こんにちは、伊落マリーです。
引き続きアビドスの支援をしております。
ともに支援を続けていたシスターフッドの方は、トリニティに戻ってしまいました。そして、住民の皆さんもアビドスの地を続々と離れてゆきます。
……砂嵐は非情にもアビドスを覆い尽くし、多くの方がアビドスという土地を捨てました。
それでも、私は彼らに祈りを捧げ、救済することをやめませんでした。それでも懸命に、生きている方々がいるからです。心無い言葉を浴びせられることも、一度や二度ではありませんが、ただ余裕がないだけなのだと私は思います。
そう、きっと……
「おらぁ!さっさとでてけー!」
……また来ましたか。
私は護身用に拳銃を手に取り表へとむかった。
私がでていかない理由ですが、他にもあります。
「またですか……ここはトリニティの地ですよ!」
「ここはアビドス、我らヘルメット団の地だ!行くぞー野郎ども!」
私一人のちっぽけな城塞を攻め落とさんと果敢に攻めてくる人たち。圧倒的な人数差に、私にできることはただ、祈りを捧げるのみ。そんな私を見て、教会を攻め落とそうと赤ヘルメットの方々が突っ込んできます。
そこに、隣から現れヘルメットの方々を一蹴して回る黒い影。
「うっさい!営業妨害してんじゃないわよ!」
「くっ、またでたか!お前らじゃねえっつってんだろ泥棒猫!」
隣のラーメン屋から、猫耳の愛らしい女の子__セリカさんが飛び出て、私を守ってくれました。私の祈りは、またしてもこの方に届いたのでしょう。強固な守りが彼女についていました。
「はぁ!?泥棒はあんたらの方でしょ!また、砂嵐で困ってるアビドスの人たちのための備蓄を持って行こうとして!お陰で人いなくなって迷惑してるんだから!」
「うるさいうるさいうるさーい!ぺちゃんこにしてやる!総員、各個撃破!」
銃撃の嵐がセリカさんを襲います。さすがに多勢に無勢、あっという間に私の守りは崩されてしまいました。
「この……!調子乗ってんじゃないわよ!」
負けじと撃ちまくり人員を削るセリカさんですが、このままではまずい……と、そう思ったときでした。上からセリカさんへ補給物資が投下され、私達に通信が入りました。
『セリカさん、マリーさん!この場は通報済みです!補給物資をお届けしますので持ちこたえて!』
「「アヤネ(さん)!!」」
持ちこたえるために、私は再度祈りセリカさんのサポートをしつつ、手や足を狙って撃って動きを阻害。セリカさんもオーラを纏って次々とヘルメットの方々を倒していきます。
「くぅ、まだ攻め落とせないのか!相手は二人だぞ!」
「リーダー!アビドス生徒会がこちらに向かってます!」
「なんだと!?く、覚えてろよ!総員撤退!」
結局、攻めきれないままに撤退を始めるヘルメットの方々。
「待ちなさい!」
「セリカちゃん、さすがに追いかけるのは……!」
「……チッ、仕方ないわね!」
いまにも追いかけんとするセリカさんを何とかアヤネさんと2人がかりで止めます。車に乗った方を追いかけ回してしまっても見失ってさまようだけ。砂漠で遭難する危険性は、彼女たちが最も詳しいでしょう。
アビドス生徒会がこちらに来る頃には、ヘルメット達はいなくなっていました。事情についてはアヤネさんが対応。私達は後片付けにおわれました。
「……あの、セリカさん?」
「なに?どうしたのよ」
「どうして、手伝ってくれるのですか?」
彼女はラーメン屋の方。縁もゆかりも無いトリニティの方にもかかわらず、こうして手伝ってくれるのです。
「……あんたは私達に寄り添って、ずっと支援してくれたじゃない。見限って去っていった奴らとは違ってさ」
「セリカさん、去っていった教会の方のことは……」
「わかってるわよ。私が言いたいのは、今度は私達が支えてあげる番だってこと」
「セリカさん__」
この砂漠という過酷の地にも、私と同じ年代の方がいらっしゃいました。そして、お隣のラーメン屋の女の子と親しくなり、友好関係を築いています。その流れで、アヤネさんとも親しくなりました。同学年だそうですが……他にも、砂漠という土地で懸命に生きる方々の姿が、其処にあったのです。
「ありがとうございます」
「ふん!……どういたしまして」
私は笑顔でお礼を言うも、そっぽを向かれました。その様子が、私達を誰よりも見てくれているにもかかわらず、言い訳を並べてお礼を受け取らない心優しきティーパーティーの先輩と重なりました。……誰よりも先にセリカさんと仲良く慣れたのは、良くも悪くもあの方ににてるからかもしれません。
こうして、私は友人たちと手を取り合って。過酷な砂漠の地で生きています。
そうしたある日のこと。
セリカちゃんに呼び出された私は、広い教会の一室で向かい合うように座りました。
「で、あんたはどうすんのよ」
「どうする、とは」
「中学。もうあとしばらく経ったらトリニティの中学校に進学するんでしょ?」
「それ、は……」
考えないようにしていた、大問題。襲撃のとき、やり合っていた相手との問答がふと頭をよぎった。
__ここはトリニティの地です!
__ここは、アビドスの地だ!
私はアビドスの皆さんに守られているのに……トリニティのものと主張するのが本当に正解なのでしょうか?
ここ数年、ずっとトリニティに戻っていない私は……トリニティ生徒なのでしょうか?私はまだ、解答を得ていません。
「……まだ、決めておりません」
私が決めかねている様子を見たセリカさんは、明らかに落ち込んだようで。
「あっそ……ま、こんな砂嵐の続く土地じゃ生きづらいものね」
不機嫌でぶっきらぼうに、吐き捨てるように言ってのけました。私の悩みとしても、セリカさんのその姿はとても放っておけるようなものではありませんでした。
「っ、決してそういった理由ではありません!」
「じゃあ、なんなのよ!他に理由なんてないでしょ!」
「あります!こちらに来てください!」
「ちょ、わかった。わかったから、無理に引っ張らないで……」
わたしはセリカさんを部屋へと案内する。セリカさんは部屋につくなり部屋をキョロキョロと見渡して感心していた。
「かなりきれいに片付けてるじゃない」
「えぇ、私は立派なシスターを目指していますから」
「今でも十分立派なシスターだと思うけど……」
「いえ、もっともっとです!」
そんなやり取りをしながら、私は机の方にてくてくと歩いて、大事にしている写真立てを手に取る。
「これを見てほしいんです」
「これは……」
その写真立てには、ガーデニング部でともに過ごした仲間たち__ヒナタさんやサクラコさん、ナギサさんの姿がありました。
「私が悩んでいるのは……トリニティにいる友達を、ずっと放っておいていいのかどうか、です」
「そうだったの……ごめんなさい」
「気にしないでください。よくあることですから」
しばしの気まずさから沈黙が訪れる中。沈黙を先に破ったのはセリカさんだった。
「でも、私は……いつもトリニティ生だって言ってるけど、さ。あなたもアビドスの仲間だと思ってるわ」
「……え?」
それは、思ってもいないことだった。
教会にいるときかけられる言葉といえば自身を『トリニティ』としてひっくるめられて話される事が多いからだ。生徒手帳がトリニティなのだし、アビドスで炊き出しを行う慈善事業自体トリニティ主体で行われているものなので、その評価は当然であり、マリー自身も受け入れていた。その根本を、セリカは否定した。
「どうして、そう思うのですか?」
故に、何より先に疑問の声が上がるのは当然のことだろう。その様子を見たセリカは、こちらもさも当然のようにつづける。
「だってさ。あなたは他の人達と違ってずっとアビドスのために残って、ここで暮らしているじゃない。それで十分よ。それに……」
「それに?」
少し自信のなさ気な私に、セリカにしては珍しく口元を吊り上げて挑戦的な笑みで続けます。
「こんだけアビドスのために尽くしてくれたあなたのことを、トリニティだからって悪く言う奴らは私がコテンパンにしてやるんだから」
私に向けて、セリカさんは自信たっぷりに言い放ちました。そんなセリカさんに、私は戸惑いと困惑と、そして確かな高揚感というか、胸の高鳴りといいますか……奇妙な感覚を覚えながら……絞り出すように答えました。
「ありがとうございます。けど、どうかご無理だけはなさらないでくださいね」
本当にかなり後、高校生になってからある出来事を経て私は気づきました。あの奇妙な感覚は……アビドスの一員として、認められたことに対する喜びだったのだと。