらいなら、秋姉妹のように笑われた方が、まだマシである。

 もういっそのことこの場で泣きながらうずくまりたい思いである。

 

「申し訳ありませんが、不審者にかける情けは持ち合わせておりませんので……斬らせていただきます」

 

 椛は刀を構え直した。

 ──何かしてくる!

 龍牙は警戒を強めた。

 

「──牙を剥け”蔭狼(かげろう)”」

 

 椛が行ったのは斬魄刀の解放。

 手にしていた二本の刀の形状が変化する。

 左手に持っていた刀は、紅葉が描かれたひし形の盾へ。右手に持っていた刀は、太刀へとそれぞれ変貌した。

 慧音の斬魄刀とは違い、刀そのものが変化するのが彼女の斬魄刀のようだ。

 じっと椛の斬魄刀を観察していると、彼女は訝しんで龍牙に訊ねた。

 

「どうしたのですか? 貴方も斬魄刀を解放しなさい。それとも──」

 

 椛は瞬歩で距離を詰め、龍牙に刀を振り下ろした。

 一瞬の出来事。

 龍牙は何とか反応して、椛の攻撃を刀で受け止める。力と力の勝負。お互いの力を込めた刀身が震える。

 

「──斬魄刀を解放せずに、私と戦うつもりですか? このままでは貴方は負けますよ?」

 

 無論、彼女は心配して言っているのではない。

 私を侮っているのか、と言っているのだ。

 

「生憎、俺はまだ自分の斬魄刀の名を知らなくてね……っ!」

 

 一瞬だけ、持てる力の全てを注ぎ、椛を弾き飛ばす。

 単純な力だけであれば、龍牙の方が一枚上手のようだ。

 

「そうですか……己の斬魄刀の名を知る前に死んでしまうとは、可哀想な男ですね」

 

 清々しい程の勝利宣言。

 椛は、龍牙に負けることなどこれっぽっちも考えていないらしい。

 侮られていることを理解して、龍牙は少々苛立つ。

 

「もう勝ったつもりかよ? 長命のくせに、妖怪ってのは意外と気が短いんだな」

 

 椛の眉間にシワが寄る。

 

「おいおい、あんま怒ると実年齢に見た目が追いついちまうぞ?」

「──そちらこそ、ただでさえ短命なのに、これ以上死に急がなくて良いのでは?」

「……」

「「殺すッ!!」」

 

 再び空中で刀を交える。

 二人の顔は怒り──というより、苛立ちの感情が剥き出しになっている。

 気が短いのはお互い様らしく、両者共、明らかに冷静さを失っていた。

 力任せに刀を振り、とにかく先に傷をつけようとしている。

 おおよそ戦術なんてものはなく、一心不乱に刀を振る姿は、子供のチャンバラごっこを彷彿とさせる。 

 斬りかかっては受け止め、斬りかかっては受け止める。

 両者、一切の回避行動はなく、その目は血走っていた。

 龍牙は力で押し切ろうと、刀を振り上げる。

 ──それが迂闊であった。

 全力を込めて振り下ろした刀は、椛の盾によって防がれてしまう。

 しまったと思った時にはもう遅い。懐はがら空き。左手の盾一つで防いだ椛は、自由になった刀を横一線に振り抜いた。

 龍牙の腹部が斬り裂かれ、鮮血がほとばしる。

 痛みに顔を歪めるも、何とか後ろに飛び退き椛と距離をとる。

 一旦態勢立て直すために龍牙は飛び退いたが、椛の追撃によりそれは叶わなかった。

 右に飛んで斬撃をかわしたが、椛はそれを読んでいたかのように、次の手を繰り出した。

 盾による打撃。咄嗟に反応し右腕で防御に入るも、斬り裂かれた腹部の激痛で上手く力が入らず、龍牙は軽く吹っ飛んでしまう。

 即座に霊子を固めて、辛うじて落下を防ぐ。

 

「意外に、しぶといんですね」

 

 椛は、一歩一歩龍牙の方へと近付く。

 強者の余裕というやつだろうか。足取りは軽く、隙だらけだ。

 しかし、激痛に耐えるので精一杯の龍牙には、隙をつく余裕などなかった。

 椛もそれを分かっているからこそ、余裕を見せて近付いているのだろう。

 彼女の憎まれ口に言い返す気力もなかった。

 

「戦意喪失ですか……大口を叩いたわりには、大したことはありませんでしたね」

 

 椛は、龍牙の目の前で歩みを止める。

 無防備とも言えるほど刀を振り上げ、龍牙にトドメを刺そうとする。

 

「苦しまないよう、せめて一太刀で終わらせてあげましょう」

 

 刀が振り下ろされ、龍牙の首が飛んだ。

 ──はずだった。

 椛の刀は首を斬る直前で、龍牙に腕を掴まれ止められていたのだ。

 

「──勝ってもねぇのに、介錯宣言……やっぱり気が短いんじゃねぇのか?」 

 

 龍牙は不敵な笑みを浮かべる。

 椛は腕を振り放そうとするも、ありったけの力を込めて龍牙に腕を掴まれ、力を入れることすらもできなかった。

 腕を掴んだまま立ち上がり、龍牙は椛を抱き寄せる。

 

「なっ──貴様っ、なんのつもりだっ!?」

「……俺の鬼道ってのはまだ未完成でさ。コントロールがまだおぼつかねぇんだ」

「なんの話をしているっ!? 離せっ!」

 

 椛は暴れるも、一向に龍牙を振り解けない。

 

「コントロールできねぇってのは例えば──その場で大爆発を起こしちまう、とかな」

 

 そこまで言われてようやく、椛は龍牙のやろうとしていることに気がついた。

 

「なっ──貴様っ、やめろ!」

「俺とお前、どっちの耐久力が強ぇか、勝負と行こうぜ」

「やめろ離せっ!!」

「──破道の三十一”赤火砲(しゃっかほう)”!!」

 

 重々しい響きと共に、大爆発が起こる。

 黒い煙が立ち上り、ボロボロの龍牙と椛が、地面へと落下していった。

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