斬魄刀で戦う世界でなぜかハーレムが築かれてく話   作:眞珠

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06話 二人の上司

 

 七番隊副隊長・藤原妹紅は、いつものように人里の見回りをしていると、何やら挙動不審な態度で辺りをキョロキョロとしている男を見つけた。

 死覇装を着ているところを見る限り、恐らく郷廷十三隊の隊士と思われるが、見ない顔であったことから、妹紅は警戒しつつ声をかける事にした。

 話を聞いたところ、七番隊・新人隊士の雨宮龍牙らしく、七番隊隊長・上白沢慧音に挨拶をしに来たとのこと。

 放っておくと後で慧音にお叱りをくらう事は目に見えているので「めんどくさいな」と思いつつも、妹紅は龍牙を案内する事にした。

 

「それにしても、何で子屋と逆方向の場所にいたんだ?」

 

 妹紅は訝しげに、自分の隣を歩く龍牙に尋ねた。 

 

 寺子屋は人里の真東に位置しており、龍牙は何故か西の門の前で立っていた。

 もしかしたら総隊長から寺子屋の件について聞いていないのか、とも思ったが、慧音が教鞭を執っている事など幻想郷では常識である。

 あの無知で有名な氷の妖精も知っている程だ。

 実年齢は知らないが、十六、七程はありそうなこの男が知らないはずがない。

 

「いやぁ、恥ずかしい話。道に迷っちゃって……」

 

 龍牙は苦笑いしながら頭を掻き、妹紅の問いに答えた。

 

(嘘はついてないな……)

 

 とある事情から蓬莱人となり、千年以上の時を生きてきた彼女は、目を見れば相手が嘘をついているかどうか、胡散臭い隙間妖怪ならいざ知らず、何となくであるが分かるようになっていた。

 この男に嘘をついている様子はない。となると──

 

「致命的な方向音痴だな」

「……恐縮です」

 

 龍牙は申し訳なさそうに言った。

 方向音痴云々はともかく、怪しい男ではない事が分かって妹紅は少し安心する。

 そうなってくるともう一つの心配が生まれるが、今回は隅に置くことにした。

 

 一旦話が区切られ、暫く無言の間が続く。

 元来人見知りな傾向がある妹紅は、七番隊の隊士ならまだしも、新人、それも幻想郷では中々珍しい若い男ということもあり、どのように接すれば良いか分からずにいた。

 

「……あー、七番隊について、何か聞きたい事はあるか?」

 

 無言の間に耐えられず、絞り出すように龍牙に尋ねた。

 

「そうですね……すいません、特には」

「──そっか」

 

 ……気まずい。

 一方、この男も妹紅と全く同じ事を考えていた。

 見た目的には自分より少し下、だが立場的には上司。龍牙は距離感を測りかねていた。

 あまり仲良くない先輩と、委員の仕事で二人きりになってしまった時の事を思い出し、余計に気まずさが増してしまう。

 特に気まずさを感じていなさそうな妹紅の様子に「これが人の上に立つ人間か」と尊敬の念すら抱き始めた。

 否、龍牙と全く同じ感情を妹紅は抱いているが、彼に知る由はない。

 

 ともあれ、自身の上司と初っ端からこの有様では後々大変な思いをしそうだ、と思った龍牙はどうするべきかと悩む。

 あれこれ悩んでいると、昔読んだ本に『コミュニケーションの鍵は質問』のような事が書かれているのを、龍牙はハッと思い出した。

 

(なんだったけかな……確か、『はい』か『いいえ』で答えられる様な質問じゃダメとかなんとか)

 

 数年前に一度読んだだけの本だが、記憶を辿り内容を思い出す。

 

「副隊長は、その、何か好きな食べ物はありますか?」

 

 ──我ながらなんと安直な質問か。

 

「いきなりどうした?」

 

 妹紅は怪訝そうな顔で尋ねた。

 

「えっと(これから背中を預ける者同士)副隊長の事をもっと知りたいなと」

「なっ──」

「あ、いや、すいません! 俺みたいな下っ端が出過ぎた真似を」

 

 言葉に詰まる妹紅を見て、距離感を詰めすぎてしまったのか、と自分を戒め、彼女に謝罪をする。

 

「……そ、そういうのはまだ早いと思うんだ……!」

「そうですよね、申し訳ないです! 俺のような下っ端が……」

「好きになっちゃったのは仕方ないけど、物事には順序というモノがあって──」

「食い物の話をしてんスよね?」

 

 龍牙は現在目の前で何が起きているのか分からず、困惑していた。

 世間話のつもりで質問したが、妹紅は何やらねじ曲がった方向に解釈してしまったようだ。

 

 湯気が出そうな程真っ赤な頬に手を当て、照れている様子の妹紅。

 彼女の脳ではとんでもない拡大解釈がされていた。

 

(わ、私の事をもっと知りたいって……わわわわ、私に好意を寄せてるって事だよね!?)

 

 ──否。

 

(私、ひょっとして狙われてる!?)

 

 ──否。

 

(はっ! もしかして、七番隊に入ったのも私が目的で!?)

 

 ──否。

 

 妹紅はチラッと龍牙の顔を見る。

 

(よく見たらイケメンだぁ……うぅ)

 

 千年以上の時を生きたものの、妹紅には恋人と呼べる存在がいた事は無かった。貸本屋で借りた恋愛小説を読み、妄想に耽ける事で寂しさを紛らわせていた恋愛脳な彼女は、真っ直ぐに想いをぶつけてきた(?)男に、困惑を隠しきれないでいた。

 妹紅は頭を抱え、悩みに悩み抜いた。寿命の問題はある。だが、ここまで想いをぶつけてくれた(?)彼を無下にしていいものか。

 妹紅はもう一度龍牙の顔を見る。彼は困惑している様子だが、妹紅には現在フィルターがかかっているため、頬を赤らめ告白の返事を待つ初心な青年に見えていた。そんな龍牙を見て、妹紅は決心したのか、ばっと顔を上げる。

 

「友達からで!」

「『トモダチカラデ』って食い物があるんすか? 美味しそうっすね〜」

 

 龍牙は遠い目をして言った。

 最初こそ真面目に使おうと思っていた敬語が、今は崩れつつある。 

 

「だ、だけどな! 一般隊士が隊長格にこ、告白? なんてのは、前代未聞な事なんだぞ!」

「前代未聞なのは副隊長の思考回路では……?」

 

 腕を組み、そっぽを向いて言い放つ妹紅に、呆れて物も言えない様子で龍牙は言った。

 

「勘違いをさせたなら申し訳ないっすけど、俺は告白なんてした覚えは「そもそも!」……聞いちゃいねぇ」

「なんであんたが私の事を好──」

「こら、道の真ん中で騒いでると邪魔になるぞ」

 

 二人の会話を止めたのは、一人の女性だった。

 青のメッシュが入った美しい銀髪は、腰まで届いてしまう程長く、死覇装の上に隊長羽織を着込んだその姿は、郷廷十三番隊の隊長である事を示している。

 

「──って、妹紅じゃないか」

「慧音……丁度いい。新人を連れてきたよ」

「新人? ──ああ、君が雨宮龍牙か」

 

 慧音は龍牙に近付くと、笑顔で右手を差し出した。

 

「七番隊隊長・上白沢慧音だ。これからよろしく頼むよ、龍牙」

「雨宮龍牙です。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 龍牙も右手を差し出し、二人は握手を交わす。

 

「今日は挨拶に来ました。聞いた話、住まいも提供してもらえるみたいで……助かります」

「なぁに、これから背中を預ける仲なんだぞ。これくらい当たり前だ」

 

 慧音は手を離すと、同じ手で今度は、龍牙の肩をポンポンと二度叩いた。

 気持ちの良い笑顔に、誠実な態度、これぞ隊長と言わんばかりの慧音の性格は、漠然とした不安を抱いていた龍牙にとって、安堵できる要因になった。

 

「そうだ。ここからそう遠くないし、お前の家に案内しよう」

 

 片手で拳を作り、慧音は閃いたように掌を叩く。

 

「それはありがたいっすけど、仕事はいいんすか?」

「丁度寺子屋の授業が終わったところだ、構わないよ。それに、仕事と言うのなら、新人の世話をするのも仕事の一つだ」

「それならお言葉に甘えて──ッ!?」

 

 刹那、龍牙は何か嫌な気を感じ取った。

 様子が一変した龍牙を見て、他の二人は何事かと彼を見やる。

 

(この感じ、紫が言ってた霊圧(れいあつ)ってやつだ……)

 

「──(ホロウ)だ」

「……感じるか? 妹紅」

 

 龍牙は呟く。 

 龍牙とは裏腹に、(ホロウ)の霊圧など感じていない慧音は、顎に手を当て少し考え込んだ後、妹紅に訊ねる。

 

「いや、私は何も……」

 

 どうやら、妹紅も何も感じていないようだ。

 慧音は少し考え込む。

 

(……一体、どういうことだ?)

 

 (ホロウ)の霊圧を感じていないのは、隊長と副隊長。感じているのは新人隊士。普通に考えれば、後者の勘違いで片がつく話なのだが、どうにも彼に嘘や勘違いをしていそうな可能性は低い。もし自信がないのであれば、人は普通「霊圧感じません?」の様に疑問形で訊ねてくるだろう。しかし、彼は断定したのだ、(ホロウ)であると。

 彼の言葉が真実である場合、ある可能性が見えてくる。霊圧を抑え、隠す手段を持った厄介な(ホロウ)で、彼の霊圧探査能力が自分達のそれを遥かに上回る性能を持っている可能性が。

 

「──ね! 慧音!」

「……ん、ああ、悪い。少し考え事をしてしまった。どうかしたか?」

 

 少し物思いに耽っていた慧音は、妹紅に名前を呼ばれて咄嗟に我に戻る。

 慧音を呼んだ妹紅からは、焦りの色が見える。その事に気付き、何事かと訊ねる。

 

「──龍牙がいない!」

「なっ……」

 

 妹紅の発言に驚き、慧音は周囲を見回す。彼女の言う通り、辺りに龍牙の姿はない。一目散に逃げた、というのは考えづらい。ともすれば、彼が感じていた(ホロウ)がいる場所へ向かったと考えるのが妥当だろう。

 

「ともかく辺りを──ッ!?」

「──慧音」

「妹紅も感じたか……だが、だが何故今なんだッ!?」

 

 龍牙がいなくなった事に気付いた少し後、二人も(ホロウ)の霊圧を感じ取った。

 (ホロウ)の霊圧を感じる場所は、南門を出た少し先辺り。恐らく、龍牙もそこへ向かっているはずだ。

 

「考えている暇はないか……向かうぞ!」

「ああ!」

 

 二人は南門へ向かって駆け出した。

 

(彼女が言っていたのはこういう事だったのか……)

 

 七番隊へ新人隊士が加入する事を聞いた日、八雲紫から気になる言葉が発せられていた。

 

『──首輪、付けた方が良いかもしれないわね』

 

(成程、首輪か。これは確かに付けておいた方が良さそうだな……ともかく、厄介な(ホロウ)でなければ良いんだが)

 

 先に向かってしまった自分の部下が心配になり、慧音は自分でも知らない内に少しずつ走る速度を上げて行った。

 

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