斬魄刀で戦う世界でなぜかハーレムが築かれてく話   作:眞珠

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07話 vsグランドフィッシャー

 

「この辺だと思うんだけどなぁ〜」

 

 一方その頃、龍牙は一足先に目的地に到着していた。

 この時の彼は、以前(ホロウ)と遭遇した時よりも、気楽に事を考えていた。

 何故なら、以前は無かった斬魄刀を、今は最初から腰に携えているからである。前回遭遇した際は逃げ回る事しか出来なかったが、今回は一味違う。

 斬魄刀があれば(ホロウ)が斬れる事は確認済み。そして、(ホロウ)の攻撃はまともに喰らえば確かに危険だが、動きは決して速くない。慎重に戦えば以前の様な深手を負う事はないだろう。

 

「──っく、ひっく」

 

 少し先の地点で、龍牙は座り込んで泣いている少女を発見した。周りに(ホロウ)の気配はなく、少女に目立った傷は無い。

 徐々に霊圧を感じなくなっている事に疑問を抱くも、まずは少女の保護が先だと判断した龍牙は、少女の元へ駆け寄った。 

 

「ひっく、ぐすん」

「君、大丈夫か?」

 

 龍牙は膝を曲げ、中腰になって少女に声をかけた。

 少女は顔を上げると、龍牙の顔を泣きながら見つめる。近くで見ても特に傷は見当たらず、龍牙は安堵した。

 

「ひっく、お兄ちゃん、だあれ?」

「郷廷十三隊隊士の雨宮龍牙だ。ここは危険だ、俺と一緒に出よう」

 

 龍牙は笑顔で手を差し伸べた。

 

「──ありがとう。お腹空いてたから(・・・・・・・・)丁度良かった、お兄ちゃん……おいシソウダネ」

 

 刹那、目の前の景色が草木から真っ白に変貌する。

 

「なっ──」

 

 否、目の前に白い仮面の怪物・(ホロウ)が現れたのだ。少女を丸呑みできてしまいそうな程巨大な口を開き、龍牙を食さんとする。

 突然の邂逅に龍牙は仰天するも、すぐに後ろに飛び退き、体勢を立て直す。

 

(危なかった、後少しでも遅かったら──)

 

 龍牙は一瞬避ける事ができなかった場合を想像してしまうも、首を振って邪念を祓う。

 

(最悪の事態にはならなかっただけマシか……)

 

 斬魄刀を抜き、両手で持って構える。(ホロウ)がどう動いてきてもいいように、一挙手一投足見逃しまいと集中する。

 次の瞬間、龍牙は二度目の驚愕を喫することになる──

 

「ひひひひっ、よく避けたの小僧」

「──(ホロウ)が喋ったッ!?」

 

 龍牙は大きく目を見開き驚愕する。

 先日退治した(ホロウ)は言語を喋る事はなかった。無論、紫や霊夢からもそのような話を、龍牙は聞いていない。襲い方・感じた霊圧・言語を操る事、これらの違いは、以前の(ホロウ)とは別格である事を明確に示している。

 龍牙は今一度気を引き締め直す。

 

「なんだ、喋る(ホロウ)と出会うのは初めてか。そんな高い霊力を持ちながら、戦闘経験が少ないとは……ひひっ、此度の狩りは、すぐに終わりそうだの」

「──黙って聞いてればペチャクチャ喋りやがって。俺を喰いてぇんだろ? その子は放せよ」

 

 切っ先を(ホロウ)に向け、龍牙は言い放った。

 

「まだ気付いておらんかったのか、つくづく勘の悪い小僧じゃの」

「てめぇ、何を言っ……て……」

 

 目の前で起きている光景が信じられず、龍牙は唖然とした。

 少女の身体がまるで、紙を破いている(・・・・・・・)かの様に、真っ二つに裂けたのだ。裂かれた身体の中から、荒く削った人間の骨の様なものが出現する。

 

「なにが、どうなってんだ……?」

「──まだ分からんのか」

 

 頭蓋の部分から、触手の様な物が飛び出す。空中に舞い上がると、やがてそれは(ホロウ)の頭頂部へ向かい、穴がある場所に入り込んだ。

 (ホロウ)少女だったもの(・・・・・・・)を持ち上げると、その巨大な口を開く。

 

「ひひっ、理解できたか? 小僧」

「──罠だったのか」

「ご名答。小僧の様な阿呆を誘き寄せる疑似餌だ」

 

 煽られている事を理解し、刀を持つ手に力が入る。

 

「わしはグランドフィッシャー。この姿を見せた以上……お前の魂、喰らわずに帰す訳にはいかん」

「喰えるもんなら……喰ってみろよォ!!」

 

 雄叫びを上げると同時に、龍牙はグランドフィッシャーへと斬り掛かる。一気に距離を詰め、グランドフィッシャーの前に立ち、勢いよく斬魄刀を振り下ろす。振り下ろした斬魄刀が軽く地面を抉るも、身体を斬った様な感触を龍牙は感じなかった。

 それもそのはず、目の前まで迫っていたはずの敵が視界から消えているのだ。龍牙は目標を見失った事で、焦りながら左右を見回すも、グランドフィッシャーの姿はない。

 

「どこを見ておる小僧!」

「くっ──」

 

 グランドフィッシャーは、龍牙の遥か頭上にいた。

 少し焦りを見せるも「来い」と言わんばかりに、斬魄刀を構え直した。

 

「ひひっ、青いの……小僧ッ!」

 

 グランドフィッシャーの左手が、龍牙に襲いかかる。

 

「ぐッ……!!」

 

 龍牙は何とか斬魄刀で受け取るも、力はグランドフィッシャーの方が遥かに強く、押されてしまう。

 

「──うぉらァ!!」

 

 ありったけの力を込め、グランドフィッシャーの手を弾き飛ばす。ガッツポーズをしたくなる気持ちを抑え、二の手三の手を警戒し、グランドフィッシャーへと向き直る。

 右手を使ってくるか、左手でもう一度攻撃してくるか。どちらであっても、必ず斬る。

 

「……ッ!?」

 

 龍牙の予想はどちらとも外れてしまう。

 伸ばしていたのは、右手でもなく左手でもない。奴の巨体を覆っている体毛であった。

 

「くそッ!!」

 

 伸びた体毛は龍牙を締め付けように纏わりつく。

 

「こんなもんッ!」

 

 龍牙は自身に絡みつく体毛を、斬魄刀で斬り裂く。主との繋がり絶たれた体毛は、力を無くし地面に落ちる。

 

「ひひっ、力の差は歴然じゃの」

「──うるせぇ、まだこれからだろ」

「減らず口を……いつまで叩けるかのッ!!」

 

 先程と同じように、体毛を伸ばし龍牙を掴みにかかる。

 もう一度、龍牙が斬魄刀で切り落とそうとすると、彼の手元で加速し、背後をぐるりと回ると、今度は左手を掴んだ。

 

「──逆に好都合だぜ、グランドフィッシャー!」

 

 自身の手を掴む体毛を切り落とし、虫唾が走る顔面に一撃叩き込んでやろうとしたその瞬間、またもやグランドフィッシャーは視界から消えていた。

 

「のろいぞ小僧」

 

 消えたグランドフィッシャーの声が、自身の背後から聞こえてくる。

 

「なっ──」

 

 気付いて振り返った頃には、グランドフィッシャーの体毛がもう目前まで迫っていた。

 身体を地面にぶつける勢いで傾け、寸での所で攻撃を避ける。着地の瞬間に体勢を立て直し、森の中を駆け出す。

 

(かすりはしたけど、致命傷は避けれたか……)

 

 自身の頭部から血が流れ出ている事を確認し、龍牙はそう考えた。

 

(くそッ! 俺の何倍もデケェ身体しといて、なんて速さしてやがる……!! このままじゃジリ貧じゃねぇか……)

 

 何度も向かってくる体毛を払い除けながら、対抗策を思案するも、結論は出ない。

 

「考え事か?」

「しまっ……ぐッ!!」

 

 逃げ回りながら対応策を講じようとしてしまったせいで、攻撃に対して注意散漫になった瞬間を狙われた龍牙は、グランドフィッシャーの左手の指から出てきた長い爪に突き刺されてしまう。

 何かを吸い上げているのか、爪に矢印の様な模様がいくつも描かれ、それらは全てグランドフィッシャー向けて描かれていた。やがて、吸い上げ終わったのかグランドフィッシャーはゆっくりと爪を抜く。

 

「かはッ……」

 

 爪を刺された場所に穴ができ、そこから血が流れ出る。

 

「お前は若い」 

「……何が言いてぇ」

「若いが故にたやすく怒り、怒るが故に心乱す」

 

 グランドフィッシャーは疑似餌だったものを、元の少女の形に戻す。

 

「そして、心乱すが故に刃は鈍る」

 

 少女の形に戻した疑似餌を右手で包むと、グチュグチュと音を立てて弄り始めた。

「終わりだ小僧! お前はわしと戦うには、あまりに若すぎた!」

 

 グランドフィッシャーは疑似餌を弄るのをやめて、ゆっくりと手を開く。

 そこには、龍牙の見知った人物の姿が現れた。

 

「──早苗?」

 

 グランドフィッシャーの手が開かれ、中から現れたのは龍牙のよく知る人物・東風谷早苗であった。

 

「てめぇ!! 何故──」

「何故、お前の親しい友人(・・・・・・・・)を知っているのか、それが不思議で仕方ない……そういう顔をしておるなぁ!! ひひひひひひっ!!」

「……何をしやがったッ!!」

「……気が付かなかったか? わしがお前を攻撃する時、左手だけを使っていた(・・・・・・・・・・)事に」

 

 グランドフィッシャーは自身の左手を見せつけた。

 確かに、空中から攻撃を仕掛けた時も、先程身体を突き刺された時も、グランドフィッシャーは左手しか使っていない(・・・・・・・・・・)のだ。

 

「覗いたのだ、この爪で! お前の記憶を!」

 

 グランドフィッシャーが見せつけている左手の指が裂け、爪が飛び出す。

 

「左手で敵の記憶を探り、お前が最も斬れぬものを探す。そしてこちらの手で、それと同じものを作り上げる!」

「……」

「お前にとって斬れぬ相手とは、こいつである筈なのだ!」

「──そうですよね? 龍牙さん」

 

 それは確かに、東風谷早苗の声だった。

 心では否定したい。だが、目と、耳が、目の前の偽物を東風谷早苗だと肯定している。

 

「てめぇ!! どこまで人を馬鹿にすりゃあ気が済むんだよッ!!」

 

 疑似餌の早苗ごと斬ろうと、斬魄刀を振りかぶる。

 

「待ってください、龍牙さん! 刀を引いてください……私の事を斬らないで!」

「くそがぁ……!!」

 

 ──分かっていた。

 偽物だと分かっていても、龍牙は刀を振るう事ができなかった。

 

「終わりだ小僧! そして敬意を表しよう! お前はわしが出会った中で、最も若く、最も短慮で、最も弱い男だった!!」

 

 ──終わりかよ、ここで

 

「──轟け『天譴(てんけん)』」

 

 刹那、龍牙は、一瞬何が起こったのか理解できないでいた。あのグランドフィッシャーでさえも、状況を把握するのに数秒を有した。

 グランドフィッシャーを軽く超える巨大な腕(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が、自身の左腕を斬り落としていることに。

 

「うぎゃあああああああああああ!! 腕が……わしの身体がぁぁぁ!!」

「どうやら、間に合ったみたいだな」

 

 背後から聞き覚えのある女性の声。

 振り向くとそこには、自身の上司である慧音と妹紅の二人の姿があった。

 

「──た、隊長……それに副隊長まで……」

「色々言いたい事はあるが、ともかく無事で何よりだ」

 

 二人が龍牙の元へ近寄った、その時だった。

 疑似餌と本体の頭部を繋げている場所から、グランドフィッシャーの身体が吸い込まれているのだ。

 

「……な……」

 

 完全に吸い込まれ、疑似餌だけがその場に残る。

 

「ひひ……残念じゃったのぉ」

「てめぇ、なんで……」

「疑似餌も含めて本体! どちらかが傷付けばもう片方に逃げ込むだけのこと! 雨宮龍牙ァ……その名前覚えておくぞ! 次会った時がお前の命日だッ!!」

 

 そう言って早苗の姿をしたグランドフィッシャーは後ろに飛び退き、姿をくらました。

 

「待ちやがれッ!! ぐっ……」

 

 龍牙はグランドフィッシャーを追いかけようとするも、深手で動けずその場にうずくまる。

 

「よせ、龍牙。お前の傷を治す方が先決だ」

 

 龍牙の肩を担ぎ、妹紅はそう言った。

 

「副隊長……すんません! 俺は、奴に一太刀も浴びせられなかった!! なんてザマで、なんて情けない……俺は、俺は弱い!!」

 

 自身の内情を吐き出す妹紅はただ黙って、彼の言葉を聞いていた。

 慧音も背を向けて聞いていたが、やがて振り向くと、龍牙の後頭部を掴み思い切り頭突きをかました。

 

「──ってぇ!? 何するんすか!?」

「……龍牙。己が弱い事を認められるのは、一つの強さだ。それに、これは私の持論だが、弱い事は恥ずべき事ではないと思う。だが、未熟で居続ける事は別(・・・・・・・・・・)だ……もしお前が強くなりたいと願うなら、鍛錬を重ねろ。月並みな言葉だが、努力が裏切る事はないと思うぞ」

 

 慧音は笑顔を浮かべながら龍牙に言った。

 

「──心は晴れたか?」

「……はい!」

「とりあえず帰って治療と説教だな」

「……うす」

 

 こうして、龍牙の七番隊での最初の大仕事は幕を閉じた。

 妹紅に治療されながら、三時間以上ぶっ通しで慧音に説教を喰らった事は、龍牙にとって一生忘れない思い出となった。

 





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