足りんのはデバフ、デバフなんだ……あとスキルレベルとお金とレポート……
先生に身を任せたナギサは無意識下に居合わせたセイアと話をしていた。
「ふむ、なるほど。おおよそ事情は把握した。確かに君は起きているが夢にいる。ナニカさんとやらと入れ替わっているのか。それで、今はナニカさんに任せると。でも、任せる割にはなんだか納得していないじゃないか?」
「……わかります?」
「わかるとも。何故か理由を問われれば顔色が悪いとか色々言いたいことはあるが、ここはあえて格好をつけて言わせてもらおうか。私は、君の幼馴染なのだからな」
「相変わらず長いですね」
ただ、言われてみればセイアと二人で喋るのは殆どなかったことに気づく。大体ミカがいて二人で振り回されるのが常である。……なお、ナギサも結構ロールケーキを口に突っ込んで暴走することがあるがここでは割愛とする。
「コホン。なぁ、ナギサ。どうしてナニカさんに任せることにしたんだい?」
「どうして、とは」
改まったセイアは、真面目な顔でナギサに問いかける。
「君が名もなき誰かにティーパーティーの座を明け渡したに等しい。その危険性は分かっているかい?」
「ええ、もちろんです」
「なら、何故ナギサは名も知らない誰かに任せられるんだい?」
ナギサの事情を聞いたセイアからしたら、真っ当な疑問だろう。が、ナギサは特に迷うこともなく答えを口にする。
「ずっと一緒でしたからね。遅かれ早かれ、というものです」
「ふむ?」
「もう5年も一緒ですからね。多分、私が納得できてないことも分かりきってますよ、ナニカさんは」
「そこまで理解できるのかい?」
理解、という言葉を聞いてやっとナギサはセイアが真に問いたい、ある一つのものに思い至る。
「あー、もしかしてセイアさんが聞きたいのは『ジェリコの古則』ですか?えーと……見えないものを通して理解できるかー、みたいな」
「あぁ、そうだ。正確に言うと、『理解できないものを通じて、私達は理解を得ることができるのか』だが。ナギサはどう思う?」
「そうですね……」
その問は、おそらくナニカさんを『理解できないもの』として聞いているように思う。とすれば……と、ふとナギサは気づく。
「今思えば、理解というより信頼に近しいような気がします。理解してくれることを信じている」
「ほう?続けてくれ」
「理解はできなくても信じられる。5年も一緒にいた相手だからこそ、きっとなんとかしてくれる。それではいけませんか?」
「……そうか。それがナギサの答えなんだね」
そう聞くと、セイアさんは一人うなづいている。
「ナギサの口から信頼なんて言葉が出るなんて思わなかった。これも、ナニカさんのおかげかい?」
「ちょっと、それどういう意味です???」
めっちゃ失礼なセイアである。食って掛かるナギサに、セイアは少し哀れみを込めて応える。
「言葉通りだよ。生まれながらの名家、ティーパーティーの一人となることが確定してて。トリニティのためにと一人で頑張っていただろう?」
「え?ま、まぁ……はい……」
戸惑うナギサにセイアは続ける。
「その重圧は凄まじいものだったのだろう。君も苦しそうだったし、ミカと二人で心配してたんだ。ミカも気にしていたよ」
「え!?えぇ……!?そんなそぶりなかったじゃないですか!」
「それが、なんだい。ここ最近はうまく力が抜けているようだ。いいことがあったのだろう?」
「それは…えぇ、まぁ、はい」
ナニカさんはすったもんだと場を荒らすものの、その実問題事は解決するし手際もいい。気づけば細々とした事務処理を済ませてくれている。そのおかげで、ミカさんに振り回されたり、ヒフミさんとモモフレンズショップへとショッピングへ興じたり。ブラックマーケットでアルさん達と遊んだり。ミカさんに振り回されたり……結構自分の時間を取ることができています。
「それらがなく、トリニティのためと邁進する余裕のない君は信頼や信用といった具体性のないものについて話ができたかい?」
「……まぁ、そんなことはなかった話ですから」
「心当たりはあるようだね」
セイアは軽く、後ろをむく。そんなセイアに対して一つナギサは言わなければならない事があった。
「では、信用私からの言葉ですが……ここ最近夢の世界に引きこもってませんか?あなたの姿、滅多に見かけませんよ?」
「……」
「私が信頼について語るようになった変化を、是非セイアさんが直接見ていただきたいと思ったのですが。いかがでしょう?」
そう、ここ最近滅多にセイアがいないのである。さすがにお祭りの決定等の重要行事は来るものの……その頻度は目に見えて減っていた。授業はBDで受けられるとは言え……ずっと出てこないセイアをミカと二人で心配していた。
「はぁ、降参だ。実際にそちらに向かうとしよう」
「是非その際はホストとして招待状を。ご理解いただけましたか?」
「あぁ、まったく。幼馴染というのも難しいものだな」
そう独りごちるセイアに、ナギサは大きく頷きを示す。
「……やはり、そうですか」
「何が言いたいんだい?」
「私達には理解できない『夢』というものを通じて理解を示すことができている。解はなされたということです」
ナギサは普通にしているが、セイアは首を捻っている。
「……?夢なんて誰もが見るだろう?」
「この空間見ても、それ言えます?」
セイアは周囲を見る。そこに広がるのは、おそらく現実のナギサが今見ているであろう世界ナギサが普段からそこにいるということは……セイアは一つの答えに気がつく。
「そうか、君たちは交代したりしなかったりしてそこに存在するのか。故に、夢を見ない」
「そういうことです。そして、ここはある意味私達の楽園でもあります。ここがあることで、私達は共存できている」
「……つまり、私は君達の楽園に踏み込んできたものということか」
「私の友人でなければぶっ飛ばしてましたね。これも一つの解答となり得るでしょう」
もちろんセイアは望んでここに来たのではない。夢によって流れ着いただけだ。しかし、ナギサから見た視点は自分達の楽園に踏み込んできた侵入者である。
「ふむ、であればお暇するとしようか。いやぁ、邪魔したね」
「大丈夫です。それに、最も重要な部分は見ることができましたから」
そうしてセイアから目を背け、ナギサの視界に広がるのは土下座で謝罪する美食研究会達であった。