斬魄刀で戦う世界でなぜかハーレムが築かれてく話   作:眞珠

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03話 ごきげんよう

 

「戻ったわ」

 

 龍牙の涙で濡らしてしまった袴から新品に着替え、布団の横に霊夢は座り込む。着替えるついでにお茶を淹れてきたようで、どうぞと言いながら龍牙に差し出した。

 霊夢にお礼を言いつつお茶を頂く。

 

「さて、大分落ち着いてきたところで、話の続きといこうかしら」

 

 霊夢の言う話の続きとは、化け物の出現によって遮られてしまった話の事だろう。

 

「郷廷十三隊の主な業務の一つは、いわゆる政治をすることっていうのは言ったわよね?」

「ああ。人外の種族もいるから、平和を維持するため、だったよな」

「よく覚えてたわね、えらいえらい」

 

 そう言いながら、霊夢は龍牙の頭を撫でた。慈愛に満ちた表情で。

 

「──おい、何をしてる?」

「へ? あ、いや、気にしなくていいですわよ、オホホ」

 

 貴婦人の様に手で口元を隠し、撫でている手を霊夢は引っ込める。変な笑い方で誤魔化してはいるが、焦っているのが見え見えである。

 

「……変なやつ」

「さ、さてー! 郷廷十三隊のもう一つの業務を説明するわね!」

 

 手の平を合わせ、精一杯の作り笑いをし、霊夢は話を無理矢理戻す。霊夢の変な挙動が気になるも、これ以上話の腰を折らないために、龍牙はそれ以上の追及をしない事にした。

 

「私達のもう一つの業務はね、龍牙が退治した化け物『(ホロウ)』の退治よ」

(ホロウ)……あの化け物はそんな名前なのか。悪霊の類だったりするのか?」

「詳しい事は分かってないわ。唯一分かっている事は、奴らは私達の魂を喰らう存在ってことだけ」

「魂を、喰らう?」

「ええ、難しく言ってしまったけれど、ようは食べに来てるのよ、私達の事を」

 

 その話を聞き、龍牙は自分が遭遇した(ホロウ)との出来事を思い出していた。

 間一髪助けられたから良かったものの、間に合わなければ少女は(ホロウ)に喰われ、下手をすれば、助けに行った自分も喰われていたかもしれない。

 その展開を想像して、龍牙は身震いする。

 

「下手をすれば、とか思ってるんでしょうけど、襲われている子を助けて、尚且つ(ホロウ)を退治した。隊士でもない、一般人の龍牙がそれをやってのけたのは凄い事よ? 誇りなさい」

「でも、無謀な事をしたんだよな……衝動で動かず、霊夢に任せれば良かったんだ。間違った事しちまったな」

 

 龍牙は俯き、表情を曇らせながら言った。

 知らなかったとはいえ、自身の命を危険に晒すような真似をしてしまった。結果的には良い方向に転んだものの、無謀な事だったと龍牙は反省する。 

 

「──あんた、助けた子の前でもそんな事言うつもり?」

「え?」

 

 霊夢は一気に龍牙に近付き、片膝をついて片手で龍牙の両頬を掴み、無理矢理上に向かせる。

 言うまでもなく、彼女の表情は怒りに満ちている。

 

「命を救われた人っていうのはね、少なからず負い目(・・・)を感じるものなの。ただでさえ戦う力の無いアンタが、ボロボロになってまで助けたあの子に、あの日した事は間違ってたなんて言ってみなさい。助けられたあの子は一生引きずるわよ」

 

 霊夢は手を離し、立ち上がって龍牙を見下ろすように睨んだ。

 

「いい? 人を助けた事に間違いなんてないのよ」

 

 霊夢が激情を露にする人間だと思っていなかったのか、龍牙はただ唖然としていた。

 

「胸張って誇りなさい。アンタは、あの子にとってヒーローなの」

「……そっか、そうだよな」

 

 曇っていた龍牙の表情が元に戻る。

 

「ヒーローはいつだって胸張って人助けしてるもんな、俺も胸張らねぇと……ありがとな、霊夢」

 

 龍牙は満面の笑みでそう言った。

 

「……ッ」

「ん?」

 

 霊夢は頬を紅潮させ、それを勘づかれないようにするためそっぽを向いた。 

 

「わ、分かればいいのよ」

 

 また何か機嫌を損ねてしまったのかと心配する龍牙と違い、霊夢は全く別の事を考えていた。

 

 ──なんで、なんでこんなに照れてんの私は

 

 幻想郷において男性という存在は少しだけ珍しい。とはいえ、関わりが無い訳では無い。郷廷十三隊にも、少なからず男性隊士というものは存在していて、会話をする機会は時折ある。

 しかし、男性に対してこんな感情を抱くのは初めての事であった。

 

「おーい、霊夢?」

 

 霊夢の心を乱している張本人が、ぼーっとしている霊夢にぶんぶんと手を振りながら声をかける。

 

「あ、え、何かしら?」

 

 我を取り戻し、霊夢は尋ねる。

 

「いや、ぼーっとしてるから何かあったのかなって」

 

 龍牙は怪訝そうな顔をしてそう言った。

 大ありよ、と口を大にして言いたいところを抑え、なんでもないわ、と霊夢は返事をした。

 

「ならいいんだけど……それにしても、お腹空いたなぁ」

「丸二日も寝込んでたら、そりゃあお腹も空くわよ。食事の用意をしてくるわ」

 

 それは楽しみだ、と龍牙は返事をする。

 転がり込んできた身でありながら、至れり尽くせりな霊夢に感謝をしながら食事を心待ちにした。

 

 

「お待たせ。はい、これ食事ね」

 

 三十分程待つと、霊夢がお盆を持って部屋に入ってくる。焼き魚の香ばしい香りが、空っぽな胃を更に刺激する。

 机の上にお盆を置くと、私の分も持ってくる、といそいそと部屋を出た。

 今すぐ食事にありつきたい様子の龍牙だが、家主を置いてかぶりつく無粋な真似は避けたいのか、溢れ出そうな涎を飲み込み、霊夢が戻るのを大人しく待った。

 

「ただいま……って、先に食べてても良かったのに」

「いやぁ、霊夢を置いて先に食べるなんて無粋な真似はできないさ」

「涎を垂らさずに言えたら百点だったわね」

「ごめんなさいもう今すぐ食事にありつきたいです」

 

 龍牙が早口でそう言うと、霊夢はふふ、と笑った。

 

「それじゃあ、食べましょう」

「「いたただきます」」

 

 龍牙の前に並べられた品は、白米・焼き魚・味噌汁だ。

 今すぐにでもタンパク質を摂取したいと考えた龍牙は、焼き魚から食べる事を選んだ。

 

「お、美味しい……」

「ほんと!?」

 

 龍牙がそう呟くと、霊夢は身を乗り出し、目を輝かせながら言った。

 

「お、おう」

 

 龍牙は軽く身を引きながら相槌を打つ。

 

「ふふん♪」

 

 龍牙の言葉を聞いて上機嫌な霊夢も箸を進める。

 やっぱり変なやつ、と龍牙は心の中で言った。

 

「それにしてもホントに美味しいな。この焼き魚なんて焼き加減が絶妙で……って丸二日ァ!?」

「ええ、ていうか今更?」

「いや、あまりにもサラッと言うから普通に流しちまった。どんだけ重症だったんだよふぉれは(俺は)……」

 

 驚きながらも、龍牙は食事する手を止めない。

 

「……ふぅ、御馳走様」

「アンタの食べる速度の方が異常だと思うけど」

 

 ものの数分で完食し、米粒一つすら残っていない皿を見て引き気味に霊夢は言った。

 食べる速度は異常だが、次々と料理を口に運ぶ龍牙の姿を見て、引き気味の表情とは裏腹に、彼女の心の中には嬉しさが込み上げていた。

 だがそれを表に出すのは些か尺であるため、何とか表情を保つ。

 

「……ん? あれ、俺の箸が無い」

「床に落としたんじゃない? 全くドジね」

 

 溜息混じりに霊夢が机の下を見るも、特に何か落ちている様子はない。

 

「床の下には落ちてないわよ」

「こっちにも落ちてないな」

「んん? ねぇ、私の魚食べたでしょ」

「は? いや食べてないけど? そもそも箸が無いんだって」

「嘘おっしゃい! 明らかに減ってるわよ! あ、アンタもしかして食い意地はってつまんでるんじゃないでしょうね!」

 

 霊夢が追及するも、龍牙は慌てて否定する。

 

「確かにそんな狡い真似する様な人じゃないわね、アンタは。そうなると……紫! いるんでしょ! 出てきなさい!」

 

 霊夢が言い放った瞬間、二人の間の空間に裂け目が生じた。

 見覚えのある光景に、龍牙は思わず目を見開く。

 裂け目が開くと、金髪の女性が微笑みながら上半身を乗り出して現れた。

 

「──ごきげんよう、雨宮龍牙」

「その節はどうも、八雲紫さん」

「……私は蚊帳の外かしら?」

「あら嫉妬?」

「違うわよ!」

 

 扇子を開き口元を隠している紫の言葉に、霊夢は勢いよくツッコむ。

 

「それで、見学の方はどうだったかしら?」

「ガイドさんがいなくなったから見学なんてできてませんが?」

「何を言ってるのかしら、十三番隊隊長様がいたじゃない」

 

 やっぱり、と霊夢は机を叩いて身を乗り上げる。

 

「押し付けてったのね紫!」

「人聞きが悪い事を言うのね、総隊長として仕事を与えたのよ」

 

 なんて身勝手な女だ、と龍牙は呆れた。

 何やら言い争っている二人を横目に、文句の一つも言う気にならなくなった龍牙は、両手をついて天井を見上げる。

 

「あ、そういえば」

 

 龍牙がそう呟くと、二人は言い争うのをやめて、同時に龍牙の方を向く。

 

「俺が(ホロウ)ってのと戦ってる時に、この刀が降ってきたんだけど、何か知らないか?」

 

 龍牙は刀を手に取り、二人に見せる。

 

斬魄刀(ざんぱくとう)ね。(ホロウ)を斬るための刀の事よ」

「あ、それ落としたの私」

「そうそう、紫がそれを落として……は?」

 

 キョトンとした顔でそう言い放った紫に、龍牙と霊夢は唖然とした表情を浮かべる。

 現在、龍牙の中には一つの疑問が浮かんでいた。刀を落としたのが紫であるとすれば、少なからず一部始終を見ている事になる。

 では何故──

 

「何故、紫自身が来なかったんだ?」

 

 龍牙の問いに、含みのある笑みを浮かべる紫。霊夢はごもっとも、と言いたそうな顔で紫を見つめている。

 

「か……」 

「「か?」」 

「格好よく登場したかったのよー!!」

「「は?」」

 

 普段の妖艶な雰囲気からは想像がつかない程、大声で紫は叫んだ。その顔は赤面しており、恥ずかしさを紛らわす様に両手の拳を握り、腕をブンブン振っている。駄々をこねる子供の様な紫の態度に、二人は呆気に取られてしまった。

 

「龍牙の部屋に入り浸ってた時に、一日で読み終えちゃったNARUT○って漫画にミ○トってキャラがいて、彼がクナイを地面に突き刺して現れる場面がかっこよくて真似したいって思ってたのよ! そしたら丁度、倒れてる龍牙を見つけたから丁度いいやって……」

「丁度いいやって、人が生死を彷ってるときにこの女……ていうか、サラッととんでもない事言わなかったか!?」

「え? NARUT○を一日で読破したこと?」

「それもやべーけど、そこじゃねーよ! ていうか隠せてねーからそれ! そんなことより、俺の部屋に入り浸ってたってどういう事だよ!」

「へ? あー……オホホホ」

「どこかで見たぞその下手な誤魔化し方!」

 

 益々ヒートアップする喧騒を尻目に、霊夢は食後の茶を啜る。全く話に付いていけず少々苛立ちを感じるも、騒ぐ二人を見ながら、こんな日もたまにはいいか、と少しだけ微笑んだ。

 

 あれから二人は小一時間言い争いをした。

 どうやら紫は、二年程前から龍牙を知っていたらしく、暇さえあれば龍牙に会いに行き(一方的に)、声をかけるタイミングを伺っていたらしい。龍牙の自室に侵入した際、暇潰しに読んだ漫画にどハマりし、一日で読み終えてしまったとのこと。

 何故龍牙の自室に侵入したかは、頑なに語らなかった

 やれ不法侵入だの、やれ気付かない方が悪いだの、圧倒的に紫に非がある言い争いは、案の定龍牙の完勝にて幕を閉じた。

 小一時間の言い争いに疲れ果てたのか、二人は現在、大人しく畳に座り込んで、霊夢の淹れたお茶を啜っている。

 

「それで、幻想郷に来る気になったかしら?」

 

 しばしの沈黙の後、紫が口を開いた。

 彼女の質問に、龍牙は腕組みをして考える素振りを見せた。

 

「もう少し考える時間が欲しいな」

 

 まだ決心がつかない様子の龍牙は、申し訳なさそうにした。

 

「──ええ、構わないわよ。決まるまで、博麗神社に居候するといいわ」

「ちょっと、あんた勝手に……まぁ、いいけど。でも、一度帰った方がいいんじゃない? 二日も帰ってこなかったら、家族が心配するわよ」

「あぁ、大丈夫だよ」 

「大丈夫って、そんな訳ないでしょ」

「いいんだ」

 

 口角は上がっているが、目元が明らかに笑っていない。いつもと違う様子の龍牙を見て、霊夢はそれ以上の言及をやめた。

 

「それじゃあ、私はお暇するわよ」

 

 流れを切るように紫が立ち上がる。少々怯えていた霊夢は、彼女の行動に安堵し、癪だと思いながら、心の中で感謝した。

 紫は裂け目を作ると、その中に入ろうとする。

 

「紫」

 

 そんな彼女の名を呼び、龍牙は引き止めた。

 

「今からクールキャラは、厳しいと思うぞ」 

「余計なお世話よ!」

 

 龍牙の言葉に勢いよくツッコんだ紫は、ブツブツと呟きながら裂け目の中へと消えていった。

 良かった、いつもの龍牙だ。

 霊夢は安堵するも、先程の吸い込まれる様な暗い瞳が、頭にこびりついて離れないでいた。




 
『幻想漂白記』をご愛読頂き、誠にありがとうございます。
 第四話『決心は未だに』をもちまして、序章は終了となります。
 読み返してて度々思うのですが、BLEACH要素がまだまだ少ないですね。まだ序章ではあるので、仕方がないと言えばそれまでなのですが……
 それに紐付けて、少しだけ気になっている事があります。
 それは『タグ』という機能について。
 大まかな構想は練っているため、今後確定しているタグを本作品には付けていますが、まだ要素が薄い、今の段階ではまだ関係の無いタグをつけてしまっています。
 付けたタグの要素が出てくるシーンまで外しておくべきか、今は関係ないけど、今後確定してるから付けたままにしておくべきか、頭を悩ませております。
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